四話目 おねだりされました③
さっきから商人さんや役人さん達からの視線が痛いんですけど。肉まんがそんなに珍しいかしらね?それとも焼鳥?
「チビさん、とりあえずご挨拶しとく?」
「一村人が国王さまに直々にご挨拶したら「無礼者っ」て捕まらないかしら?」
「「ブッ!」」
「だってほら、いつぞやの貴族の御嬢様がフロストリーフを強奪しに来た時なんて「平民ごときが気軽に近寄れる存在ではなくってよ」って怒鳴り付けていたじゃない?」
「ああ、あれね」
「んなことあったのかよ」
「在りましたね、確かに」
「貴族の御嬢様であれなら「このお方を何方と心得るか、控えおろう!」とかいって怒られた上に捕まって、牢に入れられるとか、打首にされちゃうとか無いわよね?」
「は?」
「「ないないない」」
「そのせいで村の税金が値上がりしちゃうとか、村を潰して一家ならぬ一村郎党打ち首の上、切腹とか無いわよね」
「「「何処の悪党だ、そりゃ」」」
「私財没収されたとしても、私払えるお金なんて殆ど無いし、在るとしたら今年取れたお野菜位しかないわ。フロストリーフは雪が降らなきゃ収穫出来ないし、薬草はセンセーの管轄だしね」
「料理のレシピが在るんじゃ…」
「おお、あれこそ正にお宝ですな」
「確かに。唐揚げは私も素晴らしい料理だと思いますな」
「いやいや、あの竜の真骨頂は飽くなき食への欲求そのものですな。それゆえにもたらされるレシピは正に珠玉の品と云えますぞ」
「とりあえず、今日は一応非公式だから大丈夫だよ。さっきも言ったろ?」
「…ホントに大丈夫?」
「大丈夫だ、王様も王妃さまも今日は非公式だから挨拶しても問題ない。何度かチビさんのお菓子のおねだりしてるの誰だよ?」
そうなのよ、レシピを国王様に提出してからも、何度かステアさん経由でおねだりが来るのよね。必要な材料とお手紙がセットで。クッキーにタルト、団子にプリン、マメまんじゅう、レアチ-ズケーキ。村の書き留めているレシピを国の文官さんと料理長さんがわざわざ村までやって来て、熱心に見入った後、幾つか書き留めて持ち帰って作ったそうよ。基本的な作り方しか書いてない筈なんで、アレンジの仕方をわざわざ訪ねて来られた時なんか、王宮のお菓子を持ってきたりしてね。おまけに寒天らしきものがお隣のハルト国にあるって情報をもらったのよ。
ふふふ、だったらアレが作れる。魅惑のぷるぷるコーヒーゼリーが!
ムースもミルクプリンもいけます、甘くない代表のところてんもいけるかもしれないわ。ああ、うまくすれば水饅頭や羊羹だって出来ちゃうわ。
問題はどうやって入手するかよね。商人さんに頼りきりも悪いし、自分で行くにも土地勘ないし、一人で行ったらマミちゃんとか村の皆に心配されそうだし。
って、考えが頭によぎったから、どうしようか思案中なのは変わらないわ。
さっきから会話に然り気無く混じって来た商人さん、いくら煽てたってレシピは出さないからね?
