殲滅のマタドール:119話 終幕
『な、何だ!?……』
高速で回転し、破壊光線の中を突き抜けた物体は術式陣の中央を貫通し闘争王の胸へ深々と突き刺さる。衝撃に体をよろけさせながらも、大した脅威ではないと判断した闘争王は尚も世界を滅ぼす熱線で一人の少女を焼き続けていた。
どのような足掻きであっても自分には通用しない、むしろこの一撃を受けている最中であっても反撃を試みた彼女の意志と姿は闘争王の脳裏に深く刻み込まれていた。
『最後に満身創痍となった貴様の姿、俺の瞳に刻ませてもらうぞ……我が愛しの猛者よ。俺の力を前にあれだけの勇ましい言を吐いた貴様が喘ぎながら朦朧とする様は生涯忘れる事は無いだろう……』
サラマンダーは眼前に展開する術式陣を消し、光線を止めた。全てを無に帰す前に、彼女の姿を見たいと考えたのだ。
細めた瞳の先に人影を捉えたサラマンダーは巨大な翼をはためかせ、その人影へと近付いていく。
その姿は痛々しくもあり、そして何よりも美しいと闘争王は鼓動を早めた。
『フ、フフッ……フハハハハハハハハッ!!何と美しい姿だ、アヴェンタドール!!……美しい、実に美しいぞ!!』
体の左半分が溶け落ちた彼女は金色に光るバトルドレスの左側面を損失し痛々しい姿を晒していた。足は焼け落ち、腹部から胸にかけて溶解した外装部分に覆われていた中身が零れ落ちている。沸騰したゲル状の人工筋肉が湯気を立てながらドロドロと零れ、カーボン製の骨格が剥き出しになり火花を上げる。
濁った虚ろな目を向け小さく息を漏らすアヴィは、掠れた声で言った。
「……もう……終わり……だ……」
『ああ、終わりだ……貴様は俺に負けたのだ。だが、悲しむ事も恥じる事も無い。俺は最大限の敬意を貴様に抱いているぞ、ここまで俺を熱くさせたのは貴様が初めてだ……』
「……ちが、う……」
『……何?貴様、何を……』
「……サシャ……の……シチュー……もう、いっかい……たべ……たか……」
そこでサラマンダーは気付く、彼女が僅かに唇を吊り上げて笑っている事に。
そして察する、目の前の強敵は決して諦めておらず……自分を殺す一手を着実に打つ気なのだと。
『む、無駄な足掻きを!!その無残な体でいったい何が出来る!?』
「……もう……おそい……!」
『な、何だと!?貴様はいったい----』
その時、ノイズを激しく走らせたシークエンスが聞こえた。
< 分解用ナノマシン、起動 >
それは巨大な竜を内部から分解していった。肉体が内側から空洞化していく悍ましい感覚に気付いた闘争王は先程撃ち込まれた攻撃を思い出し、既に自分が最後の力を振り絞り放った一撃の餌食となっていた事を理解した。
『な、何だ!?何なのだ!?これはぁぁぁぁっ!?か、体が……俺の、体がぁぁぁあああああっ!!』
「……サ……シャ……わた……し……」
『ふ、ふざけた事を!!貴様、貴様、きさまぁぁぁぁぁぁぁっ!!おいっ、何とかしろ!!俺は、俺はまだ……俺はあああぁぁぁぁああああっ!!』
消滅を覚悟した少女の掠れた言葉と、消滅を恐れる闘争王の絶叫が同時に響く。
淡い緑の発行体は二つの存在をゆっくりと飲み込んでいった。
『俺はまだ死ねないっ!!また、またあの狭い世界に閉じ込められるというのか!?俺はもっと、もっと!!……』
「……わた、し……わたし……ね……」
『俺はもう閉じ込められたくないんだぁぁぁあああああっ!!いやだ、助けてくれ!!この自由な、空に−−−−』
「 ……あなたに…… あえて ……よかった 」
−−−−−
「……お、終わった……のか……?」
鳴り響いていた轟音も、目を焼く様な閃光も収まりアーノルドはゆっくりと身を起こした。そして、その下で同じ様に身を伏せていたギュンターもヨロヨロと起き上がり周囲を見渡した。
「……決着は、付いたようだな……」
激しく咳き込みつつ、彼はゆっくりと室内へ視線を向けると傍で倒れ込む少女に気付いた。そして、フラつく意識の中で必死に足を進めると彼女の肩を揺する。
「お、おいっ!!サシャ!!サシャ!!……」
