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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト83 決戦の日

 最近不穏な空気しかしない。

 そんな漠然とした感覚が、いつまでも自分の心を縛り付ける。

 もう夏休みを迎えるというのに、俺の心は梅雨空より曇天だ。


 その気持ちが顕著に表れたのは今から三週間前のことだ。

 いつもと変わらないはずだった日常に変化が起きた――天子の行動だ。

 それまでの彼女は時折話しかけてくることはあったが、大抵は京華達と一緒だった。


 もちろん同性の友達というので居心地が良かったのだろう。

 実際、そのグループにいた天子は終始楽しそうであり、それはそれは元気だった。

 そんな彼女の姿を、俺は端から見て自分の役目はもう終わったんだと思った、否、そう思いたかった。


 しかし、ここ最近の天子は本当に不必要に積極的に俺に近づいてきている気がする。

 まるで些細な出来事を親に報告する子供のように、今日あった出来事を話してくるのだ。


 それ自体は問題ない。しかし、そのフェーズはとっくに過ぎたはずだ。

 確かに、初期の頃は天子が自分とすらまともにしゃべれなかったから、そういうテーマで話す練習をしたことはあった。


 しかし、今の天子はもう立派に独り立ちしている。

 そんないちいち話しかけてくる必要がないのだ。

 ........いや、まだそれなら良かったのかもしれない。


「.......ハァ」


 チラッと確認した程度のスマホの画面の電源を消し、ベッドに投げる。

 そして自分自身もベッドに座ると、くたびれたようにそこに座った。

 同時に思い返してしまうのは、天子が向けてきた感情。


 天子が近づいてくる時、彼女はとても嬉しそうで楽しそうな顔をするのだ。

 まるでその何でもない距離感すらも好んでいるかのように。

 それが俺にとって酷く恐ろしい。


「そのくせ完全に距離も置けない自分が憎らしい」


 そんな自己嫌悪に浸りながら、俺はそのままの状態でスマホを探る。

 適当に手を振って当たった感触から位置を確かめスマホを握ると、もう一度画面を開く。

 そこには天子との個人トークのやり取りが表示されており、


『日坂先輩から告白されました。

 ですが、私には好きな人がいるので、断るつもりでいます』


 そう書かれた文章が、自分が帰路に着く数分前に届いていた。

 どうしてわざわざ断るという報告を自分にする必要があるのか。

 ましてや、自分に好きな人がいるという報告まで。

 .......考える必要のないことを考えてしまう。


「ハァ.......天子の奇行については一旦置いておこう。

 それよりも問題は日坂翔についてだ」


 日坂翔、我が高校の三年生であり、現状天子に告白した人物。

 同時に、たった今天子から振られることが確定してしまった哀れな男だ。

 とはいえ、ただの哀れな男であればそれで良かった。


 しかし、天子の幸せを願う俺の情報収集によれば、奴は完全にクズだ。

 これまでの交際経歴は両手で数えられるほどと多いが、その全てが数か月で終わっている。

 その理由として日坂の浮気というのもあるが、問題は日坂自身にある。


 というのも、日坂は言うなればヤリ目のために交際しているのだ。

 自分に上手く仮面をつけ、甘い香りに誘われた蝶を食らう食虫植物。

 時には気に入った相手には自分からアプローチを仕掛け、目的が達成されればポイ。


 実際、都合の良いセフレのように扱われた女子は後を絶たない。

 しかしなぜそれが表に出ないか、行為中の写真という弱みを握られているからだ。

 また、日坂自身のカースト上位の男という知名度も含まれているだろう。