とりあえず恐々と王様達の傍に行くと、気がついたらしい一行がニコニコしながら待ち構えてます。うやぁ、手紙では知っているけど会ったことのない人だからなあ。気構えしちゃうわ。
ばか正直に云っちゃうと、王様は筋骨隆々って感じではなく飄々としたおじさんって感じだったわ。髪が濃い茶色で、目が濃い青した優しそうなおじさん。王妃さまは金髪碧眼のお姉さんって感じの優しそうな人でした。でも二人とも身長が高いの。マミちゃんに負けてないんじゃないかしら。
二人にあの料理がどうこうとすごく嬉しそうに喋っている高校生くらいの青年は、片手にお好み焼きをしっかりと持ったまま、目をキラキラさせて話してます。この人がレン君? あ、こっち見た。
「ちびちゃん約束通り父さん達と来たよ!」
「うや、この反応は確かにレン君だわ」
レン君の最近の挨拶は『ちびちゃん来たよ』なの。んでそのあと続くのが
「今日のご飯なあに?」
セス君のこの台詞。二人でニコニコしながらこう来るのがご挨拶なの。茶髪碧眼の色彩はともかく、この低音ボイスで云われるとなんつーか妙な敗北感が芽生えるっていうか。
「今日のお昼はもうこの広場に用意してあるでしょ。野菜たっぷり入った味噌煮込みうどんにお好み焼き、かぼちゃコロッケにティハのちゃんちゃん焼き、唐揚げに焼鳥各種、熱々チーズをぶっかけたふかしいもに油揚げピザ、甘味は私特製カボチャタルトに冷やしナクタの実、アゲイモに豆饅頭とあるから喧嘩しないで仲良く食べなさい。お残しはゆ「「ゆるしまへんで!」」」
うん、レン君とセス君だわ。うやぁ。
「なるほど、確かに逆らえんな」
「というよりもこのやり方は節度も自然と身に付く。自身の食事量の把握をすることで廃棄する量を減らせる。それに肩肘張らない上に給仕の手間もない」
「料理の下に保存の魔術式が有るから温かい料理も冷たい料理も食べられるときたか」
「ね、これなら城のご飯より村のご飯が良いってわかるでしょ?」
王妃さま、その口調はかっこいいですがいいのですか?
多分セス君の国の宰相さん、廃棄とか、なんのこと?
そしてセス君、レン君。君ら何してるのかな? おばちゃん、一寸せつめいしてほしーなー。
「第三が羨ましいと言うのはそのせいか。成る程のう」
おうさま、その言い方スッゴク爺ムサイですよぅ、手に持つ焼鳥とコロッケが更に週末の居酒屋で一杯引っかけてる親父臭さを醸し出してすごく場馴れしてません?
宰相さまは味噌煮込みうどんを啜りながら、王妃さまは唐揚げとふかしいもを食しながら、レン君はお好み焼き、セス君は油揚げピザを齧りながら和やか〰️に此方を見てますよ。
「レン君とセス君のお父様お母様、お味はいかがですか?」
「旨い、それしか云えぬ。出来立てを食すのは滅多に無いゆえ余計に旨いわ」
「確かに城でこう、かぶり付く料理は出てこんからのぅ、愉しんどるよ」
「カーバイド国の噂の料理は何度か頂きましたが、ここはまた一段と違いますな。この一杯、滋味が深いです」
「ゼプスはうどんにはまりそうだな。それ、ちびちゃん発案の代物だよ」
「ってか、殆どお昼に出てたものでしょセス兄」
「日替わりでいろいろ作ってましたからねー、冬にはおでんやら炊き込み麦飯やら作りますよー」
「あ、それ食べたい!」
「俺も」
身体がでっかくても中身は村の子供と変わらないってか、二人とも王子様でしょーが。
「国軍の詰め所に差し入れこそしますけど、冬のタングステン村は基本的に大雪との戦いです、ごくたまに貴族だ冒険者だが騒ぎを引き起こし、魔獣たちの侵入があります。羊たちですら外は出歩きませんよ?」
「どのくらい降るの?」
「春まで雪掻きしないと村が埋まって、雪の重さで潰れます。一晩降れば私埋もれます。なので基本お家に引きこもりですよ?」
「ちびちゃんの家も?」
「勿論変わりませんよ。引きこもって畑の道具作ったり、羊の毛で敷物やら上着やら作ったり、センセーは研究に走りますよ」
「風や雷もか?」
「二人は初めての冬ですからね、好きにさせます。ルムックって冬眠するのかしら?」
うや、冬眠されたらモフモフ出来ないわね。でもそれは仕方ないか。
「ルムックがこの村には居るのか?」
「あ、ゼプスには言ってなかったか? ちびちゃんが保護者になった二匹のルムックのこと」
「聞いとりませんぞ、セルシウス殿下。あの人嫌いで有名なルムックが居るなんてここは楽園ですか?」
ゼプスさんって、へんな人なのかしら?
