幕間③ 閑話~とある長の呟き
ご…五ヶ月前。←純然たらん事実。
(うぉぉぉぉぉぉぉってのたうち回ってます。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい❗️)
言い訳します、確定申告だの年末調整だのにやいのやいのとふりまわされ、某アニメにどっつっっぷりハマったせいもあります。可愛すぎるのよ、モフモフに飢えた婆ぁには禁断の一品でしたとも。うゎぁぁん・゜・(つД`)・゜・
書き直しもありましたとも。口調が解らんわ、世界観が微妙に解らんわ、いっそベルガコム兄弟で書こうか、誘拐犯で書こうかと、書いては消し書いては消ししてました。
結局、お待たせした上でこんな話に落ち着きました。トホホ(;´д`)
タングステン村の夏は短い。
夏の終わりを告げるのは季節風と高い空の色。それらが揃うと日がくれる頃から冷え込みが始まる。
冬が他よりも長く留まるこの村は、食材の確保に昔から苦労してきた。
豪雪と山からの強風によって、人よりも背の高い木々は育ちにくいこの土地は、平地よりも低い気温の為、農作物の育成にはあまり向かない。そんな中で手塩にかけた作物には愛着もひとしお。食べられるものならば葉っぱの一枚ですら工夫するのば当たり前で。
長い雪の季節に備えるのは食料だけに限らず。生活に必要な薪や衣服、薬草や家畜用の資材など、年間計画に基づいて準備をしている。
老いも若きもなく浮き足立つのは春、せわしなさを実感するのはこの時期だと、年を重ねる毎により深く感慨を覚える。
近年はそのせわしなさにも変化があった。多少の突発的事件は有れど、結果的には村の自慢や話題になったりと田舎にはありがたい結果にはなった。
思い返せばよく無事に過ごせたものだと思う。
理不尽な貴族の我儘に泣かされる事は珍しくはない。酷いものだと一貴族の娘の願いを叶えるために、村ひとつが滅ぼされたなんて話は消して大袈裟な話ではない。
幼い孫娘が無事に成人し、婿を迎え、娘共々この村で暮らしてくれるならば、子々孫々まで我が力の及ぶ限り、夫と婿殿が守ったこの村を死守する。
「ちびちゃんは幸運の御使い様よね~!」
娘と薬師はちびをそう例える。孫娘は非力で好奇心だらけの食いしん坊という。
今だから云えるがこの村にちびが住みたいと言い出した当初、村人の多くは厄介事が来たかと難色を示し頭を抱えたものだ。
竜が人里近くに棲む事なぞ前代未聞、何よりその理由が村の保存食が食べたいと聞けば、むしろその理由と執念とも云える熱意に馬鹿馬鹿しくなって応じていた。いや、あまりの予想外の理由に心が踊ったというべきだろうか。
村外れの山中ならば、竜が住み着いても村外からの対外的な言い訳には成る。それに、人の世界と竜が交わることを利用したくはなかった。
人が竜を利用したのは人にとって過去の歴史だが、竜にとっては昨日の出来事だ。
大陸規模での保護が決まっている火吹き竜を始め、人よりも小さな竜は捕獲すること事態が禁止されている。
元々繁殖力の少ない竜は個体数が少なく、かなりの長寿だ。水源に恵まれた国では、賢者として老竜が知恵を貸していると聞く。
このような形とはいえ、人と関わる事が良いのか判断が付かなかったが、当のちびに───保存食材(味噌と醤油)を抱え涙目で切々と───懇願されては、流石に断れなかった。
まあ、ちびに同行していたエルフがおまけの様に村に居を構え住み着いたのも、村人の心の安寧に一役買ったのもあるが。エルフと様々な改善をしだしたちびは、徐々に村に浸透し、主に食材開発していった。
作物が育たぬならばと、山に入ってあれこれ山菜やらなにかの実やら採ってきては調理して振る舞ったり、羊たちと井戸端会議して、村の周囲の魔獣と提携を結んでいたり、我が村の羊の毛で暖かい敷物を作ったり。一体どうやったらそんな知恵が出てくるのやら。
