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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
二章 魔力の奔流の入り口にて
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身の振り方にも気を使う

年齢間違えてました。五歳→四歳です。

 今後の話をする前にこれまでを振り返ったリタだが、だからといってこれからどうするかを思いついた訳ではなかった。それでも交渉は自分がやるべきかと考えたが、ミヤフィはまだ四歳だが二十三歳だから大丈夫だろうと、ゆっくり考えることにした。


 目の前にいるのはマシュロ共栄国の皇帝だ。マシュロは数十年前に王政からの政治改革を行っている。国民の中から大選挙区と比例代表制で選出された27人の議員により統治されているが、書面上は皇帝および皇族の命令ということになっているという、実に日本に近い政治機構を有した国である。

 ちなみにミラディア教によって統治される神聖ミリシア国は『教皇』『高位司祭』により運営されている。


「まずは、この国が貴女方をどう扱おうと考えているかをお話ししましょう。私は政治を考える人ではないので、隠し事はしませんから安心して下さい。これは国の最上層が決定した事ですから」

 二人はそれを聞いて嘘の可能性があると気付いたのか、少し身構える。だが嘘をつこうとする人は油断している相手に対して自分が嘘を吐く可能性を提示することはないだろうとすぐに考えて安心した。

「ダールグリュン嬢には学校に通って頂きたい。我が国最高峰の魔導学校『ウィンカイル』へ。ミラド最高峰にはまだ敵いませんが、書籍が充実していていい学校ですよ」

 そう言った後、皇帝は二人をちょいちょいと手招きして、実際は魔導学校とは名ばかりの、軍事学校なんですけどね、と耳打ちした。今のは扉の外にいる者には聞かれてはいけないのだろうか、そうミヤフィは想像して、心の中で皮肉を言った。

「(余計なことは話せないということ、つまりこれは日本で言う国事行為扱い・・・こんな子供相手に大変だな、皇帝陛下様も)」

「そしてクァルテットさんはダールグリュン嬢と()()()学校に通って頂いて、従者学を研究して貰いたく思います」

 リタが従者学を学ぶという事はメイドを研究する事と等しい。

「やります」

「早いよ!?」

「・・・あ、すみません」

 相変わらずリタのメイドへの意欲は凄いなあと感心するミヤフィ。同時に呆れてもいる。リタは隙あらばメイドについて考えていることを彼女は知らない。仮に知っていたとしても止めることは不可能であるが。

「リタもこう言っている事ですし、学校には行こうと思いますけど、その後も何かあるんですか・・・ああ、軍事学校だから私もリタもいずれ戦いに参加することになるのですね」

 当然軍事学校の下りは小声である。

「そういうことになります。私は貴女方のような可憐な女性や子供を戦いの手段にすると言うのは非常に悲しいですが、政府が決めた事なので言わざるを得ないのです」

「あら、御世辞もご上手なのですね」

「そんな事はありませんよ」

「(ここまでお約束)」

 アルテミアとシルヴィアの娘なのだから、可憐なのは当たり前だ、とミヤフィは思った。世辞に張り合う必要は全く無かったが、彼女にとっては必要な事だった。その場に流されないための批判的思考のトリガーとなるのだ。

 部屋が和やかに数瞬の沈黙に包まれた後、皇帝が口を開いた。

「それで私たちの、実際私の意見は全くありませんが、提案を受け入れて下さりますか?」

「そうですね、もし受け入れなかったら?」

 これもお約束である。

「それは私も心苦しいですが、クァルテットさんはともかく、ダールグリュン嬢は勇者です。我が国とすれば、利用しない手はない。最悪奴隷封印して弱体化してでも戦力にしようとするでしょうね。彼らなら」

 つまり強制的に従わせる用意があるという事である。そして自分が勇者召喚に関係していることがバレているということでもあるが、未だに勇者であることを実感するようなチートは持ち合わせていなかった。となると抗うことは不可能になってしまうかもしれないので、ミヤフィは盤面をひっくり返して相手にとって最悪なパターンだと思われることを訊いた。

「それでも逃げたら?」

「・・・殺しに来ると思いますが、貴女方と戦うとなると損害が大きくなる可能性が高いので実際どうなるかは分かりませんね」

「そうですか」

 ミヤフィは手を顎に持っていった。

 今皇帝が言った事を纏めると、提示を受け入れた場合、自分達はこれから学校に通い、卒業すれば軍人にさせられる。受け入れなかった場合、なんらかの方法で無理矢理服従させられるか、殺される。これはどうやっても御免被りたい。

 そしてやはり自分には勇者という肩書があって、それが他人からすれば色々と利用したいピースなのだということも分かった。今自分には使える魔法がない。オダワラは何とか運が味方して(位置エネルギーで)倒せたが、今度はそうはいかないだろう。


 ならば、どうにかこの会話の終着点を出来るだけ自分に不利にならないようにしなければならない。それならまず、自分が何を目指すのか、自分はこの世界でどうやって、どんな風に生きていきたいのかを考えなければならなかった。今は四歳だが、前世では高校二年でやっと考え始めた事で、決まらないまま考える機会を失ったことである。

「(宇宙に行きたかったな・・・とりあえず望遠鏡作るか・・・いや今はそんな場合じゃない! ・・・この世界でやりたい事ってなんだろう。魔法の研究? 確かにやりたい。でもそれだけ?)」