「サ、サシャさん!!しっかりしてください!!……」
駆け寄ったアーノルドは彼女の首筋に手を添えると、安堵した様に表情を緩め首を力強く頷けた。意識を失っているだけだと気付くとギュンターも大きく息を吐いてその場にへたり込む。
そして、窓へと視線を移した彼は……空に広がる光景を見て思わず声を漏らす。
「……あれは……いったい……」
「え、えっ?……」
アーノルドが顔を向けると、彼も同じ様に空に広がる光景に魅入っていた。
言葉を失った二人が呆然と同じ方向を見つめる中、小さくうめき声を上げながらサシャはゆっくりと目を開く。
「……ん、んん……」
「サ、サシャ!!気が付いたか!?……」
「……ギュン……ター……?」
「……大丈夫だ!もう、終わったよ……何もかも……」
ギュンターはサシャの頬を優しく撫でると、次に彼女が何を聞くのかを予想し……そして、その通りの事を聞かれ目線を逸らす。
「……アヴィ……は?……」
「……っ……」
「……ね、ねぇ……答えて……ギュンター?……アヴィは?……」
だが、彼は答える事が出来なかった。
ただ、体を震わせて……硬く閉じた瞳から涙を零し、唇から嗚咽を漏らしていた。そんな様子を見て嫌な予感を覚えたサシャは体を跳ね起こすと、窓の外を見て立ち尽くすアーノルドへ声を掛けた。
「ね、ねぇ!アーノルドさん!?………アヴィ……アヴィは!?……」
彼は何も答えず……その強面の顔を俯かせた片手で目を覆うと、小さく声を漏らし涙を零す。
そんな彼の様子を見たサシャは……その最悪な予想を更に深めて涙を流しながら外へと飛び出した。
そして、最愛の人が居るであろう空へと目線を移すと……思わず小さく声を漏らした。
「……ア……ヴィ……?」
その薄く暗闇の残る空には……美しく輝く金色の光が広範囲に広がっていた。
まるで、そこで彼女が散って……光の粒子となって漂っている様に……。
頬を涙が伝うのを感じながら、少女は消え入ってしまいそうな声で言った。
「……バ……カ……なん、で……なのよぉぉ……」
そんな彼女の背後に立つと、ギュンターはその命の輝きの様な金色の粒子を見つめながら震えた声で言った。
「……彼女は、命懸けで……っ……守ったんだ!……俺達を、この国の皆を……そして何よりも……大切な君を!……」
「……あ、う、うぅぅぅぅぅぅぅっ!!バカ、バカ、バカ、バカぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!……アンタが死んじゃったら……意味ないじゃない!!せっかく戻ってくれたのに……一言も話せなかったじゃない!!……あ、うぅぅぅゔぅっ!!」
両目を覆ったサシャは涙を指の隙間から溢れさせ膝を突く。そして金色の粒子が輝く夜明けの空の下で喉が枯れるまで泣き続けた。
−−−−−
「こ、この光は……いったい……?」
デュバルは呆然としつつ空に広がる金色の光を見上げて声を出した。不思議な光だった、明らかにおかしな光景だというのに……見ていると心が落ち着くような儚い輝きだった。
目を輝かせその美しい光を眺めるナスターシャの頭を撫でなるデュバルの隣に立ったヨハンは目を細めて言った。
「……きっと、アイツだな……」
「ア、アイツとは……?」
「……苦しむ誰かの為なら平気で無茶が出来るような……そんな……熱い想いを秘めた大バカさ……」
そう語った彼は顔を俯かせると、静かに拳を握り涙を伝わせた。
そんな彼の背中へ、地面に座り込みながら呆れた様に目を向ける女性の弓兵は声を掛けた。
「……どの口で言ってんのよ、アンタ……まぁ、だけど−−−」
そして、顔を空へと向けると緩んだ表情で言葉を続けた。
「……世界を救うのは、そういう大バカなのかもね……」
王都を守り死闘を続けていた彼等は、誰もが輝く空をいつまでも見つめ続けていた。
−−−−−
「……これで、ようやく……ゆっくり休める……」
< はい、貴女の戦争はこれで完全に終わりました。アヴィ…… >
