1.プロローグ
※久しぶりの新作です。
思いのまま書いたご都合主義なところや、矛盾点が多くありますが、あまり気にせず軽い読み物として読んでください。
※最初は人物紹介が主になります。二人の恋愛話は第二章「薄紅色の君」辺りから展開します。前置きが長く不要な方は、飛ばしてその辺りからお読みすることをお勧めします。
いつもと同じ朝。
いつもと同じ天井。
いつもと同じ窓から見える風景。
両親がいつもと同じように「おはよう」と言う。
が、いつもと違い明らかに余所余所しく空気は張り詰めていた。
私はその空気に堪えられなくなり足早に学校へと向かった。
◇
「あ、おはよう!」
いつもと同じ教室。
いつもと同じメンバーが、いつもと同じタイミングで朝の挨拶をしてくる。
だがやはり此処でもその声は余所余所しくいつもと同じではなかった。
イタッ!
ピンと張り詰めた空気の中、ほんの少し動くだけで頬にスゥーと切り傷が入るような感覚。手足が硬直し、ひんやりした汗がしたたり落ちたような錯覚に陥る。
指先の感覚が徐々に薄れていくのが自分でもわかった。
──ハァ、ハァ、ハァ……
呼吸がうまくできない。あれ? 呼吸って?
どうやって息を吸うんだっけ?
「キャァ!!」
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
「誰か! 誰か来てーーー!!」
◇
いつもと同じ朝。
いつもと同じ天井。
いつもと同じ? 天井?
天井………
いつもと同じじゃない!!
同じじゃなーーーいい!!
いつもと同じ窓から見える風景。
無い!
え?
なーーーーーーーい!
窓の外にいつも見えていた高層建造物群や無数に広がる道路と車が消えている。
え?
何処ここ?
イタッ! 驚いて立ち上がると低い天井にドンッと頭をぶつけてしまった。
痛ったぁ……
あまりの痛さに先程までのモヤっとしていた躰の怠さと眠気が一気に吹っ飛んだ。
ベッドが違う───
長年私が愛してやまない我が寝床は、無垢材で出来たきれいな木目のベッドだった。
ふわふわの柔らかで軽く、それでいて暖かい羽毛布団に包まれてベッドの上でゴロゴロ回るのが大好きだった。至上の幸福な時間。
何これ?
硬い古ぼけた木だけが大きな石の上に乗っていて、申し訳程度の薄い布きれが敷かれてあるだけのベッド? のような物。
部屋は薄暗く、殺風景だ。
でも私が一番驚いたのは、そこではない。
眠気が覚めた目を見開いて、窓の外を再度凝視してみる。
───平安絵巻? 源氏物語?
仮装行列? にしては町の風景や建物に至るまで、あまりに精巧すぎる。
それに今は3月である。ハロウィーンにしては滑稽だし、新入生歓迎会の花見にはまだ早すぎる……
今日って何かのお祭りの日だっけ?? ひな祭り? ではないし??
ここって一体何処??
何処ですかああああ!!
一応自分の足元恐る恐る見てみる。
自分が居るのが、あの世ではないことだけは確認出来たのだった……
◇
それから私は、私の拾い主より色々とこの世界のことを教わった。
どうやら此処は「日本」ではないようだ。
両親が営む店の前に倒れていたらしく、店主が保護してくれたそうな。
なんと親切な方々だろう。
変な人に拾われていなくて良かった! と、心から安堵した。
それは不幸中の幸いではあったが……
問題はそこではない。私ってもしかしてこれタイムトラベラー? あ、違うか? え??
これってもしかしてアレ??
うそぉーーーーん!!
勉強ばかりしていた私にとってそれは、科学や物理では証明出来ない現象ではあったが、何故か大学に落ちた衝撃からか? もうどうでも良くなったからか? 新しく生まれ変わったような気持ちがして、パニックになるかと思われたが思いのほか素直に現状を受け入れていた。
何となく、新しい自分に憧れていたのかもしれなかった。
周りの同年代のキラキラした子達の楽しそうな会話やファッションなどに。
自分では絶対に体験できない憧れの世界に、私は触れる機会を得たような錯覚を抱いていた。
私が拾われた世界は、服装は、平安時代のソレともちょっと異なり、どちらかと言うともう少し西寄りに近かった。顔立ちは多少似ているが、それも少し西寄り風だ。
手足が長く、男女共に比較的背が高い。
悲しいことに身長の低い私は、拾い主に最初「童子」扱いされた。
これでも一応、齢18になるのだが。
何故こうなったか? は色々考えてみたが答えなど出る訳もなく、かと言って時が来れば当たり前だが腹も減る。「働かざる者食うべからず」である。
赤の他人。しかも何処の馬の骨かも分からない小娘を善意で拾ってくれた方々に、これ以上迷惑を掛ける訳にはいかなかった。
◇
「凛花~~そこの茶を悪いが、あちらにお願いしていいかい?」
「わかりました」
私はにっこり笑って髭面の大男に答えた。
そんな髭面男と、綺麗な女将さんを見ていると、少しセンチメンタルな気持ちになった。
「お母さん、お父さん……元気にしてるかなぁ」
「凛花、少し奥で休んだらどう?」
遠い世界にいる両親に思いを馳せて少し淋しい気持ちになったのが顔に出ていたのか?
