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桃華の戦機~トウカノセンキ~  作者: 武無由乃
西暦2090年
11/33

火を統べる機神~ヒヲスベルキシン~

西暦2090年10月14日――。


ギガフロートⅧの航空機発着場に『特設大型輸送機』が到着していた。

それは、日本の本島からギガフロートⅧへ、TRAを輸送するための専用輸送機であり、そこに今回乗せられていたのは――。


「なんか異様にデカくない?」


輸送機から運び出されてくるホロカバーのかかった人型の物体を見て桃華はそうつぶやく。

藤原はそんな桃華の言葉を聞き流しつつ、手にしたTRA仕様書を熱心に眺めていた。


「ちょっと聞いてるの?! おじさん!!

無視すんなハゲ!!」


「まだハゲてないから……」


少し指で自分の髪を触りつつ桃華の罵声に答える藤原。

仕様書の数値を十分確認してから、大きなため息をついた。


「こりゃまた――、技術開発部は何考えてるんだろうね」


「ん?」


桃華がぴょんぴょんジャンプしつつ、なんとか藤原の手にしている仕様書を盗み見ようとしている。

その姿のあまりの愛らしさに、周囲のオヤジたちがほっこりとした表情で桃華を眺めている。


「う~~ん。試作機の試験運用って聞いたから、標準型のほうかと思ったらこっちか――」


その藤原のなんとも微妙な表情に、桃華は何やら嫌な予感を感じた。


「どういう事よおじさん?

標準型じゃない?」


そう聞いてくる桃華に、藤原は初めて気づいたかのようなそぶりで答えた。


「ん?

ああ――、現在試験運用が始まっている新型TRA『戦術機装義体・TRA-X』は、今まで外部に晒されていた重力波フロートを内部に埋め込んだ、第二世代型TRAの基盤となる機体なんだが――」


「これってソレじゃないの?」


「――まあね。ソレのさらに実験機というか――。ピーキーにした機体というか――」


「何それ、わけわかんない」


頭の上に黒いモヤモヤを浮かべつつそう言う桃華に、藤原は頭を掻いて苦笑いしつつ答える。


「TRA-XX・ホムスビ――。それがこの機体の名称だよ――」


「おむすび?」


「いや、食べられないから――」


桃華の本気の勘違いに、藤原はツッコミを入れた。


火産霊ホムスビ――。別名『火之迦具土神ひのかぐつちのかみ』日本神話における代表的な火の神様だ」


「初めからそっちの名前にすればいいのに、紛らわしい」


「まあ技術開発部の『お遊び』だろ多分。ワザとだね――」


「むう」


桃華はふくれっ面で目前のTRAを眺める。


「まあ、どんな機体なのかは見ればわかると思う。多分――」


「見ていいの?」


「うん、もともと桃華へのプレゼントらしいし」


そう言って藤原は作業員たちに合図を送る。作業員たちは手際よくTRAを覆っていたカバーをとって見せた。


「!!!!」


その姿を見て桃華は驚きの表情をした。


「これは――」


寝そべった状態のそれは、一見すると巨大な二本の砲を持った戦車にも見える。

今までのTRAとは明らかに違う箱状の太い四肢、武骨でどちらかというと横に広い分厚い装甲に鎧われた胴体。

おそらく90式よりも大きく性能の高いセンサー類が詰まっているであろう、横に広いセンサーヘッド。

――そして何より目立つのは。


「何アレ――肩に、ドでかい砲が二本?」


桃華のその言葉に藤原は頷く。


「155㎜ドランダーカノンだそうな」


「ドランダーカノン――」


「ドランダーっていうのはドイツの科学者の名前だけど……」


藤原が説明する前に桃華は口を開く。


「重力波レールキャノン――……

――の理論を生んだ科学者」


「……さすがモモよくご存じで」


「ふ~~ん。だから、一見すると210㎜以上の口径がありそうな砲なのに155㎜なんだね」


桃華は妙に納得したような言葉を発する。


「――っということは、これって中枢のボーテック機関以外に、補助ボーテック機関も内蔵?」


「みたいだね。中枢1に補助1の二つだ」


「だからこんなずんぐりしてるのか。

――って、よく見るともしかしてあの分厚そうな装甲はハリボテ?」


「はははは……。

よくわかったね、試験用の軽量樹脂装甲なんだそうな」


「――」


「あ、でも、運動性能は90式より1.4倍ほどいいそうだから――」


「信じられないんですけど」


「はは――」


藤原は桃華の刺すような視線を受けて苦笑いをした。


「とまあ――、こいつで、来週の演習を行うことになるんだが……」


その藤原の言葉に桃華は大きなため息をつく。


「いいけどね、もう。

実験動物――、モルモット扱いは慣れてるし」


桃華はそうつぶやいた後、少し苦しげな表情になる。


「それにあたしは、少しでも強くならなきゃ。もっともっと――。

そのためなら、実験動物扱いだろうが、兵器扱いだろうが構わない」


「……」


その桃華の言葉を黙って聞く藤原。


(モモ……まだ2か月前のコト引きずってるんだな。

救えなかったたくさんの命の事を――)


そのまま藤原は、桃華の頭を撫でた。


「なによ」


少し膨れて藤原を見上げる桃華。


「不甲斐なくてすまんな、大人なのに――。

モモに重荷ばかり背負わせて」


「私は優秀だからいいのよ。

大人とか子供とか関係ない」


「それでもだよ」


藤原は心の中で再びの決意をする。

今は桃華の戦いを見ているしかない自分だが、いつか自分も桃華の隣に立てる存在になろうと。


――その日から1週間後、桃華たちはその年で最も苛烈な戦いを経験することになる。

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