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殲滅のマタドール   作者: ユリグルイ
FINAL ORDER
102/121

殲滅のマタドール:101話 地下室の怪人

その空間は死臭と腐敗臭に満ちていた。


屋敷の地下に存在する広大なスペースは元々、以前所有していた屋敷の持ち主がある実験に使う為に作り上げた場所だと言う。その詳しい実験内容は知らされてはいなかったものの、非合法な人体実験の類であるとルーシアは直感した。


床に染み付いたドス黒い血の跡やそこから漂う死の臭い、それが多くの命が奪われ凌辱された処刑場なのだと理解させる。その空気に圧倒された彼女は以前の主と同じ様に孤児院から連れて来た子供達を自身の目的の為にユグドラシルの苗床とした。悲鳴を上げて泣き叫ぶ彼、もしくは彼女の両手を縛って吊るし、そして腹部を切開し種を植え込んでいく。大人に比べ子供を苗床とした場合に成長スピードは大きく落ちる。宿主を殺さず腸や肺に突き刺した管を通して酸素や栄養を摂取する悍ましい寄生植物は子供のひ弱な体でも耐えられる様に時間を掛けて成長を続けていく。


白目を剥き痙攣する彼等に無理やり食事や水を詰め込みながら女はその“温室”で人の命を吸い上げ発育する恐ろしい植物を必要な数だけ栽培する事に成功した。


弦の蠢くその不気味な種はある期間になると取り出され、そして手渡された機材を通し仮死状態にされ必要な時になるまで厳重に保管されていた。そして、その時を迎えた種達は今は彼女の肉体の内部に収まっている。


運命の瞬間を迎えた女は一心不乱に重々しく荘厳な音色を奏でるパイプオルガンを弾き続ける。男女の声が情熱的に互いを埋め合わす様が歌われる。


「オペラ座の怪人」は彼女がその女と会った際に勧められた劇だった。天性の才能を開花させたオペラ歌手のクリスティーヌと彼女の資質を見抜き指導を行う顔を仮面で隠した稀代の演出家の二人が結ぶ奇妙な関係は何処となく自身と似ている風にルーシアは思った。嫉妬、依存、独占欲……そしてその先に訪れる悲しい結末に胸を打たれたルーシアは必要な機材や武器と共に当時の技術で復元されたパイプオルガンを彼女に要求した。自身を醜い素顔を仮面で隠した愛に飢える怪人と重ね、愛を向けてくれる人間を探し続けていた。数十回と繰り返したその曲を弾き終えた瞬間、部屋の扉が開く気配を感じ取った女は静かに椅子から立ち上がると煌びやかなパイプオルガンに背を向けて歩き出す。


「ああっ!来てくれたのね!私の愛おしいクリスティーヌ!……この地下でお前を待ち続け、顔を変え、必要な準備を整えるのに随分と掛かってしまったわ!」


「……お前は何を言っている。クリスティーヌは死んだぞ……」


「私の大好きな劇の話よ!オペラ座の怪人!……私は地下に住まう悍ましい素顔を隠した怪人のファントムで、貴女は私に攫われるヒロインのクリスティーヌよ!」


「……お前が私に愛情を?ふざけているのか……」


「ふざけてなんて無いわよ!大いに本気……ふふっ、ふふふふふふっ!身を焦がすようなこの執着心こそが私の知る愛、貴女の全てを支配して私へ視線を向けさせる狂った愛憎よ!」


不愉快そうに舌打ちをするイングリットは部屋のあちこちに吊るされた幼児達の無残な亡骸に一切臆する事無く足を進める。強烈な死臭に口元を押さえつつ後ろに続くアヴィは顔を歪めつつ彼女に叫んだ。


「こ、この子達はいったい……貴女は何をしたんですか!?」


「あらあら、貴女はクリスティーヌを追って私の住処にやって来たペルシャ人?クリスティーヌの愛する恋人のラウル、リー・ガウロンはもう死んだものね!」


「ッ……いったい貴女の目的は何なんですか!?ラゴウの権力闘争を勝ち抜いて再び王にでもなるつもりですか!?」


「はぁ?権力闘争ォ?そんな下らない事の為に私がここまでしたと思ってるの?」


本気で不愉快そうな顔をしてルーシアは言った。ますますアヴィは混乱する、それ以外の目的が分からなかった。竜王と呼ばれていた青年は勿論、無垢な少女であるアンジェラやこの場所に吊るされている子供達を殺す理由が分からなかった。


