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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト69 大きな展開#4

 身内だけが揃うパーティールームの最中、突如扉が開かれる。

 そこから現れた二人の男女――百合とアンドリューが赤いカーペットの上を歩いていく。


 さながらモーゼの海割りのように、誰もいない中央を突く進む二人。

 その姿はまるで――


「結婚式みたいですね......本物はみたことないですけど」


 腕を組んで歩く二人の姿を見て、敬が思った感想を天子が代わりに口にした。

 もっとも、新婦の隣にいるのは父親のはずなので、若干の違いはあるが。

 とはいえ、そんなことは些事だ――二人の輝かしい姿を見れば。


 そんな二人の後ろを、扉が閉まる直前でしれっと宗次がパーティールームの中に入る。

 あの男は自分の主がよその男と腕を組んでいるのに、あくまで裏方に回るうようだ。

 いや、よそではないか。幼馴染とは言ってたし。


(とはいえ、この状況を何も思わんのか?

 思わんかもなぁ、あくまで仕事と割り切ってそうだし)


 今宵の主役二人を遠くから眺める執事を眺める敬の心の内。

 あのバカ真面目君ならまずそう考えてもおかしくないだろう。

 これでも一年の付き合いだ。人をよく見る自分ならわかる。

 そう、わかる、わかってしまうのだ。


 だから、先ほどから終始目をキラキラさせて見る天子の心もなんとなくわかる。

 それこそ、結婚式にやってきた小さな少女みたいな羨望の瞳をしているのだから、むしろわからないはずない。


「.....天子もああいうのが羨ましいと思うのか?」


 あまりにも純粋な瞳で見続けるために、敬は思わず言葉にしてしまった。

 そして、言った後で後悔する――これじゃ、結婚願望があるのか聞いてるみたいじゃないか、と。


 なんとも、自分で聞いても気持ち悪いセリフだ。

 場合によってはセクハラに該当するだろう。

 別にこの光景に対して、天子がどう思っててもいいはずなのに。

 自分のあまりの愚かさに自己嫌悪を発動していると、


「どうでしょう......今はなんとも言えませんが」


「言えませんが?」


「たぶんですけど、こう答える時点で、私の中ではゼロじゃないんだと思います。

 だって、幸せそうじゃないですか。それってとっても良いことだと思うんです」


「.....そうだね。当人達が幸せならいいことだ」


 天子の回答に対して、敬が何が正解かわからずとりあえず返答した。

 しかし、それが正しい返答になっているかは自信がない。

 だぶん、これは天子と決定的なすれ違いを起こしている気がする。


 だけど、それを敬が訂正することはない。する必要もない。

 このままの関係が続いていくのなら、それが一番だと思うから。

 だから、この胸の内に渦巻く感情は――きっと気のせいだ。


 ぼんやりと主役二人を眺めていると、やがて二人は部屋の最奥へ移動する。

 そのまま振り返ると、全体に向けてアンドリューが口火を切った。


「この度は私のためにこのような会を開いてくださりくださりありがとうございます。

 急な対応でありながら、このような素晴らしい食事の数々、運営に携わってくださった方には頭が上がりません。

 ですので、今宵は無礼講とさせていただきたい。どんな質問にも真摯に対応させていただきます」


「らしいので、当人がその意であればわたくしもその気持ちを汲むことにするわ。

 そして、わたくしからも急な無茶を聞いてくれてありがとう。

 内々の小さな催しだけど、身内だから固くしないで楽しんでもらえるといいわ」


 この部屋にいる全員に聞こえるような声。

 さすがに場慣れしているようで、声の張り方が経験者のそれであった。

 間違っても急なテンション高いキャラに転身して総スカンをくらった中学時代の自分とは違う。


 そんな両者の宣言が終わり、二人を取り囲むように――というより、アンドリューを取り囲むようにメイド達がよってたかっている。

 相手はあの顔面国宝の英国紳士イケメンなのだから、当然の反応と言えよう。


「天子は混ざらなくていいのか?」


「それはあの中で繰り広げられるだろう会話を調査してこいってことですか?」


「さすがに、こんなタイミングでまでそういった仕事は任せないよ。

 ま、たまたま有益な情報が入ったのなら、一応キープしておいて欲しいけどね。

