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殲滅のマタドール   作者: ユリグルイ
FINAL ORDER
112/121

殲滅のマタドール:111話 Indicate Dominator

「ヨハン隊長!出撃準備、整いました!」


「総員百名、準備完了です!」


勇ましく、頼り甲斐のある部下達の声を聞き首を頷けると……男は静かに足を進め、そして荒く息を漏らす軍馬へと跨った。皺の増える眉間へ新たな苦境、打破すべき状況に対する決意を皆に伝えるべく隆起を作ると声を荒らげた。


「以前から作り上げていた国王陛下との非常連絡網に先ほど、三度の小刻みなメッセージが入った!それが意味する所は国家存亡の危機だ!」


ヨハン・ガーランドは指示を飛ばす。彼の言う事を信じ、密かに今までの間を野営で過ごして来た友人であり、戦友達に……。


「行くぞ!!このメルキオという国家を揺るがす何者かが首都に手を伸ばしている!!。総員、この国家の友人を守れ!!」


地が割れんばかりの咆哮が轟く中、弓を担いだ女は静かに唇を吊り上げる。


「アタシが大手柄立てたら王都のゴージャスなご令嬢食い放題コースって事で良い?」


ミラ・ベントレーが不敵にそう笑うと、周囲の男女も同じ様に笑った。笑い声が収まるのを待ち、ヨハンは呆れ果てた様に彼女へ言った。


「止めはせん、ただしフラれても無理強いはするなよ……」


「おっしゃあ!!行くよ、アンタ達!!ゴージャスな美女を食い放題だァ!!」


ロングボウを掲げ、真っ先に馬を走らせた女に続き愚連隊の様な奇声を発しながら他の馬が駆けて行く。


そんな彼等を呆れと共に頼もしさを抱き見ていた青年は馬を駆けだして行く。


友人を救う、彼等の心は決まっていた。



--------


『こちらビッグ・ダディ……聞こえるか?』


『こちらビッグ・ブラザー……どうぞ 』


『どうだ、新たな機体の感覚は……アーノルド?』


『悪くはないですが、どうせならゴリアテのが俺には性に合ってましたね……操縦席が狭いったらない……』


『我慢してくれよぉ……そいつの適正、お前しか居なかったんだからさ……』


『まあ、しょうがないでしょうね……その代わり、思い切り暴れますが大丈夫ですか?』


『え、えーっと……一応ダムザはメルキオの自治領だからねぇ!?王宮とか吹っ飛ばしたら困るからねぇ!?』


『腹の立つクソ野郎をぶっ飛ばしてきますよ!!……ホワイト・スワン!!連絡、アウト!!』


その狭苦しいコクピットの中で、眩しい頭を輝かせる男は操作パネルから手を離すと、続けて邪魔臭い位置にある連絡用パネルを握り声を張り上げる。


「こちら白鳥!!出撃許可が下りた!!俺達の任務は分かってるよな!?」


その場で彼の背後に聳える大柄な巨人達の操舵者に声を張り上げる。


「世界を脅かす敵を倒せとの大統領のご命令だ!!腹を括って掛かれ!!この×××野郎共!!」


全長50メートルを超える巨人達、超弩級の大型ゴーレムであるゴリアテの操舵者達は一斉に機体を前進させた。


巨人達の合間を縫って、一際小柄な人影が駆け抜ける。


アーサー・ゴッドボルトの駆った夜鷹……ブラック・ホークを回収したホワイトの塗料で塗られた騎士が巨人達を率いて前進する。


ホワイト・スワン、それはオリバー・クロムウェルが亡き息子の遺した機体をあらゆる力を使い修復させたダムザ最大の軍事力だった。月を反射する巨大な剣を引き抜いた白い騎士は、スラスターを吹かせ突撃する。


