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fragment of memories-2

父は病院や葬儀の手続きをするという事で、俺は来た時と同じように、坂田の父の車で家に一人戻された。


 家に戻って、居間でしばらくボーッとした後、自分の部屋のある2階へと上がった。

風呂なんてどうでもいいから、もう寝ようと思った。


 部屋に入り電気を付けると、机の上に何かが置いてあるのに気付いた。

近くに行って見てみると、それはバラバラになった部品を、テープと糊でくっ付けられた俺の玩具だった。


その玩具の下に、何か紙が折り曲げて置かれていたので、開いて中を見た。

そこには愛奈の字で、


『 おにいちゃんごめんなさい 』


と書かれてあった。


もう泣き枯れたと思った目から、涙が再びこぼれだして紙にポタポタと落ち、愛奈の書いた字がにじんでいった。


 俺は愛奈の直してくれた玩具と、その紙を胸に抱いて、一晩中、何度も何度も、自分の命の代わりに愛奈と母さんを戻してくれと神様に願いながら、何度も何度も泣き続けた。


◇◇◇◇◇◇◇


葬儀の日、涙と共にすべての感情も流れ落ちてしまったかのように、俺は呆然として葬儀場の席に座っていた。


葬儀には知人や親族の他に、愛奈の同級生や先生など、たくさんの人たちが集まった。

坂田兄妹や遥、デーヴ、そして、未来も来てくれたが、仲間が話に来ても、俺はただコクコクと頭を肯かせる人形のようになっていたらしい。


葬儀社のスタッフによるアナウンスに従い、僧侶のお経が始まり、焼香と献花が行われ、葬儀が滞る事なく進行していく。


葬儀場のあちこちからむせび泣く声や鼻をすする音が聞こえる中、俺は愛奈が直してくれた玩具を手に持ったまま、ただボーッと宙を眺めていた。


 身体はここにあるのに、心はここにはない。

そうわかっていても、自分ではどうしようもないぐらい、心と身体が離れていた。


葬儀が終わり、母と愛奈が入った棺が運ばれるのを、俺はただ虚ろな心で見ていた。


仲間たちが再びやってくる。

皆、目に涙を浮かべ流していた。


「セナ兄ちゃん……うぐ……ひっく……ひっく……」


真ん中に立っていた未来が、泣きながら目の前にやってくる。

呆然とその泣き顔を眺めていると、いつも母に言われた言葉が頭の中に浮かんできた。


「……女の子には優しく……しなさい……女の子には……優しく……」


 未来の頭を撫で、母に言われた言葉をただ機械的に繰り返した。


「うぅぅ……ひっく……! ひぐっ……!」


頭を撫でても、未来の泣き声は止む所か、次第に大きくなっていった。

どうして泣き止まないんだろうと思って、未来の顔を見つめた。


そこには未来ではなく、いつものように泣いている愛奈の顔があった。


「……愛奈……戻ってきてくれたのか……」


神様が願いをきいてくれたんだ、と喜んだ俺は、愛奈の身体を抱きしめた。

仲間が驚いた顔で俺たちを見る。


「セ、セナ兄ちゃん……ち…がう……ぐずっ……わたし……あい……ちゃんじゃ……」


「愛奈……ごめん……もう絶対にひどい事しないから……優しい……いい兄ちゃんになるから……もう……もうどこにも行かないでくれよ……!!」


そう言って愛奈の身体を強く抱きしめる。

そうすると愛奈は大声を上げて泣き始めた。


「ううううあああああああ――――ん! うわああああ―――――――ん!!」


愛奈につられて、周りの人たちも声を上げて泣き出す。


 みんな何を泣いてるんだろう。何がそんなに悲しいんだろう。

愛奈がせっかく戻ってきてくれたというのに。


 愛奈があんまり泣くものだから、母さんがいつもしていたのと同じように、愛奈を抱いて頭を優しく撫でてやる。


「……大丈夫だから……。……もう……大丈夫……だから……」


でも、愛奈の泣き声がより一層大きくなって、おさまらなくなった時、遙が俺と愛奈を引き離した。


「セナっ!!」


遙が怒ったような泣き顔で俺を見る。


「遙……何……するんだよ……愛奈が泣いてる……のに……」


「愛奈ちゃんじゃない!!」


ガクガクと、遥が肩を揺さぶってくる。


「……愛奈ちゃんじゃ……ないよ……。よく見て……」


遙の肩越しに見える愛奈の顔が―


―未来に戻る。


未来は口に手を当て、ボロボロと涙を流していた。


「…………そう……だよな……。死んだ人間が……戻るわけ……ないもんな……

愛奈に……あんなヒドイ事を言った……俺の所なんかに……戻るわけ………」


薄笑いを浮かべながら、地面に目をやる。


……愛奈に会いたいと思う、自分の願望が見せた幻覚か……

それとも神様の悪戯だったのだろうか……。


いずれにしろ……愛奈にも……母さんにも……もう会えない……。


絶対に覆らない事実を突き付けられ、頭の中が真っ暗になっていく。


そして次第に近くなっていく地面と、みんなが自分の名を呼ぶ声を聞きながら、視界が闇に閉ざされていった――。



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