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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト71 宗次の選択#1

 平日の学校、いつもなら何事もない日々が続く。

 聞き飽きた先生の声に、退屈な授業。

 友達との楽しい会話に、くだらないやり取り。

 そんな当たり前の日常に、思うことなど基本ない。


 しかし、先日の小鳥遊邸でのバイトの一件以来、どうにも調子が狂う。

 それはいつまでも気丈を振るまう宗次を見てのことだ。

 そして、その原因を知っているのもまた、要因の一つである。


「なぁ、宗次の奴、何があったんだ?」


 敬の机に近づき、腕を枕にするようにして顎を乗せる悠馬が尋ねた。

 そんな彼の視線は常々宗次の方へ向いており、表情はなんとも言えない表情だ。


(なんとも言えないのはこっちも同じだ)


 悠馬の表情を見て、敬もまた宗次へと視線を向ける。

 今の宗次は自分の席に座り、そこで自習をしている真っ最中だ。

 そのこと自体は勤勉な活動であり、褒められるべきことだろう。

 もっとも、その様子はまるで身に入ってるとは思えないが。


 というのも、宗次はシャープペンを走らせながら、何度も書いている途中で芯を折っているのだ。

 パキッと折ってはカチカチと芯を出し、それから再び折っては芯を出す。

 それを先程からずっと繰り返している。


 それこし、シャープペンの芯など余程力を入れて書かないと折れない。

 ましてや、宗次は周囲から完璧超人と評される人物だ。


 芯を一度も折ったことがないわけではなかろうが、それでもあんなミスを度々起こす人物でもないことは確か。

 ましてや――、


(それを周囲にも気づかれてることを気付かないなんてな.....)


