3.ロゴマーク
あれから私達は昼食後、休憩もそこそに色々と決めて行った。店のことだけが仕事ではない。
園遊会の出席者の選定、各部署から出してきた案の詮議。「皇家お料理番」提出メニューの確認に至るまで。
開墾状況は概ね良好で、開墾作業をした者にはその一部を自分の物にしてもよいと法を改めた結果だ。
年貢を取るばかりでは民はついて来ない。かと言って多くを与え過ぎると、これまた問題が起きる。
桜の紋章のデザインが完成した。
「素敵!」
「これなら皆納得すると」
デザイン画を描いたのは勿論、光様だった。
少し紫掛かった薄紅色とラベンダー色が混ぜ合わせたような色した、桜の花が一輪。
私は殿下にもう一つお願いをした。
「こんな感じか?」
「そうそう。そんな感じです! 流石殿下!」
そう、ロゴマークだった。
凛花の「R」を左右対象に重ねたブランドロゴ。金の文字を「桜」の横に小さく入れる。
この世界にはない私のルーツをほんの少しだけ残したかった。
「これ良い! 絶対売れる!」
惟光様はロゴマークが気に入ったようだ。
桜の花はあくまでも看板として掲げ、全ての商品の何処かにこのロゴマークを入れることにした。
ここに「凛」ブランドの誕生の日だった。
ただ、これは安価ライン。
私が本当に目指すのは「RIN・SAKURA」こと「凛・櫻」の設立だ。
偶然なのか、必然なのかは不明だが、私の彼方の世界での本名は「櫻井凛花」だった。
「この意匠さぁ、大量に作ってみないか?」
殿下がまた、とんでもないことを言い出す。
『え?』
「鍍金で良いから、安価で沢山作り、それを色々な物に付けたらどうだ?」
「色々とは?」
「巾着や、簪、髪飾りや帯留め、まあそれに直接組紐通すとかな。お前が言う「小物」に付けて売るのはどうだ? 手拭いのような物には直接刺繍でも良いがな」
まさに私が思っていたことだった。
では!
「ならば、最初からこの意匠柄を染めた布地を作りたいです!!」
「なるほどな。そうきたか!」
その布を使って、大判の手拭い。そうスカーフ! や、鞄、他色々な小物。
将来的には町着も!
「ならば、帯自体も作ってみては如何でしょうか? 桜柄に意匠をいれたり、小さな意匠だけの物など」
「宣。お前にそのような感性があるとはな」
とりあえず、今日決まったことを支宣様がメモに書き取り、明日から早速発注作業に動いてくれることになった。
「ところで、明日の謁見の準備はもう万全なのでしょうか?」
私は思い出したようにたずねた。
『・・・・』
「籠の手配は? 兄様?」
「宣がしたかと思い……」
只今の時刻、夕方16時の5分前。
私達に定時など関係ないが、各所の定時は16時である。
「行ってくる!」
そう言って、急いで兄は走って部屋を出て行った。
「別に歩いて行けばよかろう?」
光様が支宣様に向かってニヤニヤした。
「わたくしは、問題ありませんが、凛花様も歩くのですか?」
「凛花は俺の馬車を使えば良いだろう?」
『ありえません!!』
馬屋の予約の必要ない馬車は宮殿内には何台かある。皇族が使用する馬車は、宮に備え付けで常にあり、専属の馬番が365日馬の世話をしている。何時でも馬車を出せるし、乗馬も出来るように万全体制を常に整えている。そもそも殿下が狩りに出かける際に使用する馬屋もある。
馬の鞍には御印が掲げられる。当然馬車のキャビンにあたる部分には豪華な装飾が施され紋章が刻まれている。ただ、馬車も数種類あり、お忍び用に使う簡素で小さめな物も存在する。以前に皇太后陛下に謁見に行った際に使った馬車はこのタイプのいわば、お忍び用の華美な装飾はなく、小型タイプの物だった。
ただし、それはあくまでも殿下も同乗したから使用したまでの話だ。
今回は殿下は同乗しない。
「ん? 凛花を送って行っても良いぞ? なんなら外で待っててもよいが、多分帰りは鈴蘭殿が手配してくれると思うが? 凛花の分だけはな」
「いりません……」
私は丁重に断った。
──ガチャリ。
「間に合ったーー」
惟光様が戻って来た。
「空いていたのですか?」
支宣様が兄にたずねた。
「いや、一台しかなくてだな……流石に同乗はなあ?」
と、殿下の方を惟光様が見た。
一瞬殿下の眉毛が少しあがる。
「もう一台はうちのを手配したよ」
そうだった。最近忘れかけていたが、目の前に居る兄弟もやんごとなきお家の坊ちゃんだった。
毎日もっとやんごとなき御方を見ているので、その高位さが霞んで見えていたが、当代きっての名家のご嫡男とご次男様であった。
「うちのを二台出しても良かったけど、それだと目立ち過ぎるだろうしなぁ」
そう言って苦笑いした。
「うちのに、凛花様と結を。名目は「園遊会開催の案内」を私の遣いで御届けすると言うことで報告書を提出する。護衛はうちの私設の者になるがそこは問題ないかと」
中将大臣家の公用車を皇太后陛下の宮殿へ。となると、流石に変な勘ぐりをされることもある。それを避ける為の口実だった。
「あの娘が付くならまぁ問題なかろ」
先日、軍のトップクラスとも言える武人達と互角に剣術を披露した上、早朝の鍛錬にも毎朝参加していると聞く。
あの娘は何処を目指しているのだろうか……
「一応、宣にもご縁をつけとけ」
「殿下……」
支宣様が、殿下の顔をウルウルして見ていた。
忠犬ハチ公とはこのことか?
「少しで良いぞ? 少しでな?」
そう言って殿下は窓の方にくるっと向いて、私達に背を向けた。
当日は、支宣様の籠の周囲にも主の命令で殿下の影が複数つかず離れず付いたことは、皆も知っていた。
素直じゃないんだから。




