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12.私のための舞台

今回で、第一章完結になります。

引き続きよろしくお願いいたします。

 ──あっと言う間に日が暮れて、すでに辺りは暗くなっていた。

 凛花の教育はまだ続き次はテーブルマナー。食事の際の作法となった。

 これには多少手こずってはいたが、そこは初々しさと及第点とされた。


 時折、光君のところに支宣が衣装の相談にやって来ていたが、その他は特に大きな問題もなく粛々と「お目通りの日」に向けて準備がされていた。



「なぁ? これって準備する必要あるのか? するとしたら衣装だけだろ? 支宣が頑張る話で凛花はもう良くないか?」


「……殿下」

「そうは申しましても、相手はあの御方、何が隠れているか……」

「かつての主のことは貞舜がやはり一番知っておるな」


「念には念を。必ずやお眼鏡に叶う淑女に仕上げさせて頂きます」

「頼んだぞ」



 ◇


 ──それからは、あっと言う間だった。元々三日しか無かったので、あっとも、そっともないのだが。

 私は朝から念入りに湯浴みをさせられ、髪に香油を塗られ、身体にも香を纏わされ。

 朝から人形のように次は此方へと、幾度も手を引かれた。昼食も早々に切り上げられ、今は顔に白粉をパタパタと。


 そんな私に同情した母様が小さな丸いおにぎりを私に差し出した。


「母様! ありがとうございます!!」


「あ、凛花様! 動かないでくだいませ」


 このパタパタ隊は、急遽、中将様のご実家からお借りして来た方達だった。

 私には侍女という者など存在しておらず、仕方なくお借りした。

 湯殿は急遽だったので、光様の宮の湯殿を特別に御借りした。


 光様の侍女衆の睨みをできるだけ気にしないようにしていたら、中将様の侍女衆と入り口で無言の対立が繰り広げられていたことは、敢えて光様には言わないでおこう。


 そんなこんなでパタパタが終わり、紅を引かれ、髪に簪を。と、侍女殿が用意していると、母様が声をかけて来た。


「本日は此方を使うようにと、仰せです」


「こ、これは……」


 鳳凰の銀細工に、綺麗なりんどうの花を模した宝珠。アメジストとは違い、濃い紫がかったサファイヤだった。鳳凰の目にはピジョンブラッド。最高級のルビー。


「これって……光様の?」


「では、お着替えを凛花様」


 光様が無理難題を申しつけて支宣様を半泣きにさせて作らせたと聞いた衣装が、今朝やっと届いたのだった。


「間に合わなければ切腹を命ずるあいつ!」とイライラしていた光様を皆がなんとか抑えていたのが、なんとかギリギリ間に合って皆安堵した。



「きれい……」


 思わず私は声が出た。


 薄紫の上掛け打掛にはりんどうの花と、透け模様の鳳凰が番いで舞う。下衣の銀絹衣の上に重ねると鳳凰が優雅に舞っているようだ。

 差し色に桃色の襟、若草色の蔓のような刺繍が襟には施されていて、ところどころにアメジストが埋め込まれていた。打掛の上に白いショールのような薄い絹地をもう一枚重ねる。とても小さなビーズのようなアメジスト、ブルートパーズ、ローズクオーツ、金糸、銀糸の刺繍、金粒、銀粒が無数にちりばめられていた。


 これだけの物をあの短時間で用意したことに驚くのと、この衣装を用意するに値する「会」なのか、と私はちょっと躊躇した。


 そんな不安な顔が悟られたのか? 光様が私の手を握り言った。


「全て俺に任せておけば良い。皇太后に何か言われて困ったら俺の方を見れば良い。安心しろ。お前は何も考えずとも良い。そのままのお前を皇太后に見せたらそれで良いのだ」


「行くぞ」


 そう言って光様は少し強く私の手を引っ張った。

 でも嫌な感じは無かった。


 光様は濃い紫の上衣と同色の袴姿だった。いつもと違い少し地味と言うか清楚な印象だった。

 背には、りんどうの花の紋様と、私の衣にもある番いの鳳凰。ただ一つ違うのは、私の衣の鳳凰とは違い、透かし模様ではなく、はっきり見える銀糸の鳳凰だった。


 髪は束ね烏帽子を被り、簪は竜胆(りんどう)の意匠だった。



 二人で座る馬車の中、非公式のお忍びでの移動のため、用意された馬車は小さめのものだった。

 ()()()()()()緊張するなと言うほうが無理である。

 近い、近すぎて逆上せそう。

 改めて見ると、殺人的な美しさだな。

 普段なら心地よい伽羅の薫に、今は酔いそうだ。


 御所通りを抜け、そのまだ奥にある離宮へと馬車は向かっていた。

 緊張感で先程食べた「おにぎり」が逆流しそうなぐらい胃がキリキリ軋む。

 緊張の最高点に達しようかとした時だった。


「凛花、押し倒していい?」


「……殿下、殴りますよ?」


「少しは和らいだか? そんなに緊張せずとも別にとって食われる鬼ではないのだから」


「それは分かっておりますが……」


「案ずるな。普段のままのお前で良い」


 馬車に揺られながら、あまりの緊張と、昨夜殆ど眠れなかったせいで気持ち悪くなりかけていた私に対しての精一杯の気遣いだろう。

 私は隣に座る、このやんごとなき御方に先程からずっと握られている手を、振りほどけないでいた。


 香瞬皇太后陛下の離宮前で馬車は静かに停止した。




 ──さぁ、決戦のはじまりの刻だ。


 人生には何度か強い緊張感に襲われる時がある。

 一回目の()()には私は押しつぶされて負けてしまった。


 短時間ではあったが、やれることは全てやった。失敗を恐れる必要はない。

 だって、私にはこんなに頼れる人達がいっぱい居るのだから。

 あの時の一人ぼっちでの戦いとは、今の状況は全く違う。


 そう、私は一人ではないのだ。


 同じ失敗はもう二度と繰り返さない!


 そう心に誓い、私は背筋を真っ直ぐ伸ばし舞台に上がった。


 ──あそこは私のために用意された舞台なのだから。





 第一章(完)
















次回からは、いよいよ第二章へ。


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