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我が家が一番!  作者: 津村ん家の婆ァ
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四話目 おねだりされました②

※2018年10月20日 一部変更。

「ちびさん、どしたの?」

「ムーさん、あの子達は宿のお客様? 親御さん、見掛けないんだけと?」

「ああ、プレタんとこの親戚の子達だと。親が仕事で忙しいから暫く預かるんだが、家のなかだとつまらないからってねだられたんだとさ」

「こんな何にもないド田舎に連れて来られても、遊ぶ場所なんてないと思うけどねぇ」

「目一杯駈けずりまくれる土地に、実り豊かな畑、旨い飯に、羊の群れ。十分珍しいだろうが」

「そんなのが珍しいの?」

「冒頭に安全にと文言が付けられるのはかなり珍しいぞ。しかも村人認定された火吹き竜の子供まで居るからなぁ、この村」

「安全に関しては微妙ね。村外れに行かれたら簡単に迷子になるし、知らない存在なら誰かに聞くことも出来ないわ」

「少なくとも村の中なら誰かしらの目が有るからな、俺らも常に見ていられる訳じゃないが、町中よりは安全度は段違いに在るぜ」

「そう聞くと町中って随分物騒みたいね」

「実際そうだから何も否定は出来ねぇわ、ちびさん気を付けなよ?」

「拐われるのはもうこりごりよ、村から出たくない」

「美味いものに釣られるんじゃね?」

「…否定出来ない…」


 ムーさん、腹抱えて転がってます。ムーさんは、ムスカ=ルドシーズっていう名前のこの村に派遣されてる国軍の部隊長さん。32才の割には落ち着いている、というか飄々としていて、村の奥様方と茶飲み話をよくしているわ。


 新人のプレタ君は御年15才の見習いさん。なんでも貴族の三男で、上のお兄さんのアルジェントさんは、ニオブさんの同僚なんだとか。ちょっと複雑な家庭の事情も有るので、家を離れるために軍に入ったんですって。銀色のボサボサ頭がトレードマークの真面目な男の子で、村の奥様方からよく可愛いと弄られてますよ。


「ちびちゃん、お先に」

「はーい、食べる分だけ取ってね。お残しは駄目よ」

「「はーい」」

「今日のお茶菓子はなぁに?」

「今日はね、収穫祭に向けての試作品よ。また味見宜しくねー」

「え、新作って事?」

「それも含めてお楽しみに♪」


 おやつは南瓜(かぼちゃ)のタルトよ。因みに此方では南瓜は『竜の実』と呼ばれています。外皮が固く色が濃い緑色、オレンジ色した硬い果肉と白い皮を被った薄緑色の種が入っている。うん、ここまでは私の記憶の南瓜と同じなのだけど、それ以外が異世界クオリティ!


 まずその大きさが半端ない。私がそのままスッポリ入るくらいの大きさが標準サイズ。しかも平たいんじゃなくて、瓢箪みたいな形なのに味は変わらないのよ。そのくせ種の大きさも味も色も変わっていないなんて、ありがたいわ。しっかり干して戴くからね。


 さらに言うと竜の実は蔓植物じゃなくて、葡萄や木苺みたいな低木植物。壁上に張り巡らせた柵に沿わせて育てるという代物。しかもある程度の温度差がある土地じゃないと美味しくならないという厄介な性質持ち。

 外皮が硬くて大きくて重い竜の実が食用になったのは割と最近なんだって。なので昔は野生の竜が食べる実ぐらいにしか知られていなかった竜の実は、栄養価がとっても高いけど生食に向かない果物扱い。芋並みに日持ちもするのに、───竜を含めたごく一部の生き物に関しては生食可能だけど、人が食べるには外皮が固すぎるので───野生にほったらかしだったそれを、竜が食べた残りを口にした物好きが広めたのがキッカケとか。で、市場にもまだ出回らない食材なんですって。


 日持ちして栄養価の高い竜の実は冬の保存食にうってつけなので、村に来る行商さんが持ってきた時には確実に買います。一個銀貨小3枚、日本円に換算すると約3000円くらいかしらね。仕入れが銅貨小85枚位、運送料に税金込みの諸経費入って、銀貨小1枚と銅貨小25枚位。差額の銅貨小90枚が予想した利益。