邪悪な敵の居場所へと……。



------


「あぁぁぁぁんっ!!もうっ!!そのアヴィとかいう人はどの宿場に居ますのよ!?」


疲れ切った足をへたり込ませると、彼女は思わず大声を上げて泣いた。


街へ駆け出した際の勇ましい言葉とは裏腹に、レティシア・スタンフォードは困り果てていた。


サシャは、アヴィが宿泊している宿を知らなかった。そして、その詳細を知らぬ間にレティシアは彼女の申し出を了承してしまった。


半ば泣きながら足を進めると、彼女はそれまでの疲労感からふら付いた足取りで夜の王都を歩く。そして、誰かにぶつかった。


「あ、あっ!ごめんなさい!……」


「いたた……もう今日は散々ですわよ!!なんで私、あんな事をぉぉぉぉぉッ!?」


「だ、大丈夫ですか!?ちょっと、ボーっとしてしまって……」


「ボーっとして済んだら騎士団はいりませんわ!!大事な用があるというのに!!」


余裕を無くした彼女は激しくその相手を罵倒した。ひたすら謝罪を繰り返し頭を下げ続ける彼女を見てようやく平静を取り戻すと……彼女は溜息を吐いて言った。


「ご、ごめんなさい……ちょっと、慌てていたんですの……」


「こ、こちらこそ……ごめんなさい!……」


「はぁー……サシャも本当に厄介な役目を押し付けたものですわね……」


その時、突然レティシアは相手に肩を掴まれ……そして、黒髪の少女が真剣な眼差しで自分を見つめているのに気付き動揺した様に声を上げた。


「な、な、なななな……な、なん……ですの?……」


「サシャと言いましたね!……それは、ひょっとして……今の国王様の奥様の……」


「え、ええっ!!私は彼女に頼まれてアヴィという女婿を探していますのよ!!……」


慌ててそう言うと、彼女はレティシアの肩に両手を置いたまま唖然としていた。そこで彼女は気付く、この黒い髪を持つ背の高い少女が……そうなのだろうかと……。


「あ、あのっ!貴女の名前は……まさか……!」


「アヴィです!……サシャの、パートナーです!」


その言葉を聞くと、レティシアは悲鳴の様な声を上げて状況を説明した。彼女達の命が危ない事、王宮が乗っ取られた事、そして……サシャは、アヴィを未だに信じている事。



目を見開きながら状況を察したアヴィはある物をレティシアへと託し駆け出した。どうやら、彼女は王都守備隊の居場所すらも知っているらしい。走っていた足を止めると、振り返り深々と頭を下げながら彼女は再び足を進めていった。


そんな彼女の姿を呆然と見送ったレティシアは……全てを悟っていた。


「……敵いませんわね……あの子には……」


そして、覚悟を決めると彼女も反対側へと駆け出した。最も王宮から遠く、そして密かに想いを寄せていた少女へ会う為だけに進んでいた道を……何かが吹っ切れた様な笑顔で走り出した。



−−−−−


「さあさあ、お集まりの皆様方!!……間もなく時刻は日付を変えます……。いよいよ、この国家が生まれ変わる時が来たのです……」


まるで、演奏団の指揮者の様に両手を掲げた男は周囲の人間達へ問い掛ける。男の野心を含む、その意地悪い質問を……。


「この者達は愚かしい事に、メルキオの弱体化を望み故意に弱腰の政治を行っていた張本人達だ!……ラゴウとベアルゴという脅威がある中で、ダムザの経済力を取り込んだ事に満足し目眩ましを行った!……ダムザの領土合併計画など、所詮は目眩ましに過ぎません……」


猛々しく語る彼の言葉に、議場を埋め尽くす誰もが賛同し拍手を送った。


ヴィクトル・ブラウンは演説を続ける。広大な議場の中央、王族専用の席の前で手足を拘束され、黒ずくめの衣装の男女にナイフを突き付けられるギュンターとサシャを睨みながら支配者は声を荒らげた。


