最終クエスト 魔王討伐#3
天子の服選びを散々手伝った敬。
正直なところ、服の感想なんてロクすっぽわからなかった。
なぜなら、今の彼の頭は天子の不可思議な行動にいちいち気にしていっぱいだったからだ。
それこそ、脳が休まる余裕がないというべきか。
それぐらい今の天子は敬にとって予測が読めない脅威の存在であるということだ。
それもそのはず、告白して数日後にテートと称して会いに来るのだから。わけがわからない。
「楽しめてないですか?」
「え......あ、その.......正直」
言葉に詰まった敬は、一瞬濁そうとも思ったが最終的には言葉にした。
そのハッキリとした言葉を聞いても、天子の表情はまるで変わらない。
「そうですか」と肯定的に頷く顔もなんだか優しいものだ。
もとよりその返事が来ることはわかっていたみたいに。
総真正面から受け止められるのも、それはそれで困る。
まるで精神的優位性を取られているかのようだ。いや、実際取られているのだが。
落ち着いている天子と、終始動揺が隠せない自分。もはや比べるべくもない。
「......気分でも変えて映画でも見に行きましょうか。
そうすれば、少し落ち着くのではないですか?」
「あ、あぁ、そうだな」
結局、天子が何をしたいのも予測がつかないまま、敬はコクリと頷く。
それから今いる二階から三階のシアタールームへと向かった。
そこにな夏休みだからか多くの人達でごった返しており、思ったより並んでいる。
チケットを買うと、開始時刻が始まるまで少し時間を潰し、それから開演前に戻ってくる。
その時、敬は上映チケットの演目を見ながら、今更ながらに口にした。
「今更なんだけど、原作の映画化したやつなんてその.....天子は気にしないのか?」
「と言いますと?」
「原作には原作だからこその情報がある。映画だと尺の都合上、大事な情報がカットされていたり、突然違う展開になったりする場合があるじゃん。
その場合、本が好きな天子からすれば、気分が悪くなるかもしれないと思って」
「そんなことを気にしてたんですか?」
「買った後に気付いて言い出しづらかった。でも、気になり続けてはいたから」
「大丈夫ですよ。問題ありません。
所謂、パラレルワールドとして解釈すれば、それはそれで味はありますから。
それよりも、私は敬さんと一緒に見れることが嬉しいんです」
「そ、そっか......」
天子の光のような笑顔に当てられ、影の存在である敬はそっと顔を逸らす。
それから座席まで移動すると、映画が始まった。
その間、何も考えず映画を見れた時間はとても気持ち良かった。
もともと天子とはあれ以降疎遠になると思っていたのだ。
だから、話さない日常に慣れようとしていた自分にとってはこの時間は憩いに等しい。
とはいえ、それでも隣にいる天子の存在が気にならないわけではない。
一定時間集中してはバチッと集中力が切れ、その間に隣の天子を気にして。
そんな周期を映画が終わるまで続けていれば、いつの間にか映画がエンドロールを迎え、敬は疲れたようにため息を吐いた。
「......面白くなかったですか?」
「いや、そんなことは......天子の方はどうだったの?」
「私は案外面白いと思いましたよ。
まぁ、正直なことを言うなら、最後の展開が少し雑に感じましたが」
「なるほど.......」
「どうせならもう少し話したいので、お昼ご飯にしませんか?
