表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇帝陛下のお世話係〜女官暮らしが幸せすぎて後宮から出られません〜  作者: 柊 一葉
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/73

裁可

 黒と赤で統一された玉座の間。


 新年の顔見せや即位式、新しい法案や政策について宣言を行うときなどで使用されるこの場所に、私の父・(リュウ)右丞相をはじめ、()(ガオ)(シュ)(ツァイ)という5大家の顔ぶれがあり、そのほか大臣らおよそ20名が集められている。


 壇上には、玉座に座る紫釉(シユ)様。

 金糸の刺繍が鮮やかな黒い正装を纏い、五角形の帽子を被った皇帝らしい姿で玉座に座っている。


 少し小さめの肘置きや、足が浮かないよう台座も用意されていて準備は万端だ。


 そしてその玉座の傍らには、白銀色の正装に青い帯の蒼蓮様が凛々しい顔つきで控えている。


 私と静蕾(ジンレイ)様は、ほぼ全員の姿が見える幕裏からその様子を見守っていた。


 通常、世話係が待機する必要はないのだが、紫釉(シユ)様がまだお小さいということもあり、蒼蓮様の配慮でこうしている。


 一見すると、重鎮たちが集められた議会に思えるが、実は今日の主題は李家への裁可だと兄から直前に聞かされた。


 (リュウ)家も野心家の父が右丞相として権威を振るっているが、李家に関しては他家を貶める行為や悪行が目立つそうで、当代の長である左丞相の増長が問題になっていたのは知っている。


 蒼蓮様を騙すようにして紫釉(シユ)様の皇后選びを執り行った一件だけでなく、「紫釉(シユ)様がいなければ蒼蓮様が皇帝に……」という話を聞かせることで、二人の関係性に亀裂を入れようとしたことで執政宮全体の怒りを買ったという。


 先帝が亡くなって2年、蒼蓮様が忙しさゆえに目を瞑ってきたのをいいことに、国内各地で様々な悪行を働き、このたびそれが数多の証拠と共に露見したのだ。


 よく見ると兄は以前より痩せていて、仕事が忙しかったんだろうと予想できる。「大丈夫ですか?」と尋ねると、乾いた笑いを浮かべていた。




 前半に議題に上がった治水工事や砦に詰める兵の徴収についてはすんなり話が決着し、いよいよ本題という頃になって蒼蓮様の補佐官が紫釉(シユ)様に書簡を手渡した。


 左丞相の裁可は、皇帝陛下が直々に処分を告げなくてはならない。

 当然、それに至るまでは蒼蓮様が粛々と進めるのだが、紫釉(シユ)様にとっては最後の一言こそが大仕事であり、私たちの間に緊張感が走る。


 しんと静まり返ったところで、蒼蓮様が冷酷な眼差しで罪人の名を呼んだ。


「左丞相、() 仁君(レンジュン)。そなたの所業に関して数々の直訴状が届いておる」


 私の父の隣にいた白髪の男性は、そう言われても余裕の笑みを浮かべていた。

 どうにか言い逃れできると思っているみたい。


「李家の繁栄を妬む者は多いですからなぁ。蒼蓮様は、愚か者どもの言葉を信じると?」


 やれやれ、とあざ笑うかのような態度は皇族に対して失礼極まりないが、これまでそれで許されてきたんだろう。

 まだ年若いと、蒼蓮様のことを侮っているようにしか思えない。


 左丞相の態度に蒼蓮様が絶対零度の微笑で応じ、そばにいた兄や官吏たちが震えている。

 紫釉(シユ)様はピシリと凍り付いたように動きを止め、人形のように固まっていた。


 幼子にこの空気は体感させたくないし、このような場に出したくはないが、紫釉(シユ)様は5歳といえ皇帝陛下。避けることができない酷なことだと、胸が痛む。


 蒼蓮様は冷酷な目で左丞相を見下ろし、淡々と言った。


「この場で不毛なやりとりをするほど、私に遊び心はない。若輩者は忙しいのでな。冥土の土産をくれてやる時間も惜しいのだ」


「──っ!」


 左丞相の前に、上級官吏がやってくる。

 そして、床の上にバラバラと書簡を投げ落とした。それらには、左丞相の悪事の証拠が記されているみたい。


() 仁君(レンジュン)。親族の商いを助けるために不当に街道を占拠して民を虐げたこと、密輸船の運航に手を貸したこと、南部地域にて薬の販売権を独占し法外な利益を得たこと……すべて証拠が揃っている」


「なっ!?」


 慌てて書簡を拾い、それらに目を通す左丞相は明らかに動揺していた。

 蒼蓮様はそこへさらに追い打ちをかける。


「あぁ、そうだ。私は優しい男ゆえ、執政宮へ暗殺者を送りこんだことは見逃してやってもいい。ときには刺激がないと人は堕落するからな」


 その言葉に、大臣らは一斉にざわめく。


 それと同時に、麗孝(リキョウ)様やその部下たちが縄で縛った男たちを連れてきて、彼らが蒼蓮様の命を狙ったのだとわかった。


「そのような者は知らん!」


 言い逃れようとする左丞相だったが、同じく縄で縛られた官吏や武官が連れて来られると言葉を失って愕然とする。


 李家の縁者で、左丞相と懇意にしていた者たちだ。

 彼らが暗殺者を手引きしたのは間違いないのだろう。


 李家が紫釉(シユ)様を傀儡にして権力を振るおうとしていたことは私も知っていたけれど、まさか蒼蓮様を亡き者にしようとして暗殺者まで送りこんでいたなんて……!