「チビ竜殿、是非に逢わせて頂けませんか!」
「ひぃ!」
うわぁ、殺人光線でも出しそうな凶悪な雰囲気で、視線と言うサーチスコープをロックオンして、黒髪紫目の眼鏡係長みたいな人がズズンずんずんこっちにくるぅぅ。
「あ、ごめんね。ゼプスは珍しい魔獣に目がないんだ。決して傷つけたりはしないんだけど、何故か魔獣には警戒されるんだよね」
「セス兄、それは先に注意しとかないといけないんじゃないの」
「してチビ竜殿、ルムックはどちらに!」
「ふ、風ちゃんと雷ちゃん苛めるなら私が許しません!」
「苛めるのではなく愛でるのです。全身くまなく、爪先から尾の毛先までなめ尽くすようにこのあふれんばかりの情愛をもって愛でたいのです、是非に!」
「一歳にも満たない幼子をそんな変態発言をするオジサンの前になんて出せません! うちの子に手を出すなんて私が許しませんよ!」
「あのー、ゼプス宰相。村の人でもルムックは触らせて貰えないんですよ?」
「なんと!」
「チビさんと羊たち、あとはホント幼い子供くらいかな。」
「そうですね、例外は密猟者に付けられた捕縛術を解くために、気絶してたルムックにさわったマミちゃんさんと治療したセンセー位ですよ」
「遠くから見るくらいが基本ですね」
「は、離れていたら逢わせてもらえるのですか?」
「まぁ、二人の気分次第だけど、無害だと認識されればある程度は近寄るよ。嫌なら威嚇するし」
「威嚇! もしかして属性攻撃?」
「毛を逆立てて威嚇が基本で、遠隔攻撃に二人は特化してるから雷纏った鎌鼬が飛んでくるわ」
「なんと! 幼子で既に属性攻撃が可能なのか」
「だから間違っても嫌がることは絶対にしないでね、二人がその気になったらタングステン村なんてあっという間に吹き飛ばす事だって出来る実力者よ。何より二人の心を傷つけるなんてしたら私が二人をつれて家出ならぬ村出するからね!」
「うわ、それは困るな」
「国軍の意地に賭けてもルムックは保護せねばな」
「カーバイド国の威信に掛けて、タングステン村の保護を確約する。チビ竜ちゃんの環境を優先せよ」
「うう、判りました」
やれやれ、とりあえず遠目からの姿見と、センセーのスケッチを宰相さんに渡して御機嫌を直した後日談があったそうだけど、私の知らない話ですよ。
因みに王様と王妃さまからカボチャコロッケ、鳥の唐揚げ、ティハのちゃんちゃん焼き、白玉団子、クッキーとチーズのカボチャタルトにチーズ煎餅のお土産をねだられました。王都に残してきたお姫様と自国の宰相さんたちへのお土産だそうです。
今回の村への来場は、ホントにレン君とセス君のご両親としての挨拶がしたかっただけとのことで、予想外にご飯が美味しいこと居心地が良かったらしくて、またお忍びで来たいと仰せでした。村の人が良いなら私は文句ないけど、村はずれと私のお家には来ちゃダメよと注意勧告はしておきます。あと
「レン君とセス君はお忍びの魔法禁止です!」
「「えぇー!」」
「小さい子どもの姿でおねだりするのは村の子供達によくありません!」
「でも、遊ぶにはそれが一番いいんだけど」
「自分に都合いいように姿を変えて、子供と変わらない事してる人がこの国の将来を背負って立つなんて、誰が付いてきてくれるんですか?有りのままの自分を見てくれる人の目は、そんなところからも判断しますよ?」
「うぅん、でもほら、他国からの密偵とか」
「この村にいたらのぞみ達が蹴り出してます。あれでも村に来るまではこの辺の主だったのよ、何のために村の周辺に羊たちがたむろっているか知らないの?」
「は? のぞみって?」