 敬は宗次のことを空気読みの達人だと思っている。

 それは彼が長年執事として培ってきた技術の賜物であり、だからこそ誰にでも気遣いが出来るのだ。

 逆に言えば、気遣いが出来る宗次が、周囲に不信感を与えてることに気付かないはずがない。


 つまり、宗次に対して先日の一件はそれほどまでに影響を与えたということだ。

 もっとも、アンドリューの宣言は、宗次のような立場こそ動揺しないことが無理な話だが。


「さぁな、前にバイトの終わりにはああなってた。

 もちろん、気になって話しかけてみたが、『なんでもない』の一点張りだ。

 だから、お前も余計な刺激は与えない方が良いぜ」


 とりあえずの悠馬への牽制はこのぐらいで十分だろう。

 誰だって触れて欲しくないタイミングというのはある。

 そして、それは宗次にとって今なんだと教えられただろう。


「お、おう......とはいえ、何もしないってのもそれはそれでなぁ」


 悠馬は良い奴なので、友達が調子悪い時に何もしないことに罪悪感を湧くのだろう。

 .....もしかしたら、悠馬みたいなタイプに強引に遊びに誘ってもらう方が、宗次としても吐き出しやすいのかもしれない。


 なんたってあの眼鏡は堅物だ。

 自分のせいで周りに影響を与えるなど、微塵もしたくないのだろう。

 それぐらいであれば、自分で背負ってその中から答えを探す。

 とはいえ、それで周囲に余計な気を遣わせては世話ないが。


「一先ず、本人から今の本音を聞いてみるか」


*****


 放課後、敬は宗次が帰る準備をしてるのを確認しながら、タイミングを計る。


 本当は昼休みにでも声をかけようとしたが、宗次が妙に三人で昼食を取ろうとするという宗次らしくない気持ち悪いムーブをかましたせいで動きに動けず。

 だから、時間を放課後にズラしたわけだが、


「で、本人はとっとと帰る気満々ってか」


 放課後に入ってすぐに荷物を整理し、帰ろうとする宗次。

 そんな宗次の前を遮るようにして敬は前に立つと、直球で質問した。


「先日のアンドリューの件について、少しお前の話を聞かせろよ」


 宗次相手に回りくどい言い方をしたとて、のらりくらりと躱される。

 ならばこそ、最初から抜き身の刃をチラつかせれば、宗次とて対応せざるをえない。

 そして、頭の良い宗次だからこそ、その話には当然乗る。


「貴様ほどがわからないとは思わないが、念のため言っておく。

 私はこれから仕事だ。だから、取れる時間は限られてる」


「時間は?」


「十分だ」


「わかった。交渉成立だ」


 それから、敬と宗次は人気のない後者の端の方へ進んでいく。

 周囲に人の目、人の声、人の気配がしないことを確認すると、敬が口を開き、


「時間がないから単刀直入に聞くぜ――あの宣言についてどう思った?」


「どうとはなんのことだ? 第一、貴様には関係の話だろ」


「それが関係あるから聞いてるだろうっての。

 僕だって好き勝手にこういった面倒な話に首を突っ込まないよ。

 でも、突っ込むどころか体内へ飲み込まれたから聞いてんだ。

 で、どうなんだ? 何とも思わないなんてヘタレな回答はしないよな?」


「......」


 続けざまに言葉をぶつける敬に対し、宗次が沈黙したまま見続ける。

 眼鏡越しの雲った双眸に見つめられ、敬は少し不快な気分になった。


 いつもの自信満々ではない、虚栄に身を包んだ仮初の姿に吐き気を感じたからだ。

 そう、それはまるで鏡を見ているような気がして。


「私だってお嬢様のことは大事に思っている。

 どこぞの馬の骨、それこそお前や悠馬であっても私は間違いなくバールで殴って、誰にもバレない山奥で埋めていただろう」


「えげつない殺意を抱えるな!

 今、心の底から安堵しちまっただろうが!」


「しかし、それが相手がアンリだぞ。奴のことは昔からよく知ってる。

 俺よりも年上で、それでいて教養も豊かであり、頭脳明晰、品行方正、気遣いもできる。

 周りからそれらを言われてる私がそう思うほどの英傑だぞ? 何を言わずともわかるだろ」


 つまり、「アンドリューは自分の上位互換」と宗次は遠回しに言っている。

 そも、こんなつらつらと言い訳がましく言うのも彼らしくない。

 いつもなら理路整然としていて、それでいて端的に答えを告げるのが彼だ。


 だからこそ、その「負けるのは仕方ない」という面構えが負け犬のように見えて仕方なかった。

 まるで弱い心を持っていた昔の自分に重なるようで、無性に腹が立つ。


「......それじゃ、キンタローのためを思えば、それが正解だと?」


「そうだ」


 しかし、敬は表情に出さず、淡々と宗次の心境を確かめる。


「お前がどう思っていようとも、キンタローにとってそれが正解だと」


「そうだ」


 敬の質問に対し、宗次はハッキリと断言した。

 その割には自信なさげに顔を下に向け、悔しそうに拳を握りしめている。


 あぁ、その姿は心底不愉快だ。そして、これから言う自分のセリフも気持ち悪い。

 しかし、きっとそれが宗次に届く言葉だと思うから、自分は偽善を貫く。


「独りよがりも大概にしろよ、宗次」


 そう告げた瞬間、宗次がようやく顔を上げた。

 加えて、一件怒りを抑えているような顔にくっついた瞳には、煮えたぎる怒りを抱えている。


 さながら、「貴様如きに私の何がわかる」とでも言っているかのように。

 それがわかっていても、敬は自慢のポーカーフェイスで乗り切り、言葉を続ける。


「だって、そうだろ。それは全部お前の都合だ。

 お前の気持ちが納得する方向、お前が思うキンタローの未来、お前が勝手にアンドリューに負けていると思う気持ち......どれもこれも、お前の都合だろう。そのどこが間違ってるんだ?」