狼狽えながら言葉を詰まらせる彼女を見て笑うと、ルーシアは自身の胸の内から湧き上がる狂気の全てを言葉に出してぶちまけた。


「アハハハハハッ!!私はね、そこのダークエルフの娘を苦しめたいの!!支配してやりたいの!!その為だけに私はやって来たんだ!!オペラ座の怪人の様に飢えた愛を憎悪に変換して!!」


「……一つだけお前に聞いておきたい。どうして私をそこまで憎む?……」


「うるさいっ!!お前は許されない事をした……私と違って正しく誰かから愛されて来た!!不義理で生まれた出来損ないのクセに!!同じ亡霊の私と違って、あの男からもお前は愛された!!」


踵を返すと、ルーシアは鍵盤に手を叩きつけ不協和音を鳴らす。それは既に正気を失った彼女の精神状態そのものだ。


「私はずっと忘れられてきた!!肌の色が違うせいでメルキオの連中から差別され、味方といえば母さんとあの人しか居なかった!!日陰者の様に暮らす私達を保護してくれたその人は貧しい中でも懸命に助けてくれたんだ!!……でも、そんな彼も悪い噂の絶えない両親の罪の所為で差別されたと言っていたわ……」


「……ラゴウから移民になった者は誰でも経験する事だ。お前だけの苦しみじゃない……」


「黙れッ!!他の連中には親が居る、兄弟が居る!!でも、私は……最終的には、誰からも嫌われた……」


息を荒らげイングリットを睨み付けるルーシアは泣き笑いの混じる歪な表情を浮かべると小刻みに体を揺らしながらい語った。


「……どうにか暮らして来た私達に……終わりの時がやって来た……。それまで私達を支えてくれた彼が、どうしてもベアルゴまで行かないといけなくなったの。元々無償で私達を救ってくれた恩人だったから引き留める事なんて出来ない。その日から私達は二人きりでこの屋敷で生活を共にした……母さんは身売り、私は身売りと窃盗……そうやって必死に生きて来た。だけど、それも遂に終わりが来たのよ……」


両目から涙を零す女は頭を抱えながら相反する二つの感情の狭間で苦しむ様な声を上げ、そして絶叫した。


「母さんが病気になって死ぬ間際に何て言ったと思う!?"お前さえいなければ、あの人は私達を見捨てなかった″、"お前のせいで何もかもおかしくなった"、そんな憎悪を残して死んでいったのよ!!」


「……その逆恨みの結果がこれか。バカバカしい……」


「アンタにとってはバカバカしいんでしょうけど私には生きる意味の全てを否定された悲劇よ!!。何で、何でなの!?私だってラウル・バルザックの血を継ぐ娘なのに……私だって余所に放り投げだされた亡霊なのに……どうして!!」


その憎悪の全てを聞き届けたイングリットは冷めきった瞳で彼女を見ると、ナイフを引き抜きながらアヴィに言った。


「時間の無駄だ……このイカレた女の言う事は聞く必要はないぞ 」


「イ、イングリット……彼女は……」


「ラウル・バルザックの残した忘れ形見、それは確かに同じだが……こんな女と姉妹なんかに見られたら死にたくなる。コイツは私達の敵だ……」


冷たく言い放つ彼女が殺意を滲ませながら足を踏み出そうとした瞬間、ルーシアは真横に置かれている布を被した何かを露わにする。それを見たイングリットは怪訝そうな表情を浮かべ、そしてアヴィは目を見開きその凶器の正体を理解すると言葉を発する前に立っていたイングリットの体を押し倒していた。


