2-133:二年目の芋掘り
芋掘りの日は快晴だった。
空は幸生とヤナと一緒に、フクちゃんとテルちゃんを連れて意気揚々と青空の下に走り出た。
「おいも、おいも!」
「空、そんなに急がなくても、芋は逃げたりしないのだぞ」
魔砕村のサツマイモには逃げる習性はないのでその心配はしなくてもいい。
「にげなくても、はやくいきたいんだもん!」
土の中からゴロゴロと出てくる大きな芋を集める作業が、『収穫している!』という実感があって空はとても好きだ。
空はその楽しさを思い出しながら、隣を歩く幸生をちらりと見上げた。幸生の肩には芋掘りに使うカカシが担がれ運ばれている。
魔砕村のサツマイモたちは走って逃げたりしないが、近づく者を蔓で絡め取って動けなくしてしまうという習性がある。なので蔓に負けない力を持つ者以外は、芋掘りのために準備が必要だ。
まず畑の真ん中に囮のカカシを投げ込み、蔓がそちらに気を取られている隙に手早く引っこ抜かなければならないのだ。だが手順が多少謎でも面倒くさくても、気にせずまたやりたいと思うくらいに収穫は楽しかった。
「サツマイモ、ニゲナイノ? ナララクチンダヨ!」
横を歩くテルちゃんがそう気楽に言うが、空はその言葉にふと不安を覚えた。
「テルちゃん、それはふらぐっていうやつじゃない? テルちゃん、いうこときかないでかってにおいもにちかづいたり、おいもとけんかしちゃだめだよ?」
「エー、テルハソンナコトシナイヨ!」
「……絶対しそうなのだぞ」
「うむ……まぁ、何事も勉強だろう」
後先考えず手を出したり、調子に乗ったりして様々にやらかすテルちゃんのことだ。またきっと何か失敗するだろうとヤナも幸生も空も予想が付いた。
だが最近は、そうやって多少痛い目を見るのも本人のためかと静観することも増えた。痛い目を見た後の方が、当然ながら説教も効くからだ。
「精霊は丈夫だし、多少はよかろう」
ご機嫌でぴょんぴょんと弾むように歩くテルちゃんの背を見ながら、ヤナが小さく呟く。
米田家は、精霊の教育についてはなかなかに厳しいのだ。
「ピワー!!」
家から少し離れたサツマイモ畑について早々、テルちゃんはさっそくやらかした。
「あ、テルちゃん、あれがおいものはたけだよ」
と空が指で示した途端、
「イチバンノリダヨ!」と叫んで走って無警戒に近づいてしまったのだ。テルちゃんはさっき言われたことをもうさっそく忘れていたらしい。
無遠慮にサツマイモの畝に近づいたものだから、驚いた蔓たちがたちまちテルちゃんに絡みついて捕らえて持ち上げてしまった。緑の蔓でぐるぐる巻きにされた丸いものが畑の上で宙吊りにされ、左右に激しく揺れている。
「ちかづいちゃだめって、ぼくいったのになー」
「こうなると思っておったのだぞ」
「ホピピッ!」
空も当然そうなると思っていたので、あえてテルちゃんを抱き上げておかなかったのだが。
「こそだてって、むずかしいねぇ」
「お、空もなかなか言うようになったな?」
危険がないときはあえて失敗させる、という魔砕村の教育方針を、空も最近はテルちゃんに対して採用するようにしている。テルちゃんは多少失敗してもすぐ忘れるしなかなか懲りないのでそのくらいでちょうどいい。
フクちゃんは空の肩の上で、仕方ないねぇとでも言うようにホピッと小さく鳴いた。
「マックラダヨ! タスケルヨー!」
テルちゃんは蔓に覆われてもがもがと暴れている。蔓たちは人間でもない、何かおかしな丸っこいものが捕まったと、少々困惑しているらしい。
空がどうやってテルちゃんを助けようかと悩んでいると、もぞもぞ動いた蔓たちがテルちゃんを持ち上げたまま、皆でそれをリレーして奥に運んでいってしまった。捕まった獲物が珍しく、他の芋たちも見物したいようだ。