「偽りの支配に今こそ私は終止符を打つ!……そして、このメルキオをより強い国家として生まれ変わらせる!」


再度、空気が裂けんばかりの拍手喝采が巻き起こる。


時計の針が日付の変わる瞬間までもう間もなくという頃……静かに息を飲むサシャは隣で顔を下げるギュンターに声を掛けた。



「……今の内に言っとくわね、ギュンター……」


「……ああ、分かってる……本当にすまなかった、君を巻き込んでしまって−−−」


「たぶん、私達の死体を見てアヴィがブチキレて消し炭にされちゃうかもしれないけど……勘弁してね……」


「……冗談にしても笑えないよ、それ……」


覚悟を決めた二人には既に後悔も迷いもない……ギリアムの残した望みと、レティシアに託した希望が身を結ばないというのなら……それは仕方ない事だと諦めた。そして、先にナイフを宛行われたのはサシャの方だった。


彼女は横を見ると力無く微笑んだ。


「……ありがと、ギュンター……」


「……サシャ……」


静かに彼女が目を瞑った瞬間、議場の扉が大きな音を立てて開かれた。


顔を上げた彼女はようやく辿り付いた想い人の姿を想像し……そして、議場の入り口に立つ人物を見て絶句した。



「……な、なんで……アンタが……」


「私にだって剣の覚えは一応はありますもの!……貴女の大好きな人が来るまで、守ってみせますわ!」


その瞬間、口を半開きにしつつサシャは涙が頬を伝うのを感じた。



−−−−


「こ、このバカッ!!何でアンタが一番乗りなのよ!!……何で……!!」


「ひ、人が助けに駆けつけたのに……なんと無礼な女なんでしょう!」


サーベルを手にした彼女は私の声を聞くと、起こったように頬を膨らませた。


あーっ、もうっ!!なんで、どうして!!……こんな時に限って!!。


焦りと同時に、強烈な恐怖を覚えた私はギュンターの方を見た。彼は静かに首を頷け、予想とは違うものの……計画を実行するべく意志を見せた。


「これはこれは……レティシア嬢、貴女もメルキオの怠惰を処刑する瞬間に立ち会うおつもりで?」


「私が処刑する相手は……アンタですわよ!この卑劣な裏切り者!」


「ほお、何とも盛り上がる展開になって来たじゃないか……!」


楽しむ様に席で声を上げた男は、懐から取り出したナイフを自身の座るテーブルへと突き刺した。


マズい……あいつ、また……!!。


もう、限界だ!!……私は合図よりも先に行動した。視線をレティシアへ向ける相手の手首へ噛みつくと、うめき声を上げる男の股間に全力で蹴りを入れる。隣では同じ様にギュンターが素早く関節に打撃を加え跪かせた相手の顔面を床へと叩きつける。


誰もが呆然とする中で、私は叫んでいた。



「逃げてっ!!レティシア!!……」


「逃げるんだ!!レティシア・スタンフォード!!……」


「お、お二人共何を言っていますの!?せっかく駆け付けたのに逃げるなんて−−−」


必死に叫ぶ私達の様子を見て困惑した彼女の背後に……アイツが居た。奴は、唇の端を吊り上げて……あの人をいたぶる時の……気色悪い笑みを浮かべて……。



「……え、えっ?……」



間の抜けた表情をして振り向く彼女の胸に……背後から短剣を突き刺した。



−−−−−−


「レティシアァァァァァァァァァァッ!!!」


「クソッ、クソォォォォォォォォォォッ!!!」


悲鳴の上がる議場の中、二人は背後の悪漢達が落とした凶器を手に彼女の元へと向かった。剣を手に立ち塞がる邪魔者達を斬り伏せながら、二人は……命懸けで救おうとたった一人で孤高な戦いに挑んだ友の元へと進んだ。


「レティシアぁぁっ!!……バカ、バカ、バカぁぁぁぁあっ!!なんで、なんでよ!?どうしてなのよぉぉぉぉぉっ!!」


「ま、待っててくれ!!いま、傷口を止血する!!……」


ギュンターは血の海に横たわる彼女を励ます様に、必死にそう言うと纏っていた上着を脱ぎ……血をドクドクと流す胸の傷へと宛がった。紫の豪奢な王族用の上着は……溢れ続ける鮮血で真っ赤に染まっていった。


