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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト72 宗次の選択#2

 その日の教室には少し異様な空気が流れていた。

 クラスメイトの誰もが友達との会話の傍ら様子を伺い、時にその様子が話題になる。

 そんな話題の中心人物となっているのは、現在頭を抱えている相沢宗次だ。


 教室で自分の席に座りながら、ポツンと一人苦悩を抱えるメガネのイケメン。

 その構図はある意味芸術作品であり、ある意味やっかみ男子からはザマァな様子でもあるが、誰もその抱える悩みに気付かない――敬を除いて。


 宗次が悩んでいる理由、十中八九キンタローのことだろう。というか、それしかない。

 なぜなら、そうなるように焚きつけたのは自分であるからだ。

 とはいえ――、


(あれだけ啖呵切ってた奴がなぁ)


 遠くに見える宗次の姿を見て、敬は内心でそう呟く。

 敬から見ても宗次は完璧超人だ。それこそ、大抵のことはそつなくこなす。

 器用貧乏という言い方もあるが、宗次の器用に至っては十分に富豪である。


 だからこそ、宗次が気合を入れてやるとなれば完璧に終わる――それがいつも通りだった。

 しかし現に、今の宗次はその意気込みが失敗に終わって落ち込んでいる。


 誰かに気を遣わせまいと、ミスしたこともミスとは思わせない人物があからさまに、だ。

 どう考えても異常事態にさすがの敬も困惑が隠せない。

 もっとも、その感情すら敬の表情には相変わらず浮かぶことは無いが。


「一先ず話を聞いてみるか」


 そう考えた敬は、早速放課後――ではなく昼休みに呼び出した。

 なぜ昼休みに呼び出しに成功したのか。

 もはやそれだけで今の異常性の高さが伺える。


 二人きりで話がしたいために、悠馬のことは幼馴染である那智に引き取ってもらった。

 つまり、今頃彼は男子一人で女子四人に囲まれながら食事にありついていることだろう。


 どう考えても男子からの針のむしろ確定だが、それは役得として我慢してもらおう。

 ともあれ――、


「何があった?」


 昼休みの屋上、段々と夏に近づいている季節であり、日によっては暑い。

 そんな季節の今日はというと、比較的に風があってなんとも過ごしやすい日と言える。

 もっとも、過ごしやすいからといって気分も上がるかと言えば、全く別の話なのだが。


 そんな少し憎く映る青空を眺めながら、敬が宗次に率直に尋ねた。

 具体的な内容を言わずともわかる。なにせつい先日のことなのだから。

 その質問に対し、全く食が進んでいない宗次がボソッと答えた。


「私は......臆病者だ」


「......ほぅ」


「私はお嬢様の専属執事であり、話しかけるタイミングはいくらでもあった。

 しかし、そのタイミングを見逃し続け、早二日。

 そんな私の異変に気付いたのか、今日には私の昼の付き添いはいらないと申し出されたんだ」


 宗次の切実な思いを聞き、それでもなお敬は思った――だろうな、と。

 宗次にとって、恐らくキンタロー相手が初めての恋という形になるだろう。

 加えて、その変化の距離感は、近くて遠かった幼馴染が急接近してきた感じなのだ。


 完璧超人と呼ばれる宗次であろうとお年頃の男子であることは変わりない。

 そんな宗次に人間味を感じつつも、時はそんなにまったりしてる場合でもない。


 なぜなら、アンドリューが答えを待ってくれるのは一週間。

 先週の土曜日からであり、現在木曜日――つまり、チャンスは今日か明日のみ。

 とはいえ、この調子では今日というチャンスすらも落としそうな勢いだ。


「私は......私は知らなかった......自分がこんなにも臆病者だったなんて」


「ま、そりゃ、人の心に触れようとするのって怖いだろ。

 基本人は簡単に自分の心に他人を踏み入れさせない。

 だからこそ、人が人に好意を伝えるってのはスゲー勇気がいるんだ」


 実際、告白経験のない敬であろうと、それぐらいの気持ちはわかる。

 今の自分にも誰にも言えない気持ちは燻っているし、それを明かすつもりはない。

 だからこそ、その心に近づこうとする天子を凄いと思い、同時に怖いと思う。


「んでもって、だからこそ、お前にとってアンドリューがどれだけ強敵か理解したろ?