「……よかった……ちゃんと皆を守れて……」
< はい、あの戦闘での地上への被害はありません。全て貴女の計算通り……敵の攻撃が地上に向かないように立ち位置を考え動いた貴女の完全勝利です >
「……サシャ……褒めてくれるかな?……」
< その可能性は恐らく低いでしょう。過去のデータを参照するに、貴女が命を捨てた事に激怒している筈です >
「……あ、あう……でも、ああしないと敵を討てなかったからいいの……。サシャや皆を守れたんだから……」
大きく息を吐き出すと、私はその真っ白な空間で彼と向き合った。
その金色に光輝く小さな球体は、戦闘の際に私に各種の武装を用意してくれたり状況を分析してくれた頼れる戦友……マタドールシステムの学習用AIだ。
完全に分解された私はずっとこの場所に居続ける事になる。戦闘用アンドロイドのアヴェンタドールも、このAIを通して学習された人格プログラムも不要となった以上、私に居場所はここしかない。
だが、少しでも話し相手が居てくれるのは嬉しい……やっぱり一人はちょっと寂しいから……。
「ようやく私……のんびり過ごせるんだ……。でも、何して過ごせばいいんだろう……」
< ネガティブ。アヴィ……貴女にはまだ重大な戦いが残されています >
「……え、えっ?……」
間の抜けた返事をすると、私はある可能性に気付くと表情を強張らせて言った。
「ま、まさか……他にもゲームチェンジャーの生き残りが!?」
< いいえ、それよりも遥かに恐ろしい脅威が存在します。覚悟を決めて下さい >
「そ、そんな……いったいどんな奴が……」
汗が首筋を伝っていくのを感じつつ、私は拳を握り込んだ。
そして、やや間を置いてから彼は言った。
< 貴女が対峙しなければならない脅威……それは---- >
-------
王都全体を恐怖に陥れたクーデター未遂から一か月の時が経過した。
人々は街へ戻っては来たものの、破壊された建物の修繕作業はあまりにも広範囲に及んだ為まだまだ完全復旧となるには年数を必要とした。
そして、王都の象徴でもあったメルキオ帝国の王の住まい……城は半壊した痛々しい姿を晒したままだった。
その無残な瓦礫の山と化したかつての王の住居の前には二人の男が立っていた。
「まったく、普通は真っ先に直すのは国の象徴である城だろうに……お前さんの考える事はほんとによく分からないもんだなぁ……」
傍らに立っていた老紳士は大きく息を吐き出すと呆れた様に横目で隣に立っていた青年を見据える。
その目線に気付いた青年はどこか清々しさすら感じる笑顔を浮かべ老紳士、かつてダムザの最高権力者だったオリバー・クロムウェルへと言い放つ。
「俺としてはむしろスッとした気分ですよ、この城で暮らしてる間は良い思い出なんて全然なかったし……」
「おいおい、その言葉は国王としちゃあどうなんだ?面目とか国家の威厳とか、色々とあるだろうに……」
「そういう貴方だってまるで友達の様に俺にこうして喋りかけてるんだから、国家の面目なんてもんはその程度の事でちょうどいいんですよ……」
「呆れたもんだな……まっ、貴族共はどうかは知らんが普通に暮らす国民からしたらそれぐらい親しみやすい王様のがいいのかもな!」
顔を見合わせた二人はまるで親友同士の様に声を上げて笑い合った。
まだまだ完全復興への道のりは遠いものの、通常に比べ遥かに速いスピードで瓦礫の撤去や建物の修復が進んでいるのは旧ダムザ領が保有していたゴーレムの力があればこそだった。元より考え方も政治姿勢も自分に近いものを感じ取っていたオリバーは惜しむ事なく王都の復旧に全面支援を行うと約束し、こうして軍の人員や予算、必要なゴーレムなどの機材を貸し与えていた。
元独立領として対等な立場を維持し国民感情の不満を押さえ込むという狙いもあったその申し出に、ギュンターは素直に感服し経験豊富な彼を師として仰いでいた。
腕を組むと、ギュンターはからかう様な子供っぽい笑顔を浮かべ隣に立つ彼へと言った。
