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殲滅のマタドール   作者: ユリグルイ
FINAL ORDER
118/121

殲滅のマタドール:117話 Ⅿissing Promise

「うおおおおあああああ!!食らいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


三機のゴリアテの強大な腕によって天高く放り投げられたホワイト・スワンはその軽量で華奢なボディを軋ませながら百メートル程上空へ浮いた後、その左拳を頭上から相手の頭部へと叩き込む。物質的な重さと下へと物体を留めようとする重力による威力の倍増を受けたその一撃は闘争王の頭を激しく揺らし、小さな悲鳴を漏らし地面へと崩れ落ちる。


衝撃で下半身が粉砕した機体の操作用の魔石へ素早く指を走らせると、操舵者のアーノルド・ワイルドマンはひしゃげた操舵席保護用のパネルを拳で叩き割り外へと飛び出した。


大統領府警備局の現局長という責任感に溢れる立場にある彼は、人生を変えるあの政変の後に更に強さを求め体を鍛え抜いていた。機体の保護があるとはいえ、百メートル先から落下する衝撃を座席に座りながら受けたら通常の人間であれば脳震盪を起こし失神するか、あるいは脊椎の損傷で死んでいたかもしれない。


だが、多くの友人を失い……多くの悲劇を見てきた彼は生半可な鍛え方などはしていない。元々逞しい肉体を更に強め、鍛え、精錬させこういった時の為に備えてきた。



そして、それは……彼を放り投げた三機のゴリアテを駆る男達も同様だった。



『こうなったら腹を括れ!!俺達だけ税率十倍になってもこの先、生まれてくるガキに一生自慢できるぞ!!』


『おう!!手放せるもんは何でも売っぱらっても惜しくないな!!こんな状況だったら!!』


『よっしゃあ!!家内にぶっ殺されてもいい!!新築の家のローンをオリバー閣下に丸投げしてやるよ!!』


全長50メートルの巨人達が進め続けていた巨体を倒し、掴める箇所を掴んだ。相手を離さない様に、その巨神兵達は闘争王の体へと纏わりつく。


『この邪魔臭い虫ケラ共が!!下等生物が何を足掻こうと無駄だと知れ!!』



首、足、翼を強靭な腕で抑え込む巨人達に苛立ちながらも爆炎竜は空を目指し飛翔を開始する。


操舵席のハッチを開けた男達が素早くロープを使い地面へと滑り降り、最後の一人が息を荒らげながらも大地に降り立ったその瞬間、三機のゴリアテをぶら下げながら凶竜は空へと飛び立った。


一番機のゴリアテを操っていた無精髭の操舵者は上空を見上げながらどこか哀れむ様に声を漏らす。



「あーあ、ほんとに行っちまったよ……とんでもねぇ爆弾抱えてんのに……」


「自爆シークエンスはしっかりやっときました!……まぁ、アレをふっ飛ばしたとなったら俺は家内に殺されるかもしれないですけどね……」


「まっ、何とかなるさ……生きてればな……」


肩を落とす同僚の手を叩くと、彼等は一斉に走り出した。


魔力伝導回路を暴走させ、凄まじい爆発があの怪物を襲う筈だ。その衝撃に備え、男達は距離を取った。


そして、同じ様に駆け出そうとしたアーノルドは視界の端に屈み込む二つの人影を見て思わず声を上げる。



「サ、サシャさん!!……」


「……え、えっ?……」


「アーノルド・ワイルドマンです!!ダムザで色々と御世話をさせて頂いた!!」


「……アーノルド……さん……?」


ほんの僅かな間、感動した様に瞳を揺らした後に彼は即座に使命を思い出す。敵を滅ぼし、誰かを守るという使命を。



「お二人共!!こちらへ!!」


アーノルドはその屈強な肉体を活かし呆然と立ち尽くす二人を両脇に抱えると、手近な建物へ飛び込んだ。そして扉を閉めると息を荒らげ指示を飛ばす。


「絶対に窓に近付かないで!!凄まじい爆風と火炎が出ます!!」


「い、いったい何をする気だ!?ゴリアテを使って!……」


「その声はギュンター陛下……先程は荒々しい返答をお許し下さい……」


身を起こした相手がこの国の国王であると声で気付いたアーノルドは彼の肩を両手で掴むと引き攣った笑みを浮かべ言い放つ。



「アレを纏めて自爆させてふっ飛ばすんですよ!国王陛下殿!」


「な、なっ!……」


目を見開いた彼を横へ押し倒すと、アーノルドは叫んだ。



「顔を下に向けて耳を両手で塞げ!!とんでもない爆発が来るぞ!!」


その言葉を聞き全員がその通りに行動を起こした瞬間、周囲に凄まじい爆発音と閃光が轟いた。


------


『な、なんだ!?これはぁぁぁぁぁッ!?』


重しを纏わり付かせ、飛翔を続けていた爆炎竜は首や羽根、足にしがみ付く巨人達の様子がおかしい事に気が付いた。その体は関節部が赤く発熱し、そして……50メートルの巨人に備わる魔石の全てが赤く発光していた。


自分は、罠に嵌められた。


爆炎竜がそう気付いた瞬間、三機のゴリアテは無数に組み込まれた魔石の全てを爆発させ……太陽にも等しい眩い明かりを上空に照らした。



-----


『うおおおおおおおあああああああああああっ!?』


強烈な爆風によって空中でバランスを崩した凶竜は、そのまま市街へと墜落する。多くの建物を薙ぎ倒しながら落下した竜は、仰向けに倒れた体を即座に回転させると素早く起き上がらせ絶叫する。


