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桃華の戦機~トウカノセンキ~  作者: 武無由乃
西暦2090年
10/42

魔人の継承者~マジンノケイショウシャ~

日本の某所、闇の奥の奥――。


「なあ母さん――」


「なあに遥《はるか》――」


「いつまでこんなことを続ければいいんだよ――」


二人の女性らしき声が闇に響く。


シュボ!


闇の中にいきなり光が生まれた。それは薬タバコに火をつけたライターの光。

その光に照らされた顔は――、


「遥――、今は動く時ではないわ。

2か月前は私の言った通りに成功したでしょ?」


「アレは――」


闇の中に、タバコの火に照らされたピ(・)ア(・)ス(・)を(・)つ(・)け(・)た(・)金(・)髪(・)女(・)は、顔をしかめて言う。


「アレは女(・)神(・)に隠れてこそこそやっただけだろうが。

あんな、ドブネズミみたいな事は成功とは言わねえ――」


「――でも、薄汚い『一般人《ノーマル》』はたくさん死んだわ」


「くだらねえ……」


母である女の声にそう吐き捨てる金髪女『遥』は――、


「親父は、女(・)神(・)に殺された――、

その女(・)神(・)から、こそこそ逃げ回って弱っちい小虫を殺すのが、あたしら誇りある『十絶旺陣』の使命かよ?」


そう言って母に向かって薬タバコを投げ捨てた。

一瞬、金髪碧眼の女の顔が照らされる。


「私は――、貴方のお父さんを助けることができなかった。

細胞一個からすら人を再生できる私が――。

お父さんは――、『十河《とが》 王司《おうじ》』は女(・)神(・)にきれいに焼かれた――、

細胞一個すら残さないレベルで――。

わかるでしょう? 貴方はそうなってほしくないのよ――」


「――あんたの気持ちはわかるが、

だからってこそこそ隠れて捻くれた恨みを晴らすだけなのは、あたしの性には合わないんだよ」


「ひどいわ――、捻くれた恨みなんて――。

私は――」


その母の言葉を遮って遥が答える。


「玩具だったんだろ?

超能力研究者どもの――。

嫌というほど聞かされたぜ」


「いいえ、あなたはわかっていないわ。

私が薄汚い『一般人《ノーマル》』からどれだけの屈辱を受けたか。

強力な自己・他者再生能力を持っているからこそ、私は――」


それは口から発する事すら憚れる凌辱の日々。


「あなたはお父さんに守られて生きてきた。

甘くなるのは仕方がないのかもしれない――。でも忘れないで?

貴方は新生『十絶旺陣』のリーダーなのよ?」


その母の言葉に、遥は一度舌打ちしてから頷いた。


――と、不意にどこからか声が響く。


「お嬢サン。お客様ヨ」


それはどこかしら外国訛りした男の声。


「なんだ?

李《ジー》 黄煉《ホヮンリェン》か――」


「うちの本国からのお客さんダヨ」


「ふん? 誰だ?」


その言葉に反応するように、闇の中から声が響いた。


「私の名は『林 梓豪』――、

RONに所属する超能力者だ」


「――中国の犬が何しに来た」


遥はそう吐き捨てるように言った。


「……、

貴方たちに、ある仕事を頼みたいのですが」


「RONの犬があたしらに何かを頼める立場とでも?」


「いいえ――、これはRON本国よりの依頼で、報酬は当然それなりのものを用意しています」


「ほう? それはどのくらいだ?」


遥は意地悪そうな笑いを浮かべて聞き返す。


「円に換算すれば1兆円ほどの資金提供と――、

RONによるあなた方の活動への支援です」


「――」


遥は笑顔を消して真顔になる。顎に手を当てて少し考えてから答えを返した。


「ふむ――それで?

どんな仕事だ?」


「ある人物の調査と暗殺です」


「調査と暗殺?

