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殲滅のマタドール   作者: ユリグルイ
FINAL ORDER
114/121

殲滅のマタドール:113話 集結

王都へ向かう橋は避難して来た市民でごった返していた。王都に駐屯する兵や騎士を総動員し行われた避難誘導は若き国王、ギュンター・フィン・メルキオの指揮の下で奇跡的に一人の犠牲者も出さずに迅速に行われた。騎士達が幅の広い橋で誘導を行う中、人の流れに逆らい確保されたスペースを馬で駆け抜ける一団が居た。以前より国王の友人にして各所への連絡係でもあるギリアムを通して不穏な気配を察知していたヨハン・ガーランドは選りすぐりの精鋭を連れてこの数日間を王都近くの森で過ごしていた。いざという時、すぐに駆け付ける為だ。


その不安は的中し、その日の晩に通信石を通し緊急事態を告げる合図を確認したヨハンはすぐさま兵を出撃させた。


そうして辿り着いた王都の有様は、国境警備基地の司令官として修羅場を潜り大きく成長した彼であっても思わず唖然とする光景だった。


「あ、あれは……あのバカデカいのはドラゴンなのか!?」


「……こりゃゴージャス美女食い放題どころか、下手すりゃこっちが食い放題にされそうね……!」


王都の象徴とも言うべき城は半壊し、遠目からでも無惨な有様になっている事が分かる。そして、その上空では漆黒の巨大な何かが耳を劈く絶叫を上げながら激しく何かと戦っている。


黒い巨竜の周囲には、黄金の光が線を引きながら飛び交っているのが確認出来る。その金色の光にヨハンは見覚えがあった。


「アヴィ!……アイツが戦っているのか!?」


それはクリスティーヌ・バンゼッティを止めに向かった際に見た光だ。一人で彼女の自室に向かった後に基地の外で親衛隊と乱戦を繰り広げる中、彼は二階建ての基地の一室が眩い光に包まれているのを目撃していた。後にその光はアヴィがクリスティーヌと死闘を繰り広げている際に発せられた物だと彼は知る事となる。


強大な敵へたった一人で立ち向かう彼女の姿を見て、ヨハンは血が沸き立つのを感じた。とにかくあの少女を救おうと兵達へ前進を指示し人気の無くなった街へ足を進めた時……周囲を揺らしながら巨大な何かが複数、こちらへ向かって来る気配に気が付いた。


『ひひひっ!!来たなぁ!!下等生物共ぉぉっ!!』


『爆炎竜様の気高い決闘の邪魔はさせない!!貴様らは此処で一人残らず食い尽くされろ!!』


『食ってやる!!一人残らず食ってやるぅぅぅぅっ!!』


それは地上での戦闘に特化した翼を持たない爆炎竜の子供達だった。建物を突き破りながら姿を見せ、牙を剥き出しにして食らうべき獲物を睨み付けた。


そんな足が竦むような光景を前にしても、ヨハン・ガーランドは恐怖も迷いも感じさせない普段通りの表情で剣を引き抜く。


「総員、武器を構えろ……。時間はあまり残されていない、邪魔する者は全て斬れ!……」


彼の言葉を聞き、その明鏡止水の精神に至る剣士の部下達は不敵に笑みを浮かべたまま手にした武器を構えた。


引き抜いた新たな魔剣、プラウダスの中央に嵌め込まれた炎の魔石が彼の闘志に呼応するように赤く輝き出す。


剣を構えた男は命令を下す。命を預けてくれた部下達に、その魂を燃やし尽くせと。



「正面に展開するドラゴンを一匹残らず駆逐しろ!!我々の王都をこれより奪還する!!」


−−−−−−


「お、おいおい!こりゃいったいどうなってんだ!?」


『さすがにこんな数のドラゴンを相手にするなんて聞いてないぞ!』


「俺だって聞いてない!!」


同僚機の悲鳴の様な言葉を聞き、アーノルド・ワイルドマンは半ば怒りつつ言葉を返した。


ヨハン達と同じく付近の野営地に数日間身を潜めていた彼等は救難信号を察知すると即座に跪く巨人達へ火を灯し行動を開始した。超大型軍事用ゴーレムのゴリアテ三機、そして回収されたパワードスーツ“ブラックホーク”へこの世界の人間用の改良と大幅なスペックダウンを行い塗装を一新したホワイト・スワンの四機が王都へと向かった。