 あの男は、自分の本心を全く隠さない。あまりにも明け透けであり、堂々だ。

 僕からすれば、あまりにも光り過ぎてとても近づきたくない相手とも言える」


「そうだな.....お前は普段の奇行以上に実は根暗だものな」


「うっさい。奇行は余計だ。エンターテイメントと言いなさい。

 ともあれ、あの男に対抗して勝つためにはやはりキンタローと心を通じ合わせる必要がある。

 キンタローも見た目と裏腹に王子様を待ち続けるお嬢様だからな。迎えにいかないと」


「お嬢様は名実ともにお嬢様だ。だが、私に王子役は務まるのだろうか」


 自分の不実行力にだいぶ打ちのめされているようで、宗次の返答から普段の覇気はない。

 常に自分の心に問いかけられるような形で、それでいて敬に背中を押してもらえることを期待している、甘えている。


「所詮その程度なら諦めるんだな」


 だからこそ、敬はその弱い宗次は容赦なく見限る。

 誰かに背中を押してもらえること、それは大きく助けになるだろう。

 だがしかし、その場合の責任の所在はどこに至るのか。


 今の宗次に必要なのは、誰かに背中を押されたから動くのではない。

 自分の心で決め、それに従ったからこそ勝ち得る結果のみだ。

 それこそ、背中を押すだけならもうすでにしてある。


 それに、今の宗次は「責任」という言葉から逃げようとしている。

 誰かが誰かを好きになり、その人物を独占したい時に生じる責任から。

 それを放棄するような人物を、敬は友と――宗次と認めない。


「――っ!?」


 そんな敬の言葉に、宗次は沈んでいた顔を上げ、瞠目する。

 期待していたとは違うと、裏切られたような表情がありありと浮かんでいた。

 そして、ゆっくりと視線を下に向けていくと、そのまま顔もその方向へ。


「僕がお前の背中を押す言葉をかけようと思えば、いくらでもかけられる。

 だけどその場合、お前は本心からキンタローに対する気持ちを決めたと言えるのか?

