3.美女と野獣
「こんにちは」
「凛花ちゃん、ごきげんよう」
「女将さん、凛花さん、こんにちはー」
時間が昼時となり、午前の修練を終えた武官達が続々と店の中に入ってきた。
夫婦が営む料理屋「一休」はあまり大きな店ではない為、身体の大きな男子が数名集まると、むさくるしい、いや……ちょっと窮屈に感じる。四人掛けのテーブルが四つとカウンターに四席程座れるところはあるが、それでも次々とやってくる、立派な身体をした脳筋共……若い男子が陣取ると、ちょっと免疫の無い私はたじろぐことがある。
「おい! そんな大きな声を出すな! 凛花殿が驚いておるではないか!」
店の入口辺りから、怒号のような大きな声が聞こえた。
いや、あんたの声が一番大きいですから……
『大尉!!』
先程まで、ガヤガヤとしていた、店の中が一瞬で静かになった。
「あらあら、これは珍しい、左膳大尉様」
そう言いながら、女将さんが濡れた手拭いを持ちながら、大声の主の所へいそいそと近づいた。
「これはこれは、お久しゅう御座います。貞舜様」
「左膳大尉様、その呼びは……」
「これはすまぬ。お内儀殿」
貞舜とは、女将さんの「女官」時代の「呼び名」であり、女官を退官し市井に下がった女将さんは、今は皆が「女将さん」と呼んている。「女官」としても高位であった女将さんに対して、本名である「貞子」と呼ぶのは流石に無礼であると暗黙の了解だった。「舜」の字は、先の皇后陛下「香瞬皇后」より拝名した名だと言うから流石に驚いた。
女将さんて何者?
何でそんな御方が、熊なんかと? 熊と何処で知り合ったの?
熊の何処が良かったんだろ?
色々と? なぞの多い夫婦である。
「ん?」
熊がこっちを見た。
本当に鋭すぎる! 絶対こいつは敵にすまい。と、私は密かにこの日誓ったのだった。
「凛花ちゃん。どう? ここの仕事は?」
温和で心地よい響きの声がする方を見る。
「いらっしゃいませ。ちょっと狭いですが、此方へどうぞ」
私は長身の茶髪巻き毛のイケメンに、にっこり笑い、席へと案内した。
彼は、武官達の中では先程の「大尉」様に次ぐ「大臣中尉」だった。
「大尉」様と違い「大臣」も付くのは「官位」と呼ばれる物であり、この国には二人しか存在しなかった。左大臣の位置にある「太政大臣宰相」と目の前にいる「右大臣中将中尉」中尉は軍部での階級呼びである。
では、どちらが偉いか? と言われると、階級、官位、発言力を考えると、この茶髪巻き毛のイケメン君だろう。「大尉」は名誉職にも近く、退役前の年配の軍人がつくことが多いと聞いた。
太政大臣が官僚の最上位、内閣総理大臣に近い存在とするなら、右大臣中将は、武官の総取締役にあたる。大尉はあくまでも軍の最高指揮官に過ぎない。