その程度のことテメエでできるんじゃないのか?」


「無論、出来なくはありませんが。

地の利を持たない我々より、あなた方のほうが仕事が有利に運ぶでしょう?」


「まあ、それは当然だな。

あたしらの方が、お前ら雑魚のように弱くないし――」


遥は心底見下した目で『林 梓豪』を見下ろす。


「……」


とうの彼は、その目を見ないようにしつつこうべを垂れた。


「お願いを聞いていただけますかな?」


「その目標とやらは誰だ?

それ聞をかない限り何もしないぞ?」


「……この人物です」


その時、『林 梓豪』が差し出してきたのは一枚の写真。

ピンボケしてわかりにくいその写真には、しかし確かに一人の人物の顔がはっきりと映っていた。


「――」


それを見た遥は少し驚いた表情をする。それは確か2か月前に見た顔であったからだ。

フリルワンピースを着て、白い帽子をかぶった少女。

遥は記憶の海からその顔を呼び起こした。


「これは? 誰だ?」


「それは――、

日本政府が主導した、ある作戦行動にかかわった人物で――、

TRAパイロットであるという事だけはわかっています」


「ふむ? TRAパイロット?

『一般人《ノーマル》』?」


「おそらくは――」


遥は細目で『林 梓豪』を見下ろしつつ疑問を投げる。


「『一般人《ノーマル》』の個人情報なんざ、あたしら超能力者にとっては鍵のついてない家と一緒だろ?

なぜおまえらで調べられないんだ?」


「無論、その通りではありますが。

どうやら、彼女の周りには最高レベルの情報統制が敷かれているようで」


「ふむ――、政府の犬がかかわっていると?」


「その通りです」


その言葉に、突然遥は笑い声をあげ始めた。


「ははははは!!!!

なるほど――、お前らこいつにいいようにやられたんだな?

だから、身元を暴き出そうと超能力を使って調査したが、見事に日本の情報部《イヌ》に返り討ちにあったってところか?」


「――」


『林 梓豪』は無言で頭を下げる。


「おもしれえ――いいぞ。

調査と暗殺――、やってやろう」


「それは本当で――」


遥のその答えに『林 梓豪』が顔をあげると、そこには悪鬼のごとき怒りの表情をたたえた遥の顔があった。


「だが――、貴様は生きて帰さん――。

あたしら『十絶旺陣』が、現在進行形で苛烈な超能力者差別を行っているゴ(・)ミ(・)の仕事を受けると思ったか?」


「な!!!!」


「興味がわいたからお前の言うとおりにするが。

――ソレとコレとは別。

死ねカ(・)ス(・)ヤ(・)ロ(・)ウ(・)――」


「!!!!」


その時、『林 梓豪』は力場を展開しようとした。

しかし――、


「やっぱり貴様らは馬鹿だな?

あたしにA級超能力者程度が傷をつけられるとでも思うのか」


ドン!!!!!


一瞬にして『林 梓豪』の力場空間は押しつぶされ打ち消されてしまう。


「ぐがあああああ!!!!!」


そのあまりに強大なサイコキネシスに、『林 梓豪』はただ苦し気な悲鳴を上げるしかなかった。


「あたしを倒せるのはかの女(・)神(・)だけなんだが?

聞こえているか? カスヤロウ――」


そのまま『林 梓豪』は物言わぬ肉片へと変わっていく。


「はははは!!!!

久しぶりに全力が出せたぜカスヤロウ。それだけは感謝してやるよ」


闇の中に悪鬼の嘲笑がこだまする。その場に残ったのは一枚の写真のみ。


「フン――おもしれえ。

奴らが調査してくれって言ってるってことは。

2か月前のアレを生き残ったってことか――。

ただの『一般人《ノーマル》』が――」


写真を念動で手元へと運んだ遥は、その写真に写った少女を面白そうに見つめる。


「遥――」


心配そうな声色で母親が名前を呼ぶ。


「ちょっと遊びに行くから――、

お前らは余計な手出しをするなよ?」


その遥の言葉に、母親も、『李 黄煉』もただ首を垂れるしかなかった。

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