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どうやら試験の結果が良くて、私はもう学園へは行かなくても卒業できるようなのだが、エミールに鍵編みを習い始めてしまった。モクビリー様の帽子が歪になってしまったので、自分用にする。次はこれでチャレンジ。
「これ一本で編めるのね」
「はい」
先がくいっと曲がっている棒で毛糸を編んでゆく。
「ソフィアンナは相変わらずパーティ三昧?」
私は聞いた。お昼を食べ、編み物に興味はないようで、退屈そうにお茶を飲んでいる。
「はい」
「いいご縁があるといいわね」
「アンジェリカ様の旦那様のような方がいいですわ。歳上で優しそう」
最初はロバで迎えに来ていたことを見下していた人もいるようだが、モクビリー様の人柄、体格、そして勇者であることで一部の女の子たちが色めきだっているようだ。でもね、私の旦那様なの。誰にも譲るつもりはございませんのよ。
「そうね。あんなに優しい人はなかなかいないわ」
まして階級も関係ない。でも私がお茶を自分で淹れると話したら、きっとみんなはティーポットを注ぐだけだと思っているだろうが、井戸の水汲みからですからね。お湯を沸かして、自分の好きな茶葉を選ぶの。それだって葉を乾燥させた自家製なのよ。このところ、肌もお通じもトラブルなしなのはあのお茶のせいじゃないかしら。
自慢したいけど、内緒なの。令嬢がすることじゃないって思う人がほとんどだから。私だって結婚をする前は、一切していなかった。今は給仕をしてくれた人にも感謝できるようになったわ。
「エミール、鎖編みできたわ。このあとは?」
「そうしたらですね、ここをすくって、こっちにくぐらせます」
「はい」
私は言われるがまま編むことはできるが、一人ではできない。エミールのような達人になると完成形がもう頭の中にあるのだろうか。
どれだけの人が人生について真剣に考えているのだろう。モクビリー様はどうやって生きてゆくのだろう。私はそれに寄り添ってゆけるだろうか。せめて編み物の趣味を続けて、あの人の傍にいられたらいいな。
みんな試験明けで卒業できることはわかっていても、卒業後に国勤めをする人たちは先生たちの心証を悪くできない。エドワード様は私と結婚したら留学することが決まっていたが、婚約がなくなってもそれは変わらないのだろうか。
もう関係のないことだ。私は迎えに来てくれている夫の元へ駆け寄る。
「モクビリー様、お迎えありがとうございます」
もう完全に夏だ。
「アン、帰ろう」
「はい」
道すがら、モクビリー様が口を開く。
「いつか回り道をして、君と買い物に行きたいと思っていたんだが、こう暑くては家にすぐ帰りたい」
「わかります」
荷台に屋根をつけてくれたから、代わりに私がモクビリー様の頭にだけ傘をひろげる。
森に入れば木が日差しを遮ってくれる。
「肌がほっとしますね」
「ああ」
あなた越しの木漏れ日がキラキラ光ってきれい。私は、幸せなのでしょう。幸せは目に見えないと言うけれど、たぶん今がそう。




