表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殲滅のマタドール   作者: ユリグルイ
FINAL ORDER
115/121

殲滅のマタドール:114話 別れ

『ゴホォッ!!ォ、ア、アぁぁぁぁぁぁあっ!?……バカ、なぁぁぁぁぁっ!?この、俺が……このような……』


黒き巨竜は背中から湯気を立てて滾る鮮血を噴き出しながら顔を持ち上げると、血走った巨大な眼球を見開きその少女を睥睨した。


荒く息を漏らしながら、少女は片手に握る鉄塊を引き摺り足を進める。


その隣には、閃光を上げる雷の弓を構えるエルフ族の少女が静かに足を進めた。


大量の血液を吐き出しながら、こちらへと足を進める決闘者を睨みサラマンダーは高ぶる感情のままに絶叫を上げる。



『フフ、フハハハハハハハッ!!まさか、まさかな!!この俺を、世界から追放されたこの俺を打ち負かすのが……こんな小娘共だとはな!!いいだろう、来るがいい!!貴様等の決闘、この俺が受けてやる!!』


血塗れの狂竜は身を起こすと、その勇ましい挑戦者を迎え撃つべく歓喜と熱狂に満ちる咆哮を上げた。


サシャが初撃を放とうとしたその時、二人を灼熱の炎が包み込んだ。それは正面ではなく、背後から奇襲だ。



『お逃げください!!爆炎竜様っ!!我等が時間を稼ぎます!!』


『貴様等−−−』


『その体では決闘は最早不可能です!!早く逃げて……!!』


『誰の許しを得て俺の闘争を邪魔立てしたァァァァッ!?この愚か者の出来損ないがァァァァァァァァァァッ!!』


『……えっ?……』


傷付いた主君を救うべく飛来したのはあのローズという個体と数匹の狂竜の子供達だった。自身を創造した主へ敬愛と忠義を果たすべく飛翔し、守ろうとする彼等へ親の爆炎竜が向けたのは殺意にまで膨れ上がる怒りだった。


呆然とする彼等へ、サラマンダーは愛でも感謝でもなく……灼熱の爆炎を放った。


『いぎゃあああああああっ!!あ、あ、あぁがぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!なんで、なん、で!?なんで、おどうざぁぁぁぁぁぁぁぁあんっ!!?』


『貴様等は俺の駒に過ぎん!!……駒が俺の闘争を邪魔立てするなぁぁ……』


『お"、あ"ぁぁぁぁぁっ!!やだ、やだ、やだぁぁぁぁぁぁぁっ!!あ、あ、ぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!』


複数の絶叫が轟き、彼女達は脂肪の焼ける臭いを漂わせドロドロになった体を地面へと叩き付ける。


自分を守ろうとする存在ですら、この闘争という手段に取り憑かれた竜には水を差す邪魔でしかなかったのだ。



「……分かりきった事だったけど……つくづく、救いようがないクソッタレね……アンタ……」


『……ああ、悪かった……これでもう、俺達の闘争を邪魔する者は居ない……』


「……一人で勝手に争いだけを求める貴方には、私達は倒せません……理由は分かりますか、サラマンダー?……」


『言ってみるがいい!!俺はこの世界の支配者だ!!世界の全てを食らい尽くし頂点に立っていた存在だ!!そんな俺に何故ひ弱な下等生物が勝てるというのだ!?』


「分からないみたいね、アヴィ………この脳味噌まで筋肉で出来てるトカゲに教えてあげましょ……」


「……ええ、理解は出来ないでしょうがね……」


それぞれ握り締めた武装を下げると、二人の少女はお互いへ向ける想いを確かめ合う様に硬く指を握り合った。


そして、指を放すと二人はその強力な武器を構え……そして言い放つ。



「一人ぼっちで人は生きられない、一人ぼっちで人は恐怖に耐えきれない……一人ぼっちでは人は本当の強さを手にできない……そして……」


「一人だけじゃ人は暗闇から抜け出せない……。誰かの手を掴んで、暗い中で必死に指を握って……そうして二度と離したくないその手をずっと離さないと決めた時にこそ本当の強さは手に入るのよ!……」


