49、アイドルなら別れなきゃ
会社を出た俺は、家に帰るとすぐに風呂場に直行した。
汗臭いシャツ脱いで、シャワー浴びるとTシャツとチノパンで決めて、マッツーに乗り込むとマリンの家に向かった。
マリンの浴衣姿は見てるけど、なんだかドキドキする。
あいつは浴衣がよく似合う。
とてもキュートでミステリアスだ。
大通りから路地に入り角を曲がると、家の前で待っていたマリンが、俺が贈った朝顔模様のうちわを振った。
あれ? 下駄を履いてる。
おおおおお、可愛い!!
「雅史! 久しぶりい! 」
靴の入った小さなバック抱きかかえて、俺が送った巾着バックを使ってくれてる。
「ほら! この巾着袋可愛いよね、普段使いしてるんだ。
ほんと嬉しい! ありがと、チューしていい? 」
「駄目だ! チュー禁止! ほら、ちゃんとシートベルトして。」
真っ赤な顔で、チューは拒むしかない。
だってほら、隣の隣のおばさんが、やっぱり玄関の影から見てる。
マリンが手を振ると、嬉しそうに振り返した。
「あ、おばちゃんに写真撮ってもらったの!
もー可愛い可愛いって、いっぱい撮ってもらっちゃった。」
「へえ、ちょっと仲良くなったんだ。お父さんは? 」
「パパりんはバンドの練習〜 お小遣いと晩ご飯代に5千円も貰っちゃった! 」
「露天で無駄遣いするなよ、それじゃ軽くハンバーガー買って行こうか。」
「うん、モスがいいなあ。」
「それじゃ途中のモスに寄っていこう。」
シートベルト確認して車を出して、会場近くの駐車場目指す。
マリンとはこの4日ほどLINEで話すだけで会ってなかったから、その間の出来事を機関銃のように話し始めた。
「でねー、パパりんと一緒にぃ、ダンススタジオ通ってるの。
もうね、楽しいんだ!
きちんと教えてくれるから、あー、ダンスってこんなに楽しかったよねって感じ!
中3から通ってたとこ、何かね、あまり楽しくなかったんだ。
でもこの辺、ダンス教えてくれるとこがなかったから、とにかく基礎だけやっておこうと思って。
でも、それが良かったみたい。先生に凄く褒められたんだよ! 」
「ダンスか〜、俺にはよくわからん世界だなー 」
「あったり前だよぉ、踊ることに興味ない人の方が世の中じゃ多いもの。
でもさ、ほんとムカつくぅ! パパりんのダンス、ゲロ上手いの。
あいつ、家族放って、あの先生のとこに通ってたんだって、だからママ逃げてったんだよ。
許してやんない! 」
まあ普通、36でデビューとか考えないよなあ。
引退ならうなずく年齢だもん、でもやっぱさ、あのカラオケボックスで見たのは凄かった。
はああ、俺なんで動画撮らなかったんだろ。
「でね……
ねえねえ、アイドルってさ、良くない? 」
「でもお父さんがアイドルって、普通おかしいだろ。アハハ 」
「そうだよね! ねえねえ、じゃあ僕がアイドルになったらどうする? 」
「ははっ、バーカ。ファンと結婚するってんなら、俺とは別れるしかないだろ。」
「そっか〜 」
やだあ!って、笑うと思ってたら、スベった。
マリンがラジオ付けて、FMを聞く。
丁度アイドル特集をやってた。
「じゃあさ、この人たちファンと結婚したんだね。」
「そうだなあ、アイドルなら特定の誰かとお付き合いしてるなんて致命的だろうなあ。
まあ、俺の考え、昭和っぽいかもしれんけど。今はどうなんだろ?
アイドルとか、あんま気にしなかったからわかんねえや。
モス、着いたぞ、ドライブスルーでいいだろ? 何がいい? 」
「うん! 僕は野菜バーガーと混ぜるシェイクがいいかなー 」
注文して、出来るの待ってると、やっぱりミカエル様の曲がかかる。
横でマリンが、振り付け真似して手だけで踊り始めた。
「ねえねえ、モデルだけはいいよね。」
「え? 何が? 」
ニッコリ、満面の笑みで首を傾げた。
可愛い! 今日はナチュラルメイクだ。俺の好きに、ちゃんと合わせてくれる。
俺って愛されてるっての、めっちゃ感じる。
「だから〜、モデルなら彼氏いてもいいよね! 」
「そりゃ、モデルは結婚しててもいいだろ、別に。
着せ替え人形みたいなもんだし。」
マリンがいきなりいや〜な顔した。
「うわ〜、偏見〜
着せ替え人形だって、誰でもなれるわけないんだよ〜 」
「そりゃそうだろ。モデルなんて選ばれた人間の1人みたいな物だし。
一目で憧れ感じるような発信力が無いと、商売にならねえよ。」
「やだあ、サラリーマンみたいなこと言うんだから〜 」
「サラリーマンだからな! 」
バーガー受け取って、食べながら会場に向かう。
俺はシンプルなホットドッグ頼んだので、あっという間に平らげた。
「着物汚すなよ。」
「うん、大丈夫。」
「モデル…… 話があるの? 」
「うん、僕、あの事務所と契約したんだ。」
「 …… え?! あの事務所と? あそこ、歌手が契約するとこだろ?
な、なんで? 歌手になるの? 」
「違う違う、あの事務所が窓口になって仕事が来るんだって。
それがさ、顔かくしてプロフ写真撮ったんだよ? モデルなのに、パパりんが顔出しNG出したの。」
「え〜? そりゃあ仕事来ないだろ? 」
「それがね、来たんだよ。
今度、ブランドのメゾンで招待客の前で新作発表会があるんだって。
その、ポスター撮り。
まだ、歩きの練習してないから、写真だけでもって。
何かパパりんのファンの人みたい。」
ミカエル様のファンか〜、それって…… 息子であれば、誰でもいいような……
「へえ〜〜〜、 嫌じゃないの? 」
「なんでもいいや、とにかくワクワクしてる。どんな服が着れるんだろうって。」
「へえ、納得してるんなら、そりゃあいいんじゃね? おめでとう。」
キャッと、やっと声上げて笑った。
「ねえねえ! おめでとうのキス! 」
なにいっ!
「キスは駄目だ! んー、なんか買ってやる。」
「え〜〜〜〜、イケずゥ〜〜 」
チュッと、キスを飛ばしてきた。
わああああ! 駄目だ、落ち着け、前を見ろ!
ふう、汗拭いて無心で運転する。
でも、ちょっとナーバスに見えたの、初めての仕事だからかな?
でもなんだか、
違う世界で、
マリンが遠くならないといいな。
俺はちょっぴり、そんな心配が心に浮かんだ。




