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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
序章 出会い編 (人物紹介が主になります)

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3.就職

 ──この世界に来てもうすぐ1ヶ月が経とうとしていた。道の脇にある桜の木の蕾の先が少しづつ膨らみはじめていた。


 あのまま日本に居たらどうなっていたのだろう?

 私は浪人し、再度あの大学を受験したのだろうか? それとも私立大を受験したのだろうか?

 どちらにしても私の望んだ就職先は政治の世界。その補佐をする官僚になることだった。


 だから今のこの就職先は、私の希望通り? いや、それ以上だ。

 私は手に握った上質な紙に書かれた、均整の取れた美しい文字をもう一度見る。


 ──右の者を「政務秘書官」に命ず

 一等秘書官 官位 「少将」に任ずる


 右上に書かれてある名前を確認する。


「政務秘書官ー凛花殿」


 少将って他に何人居るんだっけ?? 

 大臣政務官と同等??


 嘘でしょ……


 ポッと出の新人ですよ? しかも昨日まで飯屋でアルバイトしていた小娘ですよ?

 そんな娘が政策を考えたり、時には上官にアドバイスしたりするの?


 いや、ナイナイナイ。 絶対ナイカラ! ありえないカラ。


 再度、紙に書かれている役職と名前を確認する。


「政務秘書官─凛花殿」


 自分の置かれている状況になんだか目眩がしてきそうな感じだった。

 私、大丈夫かしら?






 ◇






「おめでとう! 凛花殿! ささ、何突っ立っているの。早く中に入って。さあさ、ここが今日から君の執務室だよ。後ほど「政務部」の皆にも紹介するから。とりあえずは入って入って」


 そう言って、ちょっと早口でそして明るく笑顔でトイプー、いや、私の上官になる「中将様」に背中を押され部屋の中に入った。



「やぁ。いらっしゃい」


 華やかな聞き覚えのある鈴の音がする方へ私は視線をうつす。


 ──菩薩様?

 後光が射して見えた。


 艶やかで、さらさらの御髪が陽の光を浴びて紫色に輝き、遠くから見ても分かるきめ細かく、抜けるような白い肌にすーっとした高い鼻。紫かかった綺麗な瞳は宝石のように煌めいている。


 その瞳に覆いかぶさるように伸びた長い睫毛は綺麗な流線を描いている。

 艶々の唇はほんの少し紅色に染まっているように見えた。



 ──まさにそれは女神降臨の瞬間だった。


 これが人間? 

 息を飲むような、まるで絵画のような美人様が、にっこり微笑んだ。


()()()()、よろしくね?」



 私、息している? 生きてるよねぇ? 

 先程とは違う眩暈がしてきた。


 このまま帰って良いですか?

 とは、流石に言えない。


「今上帝の()()にあたる光潤(こうじゅん)殿下であそばされる。但し、御尊顔を直接拝謁出来る者は宮殿内に務める極一部の者だけになる。普段は宮様や、殿下と御呼びするのは控えるように。ましてや御名を御呼び出来る者は皇族と、その御縁者のみであることを忘れなきように」


 ──「はい」


「失礼ながら、質問をよろしいでしょうか?

「なんだ?」 

 中将様が少し眉尻を上げて私に短く言った。

「では、何と御呼びすれば宜しいのでしょうか?」


 確か今「これから」と言ったような……

 と言うことは、今後またいつか? お会いすることもあるか? と危惧して恐れ多いとは思いつつも勇気を出してたずねてみた。


 だが、暫くの沈黙の後、中将様は少し困ったような顔で、後光が射す方に身体を向けた。


「うーん? 光潤で良いよ?」


 おい! 今言ったろ! 皇族かその親戚以外は本名で呼ぶなと!

 だから、聞いたんだろ! 殿下も駄目、宮様も駄目! ならどうしろと?


「……殿下」


 おい! 殿下は駄目なんじゃないのかよ! 

 私は、反射的にトイプードルを見た。


「どうしましょうかねぇ? ふふふっ惟光(これみつ)よ? でもこの話をする前、そもそも私が立つ話が出た時に「殿下」の呼び名は使用許可が出ていたと思うがな?」


「左用では御座いますが、では「大公殿下」では如何でしょうか?」

「……長いよ。それじゃあ惟光。 光で良いよもう」

「殿下!!」


 少し浮世離れした雅なこのやんごとなき高貴な御方は扇子で扇ぎながら、ニコニコとしていた。


 その後一時間以上かけて、ああでもない。こうでもない。と三人で話合い「光の君」で落ち着いた。


 当の本人は「もう何でも良いよ~~」とケラケラと鈴の音が転がるような声で笑っていた。


 ──かの有名な美男子物語「光源氏」から拝借したのはナイショだけれどね……

 彼方みたいに、恋多い気男性(ひと)でなければ良いのだが。


 まぁ、()()()の方は私には関係ないか……






 ◇






「ほら、早く! 次行きますよ? 凛花さん!」


「ま、待ってぇー。右大臣様ーー!」


 ゼェハァ、ゼェゼェ、ハァハァ…………

 ヅカレタ シンドイ……

 てか鬼か! 

