プロローグ 婚約破棄された悪役令嬢は・・・・・・
思いついた話をせっかくなので書いてみます。
シルバーウィークなので。
「ヴィラ=フェロニー公爵令嬢! 今日、この場でお前との婚約を破棄する」
一人の男が高らかに宣言する。
盛り上がっていた会場でいきなりの発言に参加者達は戸惑っていた。
だが、平静を保っている者もいた。
「どういうことでしょうか、婚約者の第一王子様?」
その一人は婚約破棄を告げられた公爵令嬢だった。
暗闇を彷彿させる漆黒のドレスに身を包み、立ち振る舞いから高飛車な雰囲気を感じさせる。
彼女の姿を見れば、誰もが悪役だと思ってしまうだろう。
「素行も悪ければ、頭も悪いようだな」
「素行はともかく、頭の悪さは言われたくないですわ。まあ、あなたの一部分の素行も私に言えないほど悪いと思いますけど」
「は?」
怪訝そうな表情を浮かべる第一王子。
どうやら言葉の意味が通じなかったようだ。
だが、周囲の者達はその意味を気づいている様子で、この騒動を見る目が変わっていた。
「それで第一王子様はどうして婚約破棄なんて言い始めたのでしょうか?」
「わかりきっていることを聞くなんて、やはり頭が悪いな」
「わかりましたから、説明してくださいますか?」
再び馬鹿にされたが、気にした様子もなく彼女は話を促す。
面倒そうな彼女の態度に気づくことなく、第一王子は話を続ける。
「お前が第一王子の婚約者の立場を傘に悪逆の限りを尽くしていると報告を受けている。それだけで俺の婚約者になる資格はない」
「はぁ」
理由を聞き、公爵令嬢は気の抜けた返事をする。
呆れたような視線を向けるが、自分の世界に入り込んだ第一王子はまったく気づかない。
そのまま話を続ける。
「まあ、俺も鬼ではない。今までの態度を悔い改め、俺の婚約者として品行方正に過ごすのであれば許してやろうと思っていたさ」
「そうですか」
上から目線の言葉に公爵令嬢は返事する気も起きないようだ。
諦めていると言うよりは気にしていないように見える。
そんな彼女の様子に気づくことなく、第一王子は近くにいた可愛らしい少女を抱き寄せる。
少女はまるで小動物のようにビクビク震えている。
「だが、お前は俺の逆鱗に触れた。自分が愛されないことをあろうことかアイリスのせいにして──」
「もういいですわ」
「は?」
話の結論を遮られ、第一王子は呆けた声を漏らす。
この状況に周囲はさらにざわめく。
いくら婚約者とはいえ、身分が上の者の話を遮ったのだ。
だが、公爵令嬢はまったく気にした様子はない。
「婚約破棄は承りましたわ。では、これで」
「待て、まだ話は終わってないぞ」
立ち去ろうとする公爵令嬢を第一王子が引き留めようとする。
婚約破棄はできたが、まだ断罪できていないからだ。
「いえ、もう終わりですわ。私の目的は達したので」
「目的、だと?」
予想外の言葉に怪訝そうな表情になる第一王子。
この場において、彼女は婚約破棄された側である。
それなのに、どういった目的があるというのだろうか、と。
「クロード」
「はい」
公爵令嬢が読んだ瞬間、執事服を身につけた一人の青年が現れた。
何もないところからいきなりの登場に周囲がどよめく。
只者ではないと判断したのだろう。
「ようやく自由になれたわ。早く行きましょう」
「かしこまりました」
歩き出した主の少し後ろからついていく従者。
とても婚約破棄された貴族令嬢と従者の雰囲気ではなかった。
「おい、まだ話は終わってないぞ、ヴィラ」
立ち去ろうとする公爵令嬢を止めようとする第一王子。
自分の思い通りの展開にならなかったことに焦りを感じている様子だった。
そんな彼の言葉に気がつき、公爵令嬢は振り返って笑みを浮かべた。
「もうお会いすることはないでしょうから、最後に一言だけ。出会った頃からあなたことが大嫌いでしたわ」
「っ⁉」
公爵令嬢の言葉に第一王子は驚いてしまう。
破棄したとはいえ、まさか婚約者からそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。
第一王子という立場から、今まで嫌悪の感情を向けられたことがなかったのだろう。
いや、向けられているとすら思っていなかったのだ。
ショックを受けた第一王子はその場に膝から崩れ落ちる。
そんな彼を公爵令嬢は気にせずに立ち去った。
「さて、冒険の始まりですわ」
公爵令嬢──ヴィラ様は期待を胸に宣言した。
そんな彼女の後を俺はついていく。
果たしてどんな旅路になるのやら──
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