時間帯も映画の影響で少しズレちゃいましたし、ここら辺で休憩と言うことで」
「うん、そうだね」
終始天子にリードされながら、敬は一階のファストフード店へ訪れる。
そこで注文を済ませると、空いていた席に座り、そこで食事を取りながら先程の映画について談笑。
それもほどよく切りが付けば、もう一度三階へとよって時間潰しに訪れたゲームセンターエリアへと訪れた。
そんな時間は敬にとって少しだけ気が楽だった。
なぜなら、会話以外に集中することができ、他を考えくて良かったからだ。
それこそ、UFOキャッチャーなんかは試行錯誤している間はとても良かった。
だが、それも景品を取ってしまえば終わる。
少し上手い自分が恨めしく思う日が来るとは。
そんな時間を過ごしていれば、気が付けば六時近くへと迫っており、
「もうこんな時間ですね」
「そうだね。そろそろお開きにする?」
「あの、もしよろしければ、このまま一緒に夕食なんてどうですか?」
「夕食? いや、俺は別にいいけど......」
「良かった。なら、早速フードコートエリアに行ってみましょう。
今ならそこまで待たずに食事が取れるかもしれないですし」
若干ゴリ押し気味に迫って来た天子に押され、敬はそのまま食事を取ることに。
フードコードを回った結果、中華屋を選択し、そこで二人で話しながら食事にする。
その際、夕食を取ると提案してきた天子に敬は警戒して耳を傾けるも、特にこれといって何かあるわけじゃなかった。
なんだったら、会話内容も特に普通だ。
夏休みの予定だったり、出された課題についての話だったり。
夏休みでの天子が京華達と一緒に遊んだ思い出話なんかも聞いた。
だからこそ、余計に自分に対する態度がわからないとも言えるのだが。
「少し散歩しながら帰りませんか?」
食事が終わり、大型デパートを出た後、天子の提案で二人で少し遠回りして歩くことに。
すると、大きな川の橋を歩いている時、黒い水面を眺めていると、突然天子は切り込んだ。
「そういえば、今日のデートは敬さんにとって楽しい時間となりましたか?」
「.......どういう意味?」
少し前を歩く天子がかかとを軸にクルッと振り返る。
そんな彼女の言葉を聞き、敬は立ち止まった。
すると、彼女は後ろ手を組んだまま言葉を続け、
「そのままです。私は敬さんを楽しませたいと思って、今回のデートを企画しました。
突然の申し出を受けてくださったことを感謝しているからこそ、私としては楽しませないといけなかったんです」
「どうして?」
「私が敬さんの笑っている顔を見たいから」
「.......」
天子は横を向くと、背の高い柵へと視線を向ける。
そこから流れる風に髪を揺らしながら、続けて答えた。
「私、幸さんから聞きました。敬さんが笑えなくなった理由を」
「――っ!」
「てっきり、もともと表情に出にくい人だと思っていたのですが、想像以上に暗い理由で......私はそんな人にたくさんの恩を受けておきながら、何一つ返せていない自分を恥じました」
「別に、そんなことは......」
「あるんですよ。結局、私は敬さんの裏の気持ちを知る由もなく、自分の身勝手な想いだけを伝えて、それで願いが成就すればと思っていたんです。
ですが、そんな一方的な気持ちをぶつけるだけで、願いなんて叶うはずがなかったんですよ。
私はもっと敬さんを見なきゃいけなかった。無理にでも内側に入って『大丈夫』って声をかけなきゃいけなかったんです」
「.......」
「だから――」
そう言うと、天子は荷物をその場に下ろし、突然柵に登り始めた。
その奇行に敬が固まっていると、天子は柵に跨り、そのまま足を川の方へ投げ出すと、
「私が敬さんの精神的支柱になります。
敬さんは悪くない。ただたまたま運の巡り合わせが酷く悪かっただけです。ですが、もう違う。
自分が関わることで誰かが傷つくと思っているなら、それは大間違いです」
「何を、言って......」
「敬さんの周りは、敬さんが近くにいて煙たがったことがありますか?
嫌な顔をしたことをありましたか? 責めたことがありましたか?