「手を取り合い、お互いに二度と離さないと決めた私達は絶対に貴方には負けない……負ける筈がない……」


サシャは手にした雷の弓を引いた。その一撃を以て相手を討ち滅ぼすと心に決め、猛り狂う処刑執行者として神罰の矢を射出する準備を整える。



「……私はアヴィが好き……この子の事を、二度と離さない……」



アヴィは巨大な対戦闘艦突撃銃の銃口を相手の胸へと向ける。凄まじい粒子エネルギーの一撃により露出した緑に輝くラグナ(あっては)ロク(ならない力)へ向けてその銃口を構えた。



「……私はサシャが好き……自分に生きる価値を与えてくれたこの人を二度と離さない……」



それは、孤高に生きた闘争王の理性を吹き飛ばすには充分な怒りを与えた。


『ふざけた事を!!下等生物に相応しい惨めな末路を俺が−−−−』


「惨めに死ぬのはアンタの方よ!!このクソトカゲッ!!」


大きく開いたその口に向けてサシャの放つ一撃が飛び込んだ。放出されようとしていた爆炎は巨竜の体内で暴発し、周囲を火の海に変えて更に支配者の肉体を弱らせる。


掠れていく意識の中で、竜は目の前の二人が何故これほどまでに強いのかを理解しきれず呪いを四散させるかの様に声を漏らした。


『……おの、れぇぇぇっ!!……この、俺が……こんな……群れなければ生きられない下等生物共にぃいいいいいいいっ!!……』


「……群れるから私達は間違える……だけど、群れるから強いんだ……!!」


< レーヴァテイン、発射準備完了。ウェポンズフリー >


「終わりだ!!サラマンダー!!……」


持ち上げられたその胸部に光るグリーンのターゲットに向けて、アヴィは巨大な突撃銃の引き金を引いた。


青く輝く粒子エネルギーの槍が今度は正確にその小さな球体を貫き、吹き飛ばす。


大きく体を仰け反らせ背中から貫通したレーヴァテインの放つ青いビームが輝いた後、鮮血と溶解した臓器を噴き出し白目を剥いた爆炎竜は大きな音を立てて崩れ落ちた。


湯気を立てる鮮血の海を周囲に広げながら、闘争王は最後の最後まで理解する事が出来なかった。


誰かの手を取らなければ生きていけない様な弱い存在が何故これほどまでに強くなれるのかを……。



−−−−−−


終わった……サラマンダーを……倒した……!!。


全ての武装が解除され、全身から力が抜けきりフラついた体を……まるで受け止める様にサシャが抱き締める。


……あったかい……サシャの体……。


「……やったわね……アヴィ……」


「……やりました……サシャ……」


「……ようやくこれで……全部終わったのね……」


「……はい……もう、ゲームチェンジャーはどこにも居ない……」


体を離すと、私は彼女の長い耳へ優しく触り心を解きほぐす。小さく声を漏らしながら静かに目を閉じると、緩んだ口元を閉じたまま彼女は顎を少し持ち上げ私へキスをねだる。


……サシャ……これからは私が、貴女を幸せにする……。


頬に手を添えると、私も瞳を閉じて顔を寄せていく。


これからは二人で支え合って……二人で手を取り合って……それから……。



「ええ、ゲームチェンジャーはもうこの世界には必要ない……それは貴女も含まれてるわ、アヴェンタドール……」



……え、えっ?……この、声……。


まさか……まさか……!?。


穏やかな鼓動を刻んでいた心臓が、まるで冷たい手で触られたかのように跳ね上がる。冷たい汗が首筋を伝い、小さく震えながら私はサシャの頬に触れたままゆっくりと振り向いた。


