第二十章 朝が来たら
午前六時。
朝日が昇る。
佐伯は駐在所の前に立っていた。
町はいつも通りだった。
鳥が鳴く。
新聞配達のバイクが走る。
小学生が登校する。
「……終わったのか」
佐伯は勤務日誌を開いた。
昨夜書いた名前は、
すべて残っている。
最後のページには、
《午前二時十三分 異常なし》
と書かれていた。
佐伯は安心して笑った。
そして日誌を閉じようとした。
――そのとき。
最後のページの裏側に、
小さな文字があることに気づいた。
《次の夜勤は、佐伯巡査部長》
佐伯は固まった。
時計を見る。
午前六時十三分。
「……夜勤じゃないだろ」
苦笑してページを閉じる。
その瞬間。
駐在所の電話が鳴った。
一回。
二回。
三回。
佐伯は受話器を取った。
「はい、月影町駐在所です」
しばらく沈黙。
そして。
電話の向こうから、
自分の声が聞こえた。
『佐伯さん』
「……誰だ」
『今夜、二時十三分に』
一拍。
『駐在所を空けないでください』
佐伯の顔から笑みが消えた。
『今度は――』
電話の向こうで、
誰かが笑った。
『町のほうが、消えます』
受話器の向こうで、
カチッ。
電話が切れた。
佐伯は時計を見る。
午前六時十四分。
そして駐在所の窓の外。
誰もいないはずの道路に、
白い傘が一本だけ立っていた。
その傘の下から、
女性の声がした。
「……また夜にね」




