第7話 『治癒の朱墨』
「長かったな〜モグモグこの森モグモグこのキノコうめ〜」
「蒼字さん食べながらだとなに言ってるか
わかりませんよ〜」
俺達はやっとのことで森を抜けることができた。
しかし、意外と俺はこの森が好きだ、何と言っても
食べ物が美味い、少しここで生活しても良いかな
なんて考えてしまった。
「すまん、それで次はどっちに歩いていく?」
「そうですね。この道はあそこだからあっちに
町があるはずなのであちらの道です」
あれこれと周りを見てリルは右側の道を選んだので
俺はわからんのでついて行くのみである。
「それで俺達はどこに行くんだ?リル!」
「そうでした。蒼字さんは異世界人なんで、
全然わかりませんよね。ここはですね
エーリュシオン共和国になりまして私達が向かってるのは
王都ラダマンテュスになります」
「へーどんな街なんだ」
「そうですね。一言で言うと平和な町だと思います。
何と言っても英雄が眠る町と言われて、争い事を嫌い
法整備もしっかりされていますので、安全安心の
良い町です」
「そうなんだ、良かった。襲われたらどうしようかと
ビクビクしてたけど大丈夫そうだね!」
「蒼字さんはビクビクする必要は
ないと思いますよ!」
やや呆れるリル
「それでどのくらいで着くかな〜」
「今のペースでは2日か3日はかかると思います」
「そっか〜、ま〜食料はあるし気ままに行きますか」
「そうですね!森を抜けたのであとは歩くだけですし」
…………………▽
「ドーンドーン…………」
「リル、前から騒がしい声と重そうな足音が
聞こえるんとけど」
「そうですね。私にも聞こえます。これはもしかして……」
「リル、行ってみるか〜」
「え⁉ちょっと待ってください」
……………▽
目の前には悲惨な光景が広がっていた。
5台の馬車を魔物が囲んで襲っている。
馬車のうち2台は倒され地面には大量の血がたまっている。
恐らく中の人は生きてはいないだろう。
残りの3台の馬車を守ろ様に数人の冒険者らしき
人達がいるがかなり苦戦しているようだ。
数人は地面で転がり動かない者もいる。
周りにいる魔物は10体見た目からオークと言う
ブタ野郎だ!そいつがサイみたいなゴツい動物に
乗って走って攻撃を仕掛けている。
「ウゲー」俺はこれほどの悲惨な状態の死体なんて
まともに見たことがなかったから気分が悪くなった。
しいて言えば死霊を見たことがあるだけ耐性が
あって良かった。
「大変です。襲われています。どうしましょう」
リルの目線が刺さる。さて俺はどうするべき
だろうか、正直あれだけの数を相手にすれば
普通に死ねる。ただしそれは今までの俺の場合だ、
異世界に来た影響で色々と強化されている。
恐らく今の俺なら行ける気がする」
どうするか考えていると、戦士と思われる男が
吹き飛ばされその後ろにいる魔法使いのお姉さんが
襲われようとしている。これはヤバいな仕方ないか
しかし、俺が出るよりも早く飛び出したのはリル?
「リル、やめろーー死ぬぞ‼」
リルはお姉さんの前に立ち、守る様に立ちふさがる。
オークによる容赦ない棍棒の一撃が振り落とされた。
「は!」棍棒に対して拳を振り上げた。
「ゴン」と音をだし棍棒を吹き飛ばしたリル
「えーーー」俺はもちろん驚いた。
「はーー」リルは続けて強烈な飛び蹴りでオークを
ふっ飛ばし魔物(サイ?)から落ちる。
その姿を見たオーク達はリルの周りを囲い出した。
「くっ」リルから焦りの声が漏れる。
「ワァぁわばわぁ」
リーダーと思われるオークが指令をだし
一斉にリルを襲った。
……………『一文字 一閃』
2体のオークの胴体が切断される。
「コラ〜一人で突っ走るな!心配するだろ!」
蒼字が走ってくる。
今度は蒼字にオーク達の目が向く。
「う〜んこいつらくっさ〜なに食ったらこんな匂いが
するんだよ!」
オーク達は言葉は理解出来ていなようだが
バカにされたことはわかったようで怒っている。
「蒼字さん逃げて下さい!」
「なに言ってるんだよ!リルがいるのに出来るか、
さっさと片付けるから待ってろ!」
蒼字は筆を振り駆け抜けるように走り抜けた。
…………………『縛筆』
オーク達には黒い線が書かれ締め上げた。
「ブボー」
おっと、先よりブタぽい鳴き声だ!
「諦めろ。お前達の世界は弱肉強食だろ!
俺がお前達より強かったそれだけだ!」
……………『一文字 一閃』
8体の首が落ちた……
「は〜」ため息が漏れる。
魔物でも殺すのは気が滅入るか、でも仕方ない
きっとこの世界では当たり前のことなんだから……
「蒼字さんお怪我は……ないですよね!」
「おうよ、見てただろ!
