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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
3章 魔力の奔流に流されて 
62/66

全然分からんッ!


 何故か衝撃音がするヴァイオリンを楽器にするために、色々な実験道具を注文したミヤフィ。前世ではギターをやっていた為、ヴァイオリンが完成したら次は。と思っている。どれくらいやっていたかというと、一曲24分の超大作系メタル曲をすらすらと弾けちゃうレベルである。


 開発でまず何をやるか。とにかく新しいことをするには古いことを学べば効率が良い。温故知新だ。

「まずはこの世界の楽器について学んでみよう」


「おう、嬢ちゃん! わしに任せときな!」

「うわっ!? あなたは?」


 突然後ろから現れた職人。お爺さんだ。


「わしはバリウス。フェンエフィー家の先代様…つまりギブ様に拾われて早40年。そろそろ歳じゃけど、新しいことしてみたいんじゃ。勇者様の置き土産を形にできるかもしれんというだけで、若くなった気分じゃわい」


「へえ、ご存知かと思いますが、ミヤフィです。魔法器械開発者です。魔法器械コンペで優勝したのでお呼ばれしました」


「ほぅ、その歳でか。こんなちっこいのに大したもんだの! とにかく、楽器について教えてやろう!」


 ミヤフィはバリウスの案内でフェンエフィーの工房を見学することとなった。初めに連れてこられたのは倉庫。木で作られた棚に、大理石のような石材やカエデのように見える木材、何らかの動物の皮、そして魔石。


「へぇ~やっぱりいろんな材料があるんですね~!」


「そうじゃろ! マシュロだけでなく、ミリシアや獣人国連合(ビスト・ユナイト)、そしてあの天空共和国(エアロ・リパブリック)からも取り寄せてある。ミラディアは仮想敵国じゃが…音楽は世界を繋ぐ!」

「それはそうですが…」


 否定はしないミヤフィ。ミリシアは最近まで住んでいたのでイメージがつくが…正直地政学の本は真面目に読んでいなかった。マシュロとミリシアしか知らね〜!!という気持ちになっていた。


「で、なんで楽器に石を使うんですか?」

 ミヤフィの常識、つまり地球では石を使った楽器はほとんどない。少なくともミヤフィは一つも知らなかった。


「おお、これはな、土台じゃ。土台を石にすると、何故か音が良くなるのじゃ」


「へぇ…てっきりボディ部分かと思いましたよ。すみません。材料の次は、加工部屋じゃなくて完成品が見たいです。楽器の種類を知らないので」


「そらそうじゃ。まだ4歳じゃっけ? こっちこっち」

「よろしくお願いします」


 バリウスに案内されてきたのは完成品倉庫。さまざまな楽器が綺麗に整頓されて並んでいる。きちんと調湿された倉庫は、出来立ての楽器を熟成させ綺麗な音が出る様に仕上げる場所でもある様に見える。


「いっぱいあるがの…これが一番古い楽器と言われている『パル太鼓』じゃ。作りかけじゃからの、裏はまだ皮が張られておらん」


見せられたのは打面に対して胴が非常に分厚い太鼓だった。

「なんか分厚いような…あれ、皮もよく見たら分厚いですね」


「これぐらいが普通じゃよ。叩いた時の音の残響感、そして強度。皮の張りが強いから分厚くないといけないんじゃ」

 トン、トン、とミヤフィはボンゴのように手で叩く。たしかに面の張力は高いようだ。


「次はの…世界で一番高価な楽器、『家オルガンコンストラクション・オルガン』じゃ。まあ、ここにあるのは部品なんじゃが…」


馬鹿でかい石造のパイプだ。

大地(エルド)属性の魔法で作り出した筒状の岩の中に大空魔力吹子(クラウダふいご)で風を送り出すと音が出るんじゃ。岩は長さを変えれば音の高さも変わる」


「へぇ…笛は機能するんだ…大空魔力吹子(クラウダふいご)ってどれくらいの風を送れるんですか?」


「浴びてみるかの? 音楽家は魔力が高いとは限らんでな。演奏が続けられるように出力は小さいんじゃが、音は大きいもんじゃ」


 バリウスは建造途中のフレームから吹子を取り出して魔力を込める。ミディアムな長さのミヤフィの髪を少し後ろに靡かせる程度の弱風が吹いた。アルトサックスどころかソプラノサックス、ソプラノリコーダーでも音が鳴るかどうか怪しいレベルの風量だ。某先生の空気砲なら手のひらサイズかそれ以下である。


