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僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい。  作者: 旭/星畑旭
二年目の冬

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2-134:操縦が上手くなってきた

「ヒドイメニアッタヨ……」

「テルちゃんがいうこときかずにちかづくからだよ。おいもたちもきっとびっくりしたんだよ?」

「テルノホウガビックリシタヨ!」

「ホビビ!」

 テルちゃんはそう言って葉っぱをピコピコと振り回し、むくれた顔をした。取り出したときは少々萎れたような様子だったのにやはり懲りないようだ。

 テルちゃんを心配して寄ってきたフクちゃんが叱るように鳴いて、懲りないその体をツンとつつく。

 空は少し考え、それからふと畑の方を見た。芋畑では、足元から腰に掛けて蔓に絡みつかれた幸生がぐいぐいと容赦なくそれらを引っ張り芋を抜いている。

 空はそんな幸生を眺めながらテルちゃんを抱き上げると、フクちゃんを連れて畑の奥の方へと足を進めた。

「テルちゃんはさ、しょくぶつとおはなしできるじゃない? そういうので、まずちかづいてもいい? って、さいしょにきくのがいいとおもうんだよ」

「ソーナノ?」

「そうそう。おうちだってさ、おきゃくさんはみんな、こんにちはってあいさつしてからはいるでしょ。それがないと、おいもだってびっくりしちゃうよ」

「ナルホドダヨ……」

「ホピッ」

 テルちゃんたちが納得したところで、空は奥の畝の少し手前で足を止めた。芋の蔓に絡まれない距離を慎重に計り、テルちゃんをそっと下ろす。

「このくらいはなれてれば、すぐにはつかまらないよ。ほら、あいさつしよう?」

 空が促すとテルちゃんは頷き、離れたままサツマイモたちに声を掛けた。

「コンニチハ! セイレーノテルダヨ!」

 するとその声に応えるように、サツマイモの蔓がさわりと動く。

「テルハ、ワルイセイレージャナイヨ! ミンナノナカマダヨ!」

 大分種類は違うが、植物というくくりでは間違ってもいない……気もするからいいかなと空はそれをそっと見守った。悪い精霊じゃないかは今後に掛かっていそうだが。

「テルちゃんをわるいせいれーにしないよう、がんばってるそらだよー」

 ついでに空も小声で自己紹介をしておいた。


「エー、ソウナノ? テル、チカラハチョットジシンナインダヨー。ア、カワイサハジシンアルヨ!」

「ホピルルル!」

 テルちゃんはしばらくサツマイモたちと会話を交わし、どうにかそれなりに受け入れられたらしい。未だに適度な距離は保っているが、フクちゃんも交えて話が弾んでいるのか、芋たちも蔓の先をうねうねと振り回して何だか楽しそうだ。

「テルちゃん、おいもさんなにいってるの?」

 そんなに楽しそうにされると何となく引っこ抜きにくいな、と思いながら空はテルちゃんに聞いてみた。するとテルちゃんは伸びてきた芋の蔓をツンと突いて、空の方を振り向いた。

「サツマイモ、ツナヒキシタインダッテ!」

「……つなひき?」

「ヒッパリッコ、スキナンダッテー!」

 空はその言葉に首を傾げ、それから幸生の方を振り向いた。幸生は相変わらず畑の真ん中をドスドスと躊躇わず歩き、足や腕に絡まってくる蔓を捕まえてはぐいぐいと片っ端から引っこ抜いている。

 抜かれた芋が土と共に宙を舞い、ぽいぽいと放り投げられたそれらをヤナがせっせと集めていた。

「空、そっちは大丈夫か? 何かあったらすぐ言うのだぞ!」

「うん、だいじょぶ!」

 空はヤナに手を振って、それからまた視線をテルちゃんの方に戻した。

「ひょっとして、じぃじがつるをひっぱるの、たのしんでるの?」

「イツカアノジジイヲ、ミンナデツカマエテ、ウゴケナクシテヤルンダッテ、イッテルヨ! モクヒョーラシイヨ!」

「もくひょう……えっと、それはほどほどにがんばろうね?」

 サツマイモたちの高い目標を応援するべきか、空は困るので止めてもらうべきか悩むところだ。あと意外と口が悪い。

 しかし絡みつく理由が綱引きがしたいからだとは空は思ってもいなかったので、それは少し驚きだった。

 空は少し考え、テルちゃんに声を掛けた。

「ね、テルちゃん。おいもたち、ぼくともつなひきしてくれるかな? ぼくはいちどにだとむりだから、じゅんばんにやるの、どうかなぁ」

「……イイッテ!」

「ほんと? じゃあ、はしっこのかぶから、ひとつずつじゅんばんにやろ!」

 空が提案すると、テルちゃんがそれを伝えて畑へと近づく。今度は蔓は伸びてこない。空も少しばかり慎重に芋たちに近づき、一番端に植えられている芋の根元を確かめてそこから伸びる蔓を手に取りしっかりと握った。