 これまで聞くところでは、やはり自分には勇者という立場があるらしい。地球の文献から察するに勇者というのは特大戦力だ。本当にそうかはまだよく分からないが。味方にしたいし、敵にはしたくない。だから敵になると判断したミラドからは追撃を受けたし、マシュロから逃げるとしても同じ事になるだろうと皇帝も言っていた。ならば平穏に生きるためには受け入れるしかないのだろうか。

 だがそれは軍人になるということで、軍人になるのはは何となく嫌だ! とかつて日本に住んでいた彼女の二十三分の十九が訴えているような気がする。公僕になるならせめて命の危険がない研究者とか先生等がいい。実際他人の為に命を捧げるなんて出来そうにないし、したいとも思わなかった。

 不利な交渉、ほぼ恐喝だと思いながら、どこか落とし所はないか少しだけ考えて。

「(他人の為に命を捧げる・・・?)」

 糸口が見つかった。



「そういえば、〈冒険者〉という職業があるんでしたよね?」

「はい。この世界には人間と戦う以前の問題で、魔物との戦いがありますからね。大きな街道は古代の魔法器の力で何とか繋がってますけど、魔物が増えすぎるとそれも破られる事がありますからね。魔物が生まれやすい〈魔界(ダンジョン)〉での魔物討伐や、そこから漏れ出した魔物討伐、様々な依頼の達成での報酬を主な収入源にしています。他にも危険な地域での物資調達などを、国に所属しないで行っているそうです・・・もしかして冒険者に?」

「聞いたところそれが良さそうですね。冒険者をしながら、その学校に通う事にします。これならこの国が非常事態のとき戦力になれて貴方方の期待に応えられますし、無理に束縛される事も無さそうですしね」

 そもそもミヤフィは異世界に興味津々だった事を先のトラブルで忘れていたのだ。折角二つの世界を生きるのだから、二つ目くらいはいずれ世界巡りをしたい。だから命は他人に捧げるのではなく自分の為に使いたい。危険なのは嫌だが、ここが落とし所だと思った。

 その場での決定権を持たないはずの皇帝は、提案を蹴られたにも関わらず満足げに大きくうんうんと頷いた。

「なるほど、それならば私達と貴女方の両方に不利益になる事は無さそうですね。冒険者なら、何もしなくても問題を解決してくれる。危険な任務で万が一貴女を再起不能にさせても国が責任を取られる事はない、全てはお金で解決出来る、それが利点ですからね」

 これなら大丈夫でしょう、と言って皇帝は人を呼び、状況を説明する。文官のような人は話を聞いて苦い表情を見せたが、渋々了承した。

 ミヤフィ達に向き直った皇帝は、良好な関係が築けそうで良かった、どうか命を大事にして下さいと言って、挨拶とともに部屋を後にした。


「まさか首相の言っていた通りになるとは・・・」

 ドアを閉めさせた後の皇帝のつぶやきは、二人には聞こえていなかった。周りの兵士たちは皇帝のその雰囲気から、交渉がうまくいかなかったのではないかと勘繰ったという。



 それからミヤフィ達は兵士に連れられて近くの冒険者会館に向かった。荷物は途中で適当な宿屋に預けてある。

「で、一等兵の・・・ペンペンさん、身分証明と事情説明、お願いしますね?」

 先導する兵士は長い赤髪をお団子にしたそばかすのある女性である。

「分かってます! それより私はペシュトロミレイアで、ペトロでいいですってこれ五回目ですよ!」

「ミヤフィ様、人の名前はちゃんと覚えて下さいね?」

「はーい」

 そんな確認をした後、数分位して冒険者会館の前に到着して、ミヤフィは口をあんぐり開けて驚愕した。

「え・・・冒険者会館って、こんなのなんですか!?」

 見ると立派な木造建築である。建て付けもしっかりしていて、丈夫そうな建物だ。看板も、人族語で『冒険者会館』と書いてあり、丁寧な装飾がなされている。中では光魔法の照明が眩しすぎない程度に輝いていて、景気がいい。だが。

「そうですよ。これがこの都市にある冒険者会館です。格を表すグレードで言えばBらしいです、この国の前線ですからやっぱり立派ですね。自分は使わないから分からないですけど」

「それは凄いです。軍がしっかりしている証拠ですね。ですがそれでは冒険者の仕事は取られてしまいます」 

「そいつは悪い事をしますね」

「「はっはっは!」」


「いや、小さ過ぎだろっ!?」


「そうですか? ミラドではこの半分でしたけど」

「いやいや、冒険者が集まる場所といえばもっと大きくて酒場があって素材の搬入口とかランク別窓口とかあって、もっと大きいやつでしょ!?」

 そう、小さいのである。大きめに見積もってバスケットボールコート一面分程しかない。ミヤフィの期待もあって、北海道の残念スポットのようだった。

「はあ、何を言っているのかよく分かりませんが、ここが冒険者会館です。早く入りましょう。貴女方の登録が終わったら仕事終わりなんです。良い店を知っているので、一緒にお食事でも行きませんか?」

「いいですね、ミヤフィ様、行きますよ」

「・・・はい」

 残念な気分で、一つしっかり構えられた窓口へ向かった。

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