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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
二章 魔力の奔流の入り口にて
27/66

常に研鑽を忘れないメイドの鑑

言い忘れてましたがなろうコンにも無事落ちた事ですし練習も兼ねて文体が三人称になると思います。(もうなってる)

おつきあい下されば幸いです。

 どうしてこの子はこんなにもしっかりとしているのか、いや、精神年齢的には私と同じくらい・・・年上なのだ。

「そうですね! 最期に見る表情が涙だと可哀想な気もしますよね!」

「うん!」

 リタとミヤフィは互いの涙を拭った。それからしばらく馬車から啜り泣きの音が聞こえた。





 落ち着いたところで、リタは訊いた。

「ところでミヤフィ様。黒野雅という方に心当りはありますか?」

「へ・・・あ、はい。私です。見たんですね」

 何故ここで自分の話になるのかミヤフィには分からなかった。だが、自分が見たのと同様にリタも自分の記憶を見ているので、何か引っかかることがあるのだろう。

「そ、それで、あの、ですね・・・?」

「はい?」

 ここでリタは深呼吸をした。とても深い。

「えっと」

 さらに深呼吸をした。リタがここまで緊張するのは珍しい。「一体何を訊きたいの?」と興味を持って少し前のめりになった。どの記憶に興味を持ったのだろうとリタの口元を見ると、口は「め」の形に開いているように見える。


 そうとなれば。

「(メカトロニクスか! だったらいいな、教えられるし! そうだよね、魔力なしであそこまでの文明を築いたんだから気になるよね! 洗濯機とか凄いもんね! 絶対興味あるよ!)」

 大きく息を吸ってうまく呼吸を取ったリタはそして尋ねた。


「メイドを私に教えて下さい!」

「・・・え?」

「ですから、メイドを教えて下さい! 前世で過ごしていたところに『メイド喫茶』があったじゃないですか!!」

 ミヤフィは前世でメイド喫茶に行った事は無いはずである。そういった文化にも興味が無かった。何せ物心がついた時からパルクールが出来そうな建物を見ると「あの建物あそこから登れてあっちから飛び移って近道出来そうだな」だとか、メタルかアニソンを聴いてコピーしたり、ラジコンを分解したり、メカトロニクスなどを考えたりしていた。だからメイド喫茶には興味が無かった。存在は知っていた。

「だけど、メイド喫茶に行った事なんてないし、それに私の知ってたメイドなんてにせもの・・・」

「嘘だ! だって通ったじゃないですか! 『アキバ』でメイド喫茶の横を! 興味津々で見てたじゃないですか! ちょっと位知っているはずです!」

「あっ」

 確かに秋葉原には行った。だがーー

「そんなところまで記憶に残ってたのか、楽しい旅だったけど、メインは電気街だったのに」

 少ししか意識していなくても、楽しい事は覚えているものである。

「それでミヤフィ様、今度から師匠と呼ばせていただいても良いでしょうか?」

「だめですよ! 私はメイドの事なんて全然分かりませんよ! リタさんはもう大体完璧じゃないですか!」

「大体ではだめなんです! 貴女にお使えするのですから!」

「そ、そんな事言ったって、メイド喫茶の前を通っただけだし・・・」

「ですが知識はあるはずです! さあ、教えて下さいまし!」

 リタの圧倒的な勢いにただただ押されるミヤフィ。仕方がないので数少ないメイド知識を引っ張り出し始めた。

「メイドは今のリタさんみたいな仕事をしていて、リタさんみたいな格好をしてます、多分。言葉遣いも・・・多分リタさんと一緒です。使っている言葉が違うので本当のところは分かりません」


 リタの表情が露骨に暗くなる。

「あ、そうだ。主人のために戦闘したり謀略を打ち破ったりしてたなあ。なんでも出来る感じ」

「本当ですか!? それなら私は、間違ってなかった・・・」

 一瞬で暗くなったり明るくなったり忙しいな、と思いながら、「もう知っている事は無いの」と告げるとまた暗くなった。

「そうですか・・・残念です」

「ごめんね?」

「はい、大丈夫です・・・ですが師匠と呼ぶ話は無しでお願いします」

「あ、はい」

 さらにテンションが下がっていくリタ。落ち込みすぎて次第に彼女の中の魔力もどんよりしてきたように感じた。

「そういえば、ミヤフィ様。私の記憶はどれ位見ましたか?」

「・・・悲しい所だけ」

「悲しい所・・・?」

 リタは首をかしげた。

「そうですか・・・では十歳位からしか見ていないのですね」

「え?」

「え?」

 どうして齟齬があるのかミヤフィにはわからなかった。ミヤフィが見たリタの記憶では明らかにリタは幼少期に辛い経験が集中していたのだが、リタからするとそうではないようだ。