「じゃあいくよ! よい、しょ! よい、しょ!」

「ホピッホピッ!」

「ガンバレー!」

 フクちゃんとテルちゃんに応援されながら蔓をぐいっと思い切り引くと、蔓も負けじと引っ張り返す。しかし力は思い切り踏ん張った空の方が少し強いように感じる。これなら何とかなりそうだと空は内心でホッとしながらさらに力を入れた。

「うぐぐ……! う、ん、しょーっ!」

 蔓をたぐって少しずつ手元に引き寄せ、体を傾けて思い切り力を込めると最後にはぼこんっと勢いよく芋が出てきて土が舞い散る。

「わっ!?」

 空はその勢いのまま尻餅をついてさらに後ろに転がった。草鞋のおかげで痛みはないが、一瞬ぐるりと目が回る。

「ヤッター、ソラノカチー!」

「ホピピホピッ!」

 視界に入った青空に、テルちゃんとフクちゃんの嬉しそうな声が高く響く。

 空はその青を見てにかりと笑い、起き上がって手の中に残る蔓を見た。蔓の先には大きな芋が幾つもぶら下がっている。

「えへへ、おいもとつなひき、たのしいね!」

 こそこそ近づいて隙を狙うように引き抜くより、こうして正々堂々と勝負した方がずっと楽しい気がする。その勝利の景品が大きくて美味しい芋というのがまた良い。

「ソラ、モットヤロッテ!」

「いいよー! じゃあ、つぎのこね!」

 芋たちは綱引き勝負が楽しめるなら、引っこ抜かれても満足のようだ。

 空はその後も次々に芋たちに勝負を挑まれ、順番! と宥めながら心ゆくまで綱引きを楽しんだのだった。


「なるほどなぁ。サツマイモたちは綱引きが好きだったのか……近寄る者に絡みつくのは、挑んでおったのかの?」

 サツマイモの収穫がすっかり終わった畑で、芋を集めながら空の話を聞いたヤナは感心していた。絡みつく芋の蔓を、収穫を邪魔したいだけだとすっかり思い込んでいたのだ。

 そういうものだと思って、それが何故なのかなど考えもしなかったなとヤナや幸生は少しばかり反省をした。

「みえおばちゃんは、しってるのかなぁ?」

「さて、どうだろうな……美枝の場合は何もせずとも野菜たちのほうが食べ頃の実をせっせと貢ぐからの……他の人がどうやって収穫しているのか知らぬ野菜もありそうなのだぞ」

 育て方や収穫方法が多少面倒くさくても、村の大抵の人間はそれを力技や魔法でこなしてしまう。面倒な交渉が必要だとかよほどの問題がない限り、美枝に相談が持ちかけられることはないのだ。

「じゃあ、さつまいもはつなひきがすきって、テルちゃんのだいはっけんだね!」

「うむ、お手柄なのだぞ! 端の株から順番に綱引きしようと持ちかければ、絡まれて身動きがとれなくなることもなさそうだし、子供たちでも楽に芋掘りができるかもしれないぞ」

「ヤッター! テルノオテガラダヨ! エライ? エライ?」

「うん! テルちゃん、おいもにちゃんとあいさつして、なかよくおしゃべりできて、とってもえらかったよ! らいねんはきっと、みんなでいもほりできるね!」

 空がそう言うと、話を聞いていた幸生がうむと頷いた。

「ここの畑は収穫を終えたが、別の場所にまだ畑がある。友達を誘うといい」

「ほんと? じぃじ、ありがとう!」

 空はパッと顔を輝かせて幸生を見上げた。キラキラした瞳を眩しそうに見つめ、幸生が満足げに頷く。

 しかしその横ではヤナが目を眇めて幸生を見つめていた。

「幸生? ここ以外にまだ芋畑があるのか? ヤナはそんな話を初めて聞いたぞ? というか、どれだけ畑を広げたら気が済むのだお主は! 収穫した芋をどこにしまうのだ! 新たな倉でも建てるつもりか!?」

「……それはいいな」

「よくないわ!」

 食べるのが好きすぎる孫が可愛すぎて、幸生の野菜は密かに増産され続けている。余った分は余所に回されるのだが、それでも家の倉は常に様々な食料でいっぱいなのだ。

「おいもがいっぱいなの、いいとおもう!」

「うむ」

「ものには限度というのがあるのだぞ!」

 ヤナの渾身の説教は、高く青い空の下にしばらくの間響いていた。


 その後。

 サツマイモの習性は直ちに村人の間で共有され、大人たちが確かめて事実であると無事に認められた。

 以後、村の子供たちとサツマイモの綱引き勝負は、ちょっとした秋の楽しみとなったのだった。

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― 新着の感想 ―
短編集読んだ後だとおじいちゃんがだいぶやらかして怒られてる描写増えたなぁと思いました。 微笑ましい
楽しくて面白い世界でスローライフと違うけど現実よりちょっと不思議で凄く楽しい世界なのが読んでるだけで和んで癒される 私もちょっと生まれ変わったらこの村に住んでお芋の綱引きしたい 大人の時に前世を思い出…
負けたらその芋は収穫出来ないんだろうか?
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