 優しそうな温和で気遣いできるイケメン?

 騙された……


 出勤二日目の今日、私は自室の執務室に入ると同時に、直属の上司であるこのイケメン男、いや、脳筋男に手を引っ張られ、猛ダッシュで宮殿内にある各省を引き摺られながら周っていた。


 この人、私が女だってこと覚えてる? いや別に女性だからって特別扱いして欲しい! なんて言ってないですよ? 100メートル走全力走りを、休憩無しで何本やらせる気ですか?


 殺す気でしょうか? 



「あ、ちょっと疲れた? 少しだけ休憩する?」


「あーでも、昼までに挨拶周りは終わらせときたいんだよね。午後からは早速積み重なった仕事がたっぷりあることだしなぁ」


 今なんつった? 少しだけ? 休憩? 積み重なった仕事? たっぷり?

 もう全力ダッシュの刑が始まってそろそろ1時間ですが? 

 体罰か何かでしょうか?


 そりゃあそうですよねぇ? 何処の馬の骨かも分からない小娘、しかもド平民の小娘が、いきなり国のツートップ様、しかも源を辿れば皇族のお血筋の御方の補佐官。そりゃ、いじめたくもなりますよねぇ……



 嫌なら嫌ってはっきり言ってくださーーーーーい!!



「おいおい、惟光君や。凛花は女()ですよ? いくら利発とは言え、君の体力と運動神経に付いていける訳なかろう?」



 ──神の降臨!


 本物の神様が来られたのかと思うぐらい、この時は心から嬉しかった。


「あ、そうだった……すまぬ。俺としたことが……凛花さん」



 昨日の「名前決め」会議からなんとなく三人の? 距離が近くなった? ようで、右大臣中将様は私のことを「凛花さん」と呼ぶようになった。そしてあの、やんごとなき御身分の御方も「凛花」と名前で呼ばれていることに先程気づいた。


「光様!」


 そして私も「光の君」とお呼びしたり「光様」となったりと、それは「惟光様」も同様だった。

 私達三人だけの時は、互いにお互いの名で呼ぶまでの仲になっていたことに、今気づいたのだった。


 あれ? でもさっき一文字変な文字混ざってませんでしたっけ? 光さんや?


「児」って言いませんでしたっけ? こう見えてわたくし18歳で御座いますのよ?


 私は、無意識に目線を下に向け、自分の低い二つの丘を見た。

 丘? いや草むら?


 ──いいもん。大器晩成型だもん! うん。きっとそう。


「ごめんって。凛花ちゃん。ほら、甘いものでも食べよっか? ほら、少し休憩しよう? 少しね? ほんの少し」


 私がずっと俯いていたら、トイプーが機嫌を取って来た。

 それにしては「少し」を強調しすぎじゃないかい? にいさんや。

 私達三人は部屋に入り、おやつの時間にすることにした。


 今日のおやつは光様が持って来てくださった焼き菓子だった。


 皇弟である殿下には、毎日10時に宮殿内の「皇族専用御料理番」が手作りする「御菓子」が出されることになっていた。「お菓子」は10時と3時の1日2回必ず出されるしきたりだそうだ。


 ただ、この「お菓子」……正直あまり美味しくないんだよなぁ…。

 上品な味には仕上げてはいるんだけれど。華やかさに欠けると言うか味もイマイチで。


「饅頭」や「煎餅」、「焼き菓子」に「飴」等が「おやつ」の定番らしい。

「饅頭」はともかくとして、「焼き菓子」は正直ボソボソしていて、美味しいとは言えないような……


 ──ケーキ食べたいなぁ。プリンや、ゼリー。


 アフタヌーンティー! 


 なんと素晴らしい響き! 私って天才じゃない? 

 此処は何処? そう宮殿です!



 宮殿のティタイムと言えば! 

 アフタヌーンティーでしょうよ! 

 何で今まで思いつかなかったんだろ?



 そうと決まれば、ゆっくり座ってお茶を啜っている場合じゃないわ!









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