 行商さんも重量の関係で持てる数量が限られるのが難点だよ、ってがぼやいていたのが笑えたわ。作っているのが王都を挟んだ村の反対側の町なんですって。


 コレでシチューとか煮物とか天ぷら作った日の村の反応がスゴカッタ。結構甘味があるのに、山羊乳とも醬油とも相性いいから、料理のレパートリーが増えるわ。干しても生で保存可能な上に栄養価も高くて甘いなんて、保存食に飢えてる村からしたら正にお宝よ。主婦たちの目が正に野獣のごとくギラギラしてたわ。


 ま、お菓子にしても当然美味しい上に、バリエーションは沢山あるから暫くは楽しませて貰うわね~と、私が野望に想いを馳せている間に、皆様すっかりピザを食べ尽くして下さった様です。うや、早くない?


 なのでさっさとタルトをお披露目よ。今回はチーズクリームを練り込んだものと、風ちゃんに貰った花蜜を練り込んだ二種を用意したの。風ちゃん達はどちらも美味しいって言ってくれた太鼓判付き。


 チーズクリームは濃厚なコクとまろやかな旨味を。花蜜は見た目は蜂蜜に近いけど甘さ自体は少し控えめで、三温糖に近い感じのさらっとした油みたいな感じで、ほわりとした柔らかくて甘い香りがする香料にちかいかしら。竜の実自体が加熱するだけで甘味になるので、タルトの甘さは控えめにしました。さあどうぞ~。


「おいしー!」

「なにこのもったりした旨味、甘いのにうめぇ」

「こっちのはまた違うわね。ちょっと塩っけがあって、それがまた美味しいわ」


 チーズクリームのは干した種を砕いて少しの塩をまぶしたモノを乗せて。花蜜はちょっとだけ照りがあります。見た目で直ぐに分かるようにしてあるので、どちらが減りが速いのか確認しやすいのよ。


 今回は香りが気を引いたようで、花蜜の方が売れてるわね。ま、花蜜自体があまり出回る代物じゃないから当然かしら。卵があれば南瓜プリンの作成も考えてるけど、あれは争奪戦になりかねないしねー。


「ちびさん、あんたいったい何者よ?」

「ムーさん、それは喧嘩売ってんの?」

「どういう感性持ったらこんなうまいもの作れんの、もしかしてどこかの王室御用達職人か?」

「ただの血を見てぶっ倒れるような根性の無さから村の子羊たちから同情され、こと食事に関しては人一倍食い意地の張った『食生活に対しての天下的野望を抱く』一村人を八年もしていただの火吹き竜の子供ですが」

「『竜の実』の甘味なんて聞いたことが無いぞ。そもそも食用に向くかもしれないと栽培された話を今年の春に聞いた事はあるが」

「流石軍人さんね。私は行商さんに『外皮が固く色が濃い緑色だけど赤みがかった濃い黄色した硬い果肉と白い皮を被った薄緑色の種が入っている』食材があったら欲しいと言っただけよ」

「なんだその妙に具体的な指定は。確実に狙ってるだろ?」

「当たり前じゃないですか。美味しいものを狙って何が悪いんです。誰だって美味しいご飯は食べたいんです」


 此処での食生活が悪いとは言わない。モチモチパンだっておいしいけど、日本の食生活は私にとっては焦がれた味だ。醬油と味噌のある土地に住んでなにが悪い!


「あの、ちびさん。ちょっといい?」


 うや。プレタ君と従兄弟の二人が、小皿に載せたタルトを持ってこっちを見ている? はて?