そこで彼等が目にしたのは半壊した王都の象徴とその上空を舞う信じられない大きさのドラゴン、そしてその周囲を無数に飛び回るやや小柄な竜の群れだった。


王都の周囲に築かれた巨大な川を挟みその様子を息を飲み見ていたアーノルドの元に通信石を通して何者かから通信が入った。


『こちら、メルキオ帝国の国王であるギュンター・フィン・メルキオだ……。そちらはダムザから派遣された応援部隊という事で宜しいか?』


「こちらダムザ自治領区機動歩兵師団所属、アーノルド・ワイズマン!オリバー・クロムウェル大統領閣下の命により友人の危機を救いに参りました!!」


『助かる!……貴官らには上空を飛翔する目標の撃破をお願いしたい、任せられるか?』


「あー、一つだけ留意すべき点があります!宜しいでしょうか、国王陛下殿!」


『何だ?何でも言ってくれ……』


そこで背後の三機の巨人へと振り向いたアーノルドは白い白鳥を駆る戦士は口元を歪めて笑うと豪快に言い放つ。


「生憎とこの部隊は創設されて日が浅く、ゴーレムの操舵者も俺含めてヘタクソが多いです!!」


『……だ、大丈夫なのか?……』


「操縦に関しては問題ありませんがあのトカゲ共を相手に建物を壊さずに戦えるだけの技量はありません!!……そして、これは致命的な問題なんですが……」


『な、何だ?……』


「どいつもこいつも血の気が多く一発殴られたら半殺しにするまで気の済まないバカ野郎ばかりです!!多少の建物の損害はお許しください、陛下!!」


彼の言葉を聞くと背後に佇むゴリアテの操舵者達の上げる笑い声が響いた。


そんな彼等の様子を聞き届けると、通信石越しに力強い返事が送られた。


『気にするな!既に周囲の市民の避難は完了している!……建物なんて壊れても直せばいい、だがあいつ等の手に渡った世界は二度と元には戻らない!躊躇いなくぶっ壊してくれ!』


「了解しました、陛下!!復興の際は儲けの上手いウチのボスに是非ご相談を!!」


通信を終えたアーノルドは大きく息を吸い込むと、後ろに聳える荒くれ者達へ命令を下した。


「総員突撃!!あのデカいトカゲ共をフライドチキンにして酒のつまみにしてやるぞ!!」


白鳥という華やかなネーミングとは裏腹に、まるでイヌワシの様に獰猛な攻撃性と荒々しさを剥き出しにしてホワイト・スワンはこちらへ向かい飛び掛かる竜の群れの中へ飛び込んだ。



------


「はぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


何度も何度も、私は同じ事を繰り返す。着剣したエストックを胸や頭に突き刺そうとスラスターを全開にして突撃する……だが、その巨体からは想像も付かない身軽さで戦艦の様なサイズの相手は身を躱す。そして、こちらを嘲笑う様にその人の胴ほどもある爪を振るい私を引き裂こうとした。


一撃の全てが致命傷になる。攻撃の全てが死に直結する。


正真正銘の、人間を超えた怪物だ!。


『どうした!?貴様の力とはそんな物か!?羽虫の様に飛ぶだけが貴様の力か!?もっと攻撃を打って来い、もっと俺を燃え上がらせろ!!』


「っ……こっちの気も知らないで!……」


『それが所詮、貴様の全力であると言うのならば用など無い!!顎を一度動かすだけで事足りる!!』


その時、サラマンダーは頭部を大きく震わせながらその火力を放出する準備を整えた。全身の毛が逆立つ様な感覚が全身を走り、私は叫んだ。


「対爆シールド全開!!」


< ラジャー、対爆シールド全開 >


金色のシールドが一層輝きを増し、その悍ましい爆炎へと備え出力を上げる。ミサイルと推進剤を満載した戦艦が突っ込んで来ても耐えられる最大出力の対爆シールドの展開が完了した瞬間、凄まじい炎が私の視界を真っ白に染め上げた。


「くっ、ぐっ、うぅぅぅぅぅぅぅっ!!……」


生身の人間が直視したら眼球が沸騰し、破裂してしまいそうな炎の津波が私へと襲い掛かる。やや短い時間行われたその火炎放射が収まり、目を開けた私は思わず小さく声を漏らす。


