紫釉様の側近選び
「凜風です。失礼いたします」
この日、私は後宮から執政宮へとやってきていた。紫釉様は一足先に静蕾様と到着していて、私は宮女らと共にその後を追ってきた。
紫釉様はお召し替えを終えた後で、青の間と呼ばれる来客用の部屋に入ってきた私を見て笑顔を向けてくれる。
「凜風!」
あぁ、このハツラツとした笑顔が最高に愛らしい。
赤い装束がよくお似合いで、金色の髪紐を揺らしながら駆けてくる。
「紫釉様、ごきげんよろしいようで何よりです」
謁見用の盛装を纏った紫釉様は、これから始まる「側近選び」を前にして朝は緊張していたように見えたけれど、今はすっかりごきげんだった。
「南国の桃を食べたのだ。蒼蓮と秀英が持って来てくれたのだ」
「まぁ、兄もですか?」
側近選びを前に、おいしいものを食べて心を和ませておこうということだろう。
後宮から出ることのない紫釉様は、同じ年頃の子どもたちとじっくり話したことがなく、これまでは宴の席で挨拶を交わすだけだったそうだ。
楽しみ半分、緊張半分といった様子だったので、今のこの雰囲気はとてもいい兆候だと思えた。
「凜風も食べるとよい。南国の桃を食べると、気がよく巡るのだと聞いた」
「気、でございますか?」
私が首を傾げると、静蕾様がくすりと笑って説明してくれた。
「栄先生の世代が使う言い回しですよ。血の巡りがよくなり、身体によいということです」
「なるほど」
おじいちゃん世代は、やたらと「気」や「調心」など気功術の話をするから、紫釉様はそれを真似しているのだった。
私は少し屈んで紫釉様と目線を合わせ、にこりと笑った。
「ありがとうございます。凜風も後でいただきます」
紫釉様は満足げに頷く。
ちょうどそのとき、何やら書物を持った兄が奥の続き間から顔を出した。
「そろそろ準備はよろしいでしょうか?紫釉様」
別の部屋には、すでに紫釉様のお友だち候補であり、未来の側近候補である少年5人が待機している。
いずれも五大家の本家・分家の中から選ばれた、5歳から8歳の少年たちだ。選んだのは蒼蓮様と大臣たち、それに当然私の兄も入っているので言動、素行に問題のない子たちだろう。
うちの飛龍がこの場に来ていないのは、私と兄が紫釉様のおそばに近いので、二男までが側近候補になるのは五大家の力関係に影響が出過ぎるから。
李家が失権した以上、柳家に権力が集まり過ぎるのをよしとしないのは、周りも柳家も同じだった。
「秀英、我はよい。もう皆は揃っておるのか?」
「ええ、皆あちらにおりますよ」
紫釉様はうれしそうに目を輝かせる。しかしすぐに、はっと何かに気づいて兄を見上げた。
「蒼蓮は『楽しめばよい』と言っておったが、それでよいのか?仲良うなってもよい者たちなのか?」
紫釉様は、日頃から自分に取り入ろうとする打算的な者がいることを知っている。蒼蓮様からも、普段は警戒心を持ってくださいと言われていたため、友だち候補がきていると言われて少々疑問を抱いているようだった。
兄も五大家の嫡男で、そのあたりは経験がある。
紫釉様を見てにこりと笑って言った。
「紫釉様。友というものは、一日でなれるものでも、見極められるものでもございませぬ。今日はお互いの顔と名前を覚え、何年も経ってようやく己の敵か味方かわかるものですよ」
「そうなのか?」
「はい。難しく考えずともよいのです。気楽にいきましょう」
「わかった。がんばってみる」
紫釉様は、ふんふんと何度も頷く。
私たちは、そんな紫釉様を笑顔で見送った。
5月17日発売!
「皇帝陛下のお世話係」ノベル2巻&コミックス1巻
ノベル版は半分くらい書き下ろしで、新しいエピソードが満載です♪
紫釉様の成長や凛風の仕事ぶり、蒼蓮の深まる愛情と不憫がより楽しめる内容になっております!
どうかお楽しみください!
漫画版では、吉村悠希先生の描く麗しい世界観が最高です。
お兄ちゃんと蒼蓮の不憫かっこいい姿よ……!( ノД`)煌びやかな中華の世界、詰まってます。
なお、小説版もマンガ版もずっと名前にふりがなついてます。読めない・覚えられないが解消されて、ストレスフリーな中華をお楽しみいただけます。
ありがとうございます、スクウェアエニックスさん…!
※アニメイトさんなどでの特典配布は、なくなり次第終了です。