柔らかで優しい声の女将さんが私に言った。
「ごめんなさい。大丈夫です」
私は直ぐに作り笑顔を繕い、普段より少し高い声で答えた。
◇
「こんにちはー」
「いやぁ。今日も散々だったなぁ」
「ホントにこれじゃぁ午後からの訓練が思いやられるな」
「はぁ…」
『いらっしゃいませー』
女将さんと私は声のする方へ向き、にこやかに中へと案内する。
宮廷に仕える武官達だった。
「どうだい? 凛花ちゃん、もう慣れたかい?
「今日のおすすめをお願いするよ」
「俺もそれでお願いします」
夫婦が営む小料理屋は、宮廷の武官達の修練場を出た門の直ぐ目と鼻の先にある。
それゆえこうして昼、晩と客には困らない。
都と呼ばれるこの町には、所謂「天子様」こと帝がお住まいになる「御所」と主に政を行う場所「内宮」と高官達の屋敷や、診療所などの国直轄の機関が配置されている「外宮」がある。
「外宮」の範囲内に店を構えることが出来るのは、国からの許可を得た特別な者だけであった。
その「特別」の権利をこの夫婦はお上から許されていたのだ。
なんでも、この綺麗で柔らかな声の主の女将さんは、元「内宮」で高官に仕える「女官」だったそうだ。
どうやら市井に相応しくないぐらいの美人だと思った……
何でこんな美人が、熊男、いや、…髭面の大男なんかと結婚したんだろう?
髭面がこっちを向く。
「何か言ったか? 凛花?」
「!」
熊男は鋭く察しは良いのだ。動物的カン? とも言えるのか? 目と耳が四方八方にあるのではないか? とたまに思うことがある……
「ん」
私は伏し目がちに首を横に振った。
目は口ほどに物を言う。と…
顔に出ていたのかしら?
そんな私を熊男、もとい主殿は見てニカッと大きな身体を揺らしながら笑った。
「こんにちは」
「凛花ちゃん、ごきげんよう」
「女将さん、凛花さん、こんにちはー」
時間が昼時となり、午前の修練を終えた武官達が続々と店の中に入ってきた。
夫婦が営む料理屋「一休」はあまり大きな店ではない為、身体の大きな男子が数名集まると、むさくるしい、いや……ちょっと窮屈に感じる。
「おい! そんな大きな声を出すな! 凛花殿が驚いておるではないか!」
店の入口辺りから、怒号のような大きな声が聞こえた。
いや、あんたの声が一番大きいですから……
「大尉!!」
先程までガヤガヤとしていた、店の中が一瞬で静かになった。
「あらあら、これは珍しい左膳大尉様」
そう言いながら女将さんが濡れた手拭いを持ちながら、大声の主の所へいそいそと近づいた。
「これはこれは、お久しゅう御座います。貞舜様」
「左膳大尉様、その呼びは……」
「これはすまぬ。お内儀殿」
貞舜とは、女将さん女官時代の呼び名と聞いた。
何でそんな御方が、熊なんかと? 熊と何処で知り合ったの?
熊の何処が良かったんだろ?
色々と? なぞの多い夫婦である。
「ん?」
熊がこっちを見た。
本当に鋭すぎる! 絶対こいつは敵にすまい。と、私は密かにこの日誓ったのだった。
「凛花ちゃんどう? ここの仕事は?」
温和で心地よい響きの声がする方を見る。
「いらっしゃいませ。ちょっと狭いですが、此方へどうぞ」
私は長身の茶髪巻き毛のイケメンに、にっこり笑い席へと案内した。
彼は、武官達の中では先程の「大尉」様に次ぐ「大臣中尉」だった。
「大尉」様と違い「大臣」も付くのは「官位」と呼ばれるもので、この国には二人しか存在しなかった。左大臣の位置にある「太政大臣宰相」と目の前にいる「右大臣中将中尉」中尉は軍部での階級呼びである。
ではどちらが偉いか? と言われると階級、官位、発言力を考えると断然この茶髪巻き毛のイケメン君だろう。
この茶髪イケメン様は、そんなやんごとない身分にも関わらず随分気さくで温和な御方だった。
私のことも、こうして気にかけてくださる。それでいて、しっかり硬派だった。
きっとこう言う方が、どの世界でもモテるのだろう? と、恋愛に疎い私にでも理解できる。
時代は違えど高貴な男性は、万物共有で人気者であると言うことが立証された。
それにしても、みんな背が高いよなぁ……
やはり、ここの常連さんの中でも私のことを子供と勘違いしている人が多そうな感じがする。
みなさん、駄賃にお菓子をよくくださるのだ。
喜んで良いべきか? たまに悩むことがあるぐらいで、比較的毎日平穏に暮らしていた。
お忙しい中、最後までお読み頂き大変ありがとう御座います。真面目で聡明だけど、ちょっと鈍臭い主人公「凛花」と古絵巻の甘い世界を共に歩んで行こうと思います。宜しくお願いします。
活動報告に、簡単な人物紹介を順次載せて行こうと思っています。
良ければ覗いてみて下さい。