「それじゃあ人生経験も政治家としての経験も若造の俺なんかより遥かに豊富なオリバー先生に是非御享受して頂きたいのですが!……」
「まったく!そのオリバー先生ってのはやめろっていつも言ってんだろ!……」
その名前で呼ばれる事に抵抗があるのか、不機嫌そうに鼻を鳴らす彼を見て苦笑いを浮かべると……青年は緩んでいた表情を引き締め民の平和を考える為政者としての顔を見せた。
「今回の騎士団の全体的な再編、どう思われますか?……」
「まあ、悪くない……西部と東部、そして王都を守る守備隊の連中を纏めて一つの部隊にするという案は良いと思う。各方面に騎士団が散らばる状況は分裂やクーデターを起こしやすくなる……。今回の王都での守備隊の離脱、そしてクリスティーヌの反乱未遂をよく分析した悪くない手だ 」
「ありがとうございます……という事は、それでどんな点で頭を悩ませているかもご存知ですよね?」
「まぁな……ダムザは元々分裂してた民族同士が内戦を何年もやってた国だからな。やはり最初は苦労するだろ?協力どころかお互いバカにし合ってた連中がいきなり一つの部隊に纏まるんだからな……」
オリバーの指摘はまさに図星だった。大きく疲労感の滲む息を吐き出すとギュンターは言った。
「本当に……毎日トラブルの報告がひっきりなしに飛んできて寝る間もありません。特に王都守備隊と西部国境警備基地の騎士達の溝が埋まらなくて……」
「え、ええっ!?だってあいつらはこないだの一件で協力し合ってたじゃないか……西の大将のヨハン・ガーランドなんてサラマンダーに太刀を浴びせたこの国の英雄だろ?それがどうして……」
「……いや、実は−−−−」
−−−−−−−
「おいっ!!貴様、ナスターシャには近付くなと言ったはずだ!!このケダモノが!!……」
「あぁ?アンタみたいなオッサンよりもアタシみたいなイケてる女にお世話された方が良いに決まってんでしょお?ほらほら、ナスターシャ♡アタシ、ちゃんと使用人服着てきたから♡」
「貴様の様なガタイの女がそんな物を着たところで喜ぶ奴がおるか!!見ろ!!ナスターシャは怯えているではないか!!」
「アンタのデカい声に怯えてんじゃないのぉ?因縁吹っ掛けて喧嘩売る前に声のボリューム抑えろやクソジジィ!!」
「な、何を言うかぁっ!!貴様、それでも騎士か!?今から表へ出ろ!!一人でトイレにもいけないナスターシャにやらしい目を向けるその根性を叩き直してやる!!」
「おーおー、上等だよクソジジィ!!チーズみたいに穴ぼこだらけにしてやるからさぁ!!」
扉の前で聞こえる罵詈雑言を聞いていたその基地の司令官はドアノブを握り締めたまま小刻みに体を震わせると隈の目立つ目を硬く閉じた。新たに再編された騎士団で肩を並べる事になった王都守備隊の硬派な元騎士団長の古強者とどこまでも自由奔放な女性弓兵との間でトラブルが耐えない。所属していた組織の確執や実力への不審ではなく、二人共この基地で静養するナスターシャを溺愛するが故に起こる衝突だった。彼等とは上手くやっていけるだろうと考えていたヨハンは想定外のトラブルに胃と頭を痛ませていた。
ナスターシャが恐らく訳も分からず笑顔を浮かべて二人を見ているでろうその部屋のドアノブを握り込んだまま体を震わせるヨハンを、使用人は心配そうに見つめていた。
「あ、あの……ヨハン様、大丈夫ですか?」
「……ナスターシャが居なければ今すぐ倉庫から改修したプラウダスを持ってきて二人纏めて吹き飛ばしたい気分だ……」
振り向いた苦労人の司令官の顔は、疲労と疲弊により鬼の形相と化していた。
−−−−−
「はははっ!!女を巡るトラブルとは、そいつは厄介だな!!」
「……ヨハン司令の苦労を考えれば、とても笑い事には出来ません……」
「まあ、女絡みで言ったら俺もあまり人の事は言えねぇからなぁ……」
どこか得意げにそう言うオリバーに呆れ果てた様な目を向けると、ヨハンは言葉を続けた。
「両腕を失ったナスターシャについては記憶は戻らなくとも、周りは皆親切にサポートしてますから問題ないでしょう……ただ、違った問題があるとすれば……」
