3「令嬢は公爵をも黙らせる」
〜父パトルック公爵視点〜
最近、私の愛娘は剣術を磨いている。
護身用と銘打ったそれは、ご令嬢の護身用という温いものでは無かった。
傷つく娘の様を見ながら、何度止めたことか。しかし、娘の意識は固く、上達した剣術は私の護衛をも勝った。
一体どこに向かっているんだルチア。
パパは心配です、この近くの森には恐ろしい魔獣もいると言うのに……
恐ろしい魔獣とは、最近街にも出没しているという黒狼。
大男よりもデカく、血気盛んで兵士が何人も殺られている。弟(ルチアの叔父)に頼もうと思ったら早々に王都に帰ってしまうし、さらに竜もきて頭を抱えている。
ルチアは討伐隊に加えろと言う始末。
「バルセン、どうしたものか…」
書斎に呼んだバルセン(執事)に判断を仰いだ。
「そうですね… お嬢様に討伐して頂くのが最善かと存じます。
今、領内において剣術でお嬢様の右に出る者は居ないでしょうし、あの黒狼も使い魔にされたとか」
バルセンの口からとんでも無い発言が。
「えっ、こ、黒狼を! …信じられんな。と、とりあえず、ルチアを此処へ呼べ」
事実はどうであれ、取り敢えずルチアと話さねばならない。
バルセンが書斎の扉に目をやる。
「どうやら、呼びに行く必要は無いようです」
それが聞こえたのか扉を開け、ルチアが平然と書斎へ入ってきた。そして、したり顔を浮かべうす気味悪くニヤリと笑った。
「シュヴァルツ」
その声を聞いて、巨体の黒狼が姿を現す。
私は息を呑み、朦朧となりながらもルチアの討伐隊加入に頷いた。
「いいのね、お父様!!」
ルチアが玩具を買って貰った子供のように嬉しそうに燥ぐ。
「私はもう、お前を止められる気はしないよ」
そうして、愛娘の竜の巣討伐が決定した。