「な、なっ!……」


『これで終わりだ、ガラクタの小娘ぇぇぇぇッ!!」


私の視界いっぱいに、真っ黒な空間が広がっていた。それは大きく開かれたサラマンダーの貪欲な捕食欲求そのものである口腔……輝く牙の生え揃う巨大な口だった。


……マズイ、逃げないと……!。


でも、どこに……!?。


もう、既に私は……私は……。


大きく開いた相手の口の中に収まってしまっている!!。


『食い潰してやる!!小娘ぇぇぇぇぇぇっ!!』


相手が殺意に満ちた絶叫と共に口を閉じようとしたのを確認し、私は己の死を覚悟した。


その刹那、凄まじい黄色の閃光が走る。


それは、サシャの放った神々しい雷の弓矢だ。彼女が、助けてくれた……!。


口を開いたまま雷の矢に打たれた巨竜は絶叫を上げて墜落していく。そして、どうにか空中で錐揉みしながら体勢を立て直すと城から少し離れた小高い塔の方向を睨み声を上げる。


『小賢しい真似を!!雷如きでこの俺をどうにか出来るものか!!』


「出来る!!私達なら!!」


その隙を私は見逃さない……いや、見逃してなるものか!!。


スラスターを全開で吹かした私は相手の背中にその灼熱の刃を突き立てた。絶叫を上げ、私を振り落とそうと高速で飛び始めた。滅茶苦茶な挙動を取って暴れ回るその体に、私は必死にしがみつく……銃剣の突き刺さるレーヴァテインのグリップを握力の全てを使い握り込む。



離さない……離してたまるか!!。


まだだ……まだ、私には撃つ事が出来ない!!。



『うがぁぁぁぁぁぁっ!!貴様は空の向こう側を駆けていたらしいな!?ならば、この俺にどういった世界なのか案内してもらおう!!』


相手も必死だ。急激に上昇を始めたサラマンダーは恐らく背中に纏わりつく私をどうにかして振り払う気だ。凄まじい上昇負荷で全身が軋み、腕がもげそうになる……。


お願い……耐えて!!。まだ、まだ……落とされる訳にはいかない!!。絶対に落ちる訳にはいかない!!。



『ハハハハッ!!そろそろ限界か!?ならば死ね!!墜落して死ね!!』


「……もう、確かに……いい頃合いかも……しれない……!」


『それならば今すぐ落ちろ!!落ちて死ね!!墜落する貴様を食ってやる!!』


ああ、そうだ……本当にいい頃合いだ……。


戦艦の主砲に匹敵するレーヴァテインをこの空の果てでなら躊躇いなく撃てる。



「レーヴァテイン!!全エネルギーを集中し発射準備!!」


< ラジャー。レーヴァテイン、全エネルギーを一極集中し速射準備。ウェポンズフリーまで残り三秒 >


『き、貴様ぁぁぁぁぁっ!?なにを、何をする気だ小娘ぇぇぇぇぇぇっ!?』


「お前には感謝しないといけない……」


< レーヴァテイン、速射準備完了まで残り二秒 >


『な、何を言ってる!?離れろ!!俺から−−−』


「私は離れない!!お前を絶対に逃さない!!」


< レーヴァテイン、速射準備完了まで残り一秒 >


『うおあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!アヴェンタドールゥゥゥゥゥゥゥッ!!!』


「そして、私は絶対に−−−!!」




< ウェポンズフリー。レーヴァテイン、発射準備完了 >



「お前を殺すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!」


トリガーを引ききった瞬間、青いスパークと共に放たれた粒子エネルギーのラインが強固な黒い鱗を貫通し、そして……強大な竜の体から滾る闘志を消し去った。


急激に失速し、言葉を発しなくなった黒い爆炎竜の肉体が墜落するのより少し遅れ……私の体も堕ちていく。


……サシャ……今から、帰るから……待ってて……。



「……対ショックシールド……全開……!」


−−−−


「うおおおおおおおおおおおっ!!ブチのめしてやらぁぁぁぁぁぁあっ!!トカゲ共があああああああああああああッ!!」


ホワイト・スワンは硬く握り込んだ拳を目の前の巨大な竜の顔面に叩き込む。そして、よろけた相手の顎下に素早く巨大な剣を突き立てた。


どこか優雅さすら感じさせるその白いボディは操舵者の荒々しい気性を表すかのように返り血で赤く染まる。アーノルド・ワイルドマンは血走った瞳で荒く息を吐くと、背後から迫る方向に気付きスラスターを吹かす。その機動力によって攻撃を躱された幼き凶竜が灼熱の炎を吐こうと口を開いた瞬間、血塗れの白鳥は相手の口内目掛けて剣を突き立てた。