「だってリタさんは小さな頃から過酷な訓練をさせられているじゃないですか、継母からのぎゃくーー」

「そんな事記憶にありません!」

 リタは語気激しくミヤフィの言葉を遮り否定した。だがミヤフィは本当にリタの記憶を見たのである。一瞬たじろいだが、すぐに理由を探し始めた。

「(記憶が無い? 小さい頃、十歳まで位しか見てないから全部は分からないな、リタさんの記憶からして辛いことだらけだったはずなんだけど、忘れてる? それに本人にも分からない感情の昂り、PTSDの一種か? ・・・なら変に刺激しない方がいいか)」

 ここで話が拗れると面倒な事になるかもしれない。オダワラはもういないとはいえ他にも追っ手はいる可能性もあるし、リタが、表面上は分からないが非常に弱っていて発作か何かで危険な状態になる事もあるかもしれない。

「そうですね、メイドのあの事件は辛かったですよね」

「ありがとうございます。今は辛くないです。もう平気ですよ」

「それは良かった」

 そう言いつつも、ちっとも良くないと思うミヤフィだった。






「それで、これからどうしましょうか」

 最後まで荷物を片付けた後、ミヤフィは訊いた。先程の邪属性で馬が衰弱していたため目的地の隣国までたどり着けなさそうなのだ。そしてリタもミヤフィも魔力切れで回復が出来ない。再び進行し始めるのに二日はかかる感じがしていた。

「寝るにしても無防備になり過ぎますし、二人で番を回すにも体力が残ってないですからね」

「食事をするにしても匂いで魔物が寄って来るし、回復の手段が乏しいですね」

「取り敢えず馬には食べ物をあげましょう」

 リタはジンニンを取り出して馬にあげた。やはり弱っているのか、食べる速さが遅い。だが尻尾を振って喜んでいるようだ・・・とミヤフィが思ったのも束の間、彼は糞を撒き散らし始めた。

「うわっ、こんな時にウンチしちゃうの!? 呑気なやつね!」

「ミヤフィ様、淑女がウンチなどと口に出すものではありませんよ?」

「そっち!? でも大丈夫よ。私貴族を捨てるから! そうね、大商人の娘に仕えてると思ってよ!」

 アルテミアから身の上話を聞いた時、ミヤフィは考えた。ダールグリュン家に対する恩給の事である。

 アルテミアは貴族にさせられたが、恩給があったとは一言も言っていない。貴族としての仕事が無かったから当然なのだが、それでは日常生活での支出が増えるのみで、ダールグリュン家側に全くメリットが無い。そこで盤をひっくり返して考えると、国が考えた『綺麗な』成長のさせ方の全容が掴めた。

「国はダールグリュン家を破産させて、ダールグリュン家に勇者・・・でいいのかな? である私の養育能力が無いと国民に見せつける事で世論を味方につけながら奪うつもりだったんだと思う。そして物心のつかない子供だと舐めてかかった私に情けの無い親だと教えて国の言う事を聞かせようとしたんだと思う。だけどパパはそれをひっくり返した。お金の力で。どうやって稼いだかは知らないけど、だから、大商人なんだ」

 リタはミヤフィの考察を聞いて大いに納得した。

「でしたら尚更言葉遣いは気を付けてください。娘の言葉使いが悪いと知れたらお客が離れて行きますよ!」

「は、はい・・・」

 その後ミヤフィは無茶苦茶言葉使いを直される事となった。眠いのに。

 小一時間後。

「・・・ですよ、分かりましたか?」

「・・・はい」

「では次からはこちらを使うように」

「ありがとうごさいまひたぁ〜」

 そう言ってミヤフィは眠ってしまった。戦闘の緊張と魔力切れの疲れで限界だった。

 あらあら、と言いつつも毛布を掛けるリタ。その目に母性が宿り始め始める瀬戸際に近づいていた。結構遠い。

 リタもこのまま眠ってしまってもいいような気がしたのだが、よく考えるとここはまだミラド領である。先程クッキーを一枚食べたリタであるが、魔力は未だに聖属性『軽癒』を使うのには届いていない。

 そこで馬の自己治癒力に相談する事にした。

「お馬さん、元気ですか?」

「フーッ!」

 さっきよりは元気そうである。

「いや、もう快調ですね。元気になるの速すぎませんか?」

「ヒヒン!」

 前脚をあげて力強さをアピールする馬。

「しかも賢い・・・」

 はぁ、とため息をつくリタ。下を見ると糞が散らばっている。

「なっ、糞に邪属性魔力を逃したの!?」

 今度は馬は返事をしなかったが、得意げな表情をしている気がした。

「じゃあ国境位は今日中に越えられそうですね。もうひと頑張り、お願いね」

 リタに撫でられて満足そうな馬は、リタが馬車に乗ったのを確認すると走り始めた。

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