「プレタ君、なあに?」

「二人がね、この料理を両親にも食べさせたいんだって。いい?」


 ああ、美味しいものは家族にもって、結構あるのよね。こんな小さい子がそんな気持ちを持つなんて、ご両親がしっかりと大事に育てていらっしゃる証拠ね。うんうん。


「残り物だけどいいの?良かったらご家族用に作るわよ?」

「俺、これがいい」


 小皿に乗ったふた切れのタルトを抱えて小さな男の子がぽそっと言ったのに悶えそう。


「うん、すごくおいしかった。僕もこれがいい」


 うわ、目がキラキラしている~! おっきい子もすっごく可愛いわ。美味しいものの効果でも、小さい子のおねだりは無茶じゃない限り断るなんてしません。


「おとーさんとおかーさんによね? なら、あとふた切れずつお皿に載せていくのよ。そして仲良く食べてね」


 なんで? って首傾げるので


「美味しいものはみんなで食べたらもっとおいしいのよ。おとーさんとおかーさんが食べて、君達が食べないのは二人が美味しくなくなっちゃうわ」

「そうかな?」

「そうよ、私ならぜったいそう。あ、他にも兄弟は居るの? なら、その分も持って行かないとすねちゃうわよ?」

「そうなの?」

「この村のみんなが仲良しなのは、美味しいものをみんなで一緒に食べるからだもの。間違いないわ」


 自信たっぷりに小さい子に言い切ったけど、あながち間違いじゃないと思うの。


「そっか」

「このタルトは日持ちするお菓子じゃないから、早めに食べてね。出来れば今日中がいいんだけど」

「そうなの?」

「魔法とかで保存って出来たらいいんだけど、私魔法使えないのよ」

「プレタ、できる?」

「え? ええ、出来ます、よ」

「うや、プレタ君魔法使えるの。すごいねぇ」

「…、ちびさん知らなかったんだ」


 なら、と。手早く残ったタルトを深皿に並べ替えて、未使用のふきんをそっと掛けてプレタ君に状態維持の魔法をかけてもらい二人に手渡した。ふう。


「ありがと」

「どういたしまして。また一緒にご飯食べようね」

「うん」


 可愛い子の嬉しそうな顔は何よりのごほーびですね。うん、いい仕事したわー。そして今日もきれいさっぱり完売御礼です。さ、お片付けしてお仕事よ~。




       *******




 ところ変われば常識が違うのは異世界でも同じなようで。ここ、田舎では都会と違う食生活が当然存在します。


 主食のモチモチパンは季節問わず食べれるので本当に有り難い一品ですが、副菜に至っては旬のものをいただく事が当たり前なタングステン村では、保存食のバリエーションが必要かつ肝になります。


 我が家では根菜と干し肉のおでんに始まり、切り干し野菜の旨煮やら炊き込み麦ご飯やらございます。豆腐に麦の加わった我が家のレシピ───、日本の家庭料理を食べたいという私の一大野望達成に基づく足掛かり───を齎してくれました。


 そんな冬の頼れる食材に竜の実が加わった事で料理のバリエーションは更に膨らみました。とは言え南瓜の煮つけは醬油のあるこの村では簡単にできる料理ですので、村の主婦たちはあっという間にバリエーション豊かに作り上げます。南瓜コロッケ、メンチカツも作りましたが、卵の流通に難点があり、村では御馳走の部類に入るようです。


 あれ以来プレタ君の従兄弟達はちょくちょく顔を見せてくれるようで、お昼の差し入れ時に見かけております。上の子がセス君、下の子がレン君と云うそうで、お勉強の息抜きに遊びに来ているそう。村の子供達と一緒になって呆れるほどの食べっぷりを見せてくれます。君達、私が持ってきた料理以外に山程食べていなかったっけ?


 第三軍の皆さんも躊躇いなく口にしている辺り、こんな田舎料理でも口に合うって事なのかしらね。ま、この村でお残しや好き嫌いなんて言ったら親にゲンコツ貰う位の事になるからね。


 食べるものが決して豊富な訳じゃない土地で、体質以外の好き嫌いなんて、どこの貴族よ王族かぁっ! 食べれるだけでも有り難いのよ。文句有るなら食べてからおっしゃい! ってのが村での一般常識。


 タングステン村に来た当初、虫とか生肉とかが気絶する程苦手な私の事を村人に信じてもらえなかったものだから、目の前で実演してみた過去あるからね。(おっちゃんに面白半分にされて、一日魘された事もありますよ。そのあとはマミちゃんがおっちゃんをしっかり〆てました。)


