2.古絵巻へ
それから私は、私の拾い主より色々とこの世界のことを教わった。
どうやら此処は「日本」ではないようだ。
服装は、平安時代のソレともちょっと異なり、どちらかと言うともう少し西国寄りに近かった。顔立ちは多少似ているが、それも少し西国風だ。
手足が長く、男女共に比較的背が高い。
悲しいことに身長の低い私は、拾い主に最初「童子」扱いされた。これでも一応、齢18になるのだが。
時間や通貨の単位はあまり大差なく、これには有難かった。識字率は低く、私が読み書きが出来ることに拾い主夫妻はたいそう驚いた様子だった。何なら計算も暗算でできますが? とは流石に空気を読んで言わなかった。
「凛花~そこの茶を悪いけど、あちらにお願いしていいかい?」
「わかりました」
私はにっこり笑って、髭面の大男に答えた。
私はこの主に拾われて居候をさせて貰っていた。この夫婦は小さな小料理屋を営んでおり、子の居なかった夫婦は私に「自分の家だと思っていつまでも居てくれて良いんだよ」と言ってくれた。
が、流石に一文無し、職無しの身でずっと居候させて貰う訳にはいかない。
この地に慣れる為にも店の手伝いをさせてもらうよう願い出た。
そんな慣れない私の手伝いにも、嫌な顔ひとつせず、おまけに給金までくれている。
本当に親切で優しい夫婦だ。
そんな髭面男と、綺麗な女将さんを見ていると、少しセンチメンタルな気持ちになった。
「お母さん、お父さん……元気にしてるかなぁ」
「凛花、少し奥で休んだらどうだい?」
遠い世界にいる両親に思いを馳せて少し淋しい気持ちになったのが顔に出ていたのか?
柔らかで優しい声の女将さんが私に言った。
「ごめんなさい。大丈夫です」
私は直ぐに作り笑顔を繕い、普段より少し高い声で答えた。
◇
「こんにちはー」
「いやぁ。今日も散々だったなぁ」
「ホントにこれじゃぁ午後からの訓練が思いやられるな」
「はぁ…」
『いらっしゃいませー』
女将さんと私は声のする方へ向き、にこやかに中へと案内する。
宮廷に仕える武官達だった。
「どうだい? 凛花ちゃん、もう慣れたかい?
「今日のおすすめをお願いするよ」
「俺もそれでお願いします」
夫婦が営む小料理屋は宮廷の武官達の訓練場を出た門の直ぐ目と鼻の先にある。
それゆえ、こうして昼、晩と客には困らない。
都と呼ばれるこの町には、所謂「天子様」こと帝がお住まいになる「御所」と主に政を行う場所「内宮」と高官達の屋敷や、診療所などの国直轄の機関が配置されている「外宮」がある。「外宮」の範囲内に店を構えることが出来るのは、国からの許可を得た特別な者だけであった。
その「特別」の権利をこの夫婦はお上から許されていたのだ。
なんでも、この綺麗で柔らかな声の主の女将さんは、元「内宮」で高官に仕える「女官」だったそうだ。
どうやら市井に相応しくないぐらいの美人だと思った……
何でこんな美人が、熊男、いや、…髭面の大男なんかと結婚したんだろう?
髭面がこっちを向く。
「何か言ったか? 凛花?」
「!」
熊男は鋭く察しは良いのだ。動物的カン? とも言えるのか? 目と耳が四方八方にあるのではないか? とたまに思うことがある……
「ん」
私は伏し目がちに首を横に振った。
目は口ほどに物を言う。と…
顔に出てたのかしら?
そんな私を熊男、もとい、主殿は見て「ニカッ」っと大きな身体を揺らしながら笑った。




