第四十話 戦いの終わり
このお話は初投稿版の65部分にあたります
ゴウゴウと燃え上がる柱になっていた炎は、次第にその勢いを弱めていった。
晃は手を伸ばし魂を送った格好のままあおむけに倒れ、天を見上げていた。
ハッ、ハッ、と息があがる。
胸が激しく上下する。
大の字に手足を広げ、炎の柱と、夜空の星のような火の粉を、ただ呆然と眺めていた。
おれ、ちゃんとできたのかな?
浄化できたのかな?
ぴょこん、と、かわいいオカメインコが視界に入ってきた。
「よくできたわね。晃。『魂送り』、成功よ」
その言葉にガバリと身を起こす。
「ホントですか!?」
「初めてにしては上出来。アンタ、才能あるわよ」
「よかったぁぁぁ…」
安心して力がぬけて、またパタリとあおむけに倒れる。
もう目を開けているのもおっくうで、まぶたを閉じる。
「佑輝もトモもうまく補助したわね。
『魂送り』の炎を邪魔せず、火力だけをうまく上げてた。
よくコントロールできてたわ」
「ヒロもナツも。
よくあれだけ回復できたわね」
緋炎が他の四人にも声をかけるのが聞こえるが、
もう起き上がれない。
終わった。
安心した。
つかれた。
「このドジ。おっちょこちょい。単細胞。
仕事増やすんじゃないわよ」
「ごめんね〜。ありがと〜」
――その声は。
「自力じゃ抜け出せなかったからたすかったわー」
大好きな、その声は。
ガバリと起き上がり声の主を探す。
そこには、白露がいた。
やれやれ、とでも言うように伏せの態勢になっている。
「は…白露様」
生きてる。
目の前にいる。
そんな晃に気づいた白露は、疲れを残した顔でにっこりと笑った。
晃の大好きな、やさしい笑顔。
「白露様あああぁぁぁ!」
ゔあああぁと泣き叫びながら晃が白露に突撃する。
ドシーン! と勢いよく首根っこに抱きつかれても白露は動じることなく、涙と鼻水でぐしょぐしょの晃の頭に頬ずりをしてやる。
「ありがとう。晃。よくやったわね」
「ゔあああぁ!!」とさらに泣く晃の横で、オカメインコが白露の毛をつつく。
「貸しよ」
「はいはい」
しっぽで器用に晃をなでてやりながら、軽く答える。
そこは元の公園だった。
真っ暗な空に炎の残滓が舞い漂っていた。
別の場所ではヒロが隆弘にぎゅうぎゅうに抱きしめられていた。
さすがのヒロもなすがままになっている。
単に疲れすぎて動けないだけかもしれない。
ハルに救出されたヒロは、ハルにも抱きしめられた。
「…もう死相は見えない。…よく、よく帰ってきたな。ヒロ」
ハルの言葉の意味を理解し、ヒロと隆弘の顔が驚愕に染まる。
息を飲んだ二人は、同じような泣き笑いの顔になった。
「ありがとう! 皆、ありがとう!
ヒロを連れて帰ってくれて、ヒロを救ってくれて、ありがとう!!」
ヒロはハルの肩で静かに泣き、隆弘はナツを、佑輝を、トモを一人ずつ抱きしめた。
「ぎゃあああぁ!」
「鼻水! 鼻水!」
「強い! 強いから!」
隆弘はそのままの勢いで白露にしがみついている晃のところに飛んでいき、晃を白露から引きはがして抱きしめた。
「こーくん! ありがとう! ありがとう!
ヒロを、ハルを救ってくれて!」
白露に抱きついていたのに、いつの間にかぎゅうぎゅうに抱きしめられていて、晃が目を白黒させる。
「ヒロ、もう死相ないって!
もう大丈夫なんだ!
よかった。よかったよぉー!
ありがとう! こーくん、ありがとぉぉぉ〜!」
わあわあと泣きながら叫ぶ隆弘の言葉に、晃がきょとんとする。
今、なんて?
ヒロの、死相が、ない?
「う…、ゔわあああぁ!」
隆弘をポイと放り投げ、ヒロの元に駆け寄る。
「ヒロ!」
ナツと抱き合っていたヒロは晃に気づくと、濡れた目で笑った。
大泣きする晃を抱きとめたヒロは、そのままぎゅうっと晃を抱きしめた。
「晃…。ありがとう。ありがとう」
ヒロがおだやかにささやくものだから、余計に涙があふれて止まらない。
「ヒロおおおぉぉ! よかったぁぁ! よかったよおぉ、ヒロおおおぉぉ!」
ナツと二人で左右からヒロをはさみ抱きしめる。
二人に抱きつかれたヒロは「あはは」と笑い抱きしめ返してくれた。
「『禍』は浄化された。
『禍』が消滅したと同時に、『禍』が作っていた結界も異界も消滅。
異界にいた『悪しきモノ』は、結界が壊れたときに異界にあふれ出した炎で焼かれて全部消滅」
トモがハルに事のあらましを説明する。
本来はヒロの役目なのだろうが、当のヒロは晃とナツにもみくちゃにされてそれどころではないので、トモが代わっている。
佑輝はトモの隣で一緒に話を聞いている。
時々意見を求められて答える。
ふむふむ、と大まかに話を把握し、指示を出しに行こうとするハルをトモが呼び止めた。
「もうお前が『要』になる必要はないな?」
心配なのを隠して言うトモに、ハルは意地の悪い狐の笑みで応える。
「もうしばらく人間の生を楽しませてもらうよ」
トモと佑輝が顔を見合わせる。
ハルらしいなぁと苦笑し、立ち去るハルを追いかけ左右から捕まえる。
「何すましたこと言ってんだ! もっと喜べ!」
「素直になれ! くすぐりの刑だ!!」
「なっ、何するんだお前達! こら! やめ、や、あははははは!!」
頭をぐしゃぐしゃにされ、脇腹をくすぐられ、ハルが涙を流して笑いころげる。
普通の中学生みたいにじゃれ合うのなんて初めてで、うれしかったことはナイショだ。
何とかトモと佑輝を振り切ったハルは、大人達に指示を出しに行った。
晃とナツにもみくちゃにされていたヒロをトモが救出し、佑輝と共にヒロに喜びを伝える。
それから五人で白露と緋炎のところへ行った。
白露はまだ疲れているようでだらんと伏せたままだ。
その頭の上に緋炎がちょこんと止まっている。
その状態で、お互いに今までのいきさつを説明したり、他愛ない話をしたりした。
白露と緋炎と話をしていると、ハルが戻ってきた。
晴臣と隆弘の二人だけを従えている。
「さて」
パン、とひとつ手をうって全員の注目を集め、ハルが告げた。
「差し当たり、『禍』の浄化は確認した。
『場』にも問題はない。
あとはこっちが調査処理する番だ。
実働部隊は解散してよし!」
つまり、どういうことだ??
意味がわからずきょとんとしている晃をよそに、ハルは側に従えていた晴臣と隆弘に声をかける。
「オミ、タカ。
実働部隊の五人を連れて帰れ」
「かしこまりました。主座様」
ハルの命令に、晴臣がうやうやしく礼をする。
いまだにぐじぐじと泣いている隆弘の頭をべしんとひとつ叩くと、五人に声をかけた。
「皆、おつかれさま!
とりあえず、北山で汗を流そう。
さ、車に乗って乗って!」
次話は明日19時に投稿します