『クソッ、クソッ、クソがぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!よくも、俺の……俺の凱旋に泥を塗ったな!?この忌々しい下等生物共ぉぉぉぉぉおッ!!』


血走った瞳を左右に向け、殺すべき相手を探していたサラマンダーのすぐ傍で……その声は聞こえた。



「……貴様が、俺が越えるべき壁なのか……」


『な、なっ!!……お前は……』


「……貴様が、俺の友を苦しめる……元凶か……」


その剣士は、刃の折れた剣を手に……着地したサラマンダーを見上げながら商店の屋上に立っていた。


満身創痍だというのに、今にも死んでしまいそうだというのに……その青年の瞳は闘争王の心を激しく揺さぶる何かがあった。


血走った、怒りという感情に囚われた眼をぶつけ合ったその瞬間にサラマンダーは理解する。


この存在は放っておけば厄介な事になると。


血塗れの青年に殺意を向けた爆炎竜が大きく口を開いた瞬間、その巨大な口腔に炎の魔力を宿した一本の矢が解き放たれ、火炎の放出を強制的に止める。反射的に口を閉じた竜の口内で誤爆した暴力が火の手を上げる。


『お"っ、あ"ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?ぐ、ふぅぅぅぅぅぅっ!!……』


天へ向けた口から灼熱の炎を噴き出し絶叫した凶竜は視界を下へと向け、そして気付く。


青年の立っていた二階建ての商店の一階に、不敵な笑みを浮かべて中指を掲げ挑発する女性の弓兵が居る事を。即座に首を下げ一階へと顔を向けた竜は怒りのままに絶叫する。


我を忘れ、そのタイミングが計られていた事など気付けないまま……。


「プラウダス!!最後の力を俺へと貸せ!!……このバケモノを、地面に沈める力を貸せ!!」


ヨハン・ガーランドの闘志に呼応した炎の魔石、レッドサファイアが砕け散った剣先に新たな炎の剣を生み出した。それは戦士として、そして傷付きながらも懸命に生きる仲間達へ……司令官である彼が見せた意地だった。


駆け出した青年は、雄叫びを発し首を下げた爆炎竜の巨大な頭部へ炎の剣を振り下ろす。メルキオの生み出した魔導兵器、魔石を組み込んだ魔剣がその最後の命の輝きを光らせ凄まじい火柱を上げながら相手の頭部を焼き切ろうと力を振るう。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!焼き切れぇぇぇぇぇぇぇえええええっ!!!」


『お、があああああああああああああっ!!ご、の"ォォォ、がどう、ぜいぶつ(下等生物)、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!』


手にした剣が砕け散るを感じた瞬間、ヨハンは握っていた剣の柄を離し地面へと転げ落ちた。


そして、炎に包まれた頭部を持ち上げ怒りと歓喜の混ざる咆哮を上げる闘争王を睨み付ける。


その隣へ、ロングボウを担いだ女性が好戦的な笑みを浮かべ歩み寄った。


闘争王へ挑戦する闘争者達は傷付いた肉体に構わず、守るべき人の為に闘志を燃やしていた。



-----


< マタドールシステム起動、これよりアヴィに関するあらゆる干渉を無効化します >


「な、なにを……アヴェンタドール!?貴女は、何をしていると言うの!?」


< 間違えないでください、ドクター・ミランダ……彼女は…… >


その声は、ラグナロクの刃を防ぐシールドから聞こえた。


黄金の光が、私を……この世界へと留め続ける。


そして、私が戦闘の際に言葉を交わしていたその存在は……恐らく、マタドールシステムの学習用の人工知能は……その低い声を少し荒らげて、私の名前を呼んだ。



< 彼女はアヴィ、サシャを愛する……可愛らしい女の子です! >


「う、うぅぅぅぅっ!!……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!」


叫びながら私は全身に力を入れる。その真っ暗空間を、虚無の電脳空間を……私の気持ちで埋め尽くす。


金色の光は、私がサシャへと向ける想い……あの大好きで、ちょっとわがままで、素直じゃなくて……そして、そして……そして……!!。



そして、私の大好きなあの人の髪と同じ色なんだ!!。



全てが明るく照らされる黄金の光の中、呆然とする相手に……私が、最初に依存した人へ……私は告げる。



「……母さん、私……もう一人でも大丈夫……心配しなくても、平気だよ?……」


「……アヴェンタ……ドール……」


「……この光こそ、私の全て……こんなに眩しくて、明るい気持ちを……今の私は持ってるの!……」


目を見開いたまま口を半開きにする彼女の頬に、金色の光を反射する涙が光った。


……さようなら、お母さん……。


「ま、待って!待って!……アヴェンタドール!私は……!」


「……お母さん、その名前で……呼ばないで……」


「私は……私は……!」



そうじゃない……そうじゃなくて……あの名前で、呼んでほしい……。


大好きな人が、新しく……私に付けてくれた……名前で……。




「……ア、ヴィ……」




それで、いいの……私は、やっと……。


大好きな人に……その名前で呼んでもらえた……。




「……さようなら……お母さん……」


「……いってらっしゃい……アヴィ……」




−−−−−−



マタドールシステム・スタンバイ


シンギュラリティ数値、アップデート完了。


人工筋肉稼働率:2京


人工筋肉稼働率:2京


各種スラスターユニット稼働率:6億3千


各種武装確認:全兵装弾数、エネルギー無制限に設定。


展開可能武装コンテナ数:9000


展開可能ナノマシン残量:100京


現状における破壊可能な敵対勢力:空域戦闘艦6億隻



ようこそ、アヴィ……親愛なる友人にして戦友。



我々は絶対に負けません。












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