次の瞬間、猛烈な青い線を引く弾丸の雨が低いモーター音と共に発射され毎分6000発という異常なサイクルで襲いかかる銃弾の雨が二人に襲い掛かった。


それはアヴィ達の居た世界に中世に当たる年代の頃から伝わる強力な銃器の発展モデルだった。


咄嗟に伏せた体勢のままアヴィはシールドを展開しつつ叫ぶ。


「拠点防衛用のセントリーガン!……あんな物まで……!」


「あ、あれはいったい何だ!?」


「私達の世界の武器です!エネルギー弾を連続で発射し、敵の侵攻を防ぐ強力な兵器です!シールドから絶対に出ないで!センサーに追尾されたらバラバラにされますよ!」


六本の砲塔を高速で回転させ凄まじい速度で銃弾を放つその拠点防衛火器は横に備えられたセンサーが感知したターゲットへ無慈悲に攻撃を加え続けていく。青い線の様に伸びる暴力の嵐は激しいスパークを散らしながらシールドに衝突し、削り取る。


< 警告、シールド損耗率55パーセント。安全な物陰に退避し再度シールドを構築してください >


「安全なんてこんな場所には無い!」


苛立ち混じりに叫ぶアヴィは汗が首筋を伝うのを感じると必死に思考する。このままでは物陰の全てが削られていずれは砲火の中に飛び出す事になる。しかし、修復ナノマシンがある自分と違いイングリットはエルフ族ではあるものの生身の人間に等しい。


そんな彼女をこの強烈なエネルギー弾の暴風雨の中に晒せばあっという間にバラバラになってしまう。誰かを犠牲にする助かり方など頭にない彼女は必死に考え……そして、ある一手を思い付く。


「イングリット!このままでは攻撃によってシールドが削られ尽くされてしまいます!再度シールドを展開し直す一秒間だけ、時間を稼いでください!」


「わ、分かったがいったいどうする気だ!?あんなバケモノ相手に私の力では……」


「シールドを解除する瞬間にあの攻撃を行う兵器に向かってナイフを投げてください!あれは近寄る物であれば生き物でも無機物でも関係なく迎撃します!狙いが逸れた隙に再度シールドを敷き直します!合図をしたら天井に向かってナイフを!」


「了解した!……」


腰のベルトに刺さる投擲用のナイフを引き抜くとイングリットは息を飲み込んだ。アヴィは賭けた、やや精神的に不安定になっているものの彼女の実力に全てを託す。


シールド損耗率が90パーセントを超えるシークエンスが流れた瞬間、アヴィは声を上げた。



「今です、投げて!」


目の前を包む黄金のシールドが消え、目の前が開けた瞬間にイングリットは素早く腕を振るいナイフを天井へと投げつける。薄暗い明かりを反射させ煌めくその光を拠点防衛用セントリーガン"エクスキャリバー"の高性能センサーは見逃さなかった。ミサイルやアンドロイドなど、人間以外の兵器の迎撃も想定されたその光学機器の指示に従い電動モーターに操られる六門の砲が回転を始め甲高い唸りを上げて青い弾幕を展開する。上に向けられたエクスキャリバーが宙を舞うナイフを粉々に破壊した瞬間、アヴィは叫ぶ。


「シールド展開!」


< イエスサー、対ショックシールド展開。敵武装解析、拠点防衛用六連装40mmファランクス"エクスキャリバー"。使用弾薬解析、プラズマエネルギー内包型弾頭"シールドブレイカー"。バッテリー持続時間、推定残り三日間 >


「このままじゃ……マズイ!……」


焦りに表情を曇らせるアヴィがシールドを展開を半ばまで終えたその時、素早くターゲットの撃破を終えた砲塔が彼女の方を向いた。その時、彼女は自身の死を覚悟する。


「イングリット!伏せ---」


その言葉を言い終える前に、彼女の右肩から先が青い嵐によって粉々に吹き飛ばされた。



-------


「ア、アヴィ!!……」


「ぐっ、う、うぅぅぅぅぅうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


白いジェル状の人工筋肉の"肉片"がイングリットの顔面に噴きかかる。明らかに人間とは違う構造のソレは通常であれば、不気味さや驚愕を覚えるかもしれない。しかし、イングリットの頭にはそんな物はなかった。ただ、自分を庇う為にまた大切な仲間が傷付いた事実に愕然とし……そして、それでも尚シールドの展開を続け半身のみ広げた盾で自分を守り通す彼女を見て涙を流していた。