「……例のダークエルフ、イングリットと言ったか?。今じゃ有名人だからな……最底辺の存在だったダークエルフを束ね上げ一大勢力を築き急速に影響力を出しつつあるカリスマ……。ラゴウで今最も危険でホットな女だ……」
「………ヨハン司令の話では、彼女はサラマンダーのルーンを尻に刻んでいたそうです。突然あんな裏切りを働いたのは、ルーンを通して奴に何らかの暗示や精神を揺さぶる何かを掛けられた可能性もある……」
「……細かな遺恨は残っちまうもんか。完全なハッピーエンドとも言えないが、幸いにも今の奴が夢中なのは他国より自国の社会変革の様だからな……」
「……ナスターシャは壊れる事が出来てある意味で幸せだったのかもしれませんね……二人は本当に信用し合っていた様でしたから……」
そこで短い沈黙が流れた。やや重苦しいそんな空気を変えようと、ギュンターは笑顔を浮かべて彼へと聞いた。
「そういえばダムザから応援に来てくれたあのゴーレムの操舵者達は?元気でやってますか?」
「……ああ、あのバカども……」
その言葉を聞き政治のみでなく予算に関する枠決めも仕事の内である領主のオリバーは顔を引き攣らせながら言った。
「派手にぶっ壊してくれたゴーレムの損失だけで泣きそうになってくる……俺の国が前まで使ってた紙幣で計算した所、損失は小さな倉庫がまるっと埋まるぐらいの額なんだと!計算し終えた途端に経理担当の奴は即座に髪の毛が丸ごと白髪になっちまったよ!」
「……そ、倉庫いっぱい分!?」
「しかも全部国民の血税だ……世界を救った英雄を出迎えるパレードで手を叩いてる観衆は笑顔を浮かべつつ皆目が血走ってたぞ……」
「……あ、あはは……」
彼等はそれなりのセカンドライフを満喫している様だった。四人の内、三人は軍を辞めた。あれほどの死闘を経験すれば無理もない事だ。彼等はその代わりに自身の経験を活かし手記を発行しベストセラー作家となったりあの死闘を戦ったゴリアテを模した玩具を販売し会社を立ち上げたりそのネームバリューを活かし警備会社を立ち上げたりとそれぞれの道を歩んでいた。そして、あの戦いで最も闘志を燃やしたホワイト・スワンの操舵者であるアーノルド・ワイズマンは……。
「おいっ!!右腕の関節がおかしいぞ!!メンテナンス担当をすぐに呼んで来い!!」
「む、無茶言わないでくださいよ!あんな程度の動きのズレなら戦う訳じゃないんだからいいでしょお!?」
「うるせぇ!!こいつはな、俺の相棒なんだ!!この状況でまたトカゲが来たらどうする!?またとんでもねぇ額が掛かんだぞ!!分かってんのか!?☓☓☓野郎!!」
「か、勘弁してくださいよぉー!!」
若い整備スタッフに詰め寄る筋骨隆々の肉体を晒すスキンヘッドの彼は、跪いた愛機を指差しながら怒りに満ちた表情で怒鳴り立てていた。
「……すっかりあの白鳥ちゃんに夢中になっちゃったみたいでさ……土下座して頼み込んできちゃったもんだから俺が老後の為に貯めてた金ぜーんぶ使ってた直しちゃったんだよなぁ……」
「命懸けでこの王都を救ってくれた英雄ですから、言ってくれたらメルキオからも予算を出したのに……」
「……いや、いいんだよ……。懐事情は寂しくなってしてやれる事は少なくなったが……ああいう熱い奴こそ世界の危機には必要なんだ、それこそ倉庫を埋めるだけの額の血税をあっという間に灰にしてでも正しい事がやれる度胸を持った奴がさ……」
「……大事なのはお金でも兵器でも建物でもない……そんな物は人が生き続ける限り、どうとでもなりますから……」
目を閉じながらそう語るギュンターの言葉を聞くと、オリバーは頼もしそうに目を細めながら再び愛機へと乗り込む同志を見つめた。
そして、小さく息を漏らして空を見上げるとオリバーは透き通る青い空を見上げ少し寂しそうな笑みを浮かべて呟いた。
「……彼女に、こんな世界を見せてやりたかったな……」
「……ええ、本当に……戦争に翻弄され続けたあの人に見せたかった……」