「あ、テルちゃんがはこばれていっちゃう」
「ああ、人間じゃないから珍しかったのかもしれんな。まぁ蔓は絡まるだけで締め付けたりしないから大丈夫なのだぞ。しばらく放っておくがよい。あ、空、その端っこは今なら引っ張れるぞ」
「ホント? じゃあひっぱる! あ、フクちゃんはおちるとわるいから、おりておさんぽしててね!」
「ホピピッ!」
テルちゃんのことは一先ず置いておき、空はフクちゃんを地面に下ろすとヤナに言われて慌てて芋の畝に走り寄った。蔓の先はテルちゃんに気を取られて遠くへ向かって伸ばされている。テルちゃんはちょうど良くカカシの代わりに囮になってくれたようだ。
この隙に、と空は手近な一株の根元をぐっと掴んで、体に魔力が巡るよう意識して手に力を込めた。
「うー、ん、しょーっ!」
掛け声と共に足を踏ん張り、体を後ろに倒すようにして勢い良く引っ張ると、ボササッと土が散って蔓の先が持ち上がる。蔓の根元にはよく太った真っ赤な芋が何本もくっついていた。
「わ、わ、っと! ぬけたー! ヤナちゃん、じぃじ、ぬけたよ!」
「おお、大物だな! よくやったのだぞ!」
「うむ、立派な芋だ。それはそこに置いておいて、次を抜くといい。一畝くらいなら、テルに気を取られている間に抜けるだろう。テルは俺が回収しておく」
「うん!」
幸生に促されて空は芋を横に置き、次の蔓の根元へとすぐに手を掛けた。魔力による身体強化とその加減が、空は少しずつ上手になってきている。大根などの野菜を引っこ抜く作業はその練習にちょうど良いと、ヤナや幸生が積極的に挑戦させてくれるからだ。
たまに野菜を折ってしまったり力負けしたりすることもあるが、それもまた良い経験になっていた。
「よい、っしょー!」
ぼこっと盛大に芋が引っこ抜けるのが、空は楽しくて仕方ない。
たまに引っこ抜かれると気がついた芋の蔓が絡んできて引っ張り返されたりもするが、それに負けずに引っ張り返せば問題なく抜ける。それもまた駆け引きのようで案外面白かった。
「空、すっかり一人で芋を抜けるようになってすごいのだぞ! 芋を抜くのも早くて上手だし、気付かぬうちに随分と力が強くなったのだなぁ」
隣の畝で芋を抜いているヤナがそう言って褒めてくれた。
去年はまだ一人ではなく、ヤナと一緒に芋を掴んで引っこ抜いていた。だが今年はもう一人で抜けるし、その作業も危なげがなくなっている。
「えへへ、ぼくねー、しゅうかくだいすきだもん! そのうちじぃじみたいに、ばーんっていっきにできるようになるもんね!」
空はそう言って腕を振り上げ、力こぶしを作るようにぐっと曲げて見せた。まだ筋肉などちっとも感じないぷよっとした腕だが、その可愛い仕草にヤナが微笑む。
当の幸生は聞こえてきた空の言葉に足を止めて、蔓を掴んだまま天を仰いでいた。掴んだ蔓の先でテルちゃんがもごもご蠢いている。芋の蔓はテルちゃんにそろそろ飽きたのか、幸生の足に絡みつこうとしていた。
「ふぅ……じぃじー! いちれつ、おわったよ!」
「うむ。偉いぞ、空」
畝一つ分の芋を引っこ抜いたところで、空は手を大きく振って幸生に報告した。幸生は泥だらけになって笑う空を微笑ましそうに見下ろし、そして手に持っていた緑色の塊をそっとその前に下ろした。
「あ、テルちゃん!」
芋に負けて存在を忘れられていたテルちゃんが、蔓に絡まれたまま弱々しくもぞりとうごく。空は慌てて幸生が千切ってくれた蔓を外側から順に解き、中から少々萎れたテルちゃんを取り出した。
一年目の芋掘りは書籍の三巻書き下ろし部分だったようなので、読まなくても何となくわかるように書いています。