「ア、アヴィ!もういい!私なんて置いて行ってくれ!」


「嫌です!絶対に嫌だ!」


「どうして!?もう、私は……私……自分の為に誰かが傷付くのを見たくない!!」


頭を抱えたイングリットは激しく息を乱しながら子供の様に泣きじゃくった。


その様子を背中越しに感じながら、アヴィは緩みきった笑みを浮かべ声を掛ける。


「……良かった……貴女は無闇に人を傷付ける人じゃない……」


「……ア……ヴィ?……」


「……ダムザで、クリスティーヌを殺したのは貴女だと言っていた人が居た……私は怒りました、猛烈に……」


「そ、それは……私も、本国で色々言われた……」


「でも、シャーリーをあんなにも愛していた人があんな方法で人を殺す筈がないと信じてました!……私は貴女を信じています!」


「……アヴィィィッ……」


それは彼女にとって、嬉しさでもあり胸を掻き乱す悲しみでもあった。自分は戦士として未成熟、そんな現実を突きつけられたイングリットは涙を拭い……そして決意を固める。


目的の為であれば自身の命すらも惜しまない、そんな覚悟を強めた。


シールドを張るアヴィの背中に身を寄せると、イングリットは静かに囁いた。


「アヴィ……私がこれから活路を開く。お前は隙を見て攻撃してくれ……」


「イ、イングリット!?何を!?……」


「ナイフを使い奴の動きを惑わす!そして、重力を操る魔術を使いあの火を吹くバケモノを黙らせる!」


「む、無茶です!そんなのは、命が幾つあっても……」


視線を外せず、前を見たままのアヴィの体をイングリットは抱き締めた。


背中から伝わる体温を感じ、言葉を詰まらせる彼女にイングリットは耳元で囁いた。



「こんな私を……守ってくれてありがとう……アヴィ……」


「……イングリット……?」


「……もう私は迷わない!他人の命も自分の命も、現状を打開する為に……使わせてもらう!」


戸惑ったアヴィが振り向いた瞬間、イングリットはナイフを再び天井に投げていた。指に挟み込む三本のナイフを素早く振るうと、上空の異なる方向へと砲塔が動き飛翔物体を迎撃する。


三秒の間に三本のナイフを吹き飛ばした六門の筒がセンサーの指令に従いイングリットを捉える。しかし、彼女は片方の手に握り込むナイフを再度投擲した。


今度は反対側の壁に向けて投げ付ける。360度の広範囲に稼働するエクスキャリバーを支える台座がモーターの唸りを上げて真横へと向き銃撃を開始する。


吊るされた幼子の亡骸をズタズタに引き裂きながらプラズマエネルギーを内包した弾頭が弾け、青いスパークを迸らせる。


「ひひ、いひひひひひいいいっ!!イングリットォォ!!捨て身の特攻のつもりぃぃっ!?アンタの重力の魔術なんかでこの恐ろしい力の嵐を止められるものかぁぁぁぁぁっ!!」


「結果など、どうでもいい!!」


「……は?……」


「それでも、私が死んだとしても!!私は……私は自分の道を切り開くんだぁぁぁあああああああああっ!!」


極限まで放出された脳内麻薬が彼女の時間を鈍らせる。全力で走る彼女が放つ重力の魔術、グラビティダウンの射程圏内にもう間もなく手が届く。しかし、無慈悲な機械の殺戮者は

台座を素早く動かして粉砕する敵の姿を捉えていた。その砲身が回転を始めた瞬間、イングリットは絶叫する。



「グラビティ−−−」


数回の空転を繰り返した砲塔からいよいよ銃弾が発射されようというその時、彼女は全ての契約を終えていた。


「ダウン!!!」


激しい金属の軋みと共にその6連装の砲身は急激な重力負荷を受け下を向く。火花を上げながらモーター音を響かせる台座が懸命に目の前の敵を滅ぼそうと足掻いていた。下を向かせる事は出来ても止める事は出来ない。額に汗を伝わせたイングリットが息を飲んだ瞬間、小さな金属音が響き渡る。


