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悪役令嬢、魔王を倒した勇者様に所望される  作者: 吉沢月見


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「アンジェリカ、お前との婚約は破棄する」

 エドワード様の言葉が私の耳を通り抜ける。


「えっ?」

 婚約破棄って言った? あまりにも唐突で驚くこともできない。


「お前のその顔が好きではない。いつも怒っているようで、目も怖いと皆が言うておる」

 そんなこと言われましても、これは生まれつきです。


 国の第二王子であるエドワード様と公爵家に生まれた私たちの結婚は小さいときから決まっていて、そんなに簡単に覆されるものではないはず。10年以上もお妃教育を受けたのに、無意味?


「エドワード様、アンジェリカ様がかわいそうですわ。こんな大勢の人の前で」

 か細い声でエドワード様に縋りつくのはミユ。半年ほど前に学園に入って来た得体の知れない女の子。確かに顔はかわいい。故に女には鼻につく存在。


「アンジェリカ、まさかお前がミユにひどいことをやっていた黒幕とはな」


 いやいやいや。確かにミユに嫌がらせをしている一派はいた。それを逆手に取り、この婚約破棄に追い込んだのは明らかにミユ本人に違いない。さりとて、どうやったのだろう。公爵令嬢である私にも取り巻きはいて、王子の婚約者ということもあり、学園内では私のほうが守られていた。


「ぐうの音も出ないか。こちらには証拠もある」

 エドワード様が意気揚々と声を発する。


「どんなものでございましょうか?」

 是非聞きたい。


「卑劣な手紙から、今日のミユの衣装を破ったのもお前であろう。幸い俺が用意したドレスがあったからよかったが」

 どれも身に覚えがございません。が、本来は婚約者である私をエスコートするべきなのに他の女の肩を抱く男なんてまっぴらごめん。その証拠だってでっち上げたもの。エドワード様自身が私との結婚をずっと避けたかったのかもしれない。だったらこちらに勝ち目はない。


 でも、私の結婚がだめになったら家に迷惑がかかる。父様はこのところ臥せっていらっしゃるから、こんな話聞かせたくないわ。ここは穏便に。

 って考えたけど、やっぱり無理。エドワード様とミユの微笑みが私のやる気を削ぐ。どちらの企みだとしても私が不利だ。


「エドワード様、私が悪いんです。アンジェリカ様という婚約者がいるのにあなたを好きになってしまったから」

ミユって悪女なの? 私同様、エドワード様もきつい顔をしていた。そのエドワード様が鼻の下伸ばしちゃって、ミユに顔を近づける。


「お前は何も悪くない」

 そうよね。二人のそれが正しい恋よ。私もエドワード様を好きになろうとしたけれど、だめだった。楽しいことが違い過ぎた。ダンスだって一度も呼吸が合わなかった。致し方なく、学園を卒業したら結婚するはずだったのに。


 まさかこんなにたくさんの人の前で婚約破棄を言い渡されるなんて。今日は王様が開いた城での晩餐会。惨めを通り越して笑ってしまいそう。


「婚約破棄、承ります。しかし、エドワード様からの申し出ですので我が家には処分など言い渡されませんように」

 父は公爵家の当主として代々の領地を任されているし兄は国の兵士をしている。私たちの婚約が破棄になろうともそれまで奪われるわけにはいかない。


「やはり金のことしか考えられぬか。嫌な女だ。婚約破棄される原因を作ったのはそちらであろう」

 いや、こっちは婚約者が他の女といちゃこらしていても目を伏せていた。婚約破棄を言い出したのだってそちらでしょう。


 話の途中で一人の男が私とエドワードの間に割り込む。


「はい、ストップ。随分と無粋だな」

 エドワードよりもずっと背の高い、がたいのいい大男が私たちの間に立ちふさがる。誰かしら。この場にふさわしくないゆるっとした格好だけれど、眼光だけは鋭い。


「勇者殿」

 王子であるエドワード様が彼に一礼する。


 そうだった。今日は勇者様一行が魔王を倒したことを祝しての晩餐会。百年にも及ぶ戦いがようやく終わった。

 そんな祝いの席で婚約破棄を申し渡すなんて王子もどうかしている。


 勇者様が私を見ている。


「あんた、きれいだな。こいつと婚約破棄したの? じゃあ、俺と結婚しよ」

 勇者が私の手の甲に跪きもせず立ったまま口づけをした。


「無粋はそちらでしょう?」

 私は思わず声を荒げてしまった。こんなこと、されたことない。手を引っ込めるつもりがひっぱたいてしまった。


「勝気な女は嫌いじゃない」

 どうして顔をぶたれて笑っているのだろう。手も離してくれないし。


 そこで王様が登場した。

「お前たち、いい加減にしないか」


 王の一言に多くの人が頭を下げる。私の手を掴んで離さない男だけが沈黙を破るかのように言葉を発する。


「王様、さっきのご褒美の話。この姉ちゃんにする。もう腹一杯食ったから俺帰るわ。じゃあ、みんなお疲れー。さて、行こうか」


 なぁぬう?

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