第十二話 聖女様ブチギレ!!
「ユイ様、本当に体調はよろしいのですか?」
「うん、大丈夫だよ。だからもういいんじゃないかな……」
「ダメです! わたくしが聖女として、ユイ様をお守りします!」
「いや、大丈夫だって……」
結局あのあと、タイガとお昼を食べてから教室に入った。
あーしを見つけたリーンが大喜びで抱きついてきて、ちょっと嬉しかったり。
もちろん、きちんと謝った。すごく心配かけちゃってたみたいだし……。
そして今は、倒れたことが彼女の耳に入り、あーしはずっと引っ付かれている。
「リーン様、ユイには俺が付いていますし」
「タイガが付いていたのに、ユイ様は倒れたではないですか!」
「いや、それは……」
「やはりわたくしがお側でお守りします!!」
聖女だっていうのに、鼻息すごいけど大丈夫……?
みんなからの『かわいい! 守りたい! 聖女様〜!!』って印象台無しだけど大丈夫?
まぁ、それもあーしが原因なんだけどさ。
そしてタイガも……。
リーン相手だと強く言えないからか、ちょっと困った顔してるし。
「リーン様は聖女ですし――」
「あ! わたくし、名案が浮かびました!」
「ごめんリーン、耳元で急に大声出さないで……」
「あ、申し訳ございません! でもきっと、ユイ様にとっても名案だと思います!」
今度はなにを思いついたんだ……?
すぐ暴走するからなぁ……不安しかない。
おまけに見て? このリーンの顔。
めっちゃ自信満々、これ以上の案はない! って顔してる。
普通に怖えよ……。
でも聞かなきゃずっとこのままなんしょ?
「それで、リーンの案てなに?」
あーしが聞くと、待ってました! とばかりにリーンが口を開く。
「今日からユイ様は、わたくしの家で生活すれば良いのです! 名案ではないですか!?」
とびきりの笑顔で聖女様は答えた。
*
「婚約者とはいえ、タイガの家では何かと不便も多いでしょうし。それに、我が家ならわたくしがいます!」
続けてリーンが理由を付け足した。
……まぁ、たしかに名案かも?
同性だし、友達……だし、生活はしやすいだろうな。
――それに、タイガだって婚約者だから置いてくれてるだけだしね。
なら、リーンのとこでお世話になるのが一番だよな。
「ユイ様、それでよろしいですか?」
「うん、リーンありが――」
「いえ、ユイは俺の家で面倒をみます」
……え? 今なんて言った?
「え!? 今タイガ、なんて言った!?」
「お前は耳が遠いのか?」
「いやびっくりしたから聞いてんの!! 聞こえてたけど確認ね!?」
じっと顔を見上げていると、ふいと逸らされた。
いや、そんな嫌ならあーしはリーンとこで生活しますけど……。
「ユイは俺の婚約者だろ。一緒に生活するのは当たり前だ」
「いや、シルとリーンは一緒に生活してないけど……」
「そ、それはお二人が殿下と聖女だからだ」
「今無理に理由つけたっしょ。リーンがいいって言ってくれてるし、なにもタイガが無理して――」
「俺は無理などしていない!」
タイガの大声が教室に響き渡る。
おかげでみんなあーしたちを見てるけど、そんなのはどうでもよくて……。
相変わらず不機嫌そうな顔をしている彼を見上げた。
「……まだ、マルタを専属に付けたばかりだろ。お前が今日帰らなければ、あいつが自分の不備を疑う」
「まぁたしかにそうだね」
「……それに、今日から令嬢教育も始まる。カミヌスとマルタが既に用意を済ませているはずだ」
「そんなことも昨日言ってたね」
「……それから、お前が屋敷を出入りするのも見られていただろう。何か間違った噂でも――」
……やっぱりそうだ。困るよね、あーしが勝手なことしてたら。
思わず下唇を噛み締めていると、リーンが口を開いた。
「タイガ、もう体裁的な理由は結構です。やはりユイ様には、カンパニュラ家で生活していただきます」
……なんか、ブチギレてね?
*
「しかし、リーン様は聖女で――」
「わたくしの言葉が聞こえなかったのですか?」
「……申し訳ございません」
「謝罪など求めておりません。ユイ様に貴方の家で生活を続けて欲しいのであれば、伝え方がありますよね?」
「ちょっとリーン、落ち着こ?」
流石にまずいだろ、聖女様ブチギレはさ!!
しかも普段のふわふわした感じ消えすぎな!?
「もう! タイガのバカ!!」とかじゃないんだ……。ギャップすごい……。
「いいえ、落ち着けません」
「いや、そこは素直に落ち着いてくれると助かるんだが!?」
「タイガがきちんと己の意見を述べるまで終わりません」
「えぇ!? だって己の意見もなにも、あーしただの婚約者だし……」
そう、あーしは婚約者なだけだ。
ラノベでいう、そういう役割なだけ。
そこにはキャッキャもウフフもない。
今はテンプレも色々ある。白い結婚とか流行りだしね。
「いいえ。ただの婚約者としてなら、タイガはあまりにも重過ぎます! 激重です!」
あー、それも今流行りだからね……。
ん? てか激重……? どこが?
「え? タイガってそんな重い……の?」
「……ユイ様、それ本気で仰っていますか?」
「え?」
「え?」
え……? そうなの?
だって見てよ、リーンにブチギレられてんのにスンとしてるよ!? この男。
ないでしょ。そういう感情。
今もさ「めんどくさ」って思ってるよ、絶対!
「はいはい、痴話喧嘩は後にしてくださいね。授業を始めますよ」
先生が教室に入ってくる。
正直ホッとした。タイガとリーンの喧嘩怖すぎる……。
ガヤガヤとみんなが席に戻る中、ふいにタイガに耳打ちされた。
「……放課後、ケーキでも食べに行かないか?」
ちなみにおやまはテンプレがよくわかっていません。




