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はじまりの刻 ~Shall we sweet?~  作者: 蒼良美月
第一章 出会い編
21/33

21.薄紅色の君

 ──「ご飯」を披露してから数日経った。最近の宮殿内の食事事情は以前と比べかなり変わった。


 まず一番に変わったのは、一日の食事の回数だ。

 以前はこの世界では昼、夕の二回が主流だったが、それを朝、昼、夕の三回を()()とするよう皆に提唱して行った。

 特に、若者達や、肉体労働をする者には「朝食」は大変重要である。

 どうしても2回しか摂れないなら、昼、夕より朝、昼にするべきである。


 そして主食は「粥」ではなく「ご飯」を食するようになっている者が増えつつあった。

 宮廷内の「食事処」も朝定食を始めたからだ。

 新メニューの導入も順調に進んでいて、「食」に関しての問題点はかなり解決に向かっていた。


 あとは、新しいスィーツの開発! そうプリン以外の新メニュー。


 ゼリーにしましょうか? フルーツ大福や、杏仁豆腐、いちご飴に、バターたっぷりの焼き菓子?

 どれから始めようか? とワクワクしていたら、隣の部屋のドアが開いた。


「おはよう。なんだか楽しそうだねぇ?」


「おはようございます。光様」


 今日も今日とてお美しい御姿ではいらっしゃいますが……。

 流石にドア一枚隔てて、皇族の部屋があるのは些か如何なものかと。


 皇族の部屋と言っても「資料室」であって、()()()光様の執務室と寝所は廊下を隔てて庭の橋を渡った所にあるのだが。

 其方には、光様付きの侍女衆や、護衛衆、支宣様はじめ、側近の方の執務室、客人を招く応接室や、会議室、宴会も開ける大広間等もちゃんと作られてある。


 なのに、この御方と言えば──


「また、其方で休まれたのですか? ちゃんと寝所に戻って寝てくださいよ? また、抗議の書が殺到するではないですか」


 私はちょっとキツ目にこの雅な出で立ちの御方に説教をした。


「だって、此処のほうが良く眠れるんだから仕方ないじゃないか」


 むすぅっと膨れっ面の殿下が少し幼く見えた。


 殿下が寝所ではなく「政務秘書官室」の直ぐ隣にある「資料室」に篭もり、そこで寝泊りする度に、殿下の周りの方々から、中将様宛の「大臣箱」に苦情の書状がくるのだ。


 この御方の行動には困ったものだ。


 それ以外では、仕事は早いし、決断力、判断力、行動力、理解力全てにおいて右に出る者は居ないぐらい聡明でいらっしゃるのに……。


「凛花~~手伝って~」


「……またですかぁ?」


 最近の光君は、甘えんぼうさんなのか? 朝の着替えの手伝いを所望してくるのが日課になっていた。


 やんごとなき御方の為、着替えを自分でしないのは理解できる。でも()()を担当する侍女はちゃんと()()()いるのだ。殿下に言うと、「だって凛花のほうが着付けが上手だから」と言って笑って誤魔化されたのだった。


「今日は何方のお色にされますか?」

「凛花の好きな方で構わないよ?」


「分かりました。桜の蕾も膨らんで参りましたので、今日は薄紫の上衣に襟は薄桃を差しますね」

「流石は凛花だね。あ、同じ色の衣が凛花もあったろ? 今日は凛花も()()にしなさい」


「え? でもあれは正装用でして」


「構わんよ。そうだ。今日は弁当とやらを持って、花見に行こう!」


「え?」


「貞舜に弁当を頼もう!」

「ならば、惟光様と支宣様にも声掛けしましょう」


「うーん。仕方ないな。二人が良かったんだけどなぁ……」

 そう言って光様は私の顔を見ながら、そっと私に顔を近づけた。


 …………。

 私は思わず俯いた。


 何? 今の?


 心臓が跳ね上がるぐらい鼓動が早くなった。赤くなった頬を誤魔化す為に咄嗟に咳払いをして、何もなかったかのように、目の前にいる御方の帯を結んだ。


「ありがとう。凛花、そこの鏡台にある小箱を此方へ」


 ?

 着付けが終わり、光様が指差す小箱を手に取り渡そうとすると、光様が耳元で呟いた。


「開けてみなさい」


 え? 私に?


 和紙で出来た綺麗な箱を開けると中には、桜の花びらの形をした、薄紫と桃色の帯留めが入っていた。そして、それとお揃いの桜を模した金の簪が一緒に入っていた。


「これを?」


「いつものお礼だよ。さあさ、花見に出かける準備をしないとね?」


 そう言って光様は颯爽と部屋から出て行かれた。


 これって……物凄い高価な物よねぇ……。

 以前に戴いた髪飾りも丁寧な銀細工だったけれど、()()のレベルではないぐらい豪華な物だと言うのは、宝飾品に疎い私にも分かる程の物だった。


 アメジストとローズクォーツに桜の花びらのを一枚一枚丁寧に彫り、縁どりに金と銀を使い、桜の芯は立体的にガラス細工でできている。組紐をあしらえ可憐だけどとても上品な逸品だった。


 何か私も殿下にお返しをしないといけないかしら?



 薄紅色の衣の背を見ながら、鼓動が早くなった自分に、首を横に振り平静を装った──。





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