 故に、被害に遭った女子生徒は周囲に警鐘を鳴らさない。

 逆らってはいけない相手と認識してしまったから。

 襲われそうになっている誰かを見つけても見て見ぬふり。


 しかも場合によれば、言うなれば日坂のお古となった女子は奴の友達に回されると聞く。

 これは現状噂止まりで、俺や真昼、朝奈の情報収集を以てしても確証にはいられなかった。

 とはいえ、火が無い所に煙は立たないというし、その噂の時点で吐き気を催す邪悪だ。


「そんな奴が天子から振られたとなればどうなるか......もはや簡単に想像がつくな」


 スクールカースト上位で、自慢のルックスと地位で私欲で女子を毒牙にかけている。

 そのカースト上位という時点でプライドが高いことは想像に難くない。


 つまり、天子にフラれたとなれば、一介の女子如きにプライドを傷つけられたと思うはずだ。

 加えて、天子の場合は裏表がないので、その純白さがより奴のプライドを抉る。


 となれば、奴がそのまま黙っているとは考えずらい。

 それこそ無理やり自分のものにするか、自分の傷つけたちっぽけなプライド以上の尊厳破壊行為に及ぶかだ。


 この動かなくなった表情(かめん)から色んな人間を観察してきたが、あのタイプは実にわかりやすい部類と言えよう。


 となれば、さすがに見過ごすことはできない。「友達」のピンチだしな。

 それに、自分の命というのはこういうことぐらいしか発揮できないだろう。


「へい、お兄! 飯の準備が出来たぜ、ベイベー!」


「今日はいつになくテンションがおかしいな。

 どうした? 変なキノコでもつまみ食いしたか」


 敬の決意もほどよく固まったところで、妹の幸がお玉を片手に勢いよくドアを開けた。

 イマドキお玉を片手に登場する妹などいるだろうか。漫画ですら早々見ないぞ。

 そんな俺の返答を気にすることもなく、幸は敬の姿を見る。


「どうしたの? そんなスマホをじっと眺めて。あ、わかった! 夜のおかず探しだ!」


「待て、妹よ。兄がスマホを眺めているだけですぐにそういう判断は良くない。

 というか、あまりそういう言葉を使うものではないぞ」


「ふっ、邪魔したな。お兄ちゃん、理解力のある妹はこの場でクールに去るぜ。

 なんたってわたしは理解力のある妹だからね☆」


「そのサムズアップは逆に理解力ねぇんだわ。

 てか、変に気を遣わなくていいから。何もしてないし、するつもりはないから!」


「お兄ちゃん、それは逆に思春期として不健全だと思う」


「余計な心配をせんでよろしい。ほら、さっさとリビングに向かうぞ」


 一度妹に情操教育のなんたるかを教えてやりたいが、それはそれで問題になりそうだ。

 年齢が一つしか変わらない血のつながりが無い兄妹の情操教育――なんのエロ漫画の挿入かな?

 そんなことを思いつつ、俺は妹の背中を押しながら一階のリビングへ向かった。


*****


 放課後になった。今宵の敬は酷く静かである。

 普段無表情であるが故に、黙ると威圧感がさらに増し、不機嫌な空気が増幅する。

 しかし、今日ばかりはそれでいいのかもしれない。

 少なくとも自分は多少の荒事になることは既に想定しているのだから。


 外にあるとある部室、そこに近づくと騒がしい声が聞こえてくる。

 声質の違いからして中にいるのは三人の男子グループだ。

 そしてその三人のうち、リーダーらしき人物が話す声が特に顕著に聞こえる。


「あーうぜぇ。てか、スゲームカつく。この俺を振るとか。

 ここが学校である手前引いたけど、あんなモブ女にフラれた事実がうぜぇわ。

 あー、今怒りがぶり返してきた。どうしよっかな」


「また翔先輩を振るなんて。その女も見る目がなかったんすよ。

 てか、翔先輩を振るとか生意気っすね。どんなカーストの存在でって感じで」


「で、こっからどうすんの? まさか言われっぱなしって感じじゃないよな?

