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皇帝陛下のお世話係〜女官暮らしが幸せすぎて後宮から出られません〜  作者: 柊 一葉
第二部

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39/73

視察へ行くらしい

紫釉(シユ)様の側近候補の少年たちが集められ、和気あいあいとした雰囲気で初回の顔合わせが終了した日から数日後。


書閣から私室へ戻ってきた紫釉(シユ)様が、開口一番で報告してくれた。


「出かけることが決まったぞ!外じゃ!」


「外?視察が決まったのですか?」


「蒼蓮が朝餉のときによいと言うた!一緒に外へ行くのだ!」


「まぁ、それはようございましたね。凜風(リンファ)も楽しみでございます」


紫釉(シユ)様はこれまで後宮や宮廷から出たことは一度もなく、皇帝陛下としてのお役目だとはわかっていても、視察がとても楽しみなようだった。


以前から、李家の後始末が落ち着いたら視察へ行く予定は計画されていたけれど、まさかこれほど早く実現するなんて。

紫釉(シユ)様があまりにうれしそうで、部屋にいた静蕾(ジンレイ)様や宮女たちも目を細めていた。


「行き先は、黒陽(ヘイヤン)の街を一通り巡るのですよね?治安もよく、おでかけにはよい場所と聞いております。紫釉(シユ)様にとって初めての視察ですから、しっかり準備をいたしましょう」


宮廷がある黒陽(ヘイヤン)は、光燕(コウエン)国の中心だ。高い壁に囲まれたこの街は、各地を治める太守たちの許可を得たものしか入れないから比較的治安がいい。


私もあまり外へ出たことはないので、下調べをしておかなければ……と思う。

ところが紫釉(シユ)様は、さらに笑みを深めて楽しそうに言った。


黒陽(ヘイヤン)とそれから……」


「それから?」


私が首を傾げると、紫釉(シユ)様はご自分の口を手で塞ぎ、ぐっと何かを堪える様子を見せる。


「ひみふ」


「秘密、でございますか?」


一緒に行くのに、秘密も何も行ったらわかりますよ?

じっと見つめ合うも、紫釉(シユ)様は頑なに教えてくれなかった。


「我は約束したのだ。秘密ぞ」


くるりと背を向けた紫釉(シユ)様は、静蕾(ジンレイ)様に駆け寄り、衣にお顔を埋めて黙秘を貫く。


その様子を見て、静蕾(ジンレイ)様が笑った。


紫釉(シユ)様が秘密にすることを覚えるなんて……。これも成長でしょうか」


宮女たちが一斉に頷く。

ときおり麗孝(リキョウ)様が「女人は全員紫釉(シユ)様に甘い」と笑っているけれど、こうして目の当たりにすると「確かにそうね」と実感した。


「さぁ、紫釉(シユ)様。視察のことは後ほどで。そろそろ弓の時間ですよ」


静蕾(ジンレイ)様の言葉に、私も立ち上がって気持ちを切り替える。


「それでは紫釉(シユ)様、馬場へ向かいましょう」


声をかけると、紫釉(シユ)様は笑顔で頷き、私と共に部屋を出た。

弓の道具は背後を歩く宮女が持っていて、先日出来上がったばかりの道具は皇帝のための特注品だ。


五歳用の小ぶりの弓は、龍の彫り物がしてあって威厳ある意匠だが、紫釉(シユ)様がそれを持つとどうしてもかわいく見えてしまう。


「大きくなったら、蒼蓮が狩りへも連れて行ってくれると」


「狩りですか?どんなところなのでしょう?」


「森に入って、鹿や猪を射るらしい。蒼蓮も麗孝(リキョウ)も、楽しいと言うておった」


紫釉(シユ)様の興味を削いではいけないので、できれば動物の血をみたくないという本音は隠して答える。


狩りは、武官や太守に仕える者たちにとって「できて当然」のことで、狩りのうまい男性は勇猛で賢いと評判がよくなるらしい。


五大家の子息たちも嗜みとして経験するくらいだから、紫釉(シユ)様にとっても一度は経験しておくべきことなのだろう。


とはいえ、私の場合は心配な気持ちの方が勝ってしまう。


「狩りに行くのであれば、うんと上手にならないといけませんね」


護衛付きだから安全とはいえ、練習して上達してから……という想いを込めて私は笑って言った。


凜風(リンファ)もするのか?」


「私ですか?」


紫釉(シユ)様は目をキラキラさせて、そう尋ねる。

残念ながら、私は弓を持ったこともない。


「一緒に習ってはどうか?我が大きくなったら、一緒に狩りができるぞ」


これは紫釉(シユ)様の期待に応えないといけない!?

ちょっとやってみようかと思っていると、待っていた麗孝(リキョウ)様が私たちの話を聞いてあははと明るく笑って言った。


紫釉(シユ)様。凜風(リンファ)に弓は無理です。二胡を弾く手が壊れますよ」


「手が?それはダメぞ。痛いのはかわいそうだ」


「でしょう?だから、紫釉(シユ)様がしっかり獲物を狩って、凜風(リンファ)静蕾(ジンレイ)への土産にしてやってください」


麗孝(リキョウ)様の言葉に、紫釉(シユ)様は「わかった」と言って素直に頷く。

馬場の隣には弓の練習場があり、武官たちがそれぞれの武具を身に着けて陛下の到着を待っていた。


「ここは皇族や上級武官の練習場です。今日から紫釉(シユ)様もこちらで弓を学びますが、まずは道具の使い方を覚えて、身体をなじませることから始めましょう」


武術と同じく、弓を教えるのも麗孝(リキョウ)様だ。

十歳までは、基本的なことはすべて彼が紫釉(シユ)様の師となるのだと聞いている。


武術に弓に、乗馬もそろそろ始まる年頃だというので、皇族は本当に忙しいのだなと感心した。


「それでは、紫釉(シユ)様はこちらへ」


麗孝(リキョウ)様に促され、紫釉(シユ)様は弓を宮女から受け取って歩いていく。

私は宮女らと共に、紫釉(シユ)様が真剣に説明に聞き入る姿や弓を構える姿を見守っていた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >宮廷がある黒陽は、光燕国の中心だ。高い壁に囲まれたこの街は、各地を治める【公主】たちの許可を得たものしか入れないから比較的治安がいい。 >狩りは、武官や地方【公主】に仕える者たちに…
[良い点] 拝読する度に、中華風作品の人名に振り仮名があることの大切さを痛感致します…あれ、なんだっけ(・∀・)とならないので、中華風の雰囲気を存分に味わえる上に可読性が高く、ストーリーに集中しやすく…
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