前編
俺は鳥が嫌いだ。なんの苦労もなく自由に羽ばたく鳥が…嫌いだ。
朝。
小鳥たちのさえずりで目が覚めた。
目を擦りながら部屋の扉を開け一階に降りていく。
「なんであなたは人のお金を勝手に使うの?!」
「うるさいなぁ。家族だろ?いいじゃないか。まったく、耳に障る。」
「何よ!その言い方!私が働いて稼いだお金よ!あなたは何もしてないじゃない!パチンコに行って帰ったら寝るだけでしょ!」
「あーそうだ!悪いかよ!今まで生活を支えてきてやったんだ!今度はお前が支える番だ!それでいいだろ!」
階段を降りていくに連れて声が大きくハッキリと聞こえてくる。
リビングの扉の前で佇んだ。
「おはよう…」
扉を開けて声を掛ける。
しかし、返事はなかった。
見向きもしない。
「おはよう、父さん、母さん…。朝から喧嘩は辞めようよ。家族なんだからもっと仲良くし」
次の瞬間、俺は床に座り込んでいた。
目の前には興奮気味の父。拳が振り下ろされた後のような体勢。
俺は殴られていたのだ。
父から振りかざされた拳は何の痛みもなかった。
まったく痛くなかった。
口元を拭うと血が付いていた。
血は出ているのになぜ痛みは無いのだろうか。
「お前は関係ないだろ!」
父の怒号が響き渡る。
「ちょっとあなた!なんてことをするの!」
「うるさい黙っていろ!こんな家知るか!」
勢いよく扉を閉め出て行く。
「早く…」
小声で母が呟く。
「な、何…?」
「早く学校に行きなさい!」
「はい…行ってきます…」
この家族は、この家は何かいつもと違う。
通学路。
殴られた頬に手を当てながら学校に向かう。
やはり痛みはない。
踏み出す足の感触は…ない?
よく分からなくなる。
「ママ!今日ね!夢の中でみんなを助けるヒーローになったんだ!」
「そうなの?すごいわね〜!」
通りすがりに親子の会話が聞こえてきた。
夢…夢か。だから痛くなかったのか。
そうだよな。
俺が暮らす家庭は幸せそのものだ。
父は会社を立ち上げ、社長として働いている。家庭のこともけってして疎かにしていない。
母は専業主婦をしている。父の帰りが遅くても、夜ご飯を作って待っている。家事を全てこなす専業主婦の鏡と言ってもいいだろう。
そんな家庭だと言うのに、俺の夢は正反対のイかれた設定だ。
通学路を抜け学校に着いた。
そこはいつも見ている学校だった。
変わりはない。
家の外見、通学路、学校。1つを除き全て同じだ。
チャイムが校内に鳴り響く。
「よーし授業始めるぞー。」
夢の中まで授業。つくづく嫌な夢だ。
どうせ夢だし寝ることにするか。
夢の中で寝るってのも可笑しな話だけどな…
「何か困っていることはない?学校のことや家庭のこと、何でもいいの。」
女性の声が聞こえる。
うっすらと意識がある。いや、無いのかもしれない。
しかし、この話はどこかで聴いたことがある。なんだろう。思い出せない。
「おーい、起きてー。ねぇ起きてってば。」
次は聞き覚えのある声が聴こえてくる。
重たいまぶたを持ち上げるとそこには委員長がいた。
「どうしたの…委員長…」
「あっ、やっと起きた。次、体育だよ。急がないと。」
「あ、あぁ…委員長、1ついいか。」
「何?」
「夢の中で、夢を見るってこと、ある?」
「そうだね。無いことは無いだろうけど。夢の中の夢が不幸な内容だったら、心と体に疲れが溜まっているとかなんとか?
まぁ、そんなことより体育!行くよ!」
心と体に疲れが溜まっている、か…
「おい!ボール行ったぞ!」
気がついた時また、床に座り込んでいた。
そこは体育館だった。
ボールが当たったのか?
やはり痛くない。
「血が出てる!早く保健室!」
委員長が駆け寄ってくる。
ボールが当たるだけで血が出るわけがないだろう。どこに当たったんだ?
顔面、鼻血、口を切ったのか?
委員長は肩を貸し、保健室に向かってくれた。
「なんだあいつ、ボール顔面に受けてなんも言わねぇ。きも。」
「あーあいつね。いつもぼーっとしてて何考えてんのか分かんね。この前なんかも蹴っ飛ばしてやったのに痛そうにしねぇの。」
「ひっでぇ!あいつ委員長に気にして欲しいとか?」
「きも、あいつ一発シメねぇとなぁ。」
真相は次回。