 なので村人(人と羊)は私に強要することはないので、とっても安心してます。私も体質による偏食は理解は出来るけど、食わず嫌いとかは流石に許せないのよ。目の前の食材を如何に美味しい料理にして愛する家族に食べてもらうか、これはもはや世の主婦なら誰もが抱える問題。


 竜の実を初めて目にした村の主婦達の目は素早くコストとメリットを計算していたのを覚えているわ。実の大きさと価格から料理にした際の利益を図る守銭奴の様だけど、味と長期保存に向いている事に加えて、私が出したレシピが決め手だったみたいよ。村の子供達は別な意味で目の色が違うわね、今度は大学芋にして出して見ようかしら。


 そんなことを考えて迎えた収穫祭は、いつもと変りなく始まりを迎えたわ。国から納税監査に来る役人さん、同じく薬草やら買い付けに来る商人さん、ここまではいつも通り。問題はそこじゃなくて…。


「…トーンちゃん、私疲れているのかな。収穫祭に国王様がいるように見えるの、そんなに忙しかったかしらね」

「大丈夫。僕も見えるから幻ではないと思うよ」

「すまんな、本日は王族ではなく一人の親として参加したいとの仰せでな」

「親って誰の?」

「レン坊ことファーレン=ハイト=カーバイト殿下と云えばわかるか?」

「ステアさん、レン君って王子様だったの?」

「カーバイト国の第二王子だ。補佐官のプレタ=ジルダが一緒だからわかるだろう」


 誰よそれ。私の知っているレン君は、小学一年生くらいの金髪の男の子。あんな高校生の様な立派な体躯はしていないし、プレタ君に似た髪色の御仁は、仕立ての洋服を着こなし、立ち振る舞いも優雅じゃない。あれ別人でしょ? 


「王の傍に居るのが西の大国の王太子殿下、セルシウス=ナラ=ハルト殿下。ファーレン殿下の姉君ルーメニア殿下の婚約者だ。」

「来年王女様がお嫁に行っちゃうって噂は聞いてるけど、なんでそのお相手がこんな田舎に来る訳?」


 うーん、お祝い用のチーズ煎餅のおねだりかしら?


「ホント、ちびさん分かってないな?」

「…待って下さい。もしかしてセス君ってまさか?」

「トーン、そういう事。レン坊が原因だから責めるなよ」

「うわぁ、僕頭撫でちゃったよ」


 トーンちゃんが頭抱えてうずくまっちゃったけど、大丈夫かしら。ステアさんも苦笑いしてるし、なんなの?


「レン君はしっかりとした男の子だけど、あんなに大きくはない筈よ。セス君よりもおっきいなんてありえないわ。何よりぼさ頭のプレタ君があんなに優雅に振る舞っている処なんて見た事ないもの。別人じゃないの?」

「あ、そういう認識なんだ」

「うわぁ、ちびさんそれ以上はダメェ!」


 うぐ、なんで私の口を押さえるかな。むぐむぐ。


「ちびさん、あれな護身魔法を使った仮初の姿なんよ。王族がお忍びで出かけるときに結構使われるんよ」

「ムスカ部隊長、今日は非番では?」

「非番だから収穫祭に参加中? 此処の飯旨いし、ぶっちゃけ気楽だしな」

「まあ、それは分かりますがあれはいいんですか?」

「知るか。俺らの任務はこの村の駐在警護と哨戒任務。何かあった際には連絡して援軍が来るまで持たせること。それだけだ」


 ぷは。トーンちゃんもう少しお手柔らかにしてよ。


「まあ王様の目的はチビさんのご飯だと思うけどな」

「うや?」

「ああ、お祭りにはご両親と一緒においでって言ってましたね」

「それでか。確かにファーレン殿下のご両親と、義兄君(あにうえ)揃っての参加は」


 ステアさん、そのあきれた顔はどういう意味ですか?

 ムーさん、意味深な悪党笑いはやめた方がいい男ですよ。

 トーンちゃん、落ち込むのはいいから私を放してよ。



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