 うちの父は野心家だけれど、そういう手段は絶対に取らないと言いきれる。


 人の命を何だと思っているのか、と嫌悪感で身震いするほどだ。


「わ、私は何も知らない……」


 この期に及んで言い逃れようとするのを見て、蒼蓮様はさらに語気を強める。


「ほぉ、何も知らないと?そのような体たらくで、5大家の当主が務まるとは笑わせる」


「くっ……!」


 空気が極限まで張りつめ、全員が固唾を飲んで状況を見守っていた。

 蒼蓮様への畏怖だけではなく、これまで権力を振るってきた李家をそこまで追い詰めることができるのかと驚きも広がっている。


 そこですかさず、蒼蓮様は笑みを浮かべながら言った。


「あぁ、ここへ証人も呼んである。そなたの嫡子・(ルイ)だ」


「!?」


 左丞相のそばにひときわ大柄の男性がやってきて、上級武官である彼のことは宴などで顔だけは知っていた。


 端正な顔立ちで頼もしい体格のその人こそ、父が私に嫁ぎ先として挙げた李 (ルイ)様だった。


 彼は父である左丞相を見下ろし、悲しげに告げる。


「もう終わりにしましょう。李家を国賊にするわけにはいきません」


「おまえ……!」


 李(ルイ)様は、父親の悪行に手を貸さず、蒼蓮様についた。

 その顔つきからは、そこに相当な葛藤があったことが感じられる。


 けれど、李家を国賊にするわけにはいかないというその言葉通り、父を裏切ってでも蒼蓮様とこの国を選んだのだと思った。


 子に裏切られた怒りに震える左丞相。そこに反省の色はなく、憎しみを漂わせている。

 蒼蓮様は、心底呆れたという風に冷たい声で言った。


「ほかにも余罪はある。後宮の厨房に間者を送り、毒を仕込めと命じた罪はどう言い訳する?まさか記憶がないなどと言うまいな」


 後宮の厨房に?

 何も知らなかった私は、隣にいた静蕾(ジンレイ)様を思わず見つめる。


 すると彼女は、言いにくそうに小さな声で言った。


「私とあなたを亡き者にして、李家の縁者を世話係にするつもりだったようです。先日、蒼蓮様が下女から毒の件を聞きだしたと」


「下女から……?」


 それって、私が夜食を取りにいったときに偶然見かけた……?

 蒼蓮様が女の人と話していたのは知っていたけれど、まさかそれが毒を仕込む計画を聞き出していたとは思いもしなかった。


 床に膝をつき、苦悶の表情を浮かべる左丞相。もう言い逃れはできないと悟ったようだ。


 蒼蓮様は壇上からゆっくりと下りていき、美しいが殺意を感じるほど恐ろしい顔つきで言い放った。


「これまでの功績に免じ、命は助けてやろう。ただちに隠居し、療養所で余生を過ごすがいい。飽きぬよう、楽しい余興もたくさん用意してある。これまでご苦労であったな」


 その療養所とは、監獄のことではないか。

 この場にいた全員が同じことを想像し、ごくりと生唾を飲み込む。


 私の父だけが、顔色一つ変えずにその場に座っていた。


 左丞相がぐったりと脱力したのを見届け、蒼蓮様は優雅に衣をなびかせ壇上へと戻っていく。


 そして、恐怖で支配された空間に高く愛らしい声が響いた。


「左丞相、() 仁君(レンジュン)。本日をもってその役目を解き、その身柄を拘束する」


 紫釉(シユ)様の言葉を(もっ)て、彼の処分は決定した。

 少年皇帝の仕事はここまでで、蒼蓮様の補佐官に付き添われてこの場を後にする。


 去り際に、紫釉(シユ)様はちらりと蒼蓮様の方を見た。

 左丞相を睨みつける蒼蓮様は、朝餉の席と同一人物とは思えないほど険しい雰囲気で、彼は退出する紫釉(シユ)様に目を向けることはなかった。



5月17日発売!

「皇帝陛下のお世話係」ノベル2巻&コミックス1巻


挿絵(By みてみん)


ノベル版は半分くらい書き下ろしで、新しいエピソードが満載です♪

紫釉様の成長や凛風の仕事ぶり、蒼蓮の深まる愛情と不憫がより楽しめる内容になっております!


どうかお楽しみください!


漫画版では、吉村悠希先生の描く麗しい世界観が最高です。

お兄ちゃんと蒼蓮の不憫かっこいい姿よ……!( ノД`)煌びやかな中華の世界、詰まってます。


なお、小説版もマンガ版もずっと名前にふりがなついてます。読めない・覚えられないが解消されて、ストレスフリーな中華をお楽しみいただけます。


ありがとうございます、スクウェアエニックスさん…!


※アニメイトさんなどでの特典配布は、なくなり次第終了です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