それよりリルいきなり飛び出すなよ。びっくりするだろ」
「すいません、つい助けないといけないと思って
勝手に飛び出してすいません」
「いや、謝ってほしいわけじゃなくて、心配しただけ、
リルはあの人を助けようとした。それはむしろ
良いことだよ。だから良くやったね!」
リルは最初は悪いことをしたと思ったから
謝った。けど蒼字さんはそれは違う。
ただ心配してくれただけだった。
それどころか褒めてもくれる。それはリルに
とってとても嬉しく感じた。
「リル、魔物はいなくなったけど、怪我をしている人が
いるから助けるよう」
「はい、わかりました」
周りを見渡すとすでに亡くなっている者がいる。
動ける者は他の者を手当てしている。俺達にも
手伝えることがあるだろうか!
直ぐ側で助けたお姉さんが腕を抑えている。
怪我をしているようだ。
「大丈夫ですか」
「………は…い」
まだ状況が込み込めないのか恐怖で動けないのか
反応が遅れている。
「腕を見して下さい」
リルは腕を取り、回復魔法『キュア』をかける。
腕の傷が回復していく。
「ありがとうございます。痛みが無くなりました……
あ‼ジャン!ジャーン」
お姉さんは戦士の男のもとに走っていくので、
俺達もそのままついて行く。
「ジャン、ジャン目を覚まして………おねがい」
「こ、これは‼」
リルは戦士の男を見て青ざめる。身体中酷い怪我だ
特に腹部にかなり深いギズがある。恐らく内蔵まで
損傷している。これは『キュア』ではとても
治せない。
「あ、おのすいません、この人をジャンを助けて下さい
お願いします。お願いします!」
「あの、………ごめんなさい………私ではこの人を
助ける力がありません。本当にごめんなさい」
「そんな………」
涙を流しその人の名を呼び続けるお姉さん
リルも拳を握りしめ、助けられないことを
悔しく感じているのだろう。確かにすごい怪我だ
この間リルが治してくれた切り傷とは理由が違う。
どうすればこの人を助けることが出来る。
オレにやれること、やれること………………⁉
あれならもしかしたら………今はなんでもやってみるか!
俺は異世界に来てまさに能力が覚醒している。
今ならなんでも出来る自分に自信を持て!
この術は………
……………▽回想
「じいちゃん、もう飽きたよ!いい加減
他にも教えてくれよ〜」
「蒼字良いか基本が出来ないのに
術を扱うことはできんわ!文句を言うでない」
「じゃ〜させめて『永』はやめようよ!飽きた」
「バカモン、この『永』という字には書道に必要と
される基本技法8種類がすべて含まれている。
これを永字八法と言う」
※下記説明
永字八法の基本技法
1. 側 : 点
2. 勒 : 横画
3. 努 : 縦画
4. 趯 : はね
5. 策 : 右上がりの横画
6. 掠 :左はらい
7. 啄 : 短い左はらい
8. 磔 : 右はらい
「つまりこの字を死ぬほどやれば自然と字が上手く
書けるということじゃ、分かったか蒼字」
「わかったよ!じいちゃん書くよ!」
……………………………………………………………………………………………………………………………………………「じいちゃん書けたよ!」
「良し見せてみなさい」
………………
「はい!ここのはねしっかり止めて、元気よくはねる」
じいちゃんに朱字で直してもらった。
………………▽終了
書道の直す⇒治すに変えられる。ぶっ飛んだ発想、
今はそれでもやって見る価値はある。
イメージいや俺は医者じゃない。この怪我だから
こうしなければならないなんて分からない。だから、
治したいと願いを込めることに集中する。
筆に力……願いを込ると筆先が朱くなる。
………………『治癒の朱墨』
戦士の男に向かって一振りする。
その一振りに一体何が起きたか分からないけど
綺麗サッパリあの大怪我が無くなっていた。
「う〜ん、あれ?俺なんでここで寝てるんだ」
「え⁉……………」
「ジャン⁇…………」
リルは驚き固まる。
魔法使いのお姉さんは涙が止まり同じく呆然とする。
「ジャン、ジャ〜ン」飛びつくようにお姉さんは
抱きつき戦士の男は状況が掴めずあたふたとしている。
「な、なにをやったんですか‼‼‼」
リルが俺に勢いよく詰め寄るが、
「う〜ん、分からん‼」
「分からんってなんですか分からんって〜〜」
前から少し思っていたがリルは結構ツッコミがきつい
特に興奮しているから本人も分かってやっていないと
思うけど。
「ま〜なんだ良く分からんが助かったから
いいじゃないの!」
「ウフフ、そうですね!蒼字さん
ありがとうございます!」
「うん?なんでリルが言うんだよ。ま、いっか!」
通りがかりの闘いは終わった。
それにしてもいつ町に着くんだろう………(・_・;)