 っていうか、そもそも翔ちゃんが暇潰しに見つけた女子だとしても、飼い主に噛みつくような犬なら躾けるってのが普通じゃね?」


「だなぁ、どのみちこのままとはいかなかったし。ここからは少し手荒になるかもな。

 にしても、去年以来だな。案外なんとるし、早いとここの苛立ちも解消したいし。

 というわけで、早速今日にでも襲うか。なーに、一日帰れなくなるだけの話」


「その一日で人生の生き方が決まるってだけの話っすよ」


「女小さなタイプのオ〇ホはいなかったし。楽しみだな~」


 部室の奥、そのドア越しに聞こえてくるのはこの世の邪悪を煮詰めた邪悪な言葉。

 今にも聞いている敬の耳が腐りそうな会話内容に、敬自身の覚悟もそっと決まる。

 これからお前らが味わうことになるのは――快楽ではなく、苦痛であると。


「言質は取った」


 ポケットの中に忍ばせたボイスレコーダー。

 そこには先程の誰が聞いても吐き気を催そうような欲望の言葉が詰まっている。

 これ以上ない証拠であり、それが自分にとっての最強のカードになる。


 もっとも、これはあくまでついでだ。

 完全に生きの音を止めるためのの一つの要素でしかない。

 そしてこれから行うのは――ただの私刑だ。


「ふぅー.......もう誰かが傷つくのは結構だ」


 自分が関われば、その関わった誰かが不幸に見舞われる。

 その相手との関係を深めれば深めるほどより顕著にその事象は現れる。

 それは自分の両親もしかり、幸の家族もしかり、そして今尚起ころうとしている天子のことも。


 しかし、あの時と違う点は自分には解決能力があるということだ。

 子供ながらの稚拙な考えではない、無力でもない、注意散漫でもない。

 もうこれ以上、自分の周りで不幸な目に遭わせない。

 そのためなら、いくら自分が傷つこうと一向に構わない。


「行くか。長く突っ立ってると怪しまれる」


 心を酷く冷たく小声させ、感情のない表情からさらに声まで感情を差し引く。

 そして出来た自分はさながら冷酷で残酷なロボットとでも言おうか。

 下手な容赦はしなくていい。これまでの被害者も含め半殺しにする程度がベスト。


―――ガラガラガラ


「あぁ? 誰だテメェ?」


「大撫天子の親友にしてお前らみたいなゴミを排除する者だよ」


「あのチビの親友? はっ、ははははは! なんだ? 雇われたのか?

 それともあのチビにでもストーカーして正義のヒーロー面か?」


 そう言いながらも何かの危惧に腰掛けていた翔は立ち上がり、それに合わせて取り巻きAとBも立ち上がる。


 随分と好戦的な目つきだ。普段の日常が余程刺激がなく退屈だと見える。

 全く持ってその日常こそが本当の幸せであると気づいていない様子だ。

 そんなことに気付けていないなんて......実に可哀そうだ。


「ま、いいや。丁度ストレス発散したかったとこだし。

 安心しろ、ここで殴っておさらばなんて優しいことしてやらねぇからよ。

 キッチリ動画とって見せつけて絶望しやがれ!」


「よ、翔先輩カッコいい~!」


「いいな、それ。一度やってみたかったんだよ!」


「......クズが」


 冷たくボソッと吐き出した言葉。

 今ならバラすらもパリパリに凍らせることが可能かもしれない。

 そんなことをふと思いながら、意識を目の前に集中させていく。


「死ね!」


 そして視線が合った瞬間、不快とばかりに翔が殴りかかって来た。

 なので、その大ぶりな拳を避け、逆に手首を掴んで一本背負い。

 コンクリートの床に叩きつけると、そこから顎を外して顔面を殴った。

 一撃で気絶なんてそんな生易しいことしない。


「テメェ、翔先輩に何やってんだ!」


「調子乗ってんじゃねぇぞ!」


 敬の行動を見て取り巻きAとBが襲い掛かってくる。

 しかし、これでも敬は宗次から護身術を学んでいるのだ。

 といっても、まだ一年は経ってないけど。

 なので、一番ヤンチャしてそうな悠馬が実は一番弱い。


 その技を活かし、その二人を赤子のように弄んで投げて投げて投げ飛ばす。

 そこに隙があれば、拳や蹴りを入れ徹底的に痛めつけ、相手の戦意を折った。


 そして、全員が動けなくなった頃。

 丁度俺が翔の髪の毛を掴み、問いかけようとしたタイミングで声がかかる。


「こんなことのためにお前に護身術を覚えさせたわけじゃないぞ」


 視線を入り口の方へ投げると、逆光で見えずらかったが、そこには宗次の姿があった。

 腕を組んで見下ろす姿は心なしか悲しさを含んでいるように見える。


 そんな宗次に何も答えず、敬は翔を投げ捨てると立ち上がり、そっとポケットに手を突っ込む。

 それからその中にあるボイスレコーダーを握ると、宗次に投げ渡した。


「これは......?」


「バカみたいに大声でしゃべってた証言だ。

 こいつらがただの被害者ってのは納得いかないからな。

 あとでボクが調査したこと全て渡そう。僕も含めて処分は考えてくれ」


「尻拭いを私に私にさせるか。だとしたら、多少自分事が含んでも仕方ないな。

 なら、その願いを受け入れる代わりに一つだけ条件を受け入れてもらう」


「条件......?」


 その瞬間、敬の心には漠然と嫌な予感がした。

 それは敬がクズどもに挑むよりもさらに恐怖に見舞われるような何か。

 そんな言葉が宗次から告げられると、何となくそう直観が働いてしまう。

 しかし、それが条件であれば受け入れるしかなく、そしてその条件は――


「貴様は夏祭りに参加しろ」

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)

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