見ると、焦燥感を滲ませた女が武骨な黒い鉄塊をイングリットへと向けていた。


「イングリットォォッ!!私の愛しのクリスティーヌ……今、私が連れ出してあげるわ……地獄の底までねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


女が手にするのは旧式の50口径の自動拳銃だった。角張った武骨なその銃器は扱い方の複雑な歩兵用のプラズマライフルやその他の武装に比べ単純な動作のみで扱える為に支給されていた。スライドを引き、その巨大なハンドキャノンとも言うべき大型自動拳銃の引き金に指を掛けた。


自身の運命を悟り小さく声を漏らすイングリットが硬く目を瞑った瞬間、暖かな光が彼女を包み込む。


「遠隔対爆シールド、出力全開!!破片一つ彼女に届かせるな!!」


< イエスサー、対爆シールド出力最大限に設定。巡航ミサイル直撃時のショックを想定 >


「"テカムセ"展開開始!!対艦用弾頭"パンデリラ"装填!!」


< イエスサー、多目的汎用ランチャー"テカムセ"セット完了。対艦用炸裂弾頭"パンデリラ"セレクターをフルオートに設定し装填準備中。ウェポンズフリーまで残り五秒 >


その武骨なライフルの形状を取る強力な弾頭を射出する事が出来る武器を片手で構えると、アヴィは装填完了までの時間を待った。その心には恐怖はない。ただ、己の為すべき使命を果たすべく正面の敵を睨み付ける戦士が其処には居た。


「クソ、クソ、クソッ!!そっちじゃない、あっちを狙いなさいよ!!そいつはシールドが厚過ぎる!!あの厄介な女を狙いなさいよおおおおおおおおおッ!!」


未だに対爆シールドに守られたイングリットを延々と攻撃し続ける。その分厚いシールドに守られた対象をより脅威判定の高い目標だと認識し執拗に銃弾の雨を浴びせ続けた。ヒステリックな絶叫を上げ、ルーシアは火を噴き続けるエクスキャリバーの真横に取り着けられたセンサー類の収まるボックスを自動拳銃のグリップで叩く。


「使い方も知らない力に頼るからそうなる!」


「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなああああああああああっ!!」


< ウェポンズフリーまで残り四秒 >


「貴女はもう終わりだ!!ルーシア!!」


「いい気になりやがって!!この殺人機械人形がああああああああああっ!!」


片手で構えたその大砲の様な自動拳銃の引き金をルーシアは引く。火薬類を扱う自動拳銃の中では最大級の威力を持つ弾丸を発射できるその拳銃には致命的な欠点があった。大型のフレームや重いウェイトは強力な50口径アクションエクスプレス弾を発射する際にリコイルを抑える役割を充分に果たしている。しかし、それでも両手ではなく片手で……それも肘を伸ばしきった状態で拳銃を構える彼女はあまりにも無知だった。


いや、正確にはその銃器の特徴を大して説明すらされていない。


引き金を引いた瞬間、雷管が叩かれ発火した薬莢内部から猛烈な燃焼ガスが発生し彼女の細い腕の筋肉と骨を大きく揺さぶった。跳ね上がった銃口から凄まじい爆炎と共に発射された弾丸は狙いを付けたアヴィの頭部とはまるで違う方向へと飛んでいく。


強烈なブローバックの衝撃はグリップを握る手首を無理やり曲げ、激痛と共に指を離したその手から武骨な自動拳銃が零れ落ち大きな音を立てた。


その時、彼女の運命を告げるシークエンスがアヴィの耳を震わせた。


<ウェポンズフリー、 "テカムセ"発射準備完了 >


狙いは正面のセントリーガン"エクスキャリバー"、そして大勢の人間の命と尊厳を奪い続けて来た卑劣な悪魔。アヴィは一切躊躇う事無くその巨大な銃身を輝かせる汎用ランチャーの引き金を絞り込んだ。


「うあぁぁぁぁぁぁあっ!!イングリット、イングリット、イングリットォオオオオオオオッ!!」


「吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


愛憎に満ちた絶叫と成すべき使命を果たすべく上げた咆哮が交差したその瞬間、古びた屋敷の一部が崩れる程の衝撃が地下から轟いた。





  
















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