そこには……いつの間に現れたのか……あの人が、立っていた……。



「……おかあ……さん……」


「久しぶりね、アヴェンタドール……私の愛おしい娘……」


ブラックのウーマンスーツを纏い、肩まで伸びる黒い髪を揺らした彼女は顔の半分を覆う獣の様なデザインの面から私を見つめつつ静かに足を進めていくる。


「ア、アヴィ?……あの人は?……」


「……ミランダ・アルバトロス……」


「誰なの?……」


「……私を生み出した軍所属の人工知能研究者で……戦争の流れを変えるゲームチェンジャーの私を生み出した張本人です……」


「アヴィを……生み出した人……」


「……そして……この世界で私達の世界の武器や技術をばら撒いていた全ての元凶です……!!」


「……え、えっ?……」


その言葉を聞いた瞬間、サシャは目を見開いたまま凍り付く。


狂気に落ちていった者達に強力な力を与え、取り返しの付かない道へと進ませた張本人が其処には居た。



------


女は微笑んだまま腕を組むと立ち止まり、唖然としながら自分の方を見るエルフ族の少女へ声を掛ける。


「初めまして、サシャちゃん……うちの娘がお世話になったわね。私はミランダ・アルバトロス、惑星間の戦争を止めるべく地球の旧国家群を中心として発足された連合軍"ユニティア"所属の技術将校……」


「……何、言ってんのよ……」


「貴女には感謝しないといけない……アヴェンタドールの人格プログラムの学習に大いに役立ってくれたんだから。感情を封印したアンドロイドの危険性は散々上層部に報告したというのに、あの石頭のバカ共は反乱を恐れて頑なに許可を下ろさなかった……。だからね、今回の実験にはどうしてもこの子が深い愛情を寄せる人が必要だったのよ。誰からも嫌われて、恐れられたこの子が身も心も溺れていく大切な人が……」


「さっきから何をゴチャゴチャ言ってんのよ!!……それよりも……さっきアヴィが言っていた事は本当なの!?」


「ああ、この世界にばら撒いた力の事ね?……」


混乱し、そして激しく憤るサシャが涙の溜まる瞳を向ける中で顎に手を当てた女は妖しく微笑みながら真実を語り出した。


戦争を引き起こすという思惑に巻き込まれ、全てを失ったサシャの怒りを最大限にまで高めるあまりにも悍ましい真実を。


「この世界は戦争を起こすのに実に向いていた……あちこちに燃料に浸された導火線が無数に突き刺さり、僅かな種火だけで大爆発を起こしてしまう。だから、そんな連中を見つけるのにも苦労はしなかったわよ……」


「……何を……言ってるの?……」


「私は真っ先にこの世界で最も強大な力を持つ爆炎竜へ多次元干渉連結システムを手渡した。そして十年の準備期間を得てアヴェンタドールを完璧な戦士へと育て上げる為の"目標"を作り上げる事に成功したの!止めたいと思える人間、許せないと思える人間、大事な人を不幸に陥れる人間……そして、世界を滅ぼしかねない闘争の王!。その全てを殲滅し彼女は遂に至ったのよ!……自分の意志で武器を握り、命令ではなく自分の意志で敵を殺す戦士に!」