 そうじゃなくて、ああいう癖のないサッパリしたタイプ、好きなんじゃないかって思って」


「そんなお魚さんみたいに言わなくても......。

 確かに、実際話しやすそうな方だとは思います。ただ.....」


 敬の質問に言い淀み、少し言葉を考えるように天子はアンドリューの方を見る。

 敬も同じくもう一度視線を移せば、多くの妙齢な女性に囲まれているというのに、それを端から見る自分にもあまり不快感を感じさせない。


 いや、それはアンドリューという人物の人柄を知ってる故の判断か。

 そんな近くに居る百合も気にしていないし、百合のそばにいる幸音もいつものことのように無視している。


 とても客人に対する主人の対応とは思えないが、これが「無礼講」の結果なのだろう。

 もっと言えば、家絡みの付き合いだからこその距離感とも言える。

 そんなアンドリューの光景を見て、天子が言葉を続けた。


「どうにもサッパリしたものは口に合わなくて」


「.....ま、いつも周りにいるのは油マシマシだからね。

 あっちがサッパリした海鮮料理なら、俺達の周りは正しく焼肉だから」


「そ、そこまで油っぽく感じたことはないですよ.....」


「とはいえ、違うタイプと話してみることも、今後の天子さんには必要だと思うのも確かだ。

 なので、久々に対人練習に話してくるといい。そういう意味では打ってつけの相手だ」


「そうですね。わかりました。少し行ってきます」


 敬のアドバイスを素直に聞き入れた天子が、アンドリューの方へ向かっていく。

 その小さな後ろ姿を見ながら、敬は近くの丸テーブルに移動した。


 テーブルの上には様々な食べ物が並んでおり、それはテーブルごとに皿の料理が違う。

 そして、このテーブルには美味しそうなローストビーフがあった。

 だから、敬が小皿を片手にローストビーフを装っていると、横からスッとメガネ執事が現れる。


「行かせて良かったのか?」


「何が?」


「大撫さんのことだ。あくまで私の偏見だが、ああいうタイプは優しくリードしてくれる人に弱い気がするからな」


「だとしたら、それはめでたいことだな。見事な玉の輿だ。

 お前からしてもお嬢様とそばに入れる時間が増えていいだろう?」


「.....私もだが、お前も大概人の気持ちを無視するのが得意なようだ」


 そのトゲのある言葉に敬はチラッと掃除を見る。

 しかし、すぐに視線を戻すと「それは違うな」と小さく返答した。

 それからしばらく、二人で他愛のない会話をしていた時――事件は起こる。


「お楽しみの時間、少しだけ失礼します」


 その言葉により鶴の一声にも似た空気がその場に流れた。

 そんな悪役の晴れ舞台のようなセリフを吐いたのはアンドリューだ。

 かけた声で周囲からの視線を集めると、アンドリューは続けて口を開き、


「お耳を貸してくださりありがとございます。

 少しばかり、私の話を聞いていただければと。

 話したいことは今の私の現状についてです」


 そんな言葉を聞き、敬はすぐさま隣にいる宗次に目配せする。

 即ち、「何か知ってるのか?」という意味だが、それに対し宗次は首を振るだけ。


 つまり、この状況はあらかじめ用意されてたものではなく、アンドリューの独断によるもだということだ。


「現在、私の家――スーザラン家は小鳥遊家の懇意の仲にあるわけですが、言うなればそれだけです。

 このような突然の訪問にも対応してくださる心遣いには感謝しますが、いつもこれではさすがに負担が過ぎるでしょう」


 アンドリューから紡がれる言葉に、聞いている執事やメイドが困惑した表情を浮かべる。

 互いに顔を見合わせては、情報をすり合わせて答えを求めているようだ。


 しかし、それでも答えが出ないようで、視線は自然とアンドリューに戻っていく。

 そんな誰もが疑問を抱える中、アンドリューが一つの答えを示した。


「つまり、私が言いたいのは――この場を借りて、私は小鳥遊百合との婚約を宣言したいと思います!」


「「「「「――っ!?」」」」」


「といっても、あくまで一方的な話になり、あとは百合次第になりますが」


 後半にアンドリューが言葉を付け足したが、そんなのは些事だ。

 この場において重要なのは、この場に居る誰もが証人になったこと。

 つまり、アンドリューは自ら背水の陣に立ったということであり、事実上の宣誓布告である。


(これはとんでもない展開になったぞ......)


