表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第一話 戦火広がりて、姫は勇者を求める。

私はユーリグレア・アルザント。


デニス王国辺境伯アルザント家の長女である。


辺境伯家は代々武門の家柄であり、

東の帝国へ睨みを利かせる役割を負ってきた。


その領地は帝国と接しており、

非常時には、王国の盾として前線にて、軍を率いることもある。


他の領主が、私兵の数を制限される中、

辺境伯家は、王国騎士団に匹敵する兵を持つことを許されている。


その領地は、辺境ながら豊かであり、

王国随一の穀倉地を抱えている。


また海運も盛んであり、王国屈指の港湾をも有する。


王国内ではそれを誹謗中傷する者もいるが、

野心的な東の帝国にその豊かさを見せつけることにより、

かの軍を引き付ける役割を果たしている。


常に軍備拡大を目指す帝国だが、

その懐事情はあまり良くない。


それ故に、豊かな王国と小競り合いが続いている


そんな帝国が真っ先に目指すのが、この辺境伯家の領地なのだ。


かつて、曾祖父も祖父も、

帝国との戦いに身を投じ、著しい戦果を挙げた。


数百年続くデニス王国の歴史は、東のオルディニス帝国との

争いの歴史だった。


王国が豊かになるほどに、帝国の執拗な策謀に巻き込まれ、

激しい攻防戦が展開された。


その最前線となったのが、私の家が治める辺境なのだ。


その結果、私の家では代々、優れた才を持つ剣士が生まれた。


国境の地を守るため、

デニス王家は積極的に辺境伯家へ優れた武門の家との婚姻を勧めた。


私の家は、所謂、武に長けたサラブレッドな血筋なのだ。


家族の皆が、剛腕を持つ戦士だったり、凄まじい剣術を振るう

脳筋家系なのだ。


何せ、祖父は王国一の剣豪であるし、父が若くして将軍の地位にいる。


下の兄弟姉妹も皆何らかの武術を極め、

今は王国騎士団に所属しているのだ。


そんな家族を持つ私だったが、どういう訳か私には何の才覚もなかった。


まず戦いのセンスが壊滅的だった。


私は争いが好きではない。


しかし、辺境に生まれたのだから、

生きていくには、戦いの才能が必要だった


しかし、私の振るう剣筋には、ある種の感覚がないらしい。


父には、相手と対峙した時、

ここぞという時に閃きを覚えるはずと言われた。


そう戦いの決め手は、直観だそうだ。


例え、腕が未熟でも、その才能は力量の差を凌駕する。


何のことか?


私には理解できない世界だったが、

父も母も兄弟姉妹もそう私に告げてくるのだ。


実際に、王国一の将軍であり元帥でもあるエリーゼ・プエル公爵夫人に、

祖父は負けたことがない。


もう60近い老体だが、28と言う若さで将軍の座に就いたプエル将軍を

何度も王直々の天覧試合で打ち破っている。


その秘訣が、感なのだそうだ。


私にはやはり理解できない。


家では大事にされて育ったが、

やはり武門の娘としては、肩身が狭い思いを何度も経験した。


そして、武術の腕で役に立てぬならと軍略を学ぶため、

コルヌ公国の学園に入学したのだ。


私は学園で必死に戦略、戦術について学んだ。


また、少しでも領地の役に立てるよう、

色々な伝手を辿り、情報を集め続けた。


本国の第2王女殿下と友好を結んだりもした。


あまり好きではなかったが、

他の生徒が主催する夜会などに、足を運んだりもした。


そんな中、北の小国から来た令息から帝国の情報を得た。


きな臭いその情報は、再び辺境の地を襲うかもしれない。


その情報をそれとなく、王女殿下の耳に入れ、

領地の安寧を祈る。


そんな中、学園に急報が届いた。


オルディニス帝国、デニス王国へ親征す。


大陸中を駆け巡ることになるその情報が届いたのは、

学園都市の授業を終え、寮へと帰ろうという時だった。


お父様、お母様、御爺様、兄弟たちも、

私の故郷は大丈夫なのか?


不安に駆られながら、学園内を放浪する。


今私に力があれば、そう力さえあれば!