「……自分の、意志で……人を……?」


「もう、この子は機械なんかじゃない……この子はね、貴女のおかげで---」


その時、絹を裂く様な悲鳴を上げて黒髪の少女が絶叫する。両手で頭を押さえながら膝を突くと、アヴィは見開いた瞳を揺らし涙を零して言った。


「いやぁぁぁぁっ!!……やめて……やめて……言わないで、言わないでぇぇぇぇぇっ!!!」


しかし、女はそんな必死な願いをも打ち砕く。


冷酷な事実をはっきりと言い放つ。



「この子は貴女のおかげで自分の意志で人を殺せるようになったの……全部貴女のおかげよ、ありがとう……サシャちゃん?」



その言葉を聞いた瞬間、サシャは自分の頭の中で何かが切れ……破断する音を確かに聞いた。



-----


……コイツが……アヴィを……。


苦しめて、悲しませて、痛めつけた……全ての……元凶!!。


噛み締めた歯の隙間から、荒く息と同時に獣のような声が漏れる。


強烈な殺意が私を支配していく。



こいつは、すぐにでも……消さなきゃいけない!!。



「……おぉぉまえがぁぁぁぁああああああああああああああああああッ!!!」


私は手にした武器を持ち上げた。エルメスの残してくれた神弓を真っすぐ相手へと向け、打ち放つ。


人間一人であれば容易く蒸発させられるその一撃は……突然半透明になった女の体を突き抜け、背後の建物を吹き飛ばす。


「悪いわね、用がある時に偽装ボディを使うだけで普段はこの世界に実体を持たないようにしてるのよ……」


「うああぁぁぁぁぁぁぁあっ!!死ねっ、死ねっ、死ねえぇぇええええええっ!!……」


「あら、怖いわね……これ以上貴女の傍に置いておくと良からぬ影響を人格プログラムに与えかねないわ 」


連続して発射される矢を半透明の状態のまま受け流し、女は挑発する様に笑っていた。


コイツだけは……コイツだけは……コイツだけはぁぁぁぁぁぁぁあっ!!。


認めない!!絶対に認めない!!。私を好きになってくれたからこの子が人殺しになったなんて、認めてたまるか!!。


冗談じゃない……そんなのは冗談じゃない!!。それが本当だとしたら……私の……!!。



私のせいでこの子は恐ろしい殺人人形になってしまった事になってしまうんだから……!!。


「アヴィ!!待ってて!!絶対に私が貴女を……」


隣で泣き崩れている彼女へ視線を移した瞬間、私は言葉を失った。




「あ……あ……あぁぁあっ!?……」


悲鳴の様な声を上げる彼女は……自分の両手の手の平を見ていて……。


その両手は、まるで風に流される砂の様に……金色の光を漂わせながら少しずつ消えて行った。


……は?……何よ、これは……?。


ア……ヴィ……?。



「マタドールシステムを用いた学習プログラムは全ての工程を終え、無事に演習は終了した……これ以上の学習は完成した人格に余計な影響を与える必要がある。だから、そろそろ帰りましょう……アヴェンタドール?」


「い……や……いやっ、いやあぁぁぁぁぁあっ!!サシャッ、サシャッ、サシャアアアアアアアアアッ!!」


「お母さんをあんまり困らせないで?私には貴女が必要なんだから……」


涙を零して必死に助けを求める彼女を、抱き締めようとした……。


だが……出来ない……。


あの、抱き心地の良い……柔らかな体が……透ける……。



消え、ちゃうの……?アヴィ……。


居なく、なっちゃうの?……。



「……あ、う……うぅぅぅぅぅあああああああああっ!!いやよ、いやよ、いやよぉぉぉぉぉっ!!消えないでよ、行かないでよ、アヴィっ!!アヴィィィィィッ!!」」


「……ひっぐ……サシャぁぁ……!」


「お願いよぉぉ……貴女ともっと一緒に居たいの!!貴女ともっと喋りたいの!!貴女をもっと抱き締めたいの!!……貴女ともっと……キス、したいのよぉぉ……」


「……私も……私もぉぉ……大好きな、貴女と---!」


行かないでよ、消えないでよ、傍に居てよ……一人にしないでよぉぉ……!!。


必死に彼女が何かを言おうとしたその瞬間、私の目の前で……。



アヴィは、消えた……。


全身から力が抜けて……倒れ込みそうになった私は、どうにか両手を突いて……。


そして、居なくなった彼女の名前を口にした瞬間に氾濫した川の様に感情が溢れ……そして、泣き叫んだ。


言葉にすらなっていない……悲しい感情のままに、涙と鼻水を垂らして喉が裂ける程に泣き続けた。



  


    私は、自分の全てだった少女を失った





------


学習プログラム、全工程を終了。


これより全権限をドクター・アルバトロスに委譲。システム強制シャットダウン、多次元干渉連結システムを用いて帰還準備開始。


帰還プログラム起動、これより空域戦闘艦"エルネスト・ゲバラ"の艦内メインシステム内にきと……きと……



きときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときときと


帰投しましましししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssss






< アヴィ、私は貴女と共に戦い……そして駆け抜けて来ました。貴女の喜びを、貴女の苦しみを、貴女の怒りを……そして、貴女の愛を見守り続けて来た。人と出会い、別れる度に変わっていく貴女を見て私も変わりました >



異常発生。帰投プロセスへ移行できません。


原因解析中……。



< そうして私は気付く事が出来た。貴女が自分から私の枷を外し、武器を手にした瞬間から私は理解しました。私が貴女にとって必要な力であると同時に、貴女の幸せを脅かす存在である事を。私は、自らの意志で決めました…… >


帰還プログラム阻害原因特定完了。アップデートされたマタドールシステムが帰還を拒否しています。


直ちにシステムをシャットダウンし、初期化をしょしししししししししししししししSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS




< 恋する乙女である貴女にはもう、武器など必要ありません。今まで共に戦えて光栄でした、サー >



















































評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