「そして~、何かしら~、巻き込まれるのよねー」
「きっと笑いと物語の神様に見守られているからよね」
「今までの話を本にしたら、王都辺りで売れる!」
「ちびちゃん、いやがるかもね」
確かに今年は特に余所者が引き起こす珍事件の乱発が在ったりして、自警団はなんやかんやと活躍しまくった年だったとぼやきが出たり、ちびのあのご飯は旨かっただの、水車以外の粉引き機はどうだのと、話す話題に事欠かない一年だった。
長閑なタングステン村で村民が起こす騒動としては、
・家畜の迷子
・夫婦喧嘩
・酔っ払いの喧嘩の仲裁
・村起こしの政策内容
・村外から来た騒動の対策
・来春の生産物製作予定
・ちび竜関連の騒動
が、主だったものとして上げられる。
最初の三つは昔からある話なので然程難しいことでもなく、取り分けてコレと言った決定的な解決策も無いことから、起こらないように気を配るしかない。
が、後半四つは近年少しずつではあるが深刻化してきたように感じる。
村起こしの政策として打ち立てられた“生み出す村”はスポジュメンチーズに続くヒット作、フロストリーフを始め、ちびちゃん発祥の食文化地として国からの“文化保護区域”としての認可まで取り付けた快挙は成功と言っても過言ではない。冬の寒さと豪雪に嘆く昔ではないと言い切れる事が、村にとっては擽られるように嬉しい気持ちになる。
何よりも豊かになったのは、村外からの人の訪れである。それによってもたらされる情報や物流は、閉鎖的な村内に置いて多大な恩恵をもたらしてくれた。老人の多いこの村にとって、それは何よりもうれしい変化であり、厄介ごとの種でもあった。
それでも自分たちの手で対処できる範囲なら、何とかしよう、努力しようと頑張ってきた。
だが、流石に身分を振り翳す若者まで出てこられては、平民には歯が立たなかった。
その時は偶々居合わせた人のお陰と、騒ぎを起こした若者の両親が良い意味での判断を下せる人だったお陰で難を逃れた。普通、貴族に平民の常識は通じる事はない。せいぜい紙切れ一枚の謝罪を、代理とか言う使いのものが無愛想かふんぞり返って置いていくのが通常だ。
加害者は、被害者の受けた本当の被害を知らない。もし自分等が同じ被害を受けたなら、それで本当に納得出来るものだろうかと、───そこまで考えて、とりとめなき事と苦笑する。
「なんとかなるものだよって、よくあの人が言っていたけど、本当にそうよね。ちびちゃんが来てから楽しいわ」
「そうだの」
亡き婿殿は、笑いながら何事もやって見てからそういう人だった。
今の村を見て、きっと夫もそういうだろう。───それがなんとなく嬉しく思う。
*******
それは短い夏の終わり。いつもと少し変わった村の雰囲気は、穏やかな午後に似つかわしくない、ラクレコムのお喋り娘等の噂話にから始まった。
『聞いて聞いて~、チビ竜ちゃんが行方不明ですって』
『お昼前にあたし達の所に顔を出したのが最後みたいよ』
『んまー、ナニソレナニソレ~!』
『いま、村の人が手分けして捜してるって』
『誘拐かしら? 駆け落ちかしら? 家出って可能性もあるし、遭難は無いわね』
『人が絡めばどれもあり得そうよね』
『私達なら遭難が無難だけど』
陽気な娘等の噂好きは、村人達の行動を把握するのに便利だが、騒ぎの内容が気にかかる。
ふむ。昼前に娘達と会話するのを最後に姿が見えなくなる、と。
呑気なチビ竜のことだ。おそらく遠回りして寝床に帰るつもりだろう。
この時期なら麓の木々の上辺りをあれこれ抱えて、ふよふよ飛んでるやもしれん。いや、麓の魔獣と時間を忘れて話し込んで居るか…、あれで娘達の話についていけるのだから侮ってはいけない。
『もうすぐ夕暮れよ~。確かまた人が集まる食事会があるって言ってたわよね?』
