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雛鳥  作者: なり
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後編

「大丈夫?鼻血は止まったみたいだけど…」


「大丈夫だよ、どうせ夢だしね…」


彼は静かにそう答えた。


夢。夢とはどういうことなのだろう。

わたしには理解できなかった。


「屋上で風に当たってくるよ…」


「う、うん…」


保健室の扉を開け、廊下へと出て行ってしまった。


「お大事に…」


保健室の奥から彼に呼びかける声がした。

しかし彼は無気力に歩く。言葉もなかった。


何かが違う。

他の人とは違う何かを感じてしまう。


部屋の奥には保険医の先生がいた。

先生もまた悩んでいる。

そんな気がする。


「先生、彼は大丈夫なのでしょうか。痛くないとか、夢だとか。」


悩んでいる人を放っては置けない。


「私が気がついた時には遅かったの…」


さらに落ち込んでいく。

明るい保険医の先生というイメージはあった。

しかし、そこには正反対の人がいた。


「彼の家族も元はいい人たちだったのよ。父親の会社が倒産、仕事をせずにギャンブルに明け暮れる日々。母親もパートを始めて彼を相手する人はいなくなってしまったの。わたしがどうこうできる様なものじゃない!そうよ!わたしは悪くないのよ…!わたしだってやることはやったわ…」


先生はブツブツと自問自答を繰り返す。


わたしの様に困っている人を見過ごせない人だったのだろう。


少しでも関わりがあればどうにかしてあげたい。助けてあげたい。


誰かを助けるには誰かが犠牲にならなくてはならない。


話を聞くというのも聞く側の時間が犠牲になっている。


そしてそれは確実に助けられるものでもない。

犠牲にしたものと等価なものが返ってくるとは限らない。


先生もまた犠牲者だ。


先生のことも気になるが、今は彼の方が気になる。


家庭の崩壊が彼に影響を与えてしまったのだろうか。

暴言、暴力、恐喝、無視どれに値してもわたしでも耐えることはできない。


吐口があればよかったのかもしれないが、先生曰く、こちら側から相談しても相手側からの返答はなく効果はなかったみたい。


彼の今日の口癖は『痛くない』や『夢』。


痛みを感じない=夢…


私は保健室から飛び出し、走り出していた。


ストレスと関連付けるとかなり危ない状況になるかもしれない。


何でもできるのが夢。

今までのストレスを何かにぶつける事も、そして自分にぶつける事も…


息を切らし屋上の扉の前までたどり着いた。


外からは何か話し声が聴こえる。


「委員長に馴れ馴れしくしやがって!うぜーな!」


「こいつまったく抵抗しねぇのなぁ?ほら顔も蹴ってやるから出せよ!」


扉を開けバカ共を睨みつける。

足元には彼が倒れていた。


「…何してるの?」


「お、おう、委員長!こいつと遊んでてよ!」


「そうだよぉ?なぁ?楽しく遊んでたよなぁ?」


お前らは遊んでいるのかもしれない。

彼の気持ちはどうだろうか。

考えなくても分かることだろう。

見たものが全て。


「…….」


何も言わなかった。

落ち着けば分かること。

一人称でしか見えてない視野を、三人称で見ることができれば。見る努力をすれば、きっかけがあれば、分かる。


「んだよ…行くぞ!」


「あ、あぁ。」


わたしの横を通り、早歩きで逃げ去った。

同時に彼の元へ駆け寄っていく。


「大丈夫?」


「あぁ、痛くもないし大丈夫だよ。身体は妙に思いけど。」


埃まみれの制服、少し見える肌からは痛々しい痣が見える。


やはり彼は痛みを感じていなかった。


「夢でもさ。助けは求めないと。」


現実ではできないことができるのが夢。

助けを求められない現実でも、夢なら助けを求められる。

と、わたしは考えるが、彼は分かってくれるだろうか。


「なんで、夢って知ってるの?」


キョトンとした顔でこちらを見上げる。


「それは、まぁ、夢だからかな?」


「俺の夢はやっぱ可笑しいな。」


笑みを浮かべた。

彼の笑顔を久しく見ることができた。


明るく行こう。

何事も明るく前向きに。


「さ!まずは保健室の先生にでも治療のお礼、言いに行くよ!」


手を差し伸べると彼はわたしの手を取った。

その手は冷たく、まるで血が通っていない様な冷たさ。


「夢なのにか?」


わたしの手を引き、重たそうに腰を上げる。


「夢だからだよ。できないことができる。それが夢。」


「そうか…委員長って前向きだよな。」


「そうよ。わたしはいつだって前向き。困っている人、クラスメイトに関しては特に助けてあげたくなるお節介な人なのよ。」


「確かにそうかもな。俺なんかに気を遣ってくれてるし。おかしな人だよ。」


冗談混じりに笑みを浮かべながら話す。


彼もまた明るい人だった。

明るく生きようとする人だった。


「できないことができる。それが夢…」


彼は小声で呟いた。


彼にとっての現実は夢の世界。

夢ではないと気が付かせるのではなく、

その夢の世界で良い方向に向かう様に導けばいい。

辛かった現実ではできなかったことをやっていけばいい。

きっと上手くいく。


「ありがとう、委員長…」


「え…?」


彼はフェンスに向かい走り出した。

先程の笑みと初めて見た走る姿。


彼も、先生も、わたしも。

皆、等しく犠牲者だった。




俺は鳥が嫌いだ。何の苦労もなく、自由に羽ばたく鳥が嫌いだ。羨ましかったんだ。自由に羽ばたく鳥が。違う世界に行ける鳥が。


でも委員長が教えてくれた。

この世界なら何でもできる。


だからさ委員長。

俺。大きく一歩、踏み出してみるよ。



あぁ…俺はあの鳥たちのように上手く飛ぶことができたかな…

学生時代に書いた作品をリライト。今でもまだまだな部分はあるけども、過去の自分はそれ以上。そう思うと成長しているなと感じました。


ちなみに最近見た夢は、女の子になって外を歩いていました。

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