「え、こんなもんなんですか? これでさっきの音量が? あー、ポールが弾いてくれたんですけど」


「管楽器に必要な出力なんてこんなもんじゃよ? さて、楽器はこんなもんじゃな。次は鈍器じゃ。ヴァイオリンの解説はいるかの?」


「うーん、お願いします」


 ヴァイオリンだけが楽器ではなくなる理由を知るためには、比較するのがちょうどいいだろう。バリウスが取り出したヴァイオリンは、2個目に作ったものらしい。形はしっかりしているのだというヴァイオリンは、滑らかな流線形と艶やかな塗装により美術品のようだった。音が出ないためにただの置物に甘んじているが。


「前の勇者様は刃物使いでの。どこに仕舞っておったのか、色んな刃物を自在に使っておった。これは彫刻刀だーやら、曲線カンナだーやら、刃物をたくさん取り出しつつ加工しておった。ほれ、持ってみ」


 ミヤフィは鈍器と呼ばれていたヴァイオリンを受け取る。持った瞬間、手が上に跳ねてしまった。鈍器と言われていたので重いのかと思っていたが、なんのことはなくヴァイオリン程度の重さだったからだ。

肩に乗せて顎をつけ、弦を弾いてみる。バァン!と音を立てて、音は一瞬で消えた。


「ヴァイオリンなんだけどなぁ」

「初見で勇者様と同じ持ち方をした…? 本当は知っておったのか!? まさか!?」

「い、いえ。レスさんに仕事の説明を受けた時に実演してもらって…」

「おお、そうじゃったの。そのために来たんじゃからな!」


 納得してもらえたようだった。バリウスは口が固い方には見えなかったので、邪推で余計な疑惑を浴びずに済むようだった。異世界人は勇者の確率が高いらしいので。


 しばらく弦を弾いたり引っ張ったりしたが、起こった現象は同じだった。


「そういえば、弓はないんですか?」

「弓? なんで武器なんかいるんじゃ?」

「……はっ!? いや、なんでもないです」


 一応、ヴァイオリンについては知らないことになっているので。ミヤフィは口をつぐんだ。


「うーん。バリウスさん、全然音の原因が分かりませんが、ヴァイオリンに関しては大体わかりました。後の実験は部品が届いてからにしましょう」


「そうかの。じゃあ、他の楽器を見て回るかの」

「お願いします! …その前に、追加でレスさんに頼む物が増えたので、伝えてきますね」





「全然……ッ! 分からんッ!!!!」

 ミヤフィは帰宅後、ディナーの席で叫んだ。ヴァイオリンの話になっていた。本日のメニューはオムレツと蒸しサラダと


「ミヤフィでも分からないの? あの爆音ヴァイオリンの謎は」


「いや全然分からないんだよ! 勿体ぶって頼んだ品物もヴァイオリンの弓だし! 馬の尻尾! 松脂! 後一応弦の基本振動の実験セット!」


「基本振動の実験セット…後、弓ですか。案外、弓で解決するかもしれませんね」


「音が出続ければ爆音はしないのかも!」


「うーん、すごい汚い音が鳴りそうだしなぁ。そもそも指で弾いた時の挙動が違うので…多分、地球とは物理法則が違うんですよ…試さないと分かりませんね」


「普段は全然そんなの感じないんだけどね〜」


 キーナは床をドンドンと踏み鳴らした。


 下からコンコンとノックが返された。「ごめーん!」


「おや、地球とエルデの土の踏み心地は同じですか?」

「確かに同じですね。なんでだろう。足音だって《《爆音じゃない》》し…そこに道筋があるかも」


「本当!? わたし、天才かも!」


「とはいえ契約は放課後だけ。明日は休日ですし、何か別のことをした方がよろしいかと」


「そうですね〜。何がいいかな」


「ミヤフィ! 私自己顕現の練習したい!」


「するって言ってたね。私も一緒に?」


「うん! ミヤフィならきっとすごいのできるよ!」


「そうかな? やってみるかなぁ?」


「ダメです」

「「え」」


「えではありませんミヤフィ様。魔法器械コンペでもそれなりの量の魔力を使ったでしょう。足がまた動かなくなりますよ」


 ミヤフィの膨大な魔力量のせいで、魔法を使うたび魔法回路を無限に成長させようとした身体が運動機能を後回しにする症状。神経を()()()()()()ようなその症状。魔法を使う際、特に痛みがあるわけではないのでミヤフィは完全に忘れていた。


「そうでした。…何をしましょうか」


「残念! じゃあ、私は先に覚えるわ!」


「キーナさんには私が手解きいたしましょう。ミヤフィ様は…実は、既に予定を手配しています」


「そうだったんですね! 何をするんですか?」


「ミリシア帝国軍遊撃歩兵中隊で、ブートキャンプです」

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