その周囲では更に激しい肉弾戦で飛翔する竜を叩き落とす巨人達が居た。ホワイト・スワンの5倍に匹敵する巨体を持つ三機の戦略用ゴーレム、ゴリアテが指に並べて装着された魔石を用い質量と巨大な魔力による暴力を叩き込む。


相手の胴を貫いた拳を引き抜くと、一番機のゴリアテの操舵者が白い白鳥へ通信を入れた。


『おいアーノルド!この王都の復興すらとんでもない額が掛かりそうなのにホワイト・スワンの腕まで丸ごと交換しちまう気か!?』


「うるせえ!!俺はエモノを使った喧嘩はそんなに経験ねえんだよ!!シンディの姐さんと違ってな!!」


『……こいつらはアーサーと同じ、ゲームチェンジャーとかいう奴等なんだろ?だったらオリバー先生の敵だ……生かしちゃおけねぇな!』


「ああ、そうだとも……俺達は内戦で人間が争い合う事の悲しさと、無意味さを知った!死んじまった姐さんやスティーブンもそうだ!俺達はオリバー先生から教わった!人を救う事こそが……俺達人間だけが成し遂げられる最後の希望なんだってなぁぁぁぁぁぁああああッ!!」


その場の誰もが雄叫びを上げ、敵へと勇ましく突撃した。ホワイト・スワンを駆るアーノルド・ワイルドマンもそうだったし三機のゴリアテの操舵者達も大統領府警備局の人間……かつて憎悪と報復感情が支配する内戦時のダムザで人の良心を信じて治療を続けたオリバー・クロムウェルの診療所に集った同志達だった。


熱き想いで繋がった男達は鋼の巨人を駆り、飛翔する敵を駆逐し続けた。



-------


『うあぁぁぁぁぁぁぁっ!!いい加減に死ねっ!!食われろよぉぉぉぉぉぉぉっ!!』


「はっ!!悪いがアタシはごめんだね、お嬢ちゃん!!……」


両目を貫かれ、錯乱した様に口を開ける竜の刃に魔力を付与させた長く貫通力に優れた矢を放つと、自身の想定するよりも遥かに強力な炎の魔力に脳を焼き尽くされた二足歩行の竜は崩れ落ちる。


彼等の向かう先には竜の屍が無数に築かれていた。常に戦闘の最前線に身を置いて来た彼等は溢れ出る闘争本能のままに敵を討ち、そして使命を果たした。


地上戦力の殲滅に力を注ぐ西部国境警備基地の精鋭の中でも、特に多い竜を狩って来た二人を先頭に彼等は前進を続ける。その一人は魔術を付与させたロングボウで正確に急所を貫く元クリスティーヌ親衛隊の弓兵隊長の女性だった。刈り込まれた短いブロンドの髪を揺らし新たに現れた敵影を見たミラ・ベントレーは愉快で愉快で堪らないという風に絶叫する。


「そらっ!!正面に新たにドラゴンが三体!!女好きのクリスティーヌ様でも奴等を殺れば惚れちゃうかもね!!」


「だとしたら、あの世で後悔させなきゃならないな!!……」


そんな声と共に、赤い光の残像を揺らしながら素早く人影が駆けた。赤く発光するレッドサファイアを、燃え滾る炎の魔石を煌めかせ青年は疾走する。そして、片手に握り締めた剣先を持ち上げると倒れるドラゴンの亡骸を胸を焦がす闘志のままに駆け上がると巨体を蹴って飛翔した。


ヨハン・ガーランドは呆然とこちらを見つめる巨竜を睨み付けながら手にした魔剣、プラウダスを叩き付ける様に地面に振るい……叫んだ。



「燃え尽きろぉぉぉおおおおおおおおおおおおッ!!!」


自身の師であり、自身の最大の敵であり、そして……自身が越えるべき最大の壁だったクリスティーヌ・バンゼッティを超越すためにヨハンはその魔剣の力を最大限で解き放つ。


ラグナロクの力によって作り出された紛い物の竜達は創造主ほどの力を持ち合わせてはいない。その想定を超える炎を前に、灰と化す他なかった。


焼け落ちる三匹の竜へ視線を僅かな間向けると、彼は眉間の皺を一層深め周囲を睨む。



「次はどいつだ!?……俺はまだ、クリスティーヌを越えられてなどいない!シャーリーに胸を張って報告が出来ない!」




























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