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精神年齢六十五歳のボク♂が悪女さんに転生したようです。  作者: Rin
第一章 突発的スタートダッシュ
22/22

柚月咲音の独白

一方そのころ、朔が去った世界では。



彼の葬儀はひっそりと行った。


参列者は仕事仲間だという数人の男と、行きつけの花屋の店員一人だけだった。

外では蝉が声を張り上げて鳴いている。蝉時雨がどこか遠いものに感ぜられた。

ダンプカーにはねられてバラバラになってしまった細い躰は、あちらこちらを糸で繋ぎ止められ、かろうじてその形を保っていた。

老いを感じる皺の刻まれた顔は、それでもまるで何かから解放されたかのように晴れやかだ。

氷雨朔さん。母がその生涯をかけて愛したたった一人の男。僕に名前の一字を与えてくれた人。

小柄な体は青と白の花の海に埋もれ、こぢんまりとした棺桶にぎっちりと収まっている。それは海の色にも見えるし、空の色にも見えた。


彼がいつか話していた、母と朔さんの理想郷。誰も二人を邪魔しないこの世の果て。

『いつか、きっといつか――寧々さんとウユニ塩湖に行くんです』

二人が思い描いたあの地に似せて、せめてと思い青空と海を想わせる色の花で棺を埋めた。



「きっと、先に母が待っていますから」

待ち草臥れているだろうから、まずか久しぶりと優しく声をかけてあげてください。なにしろ五年間も待っていたのだから。

今度こそ、迷わず母の手を取ってやってください。


世界に引き裂かれた二人が、世界の果てでどうか幸せでありますように。

「朔さん…僕ね、あなたのことをこっそり父親のように思ってたんですよ」

柵越しではあるけれども、誰よりも母を愛し、そして誰よりも僕を大事にしてくれたあなたが。いつも穏やかな笑顔を浮かべて見守ってくれたあなたが。

貴方の一字を貰って授けられた僕の名前。昔は女性のようで嫌だと思っていたけれど、今頃になってその響きの美しさを知った。




「いってらっしゃい、朔さん」

僕は棺に一礼をしてそう言った。







咲音→寧々さんの息子

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