sign of the storm
その日は当然のごとく、放課後の部活動も禁止され、全員強制帰宅となった。
坂田とデーヴと途中で別れた後、遥と二人、帰り道を歩いていた。
「……そういえばさ、」
「な、何?」
「二人で帰るのって、随分久しぶりだよな」
「そ、そうね……」
遥の家は近くにあるが、小学校の頃は未来と三人で帰る事が多く、二人で帰る事はあまりなかった。中学に入ってからは、遥は生徒会に入り、帰りは生徒会のメンバーたちと一緒に帰っていたようだった。
「その……一緒に帰りたかった……?」
遙が伺うようにこちらを見てくる。
「ん? いやまぁ、お前も色々忙しそうだったからな」
「ご、ごめん……」
「いや、謝る事ないだろ。生徒会で忙しかったんだし。それに、坂田の道草に、お前を突き合わせるのも悪いしな……」
猛犬注意の看板を見ては犬をからかったり、突然、時間内無料大食いにチャレンジしたり、民家の庭になっている柿を取ろうとして、その家の親父に怒鳴られたりと、アイツは本当にロクな事をしない。
「それはわかる……」
「まぁでも都合が合えば、たまには一緒に帰ろうぜ」
「う、うん!」
一際大きな声を出して、遥が嬉しそうにうなずく。
「……それと、さっきはありがとね……」
「ん? さっきって?」
「……私が倒れてた時、助けにきてくれた事」
「お互い様だろ。お前が来てくれなきゃ、俺もヤバかったかもな」
本当はそのまま逃げてて欲しかったが、結果的に遙が来て助かった事には違いない。
「そう……かな? でもセナが助けに来てくれた時は……嬉しかったよ……本当に」
遙が顔を赤らめて言う。
「いいって、そんなの。お前を助けるなんて当たり前だろ」
「えっ。……それってどういう……」
顔を赤くしたまま、遙がこちらに目を向ける。
「俺がお前にどれだけ救われたと思ってるんだよ」
「……。そっか……うん、でもありがとう」
笑って礼を言うが、その表情はどこか寂しげだった。
「それにしても、これって何なのかな。セナのその不思議な腕輪も」
胸のペンダントを触りながら、遙が尋ねてくる。
「……神様が作った道具……らしいぜ」
「そういえば、さっきの子が神の神具とか言ってたわね。というより、あの子……リザさん、だっけ? あの子って何者なの? ……アンタの知り合いぽかったけど」
さっきの戦闘の後、簡単にリザと遙の名前だけは紹介していた。
「……あの竜がいた世界から来たそうだ」
「あの竜の世界って……味方なの?」
「……竜を封印しようとした時に、誤って一緒に、この世界に飛ばされたらしい」
「そ、そうなんだ……」
リザの心情を察してか、遙がしばし押し黙る。
「……ねぇ、あの子、今どこにいるか知ってるの?」
「…………」
遙は男女の付き合いには結構うるさい。同居の事を知ったら、黙っておかないだろう。
……ここはどう言うべきか……。
「あれ、聞こえなかった? あの子今どこにいるか知ってる?」
しまった、考えてる内に間が空いた。何か言わないと、怪しまれるに違いない。
「い、いぐぁ、……いや、聞こえてるよ」
ヤベ……舌かんだ。いぐぁって何だよ……。
悟られまいと、取り繕って言い直したが、遙の目が鋭く光る。
「へぇぇ……じゃあ、知ってるんなら教えてくれる?」
……こうなってしまっては蛇に睨まれたカエルだ。嘘などついてもすぐバレるし、そんな事をすれば、どうなるかは怖いほどわかっていた。要するに、俺は観念した。
「お、俺の家にいるよ……」
遙が一瞬固まる。
「今なんて?」
ニッコリとした笑顔が怖い……。
「い、いや、オオオ……俺の家にいるって、言ったんだが……」
「へぇぇ……そんな知り合って間もない女の子を、家に泊めたりして、……一体何が目的なのかしら」
笑顔から次第に、目が座った表情に変わってくる。
「い、いや目的て……何もねえよ……。だ、だって仕方ないだろ。こんな知らない世界に、飛ばされた上に、行くところがないって、困ってるみたいだったから……」
ムーっとした表情でこっちを見ていた遥だが、諦めたように、ため息をついて肩を落とす。
「ホント、相変わらず女の子に甘いんだから。……まぁいいわ。私も色々聞きたい事があるし、今日アンタの家に行くわ」
「えっ?」
「何? 文句あるの?」
「いや……ありません……」
情けない。それでも男か。文句の一つでも言ってみろ。くそう。
そうしてこうして、選択の余地も与えられずに、遥を連れて家へ向かう事となった。