よく思い出してみてください。その時の顔を。本当はよく知ってるはずです」
「周りの顔......」
そう言って敬は自分の過去を思い返す。
自分の過去なんて正直ロクなものじゃない。
自分の両親が死に、幸の父親が死に、幸も一度大怪我を負った。
それが全て自分の近くで振りかかったことで、だから自分のせいだと思った。
その時の顔? そんなの恨まれてるに決まっている。
「いいんだ、天子。僕を助けようとしなくて。もう十分だ」
「本当ですか? 本当に何も見えていないんですか?」
「いいんだ」
「目を逸らしちゃダメです!」
「――っ!」
その天子らしからぬ大きな声は、まるで頬をビンタされたような衝撃があった。
そして、ようやく天子の顔を敬がハッキリ捉える。
先程まで俯いて逸らしていた顔が、天子の方へ向く。
その時の彼女の顔は――
「大丈夫です」
笑っていた。とても優しい表情で、自分のことを全く責めていないような顔で。
そういえば、幸の父親も幸自身も自分が起こした不幸なことに一切責めたりしなかった。
それどころか自分の心が明るくなるように常に笑っていて、だけどそれでも自分は笑えなくて。
「大丈夫です。もう大丈夫」
考えてみれば、今の幸だって少し小生意気な部分があるが、それも裏を返せば信頼の証だ。
信頼しているからこそ、言葉を預け、体を預け、信頼を預けてくれる。
笑っている。いつでも笑っている。笑顔が絶えない。絶えることがない。
「敬さんはもう自分のせいで誰かを失ったりしません。それに――あっ」
「天子!?」
瞬間、一瞬の突風が吹き、天子の軽い体が背中から押される。
直後、彼女の体が前のめりに傾き、川に向かって落下し始めた。
それを察した敬は咄嗟に走り出し、そのまま天子の胴に腕を回し引き留めた。
「......今の敬さんなら誰かが不幸な目に遭おうとしても、助けられる力があります」
「無茶し過ぎだろ.......」
「それに関しては、ごめんなさい......ですが、敬さんに抱きしめられてむしろ嬉しい気分です!」
「......ハァ」
もはや言いたいことは色々あったが、その感情を一つのため息で濁す敬。
こんなにも邪気の無い笑顔で喜ばれれば、天子に甘い自分は毒気を抜かれて許してしまう。
あぁ、なるほど......やっぱり自分はとっくに負けていたんだな。
天子の体を路上に下ろしていく。
彼女の両足が地面に着いた瞬間、どっと疲れが出て敬はその場で膝立ちになった。
すると、そんな敬の頭を天子が優しく抱きしめ、
「もう大丈夫です。これからはもう昔の悲劇は起こりません。
それでも自分の不幸を呪うなら、私が敬さんと出会えた幸運パワーで吹き飛ばしてあげます。
ですから、敬さんはもう安心して感情を吐き出していいんです」
そんな母親のような優しい温もりに、敬の冷たかった心がじんわり温かくなる。
そして溶けて崩れる北極の氷のように、敬の凝り固まっていた心が崩壊した。
まるで母親に縋りつく子供のように、天子の体を引き寄せ泣きじゃくる。
もやはみっともないとか、情けないとかそんなことはどうでも良かった。
それよりも今はこの温かさに浸っていたくて、安心に寄りかかりたくて。
堰を切ったように涙が止まらない。自分はこんなにも泣き虫だったか。
「よーし、よーし.......もう大丈夫だから」
天子の優しさを受け、敬の涙はさらに加速する。
そんな時間がどれくらい続いただろうか。
泣き終わった敬はゆっくりとかをあげると、
「もう大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫」
どこまでもスッキリした笑顔を向けてそう言った。
*****
「えー、一度は振られましたが、その後もう一度トライしたら付き合えました。
つまり、敬さんはツンデレだったわけですね」
「こんな公開処刑ある?」
夏休みの八月某日。
とあるカラオケボックスにて、天子と敬の目の前に友人達が並んで聞いていた。
メンバーは当然、宗次、悠馬、京華、那智、夕妃の五人であり、京華以外の四人は「なるようになったか」という反応で、京華のみが真っ白に燃え尽きてしんでいた。
「にしても、一度振るとか......ワンコちゃんの気持ち考えたことあるの~?」
「それは......面目次第もございません」
「とはいえ、結局収まる所に収まった感じだしな」
「ハァ、これで彼女無しは俺だけか」
「案外、近くに出会いがあるかもよ」
「は、ハァ、何言ってんの!? ゆうゆう!?」
「ひ、姫に......姫に男が.......角が.......」
付き合った発表をすれば、それを皮切りにガヤガヤと騒ぎ出す五人。
その内の一人は瀕死であるが、それを気に留める者は誰もいない。
そんな様子を見ながら、天子はチラッと横を向けば、
「結局、笑ったのはあの一回きりですね」
「なんというか、笑い方がわからなくなったといいますか.......これからは上手くできるよう努力します」
「ふふっ、大丈夫ですよ。これからは私がたくさん敬さんを笑わせればいいだけですから。
というわけで――これからたっぷり覚悟しておいてくださいね♪」
「......お手柔らかにお願いします」
読んでくださりありがとうございます(*^_^*)