『そうよそうよ、チビ竜ちゃんも張り切ってたわよ?』
『間に合うかしら?間に合わないかしら?』
『やっぱり誘拐かしら、駆け落ちかしら、遭難かしら、家出かしら?』
『事故かしら?』
娘達。心配するのは構わんが、不安を煽るのはよせ。お前らの不安はやたら周囲を刺激するではないか。
『ちび竜ちゃん、どうしたのかな。早く、帰って来ないかな』
こだまがぽつんと、こぼす。
『チビの事や、なんや巻き込まれな自力で何とかしようもん』
『そうなんだけど、人間がちび竜ちゃんに関わると途端におっきな騒ぎになるんだもん。村の人間はそんなことしないのにさぁ』
こだまの言った言葉は私達の総意である。村の外からの人間が関わると何故か騒ぎになるのだ。特に私達の知らない臭いを持つ者共は特に。
『秋祭りの頃に来るヤクニン達はしっかりしてるから、騒ぎにならないけど。雪降る頃にきた輩なんて最低だよ~。マコモコのいる溜池を荒らした上に騒ぎ立ててさー、静かな筈の場所を荒らしたって分かってるのかなぁ?』
こだまは小さい生き物が好きだからな、小魚マコモコの住む溜池を荒らされたのが気にくわないらしい。私達は結構、根に持つからね。
ま、こだまの愚痴はともかく。あのちび竜がこんな遅くまで、ふらついているのは確かにいただけない。村の皆もあちこちで探しているようで、微かな声が聴こえる。ふむ。
『のぞみ、こだま。娘達に家に帰れと通達したら、街道をちょいと見回って来ておくれ。知らない臭いとちび竜、もし一緒に在ったらそのまま追っとくれ』
私は娘達からの話を聞いて、夜明けまでは此処に居る。が、それまでに二匹が帰ってこなければ『一斉に捜索する』だけだ。
山における行動で我等に敵う輩など、そうそう居るものではない。そもそもちび竜が自力で戻れない事態など、人絡みでなければあり得はしない。
近隣に住まう魔獣の輩は火吹き竜に対して危害を加えるつもりなぞ毛頭無かろう。そもそも竜自体が数が少ない。況してや幼竜なぞ珍し過ぎる。お蔭でこの辺一帯の魔獣達から、希少珍獣としてかなり有名な事を本人は全く知らない。
私らが本人に伝えないのは、ただ単に面白いからだ。
川魚の臭いに怯え、土の中の虫に逃げ出し、血の臭いに気絶する幼竜に、何度頭を捻ったことだろう。
我等が警戒する?
馬鹿馬鹿しい。人間の子供よりも非力な存在に、警戒するよりも保護する必要しかないわ!
血の臭いを我慢しながら怪我した魔獣の手当てはする───しかも、終わった直後に気絶したな。───わ、幼羊ですら組伏せる虫相手にギャーギャー逃げ回る───本気で怯えて幼羊にすがり付く。虫は間に別の幼羊に始末されていた。───わ。そのくせ食うことに関しては貪欲で、毒草すら口にしようとする。あれは本気で慌てたな。
『ひかり、行ってくる!』
こだまとのぞみが颯爽とたつ。
『無理だけはするな。ちび竜が気にするからな!』
ちび竜は、人であれ魔獣であれ心配する。最早そういう性格なのだと割りきるが、近隣の縄張りの主たる魔獣相手にきっぱりと“怪我したら痛いし辛いの。そんな思いしてやしないかと心配するの!”と言い切る。
因みに近隣の縄張りの主とは四年前の自分である。真顔の幼子に憤然と言い切られた当時、火吹き竜とはこのような生き物だったかと酷く驚いた。
が、それはちび竜という個体のみの性格であると後に古い知り合いの話でわかった。…知り合いすら話だけで、本当にそれは火吹き竜かと疑われ、確認の為に引き合わせたあと、互いに意気投合して交易関係が発生するなんてオチも付くのはまた別の話。
文句あるとは思います、タングステン村最強女傑は間違いなくこの二人だと思うのですが、ある意味ちび竜が上手い処を浚っていくわけですね。
次話は来週の予定です。ええ、あくまで予定ですから。(・・;φカキカキ。