 少しでも僕に責任が生じることは残したくないからね。言わない」


「......ハッ、なんとも辛辣な物言いだな」


「それだけ僕の中にいる宗次の理想像は高いんだ。

 逆に言えば、その宗次と違うとなれば、僕は理想では無く現実のお前を否定する」


「それはさすがに厄介ヲタクすぎるだろ......期待し過ぎだ」


 そう言いつつも、「だが」と宗次は言葉を一度区切り、


「そんなお前に頼ってしまったのは、私の落ち度とも言えるか」


「そういうこと。それと、ついでに言うならば、僕はアンドリューほど強い光には少し陰って欲しいと願っている。

 でなければ、僕のような日陰者の心を持つ人間には、あの光は辛すぎるからね」


「つまり、私は貴様を助けるために、私自身の想いをお嬢様に告げろと?」


「人間、誰しも我が身可愛さだからね」


「お前ほどその言葉が薄っぺらく感じる人間もいないな」


 そう言った直後、普段の宗次らしくない荒っぽい食事を取り始めた。

 具体的に言えば、まるで運動部のようにお弁当の中身を口の中に駆け込み始めたのだ。

 まるで今までの「らしくない」自分を塗り潰すような奇行でもって。

 そして、全てのお弁当を平らげると、


「貴様程度にカッコつけられないようならば、私はそもそもお嬢様のそばにふさわしくない。

 だからこそ、この私こそがお嬢様に相応しい人間であると証明してやる。

 明日の放課後、屋上で隠れて待っていろ。そこで私の覚悟を証明してやる」


 口の端にご飯粒を付けたまま、それも霞むほどの決め顔で宗次は宣言した。


―――翌日の放課後


 敬は言われた通り先に屋上に来ていて、給水塔がある場所の物陰に隠れていた。

 背中を壁に預け、そのまま直座りしながら、これから起こる展開を静かに待つ。

 そんな敬に対し、同じようにスカートの裾を伸ばしながら座る天子の姿もあった。


「なんだかドキドキしますね......」


 そう言って天子はまるで自分のことのように顔を赤らめ、胸に手を当てていた。

 さながら自分の鼓動を確かめて、それでいて緊張を静めるような仕草。

 そんな天子に対し、敬は物陰から様子を伺いながら答える。


「まぁ、告白なんて大きなイベント、早々目にするもんじゃないしな。

 それに、僕達はそのイベントを成功することを期待している。

 となれば、期待の分、緊張も仕方ないだろうね」


「そういう割には、敬さんはこれといって変わらないですね」


「顔に出ないだけだよ。実際は今も心臓バックバク。

 いっそ聞いてみるかい。カモンベイベー」


「そ、そういうのはまだ遠慮しておきます.....」


 視線を天子に戻し、敬が大きく胸を広げて出迎えるが、天子には遠慮された。

 しかし、「まだ」と言っていたが、いずれ心音を聞きたいとでも思っているのか。


 最近、天子の距離感の近さを如実に感じ、敬は少しむず痒い感覚になる。

 決して嫌ではないのだが、嫌なのだ。

 何を言っているかわからないが、それが今の敬の本音。


 このままどうにか距離感を保ちたいところだが、何かと一緒に行動することが多い。

 そうなると後はズルズルと流れるままに関係性が深まりそうでよろしくない。


 というわけで、今後は天子との距離感の維持のために考えねばなるまいが、今は宗次のことだ。

 昨日あれだけ啖呵を切っていた宗次だが、つい先日にはヘタレを見せた男でもある。


 とはいえ、宗次を見限っているならこんな場所には来ていない。

 つまり、宗次は必ずここに来る。それまで少し二人きりを耐えるだけだ。


「そういえば、最近はどう? 上手く行ってる?」


「なんだかお姉ちゃんみたいなこと言いますね」


「いやさ、基本的に天子の交友関係って僕が広げた感じじゃん。

 とはいえ、それ以降のことはそっちに任せてるからさ。

 ほら、僕は君が勇者として活躍するのを願ってるし」


 なんとも苦しい言い訳っぽくなってしまったが、これも敬の本心だ。

 天子と関わることになったのは完全成り行きとはいえ、関わった以上責任が発生する。

 そして、その責任とは、当然コミュ障だった天子が無事に学校生活を楽しむこと。


 友達を作り、友達と話したり、一緒に昼食を取ったり、放課後に遊びに行ったり、物の貸し借りをしたりなど誰かがいないと出来ないことを天子に経験させる――それが敬が天子と関わった際に抱えることにうなった責任である。


 もちろん、そんなことを天子は知らない。知る由もない。

 しかし、それでいい。なぜなら、これはあくまで敬個人の問題なのだから。

 勝手に抱えてるだけの、身勝手な考えでしかない。


 そんな敬の言葉に対し、天子は一度首を傾げる。

 その反応は言っている言葉の意味が分からないわけではなく、何かを思い返す仕草だ。

 言うなれば、これまでの自分の行動を振り返っているいるのだろう。


「そうですね、これといって困ったことはあまりありませんね。

 皆さん、何かと親切にしてくれることが多いので」


「まぁ、あの三人は......ってか、特に一人か」


 言葉を聞き、敬がふと思い返すのは自称天子親衛隊と名乗る編ヶ埼京華のことだ。

 見た目は元ヤンあがりのギャルって感じだが、その実可愛いものには目がない一面を持つ。


 そのせいか、かねてから天子のことを知っていたようで、仲良くなった今では天子の忠実な犬だ。

 それこそ、天子が友人と認めなければ、ストーカーとして通報することもできただろう。


 そして、そんな天子のメイドポジションみたいな位置にいる京華が、天子に対して不自由させることなどするはずもない。


 もし、あれば自害する......そんな気がする。

 そんな勝手なイメージを抱かせる相手である以上、天子が学校生活を楽しめているのは当然だ。


「ま、仮に編ヶ埼に問題あっても二人が何とかするだろう」


 友達がユニコーンになった際、容赦なくその角を折る編ヶ埼の友人二人――夕妃と那智。

 少なからず、京華と違い、絶対的イエスマンではないので、上手く距離感を働かせて行動してくれるだろう。

 もっとも、天子に甘いという点は共通だが。


(なら、そろそろ本格的に今後の関係性について考えた方が良さそうだな)


 天子と自分の立ち位置、今の距離感、今後の付き合い方。

 天子がどう思っているかは知らないが、ここら辺が潮時というやつだろう。

 だから、これを天子と協力して事に当たる最後のイベントとしよう。


―――ガチャッ


 その時、最後のイベントの幕が開く音がした。

 いや、幕はとっくに開かれている。

 そう、だからこれは、エンドロールの幕開けだ。

読んでくださりありがとうございます。

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