 アンドリューの宣言を聞き、敬は内心で冷や汗をかいた。

 というのも、これまでの予定では敬の、もとい百合の恋路は長期目標だった。

 なんせ相手はあの堅物バカ真面目メガネこと相沢宗次である。


 執事という役職柄、必要以上に主人である百合に接触しない。

 あくまで主従関係の距離感を重んじ、それがたとえ主人からライン越えしようとも揺るがない。

 それが宗次の仕事のスタンスであり、それが崩れない以上関係の発展は望めない。


 だから、少しずつ少しずつ掃除の防御力を弱くし、通用するタイミングで百合に突貫してもらう。

 それが天子から話を聞いた敬がまず最初に思い浮かべた作戦ともいえる。

 故に、はなから短期決戦など望んでいないのだ。


 しかし、それもこれまで。

 たった今、アンドリューによってタイムリミットが設けられた。

 詳しい期間はまだわからないが、わざわざこの場で宣言した以上、早くても一か月以内――


「性急な話になって申し訳ないと思います。

 もう一度言いますが、あくまで私のみの意見です。そこははき違えないでください。

 とはいえ、私にもあまり時間がないため――一週間以内に答えをお決めいただきたい」


「いっ――!?」


 アンドリューの口から告げられたタイムリミット。

 それは敬が考えていた時間の約三分の一ほどであった。

 あまりにも、それはあまりにも時間が無さすぎる話である。


 つまり、宗次の心を今から突貫工事でもって作業しなければ穴を開けられない。

 それは天子の、もとい百合の恋路の失敗を意味する。


(いや、宗次に固執しているが、キンタローの方をどうにかすべきか?)


 あまりに急な展開に混乱する敬、しかし冷静に俯瞰し別の可能性を探る。

 考えてみれば、主従関係の間での恋を叶えたいのは宗次ではなく、百合の方だ。

 つまり、百合の方から宗次に近づけば――


(ダメだ、成功するビジョンが見えない)


 仮に、百合が宗次に想いを告げたとして、それが望み通りの展開になるのか。

 堅物バカ真面目という言葉が服を着て歩いているのが宗次という男だ。

 仮に告げたとしても、まず宗次は自分の立場を考えて断るだろう。


 なぜなら、それは主従関係としての在り方として間違っているからだ。

 もちろん、それでも時間をかければ解決する可能性はある。

 しかし、こういった上流階級の家にそんな時間が残されてるのだろうか。


 こういう格式の高い家というのは、家が断絶することを何より忌避する。

 となれば、今はまだ高校一年生の百合であるが、下手すれば高校卒業までには婚約が決まるのではないか。


(いや、百合の話からすれば、すでに許嫁としてアンドリューがいるんだったか)


 となれば、高校卒業後には婚約が決まる――これは確定事項だ。

 そして、その未来が確定するかどうかの分水嶺が、今のこの瞬間から始まる一週間。

 それまでに宗次の心をどうにかしなければ、百合の望む未来は訪れない。


「......この宣言を聞いてどう思うんだ? 執事さん」


 動揺を呼吸に出さないように、敬は宗次の方へ質問を投げかけた。

 この時ばかりはポーカーフェイスに感謝と言えよう。

 昔の自分であれば、まず確実に顔に出ていただろうから。

 そんな敬の質問に対し、宗次は瞑目すると、


「それは......私が判断することではない」


 敬が聞きたかったのは宗次の感想なのに、返って来た言葉は結果の有無に対する回答。

 本来の宗次であればこんな誤った回答はしないだろう。

 つまり、それだけ今の宗次は動揺しているということだ。


「少し席を外す」


 そう言葉を残し、宗次は背を向けて部屋のドアの方へ向かっていった。

 その背中はなんだかいつもより小さく見える。背中が丸まってる影響なのか。

 なんにせよ、今の宗次が正常ではないことは確かだ。


「ハァ......さてと、これからどうするかな」


 アンドリューの宣言により、未だこの場はザワザワとした声が聞こえている。

 簡単に分けるなら、百合と宗次の恋を応援するグループと、家の存続を喜ぶグループだ。


 そう、それだけ仕える従者にとっても大事。

 その事実に、敬は展望が上手く読めず、もう一度大きくため息を吐いた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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