唇を噛み締めたギュンターは瞳から涙を零すと、小さく声を漏らして首を横へと振る。それを見たサシャは……放心した様子で必死に声を掛け続ける。


「レ、レティシア!!待ってなさい!!私が、今……貴女を治してあげる!!」


「……ぁ……さ……しゃ……」


「イ、イノセンス・ブルー!!……」


「……ちゆ……まじゅつも……つかえる、なんて……ほんとに……すごいん……ですわね……」


「っ……あ、当たり前よ!!……ほら、もう……傷は……塞がった……」


そこで、サシャはとても相手の瞳を見る事など出来ず……目を逸らした。


そんな彼女を、光を失う事ない瞳でレティシアは見つめ続けていた。まるで……大好きな人が信じられない様な奇跡をおこしてくれたかのように……。



「さ、しゃ……これ……アヴィ、という子が……あなたに……」


「ア、アヴィが!?これを!?……」


それを見た瞬間、感情を抑え切れなくなったサシャは遂に嗚咽を漏らし泣き始めた。


それは、かつて同じようにサシャへ想いを寄せた少女が託した希望……巨大なゴリアテを一撃で三機纏めて葬り去った強力な魔導兵器だった。オリバー・クロムウェルの厚意によりサシャの手に渡ったその雷の弓を、アヴィは大切に持ち続けていた。そして、彼女の危機の際に手渡そうと常に持ち歩いていた。


そして、そんな想いのリレーは命懸けでサシャを救いに来た少女の手によって……遂に彼女の元へと届けられたのだ。



「……ありがとう……レティシア……っ……。貴女は……貴女は……」


「……ほんと……さいあく……ですわね……」


「……っ、う、うぅぅぅぅッ!……貴女は、私の……」


頬に彼女の指から伝わる体温と、涙の雫が降り注ぐ冷たさを感じながら……少女は最期の言葉を残した。



「……せっかく……あなたを、泣かせたのに……こんなに……さみしい……なん……て……」


薄く目を閉じたレティシア・スタンフォードの瞳から光が消えた瞬間……猛る処刑執行人はその全長一メートル程の棒を掴み上げ、射出準備を整えていた。


周囲の黒ずくめの男女は異常を察し、素早く懐からシルバーの鉄塊を取り出した。それはドラゴン・トゥースのギルドメンバーの正式採用武装、大柄な50口径自動拳銃だった。周囲には既に人影はない、邪魔な貴族や軍人は居ない。


傍に居るギュンターと、安らかな……眠るような表情で事切れる頼もしい友人の亡骸があるだけだ。


涙を拭ったサシャは、その片目を黄色く輝かせながら……かつて自分を愛してくれた少女が刻んだルーンを呼び起こし、そして雷の神罰を遂行する。



「 ----インディグネイト・ドミネータァァァァァァァァァァァァァッ!!! 」


猛り狂う処刑執行人の放つ神罰の弓が、議場を瞬く間に一周した。自動拳銃を構えたまま、硬直していた彼等の肉体が次々と弾け飛ぶ。凄まじい高圧電流を受けた複数の肉体が、まるで電子レンジに入れ過ぎた肉のように弾け飛んだ。


広大な議場の壁に血のペンキが人数分散らされるのを確認すると、サシャは静かに呆然とへたり込む若き王へ手を差し伸べる。


「……貴方は生きていなければいけない……行きましょう、ギュンター……」


「あ、ああ……」


小さく声を漏らすと、ギュンターは彼女の手を握り締めヨロヨロと立ち上がった。


瞳の端に伝う涙を拭ったサシャは、仰向けに倒れ込む親友の瞼をそっと閉じると……その頬にキスをして囁いた。



「……待ってて、レティシア……もうこんな事は、終わりにするから……」



















 


















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