「貴様に私の気持ちがわかってたまるか。それがこの私が決めた――」


「お前の負け根性なんか興味ないね。

 それに、それでお前の気持ちがブレないなら、俺だってこれ以上言うことは無い。

 だが、お前の場合、そうじゃないだろ。今だって本当は抗いたくてしかたない」


「......やめろ」


「幼馴染のアンドリューに負けたくないし」


「やめろと言っている」


「何よりキンタローを奪われるのが我慢ならない」


「やめろと言っている!」


 瞬間、宗次がガッと敬の胸倉を両手で掴みかかった。

 そのまま持ち上げるような勢いで、敬の軌道を襟で絞めにかかる。

 まるでこれ以上の煩わしい言葉を言わせないかのように。

 そんな行動を見て、敬の口角がようやく少しだけ上がった。


「良い顔、するようになったじゃないか。

 いつになく感情の制御が出来て無いみたいだな」


「この腐れ道化め!」


 そう言って、宗次は敬の体を突き放す。

 それにより数歩後退する敬であったが、襟を正すと変わらずそこに立った。

 憤慨する宗次と、それをただ冷静に見つめる敬。

 まるで炎と氷のような正反対な感情を見せる両者の間で――


「くっ、だはぁ~.......」


 特に何か起こるわけでは無かった。

 もっと言えば、それが起こらないように宗次が溜まったうっ憤を外に排出させたのだ。

 今にも手を出してもおかしくない状況で、少ない自制心でもって踏み止まる。

 実に、卓越したアンガーコントロールであろう。自分には出来ない芸当だ。


 大きくため息を吐くことで、体中に溜まった怒りを排熱していく。

 それから、冷たい空気でクールダウンさせるように、深呼吸を数回。

 それにより、敬の前傾姿勢は少しずつ姿勢が正されていった。


「......すまない。手荒なことをしてしまった」


「別に、これぐらいはなんとも。

 むしろ、お前に殴られるぐらいの覚悟でいたから。

 それに、どうやら僕の言葉はお前にも届くようだとわかったからな」


「全く嫌な知見を得られたものだ。友としてどうかと思うぞ。

 しかし、貴様が言っていたこともあながち間違いではない」


 そう言いながら、宗次が乱れた襟を乱し、ネクタイをキュッと絞める。

 いつもの完璧な宗次に戻ったようだ。いや、見慣れたというべきか。


「確かに、貴様の言葉はあながち間違いではない。

 だからこそ、道化の戯言に心を揺さぶられ、あまつさえ私に手を出させたのだろう。

 全く、怒りを買ってまで意見するというのが、道化の役割だというのにな」


「そうでもないさ、所詮僕もお前と同じ。

 ただ表情に現れにくくなっただけで、ちゃんと感情はある。

 好きな相手も嫌いな相手もハッキリしてる――嫌いな相手は特にな」


「......まぁ、貴様が私を通して誰を見てるかは知らんが、ともかくだ。

 貴様が言う『自分しか見えていない』とはどういう意味だ?

 まさか私がお嬢様の気持ちが見えてないと?」


「さっきからそう言ってるじゃん。

 というか、本気で見えてる気になっていることに本気で驚いたよ。

 だって、お前.....キンタローの気持ちに気付いてないじゃん」


「私が......お嬢様の」


 敬の指摘に、宗次が初めて瞠目する。

 そんな宗次を見ながら、敬は少しだけ後悔した。

 というのも、本当はここまで言うつもりは無かったのだ。


 キンタローが宗次を想う気持ちは、宗次自身に自力で気づいて欲しかった。

 それが最善であり、それが一番自分の気持ちに嘘偽りなく信じられることだから。

 しかし、外部からの指摘であれば、話は変わってくる。


 言うなれば、そうなるように誘導されているという邪推が働くからだ。

 もちろん、考えすぎかもしれないが、そういう不安の種が自分の行動を、ひいては気持ちを疑うことになる。


(宗次には今の自分の気持ちを疑って欲しくないし、キンタローの気持ちにも疑いを持って欲しくない)


 そう願いつつも、このままではきっと宗次は拗らせた気持ちを抱えたまま、後悔するように生きることになるだろう。

 だから、敬はこうして宗次を説得し――


(.....あぁ、そういうことか)


 その時、敬はようやくアンドリューの仕掛けた意図に気付いた。

 あんな派手なパフォーマンスをしてみせた彼であるが、どうやら狙いは実に些細なことだったらしい。


 そして、その狙いのために自分は都合よく動かされていると。

 加えて、この意図に気付かれたとしても、自分ならきっと友のために同じ選択をする。

 つまり、最初から選択肢などなかったことに等しい。実に、いやらしい英国紳士だ。


「ともかくだ、僕から言えるのはそこまで。

 後は自力で何とかしろ。そして、僕が知りたいのは結果だけだ。

 たとえ宗次がどんな選択を取ろうとも、僕の今後の態度は変わらない。

 それだけは今ここで保証してやる」


「ふっ、実に魅力のない保証だな。しかし、私ぐらいには丁度いい。

 わかった。私も少しお嬢様に真意を聞いてくるとしよう」


「一応、まだ時間は残っちゃいるが、だからって安心するなよ。

 俺の予想だけど、お前は苦戦する」


「ふっ、侮るな。私はこれでもアンリを超える完璧を目指してきた相沢宗次だぞ。

 この私に不可能などあってたまるか」


 そう言って、宗次はカッコよく歩き出した。


―――二日後


「なぁ、日に日に落ち込んでないか、アイツ」


「恐らく自分の不甲斐なさを痛感してんだろうよ」


「?」


 そんな会話を悠馬としながら、敬が見る視線の先――机で頭を抱える宗次の姿があった。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)



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