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皇帝陛下のお世話係〜女官暮らしが幸せすぎて後宮から出られません〜  作者: 柊 一葉
第二部

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51/73

夜半の訪問者

夜になり、紫釉(シユ)様の寝所で二胡を弾いた私は、安らかな寝顔を見て癒された後で自室へと戻った。


後宮はとても静かで、窓から見える月が今日は殊の外美しく見える。薄雲がかかり、それが通り過ぎてまた黄金色が輝きを増す。


襲撃事件以来、こうしてのんびりと月を眺めることなどなかったなと気づいた。

美しい月も、見る側の気分によってその印象が変わる。心地よい風や静けさの中でも、虚しい気持ちが拭えずにいた。


「愚かなこと……」


血縁関係というだけで叔父を信じていた自分も、そして(リュウ)家を敵に回した叔父も。

兄は一体、どのような心地で叔父と接してきたのか。

跡取りだから大丈夫、というわけでもないだろう。それでも、大丈夫にしてしまわなければならない。


まさかこんな風に物憂げな気分になる日が来るとは、つい半年前には思いもしなかった。

窓辺に座り、頬杖をついた私は満月を見て物思いに耽る。


するとそのとき、木々の陰に誰かがいるような気がした。

窓から身を乗り出して目を眇めれば、その人はゆっくりと姿を現す。


「蒼……!」


名を呼びそうになり、慌てて口を閉ざす。

蒼蓮様は謁見用の衣や羽織り姿で、どこかへ出かけていてそのままここを訪れたのだとわかった。


狼狽える私を見て少し笑った蒼蓮様は、周囲を窺いながらこちらへと駆け寄ってくる。

そして、窓辺にいた私に両手を伸ばして言った。


「来い」


「え?」


彼は、私がその手を取ることを疑わない。

けれど、「来い」と言われても……。


「夜です。それに、窓ですよ?」


「そうだが?」


窓から出て、どこへ行こうと言うの?

説明はないのかと顔を引き攣らせるも、これはもう従うしかないと早くも悟った私は、恐る恐る手を伸ばす。


しかしその手が届くより前に、蒼蓮様が動いた。


「わっ……!」


脇の下に手を入れられ、強引に持ち上げられて外へ出される。地面にふわりと下ろされたのも束の間、木々が生い茂る方へと手を引かれて走る羽目になった。


このまま木々を突っ切っていけば、食堂の裏へ出て、突き当りの壁を超えると蒼蓮様の宮がある。

行き先は予想がつくけれど、「壁はどうやって超えるのだろう」と疑問に思ったところで考えるのをやめた。


いけない。

誰かに見られたらとんでもないことになる。


「こんなところを誰かに見られたら……」


夜着の女官と女好きだと噂の執政官。どう見ても人知れず逢瀬を楽しむような雰囲気に見えてしまう。顔と名前がわかってしまえば、とんでもない醜聞になる。


蒼蓮様は、慌てる私をちらりと振り返ると、その場で立ち止まって羽織りを脱いだ。


「これを」


「!?」


バサッと頭から紺色の羽織りをかけられ、視界が真っ暗になる。

そしてほぼ同時に、その腕に担ぎ上げられてしまった。「これはもう拉致ではないの?」と気が遠くなる。


「しばし我慢せよ」


まさか、再び蒼蓮様に担ぎ運ばれることになるとは。

今回ばかりは抵抗しても無駄だろうと予想がつき、私は諦めておとなしく連れ去られるのだった。



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