その思いは、私をある場所へと向かわせる。


その場所は、学園にある庭園の中央。


そこは、庭園としては異例の場所だった。


様々な花が彩り、見事な大木が植えられた庭園。


そんな中、その場所には無骨な野ざらしの大きな岩が埋もれていた。


なぜ、管理の行き届いた庭園にそんな場違いなものが、

今だ放っておかれているのか?


それは、遥かな太古、

まだ人間以外の強大な種族が闊歩する世界だった頃。


人間は幾つかの種族と相争っていた。


ある時、魔族の大軍が、この地へと攻め寄せた。


今より遥かに強大な力を誇っていた人間の国だったが、

その魔族たちに苦戦を強いられた。


その中でも強大な魔力を持つ魔王は、幾つもの戦場で

先頭に立ち、この大陸に住むあらゆる種族の軍を打ち破っていった。


戦況は芳しくなく、人間たちの国では諦めの声が蔓延していた。

しかし、ある時、人間の王の中にも力持つ者が生まれた。


その者は、優れた才格を発揮し、竜や魔獣、魔族たちの軍勢を倒していく。


後に勇者とだけ語られるその者は、その身にたった一振りの剣だけを携え、

人間を魔王の手から救ったとされる。


その手に持つ剣は、あらゆる種族を切り刻み、その血を吸ったとされるが、

人間にとって、その剣は救世主の持つたった一つの武具だった。


コルヌ公国の建国の由来は、この勇者の伝説によるものだ。


曰く、その勇者は魔王を倒すとともにその身を崩れ落ちそうになったと


曰く、倒れそうになった勇者は、

手に持った剣を岩に突き立て、民に勝利を伝えたと。


勇者にして、救世の主はその場で息絶えたそうだ。


その因縁深い場所が、この学園の一角にある一つ岩なのだ。


嘘か本当か、その岩には古い一振りの剣が突き立てられている。


学園の生徒達に教えられるのは、勇者の人柄である。


どうして、かの人はその身を他の人々を助けるために使ったのか?


勇者が目指した理想とは何か?


かの人が、何を後の世の人に伝えたかったのか?


その意を訪れる人に考えさせ、少しでも伝われば。


そんな学園の意図が、この場をずっと保存させている。


突き立てられた剣は、その身が朽ちないように魔術が掛けられている。


また学園の恒例行事に、訪問者に剣を触らせるというものがある。


剣に認められれば、その者は勇者であり王となる。


それは公国で法にまで定められている国是であり、

例え、公王が存命でもそれは適応されるのだ。


私は、今までずっと剣を振り続けてきた。

しかし、その意思とは裏腹に成績は芳しくない。


誤魔化さずに言えば、剣術や魔術の授業では匙を投げられた。


おい、何故そこで!

ここでは、こうだろ!


と怒鳴られるが、私には分からない。

なぜ皆そんな感覚的な事を言われて理解できるのか?


しかし、今そんなことは言ってられない。


私には今、力がいるのだ!


やけっぱちになった私は、長い髪を振り乱し、

剣を抜こうと柄に手をやった。


自分の余りの無能さに腹を立てていた。


何の役にも立たない自身への怒りがそんな八つ当たりな行動を

取らせたのだろう。


”ふ、握ったな?

人間よ!

願ったな、力を!”


頭に異様な声が響く。


そして、別の何かの声も発せられる。


”もはや、お主に意志などない。

力求めし野獣となり、

全ての人間を殺し尽くすのだ!”


”かつて我らにしたようにな!”


”さあ、狂宴の始りだ!”


その言葉と同時に、勇者の剣はすっぽりと岩から抜けた。


「ええ、どうなってるの!!」


と私の悲鳴が辺りに響き渡る。


”うん?

何かおかしいぞ?

何故まだ意識があるんじゃ?”


勇者の剣、その存在は嘗てあらゆる種族を斬り殺した。

故に、他の種族、主に勇者が原因で滅びた種族からは、

” 大逆の剣 ” と呼ばれ恐れられた。


王、つまり世界の主への反乱を企てた者が持つ武具として。


その剣には、斬り殺されたあらゆる存在の魂が怨嗟と共に、

記憶されていると言う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