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お空には気を付けて

「朝陽、折り畳み傘持っていきなさい。」

 姉は玄関を出ようとした僕に向かって、折り畳み傘を投げてきた。僕は即座にその傘を掴んだ。


「今日、雨降る予報あったっけ?」

「夏の天気は変わりやすいの。入れておいて損はないわよ。」

 僕は急いであったこともあって、とりあえず傘を持って、玄関を出た。


「いってきまーす。」

「いってらっしゃーい。」


 そう言って、僕はいつもの通学路を歩いて行った。夏休み中、通学路を歩く機会がなかったので、なんだか懐かしい感じがする。今歩いている通学路を夏休み前の通学路の記憶と照らし合わせて、間違い探しのように、あちらこちらを見てしまう。


 景色はほとんど変わっていないのだが、夏休みに入る前までは、蝉もこんなに鳴いていなかったし、少し歩いただけで、こんなに汗が出ることもなかった。ほんの十数日で、本格的な夏の雰囲気に変わっていると感じた。


 しばらく周りを見渡すことに気を取られていると、右手に持っている折り畳み傘を片付けていなかったことに気づいた。こんな晴れ渡ったいい日に傘を持っているのは、なんだか場違いな気がして恥ずかしくなってきた。


 僕は背負ったリュックを下ろして、前ポケットに折り畳み傘を入れ、背負い直した。確かに、夏は通り雨が多いから姉が心配する気持ちも分かる。しかし、姉が一度でも今日の空を見ていれば、傘など渡そうとしなかっただろう。


 空を見上げると、眩しい太陽を遮る雲は、何一つなく、青々とした空が広がっている。この自然の空の広がりを邪魔するものは、自然の雲ではなく、高くそびえ立つ人工的なビルやマンションだ。空や太陽の光の広がりの邪魔をする都会の高い建物は、人間の作った狭苦しい社会を象徴しているようだった。


 僕はそんな文学的な考察をしながら、空の方を見ながら、歩いていた。


 すると、見上げていたマンションの上に、人型の影が見えた。太陽が逆光となり、どんな人かは分からないが、あんな所に朝から立って、何をしているのだろうかと思った。あれだけ高いと、大体十階以上はあるだろうか。あんな高い場所から僕たちのような庶民を見下ろして、楽しんでいるのだろうか?


 もしくは、飛び降り自殺だったりしてな。


 なんてありえないことを思いながら、その人影を見ていると、その人型はまるでこちらに近づいてくるように、だんだんと大きくなってきた。何故大きくなるのだろうと思いながら、よく考えてみると、その人影は、あの屋上から地面に落ちてきているのだと分かった。


 その人影は、みるみる僕の方に近づいてきた。その人影を負う僕の目の端に地面が良く見えるようになってきた。僕は何もできずに、目を閉じた。


 バチーーン


 鉄骨でも落ちたのかと思う程の衝撃音に、生ものがはじけるような音が合わさって聞こえてきた。その音に驚いていると、足に何か生ぬるいものがかかって、濡れている感触がした。それが何か想像がつながる前に、吐き気を誘うような激しい血の匂いが嗅覚を刺激した。


 僕は手で口を押えながら、そっと目を上げた。すると、生気を失った血走った目と目が合ってしまった。その顔の近くの血だまりはだんだんと大きくなっていく。そして、右手と左足はありえない方向に曲がっている。


 僕はその光景を見ると、手で押さえていた口から朝食べたものが溢れ出してきた。

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