「ちょっと待て、チビさん。それどういう意味?」
のぞみ達が羊を率いているのは強い個体というよりも、お喋り好きな羊たちの好奇心を満たす情報収集が主な目的で、村周辺の些細な事は全て三姉妹に聞けば大概分かるのよ。オーレ爺ちゃんにはあれこれ伝えてるけど、そこからどうしてるかなんて私は知りません。なので王子達がどんな悪さやいたずらしてるかなんて、実は村人全員知ってますよ。身分以外は。
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そんなこんなでまあ、比較的穏やか~に税収監査も収穫祭も無事に終わり、商人さんとの契約商品の売買も一段落しました。自宅でホッと一息つけるこの時間が今日が無事に過ごせたと実感します。
お風呂から出て温かい麦茶を頂きながら、風ちゃんと雷ちゃんとお喋りするこの時間はほんわりしていて好きな時間の一つです、うやぁ〰️。
『そういえば風ちゃんと雷ちゃんは、雪って見たことあるの?』
『『ゆき?』』
『空の雲から降ってくる、白くて冷たくてふわふわしたモノよ。冬はいっぱい降るの』
『あめみたいの?』
『しらねーな』
うや、知らないか。
『すごく寒くなるから、寒いの大丈夫かしら。あんまり寒かったらお布団作ろうかなって思うんだけど』
『布団ってりゅーの使ってるあれか? あれより俺たちの方が暖かいぞ』
『りゅーちゃん、ひっつくのあったかいよ?』
モフモフ二人の発言にのたうち回りたい。うちの子天使、なにこのひっつくのは当たり前発言! 私の萌えはここにあったわ。くぅっ!
二人が来てから私の寝室に新たな羊毛の分厚い特製フエルトを敷き、特大クッションを増やしました。私でも運べるようにフエルト自体は小さな四角のものを並べて使うフロアマットタイプにして、予備品も沢山つくってあるの。夏場はこれを干し草編み込みタイプにして、涼しく過ごしてます。
大勢の人が来たらばらして座布団にもなるし、使わないならクッションフロアマットとして普段使い出来る便利もの。まあ、わが家の布製品は布巾と手拭いと割烹着、風呂敷とぬいぐるみ位しでしょうか。洗濯が楽ですよー、繕い物もすくないですしね。リボンとかフリルとかレースなんて我が家から最も遠い存在ですよ。精々毛糸で手袋とか靴下とか腰巻きとか作る位。
でも今年は違います、愛らしいモフモフが居るんです。初めての冬を体験する幼子の為に火鉢も薪も買い足しましたし、お客様用お布団と毛布を二組買い足しました。
すきま風は無いけど、ぞわぞわ冷気が来たら困るので、キー爺ちゃんに泣きついて、襖ならぬ障子屏風を作ってもらいました。和紙のような紙はこちらにないので、お友達の蜘蛛みたいな魔獣のたまちゃんに頂いたスッゴクきれいな糸を使ってあります。たまちゃんの糸は凄く貴重なんだとマミちゃんが云ってましたねー、売るところに持っていけば金貨百枚くらいになるんだとか。
この糸は、たまちゃんが好意でくれた物なので、大事にすると約束した品です。大事な家族の為に使うのならたまちゃんもきっと納得してくれるでしょう。逢いたいなぁ、いっぱい話したいこと貯まってきたから、そのうちいってこよーっと。
心を込めて障子枠に通した糸にマミちゃんに寒さから身を守る魔法かけてってお願いしたら、快く引き受けてくれました。たまちゃんの糸だと気がつくと、私らしい使い方だと誉めて貰ったのは嬉しかったわ。
そんなわけで我が家の防寒対策は一応完了。
『さて、そろそろ寝ましょうかね』
『はーい』
『おう』
モフモフ天国にて今日もおやすみなさい。ぐう。




