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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
58/94

58、スキル『交渉』と帝国中将

評価、ブックマークをありがとうございます。

「59話 キリーナ国へ…の前に捕まりました。」は火曜日に投稿予定です。

これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。


「ようこそ、エルフ国代表諸君」

 北の洞窟の戦いから5日後、進駐軍最高責任者であるゴウルガ中将は会談の席に居た。

帝国はゴウルガを始めとする軍関係者と審問官を含む7人。

エルフ側は評議会長と委員の代表、それにキルスの6人の他に何故か人族の男が末席に座っている。


「その者は?」

 怪訝な顔で問うゴウルガの前でペコリとマリオは頭を下げる。

「僕は帝国軍でもエルフでもありません。第三者としてこの会議を見届ける役を引き受けました」

「確かにそのような者がいた方が良いが…」

 そうは言いつつもゴウルガは探る眼差しをマリオに向ける。


薄茶の髪と瞳をしたまだ幼い容姿の人族。

大して力があるとは思えないが…油断は禁物だと己を戒める。

こうした交渉事では力よりも才覚が物を言う。

ゴウルガは軍属であってもそのことをよく知っていた。


「まずはエルフ国の条約違反についてですが」

「異議あり」

 進行役の審問官の声を遮ってマリオが手を上げた。

「異議とは?」

「帝国と交わした条約は十年に一度ニナの実を売り渡すこと。ですがその相手はエルフ国ではなくハイエルフ…アズリーデ家とマデリン家です。それは条約書にも明記されています」

 マリオの言に審問官は眉を寄せたが、事実なので肯定の頷きを返す。


「ニナの実の代金は条約相手である2家に支払われ、エルフ国は1ドンの報酬も得てはいません。それはこの帳簿を見ていただければ分かるかと」

 屋敷から回収した出納帳をキルスがテーブルの上に置く。

「この帳簿に帝国側が代金を支払ったことが記されています。ですがニナの実は渡されなかった。今回の進軍はその報復…で間違いはありませんね」

 続けられたマリオの言葉にゴウルガは渋い顔をした。

この先の展開が読めてしまったからだ。


「そうだっ、通例ならとうに実を引き渡しているはずなのに一向に渡そうとせん」

「しかも法外な金額を請求するだけでなくドレス用にアラクネ糸を使った生地を寄こせだの、飛竜皮のコートを30着用意しろ、天聖石を使ったアクセサリーが欲しいなどと無理難題を…それらがどれほど希少で高額か分かっているのかっ!」

 帝国側からの苦情に今更ながらハイエルフ達の傍若無人ぶりを思い知って、キルスは小さく息をついた。


「約定を破ったハイエルフに対して代金の返還を求めるのは帝国の正当な権利です。それを支払わなかった彼らから財産を奪ったことについては此方は何の文句もありません」

 財産だけでなくその身も売り払われることになったが、それに関してエルフ国が口出しすることはないとキルスが明言する。

そのことに安堵した帝国側だったが、続けられた言に内心慌てる。


「ですが何の関係もないエルフ国の民の財産たるイリイーズの街の破壊や略奪行為は他国への侵略にあたりますぞ」

 そう詰め寄る評議会長に帝国側の誰もが不快そうに眉を寄せた。

いつもなら軍力に物を言わせてそういった苦情は黙殺するが、今回ばかりはそうは行かない。

何しろ事の顛末を水の王君に知られてしまっているのだ。

彼の王が正道を何よりも尊ぶことは有名だ。

此処で下手を打てば帝国に王罰が下りかねない。


「こうしてはどうでしょうか」

 それきり誰も発言せず沈黙が支配する会議場にマリオの声が響く。

「イリイーズの街の復興費用全額を帝国が出す。その見返りと言っては何ですが…」

 言いながらマリオはリュックから一つの実を取り出した。

「そ、それはレグルの実っ!?」

 テーブルに置かれた黄金色の実。

それはダンジョンの限られた場所にしか生らない貴重品で、しかも最上級回復薬の主原料であるため高値で取引されている。


ふにゃんとした笑みを浮かべて頷き返すマリオの横でキルスが言葉を継ぐ。

「何の手土産も無しではあなた方も国に帰りづらいでしょう。この先エルフ国はレグルの実を年に百個、定期的に帝国に下ろすことを約束します」

 ニナの実の代わりには到底ならないが、それでもレグルの実の価値を知れば旨い話であることに間違いはない。


「百か、それで値は?」

「そうですね。これくらいでいかがでしょう」

 キルスが差し出した紙に書かれている数字にゴウルガは驚く。

それは相場より3割ほど安い値だったからだ。

帝国にとっては有難い話だが…あまり好条件だと裏があるのではと勘ぐってしまう。

そんなゴウルガの前でニッコリと笑ってマリオが言葉を継ぐ。


「もちろんこれは武力をチラつかせて無体な要求をしてこないことが前提の値ですけど」

 しれっと語られたことに、やはりそう来たかとゴウルガは嘆息する。

簡単に言ってしまえばこの3割分は帝国への用心棒代だ。

その金で帝国にエルフ国を攻めることなく逆に守れと言っている訳である。

「しかし…」

 あくまで2つの国は同等という立場を取るエルフ国に、国力で勝る帝国としては素直に頷けない。

渋るゴウルガだったが、そんな彼の思惑をキルスが蹴散らしてゆく。


「もし約束が破られた場合、レグルの実は帝国ではなくキリーナ国に売ることになりますので」

「なっ」

「それはっ」

 続けられた内容にゴウルガを始めとする軍人たちが顔色を変える。

戦いにおいて負傷兵の回復度合いは戦況を大きく左右する。

倒してもすぐに治癒し戻って来られては、どれほど屈強な軍であっても疲弊して敗走することになるからだ。

年に百のレグルの実がキリーナ国に渡ったら…事を構えた時、帝国が負ける目が出ることは否めない。


「帝国は貴重なレグルの実を得られる。エルフ国は安寧を得られる。どちらにとっても損は無いと思いますが?」

 ニコニコと笑うマリオを一瞬、()め付けるが…。

次にゴウルガは深いため息をついた。

確かにマリオの言に間違いはない。

ニナの実が手に入らぬ以上、それを埋め合わせるものを持って帰らねば帝国での自分の立ち位置は急落する。

それだけは避けねばならない。

自分には部下とその家族の生活を守る責務があるのだ。

己の矜持などに拘っている場合ではない。


「分かった。その条件を飲もう」

「ゴウルガ中将っ」

「よろしいのですかっ!?」

 あっさり頷いたことに帝国の者達が慌てる横で、マリオは感心した様子で口を開く。

「さすがは『失敗無き者』と呼ばれる中将殿ですね。決断が早くて助かります」

「此処でゴネたところで時間の無駄だからな」

 フンと顎を上げてからゴウルガはマリオを見つめる。


(してやられたな。この度の会談…すべてコイツの画策した通りに事を運ばれた)

 そんなことを思い、心の内で歯噛みする。

エルフ国とハイエルフはまったく別者。

最初にそう異議を申し立てられ、責任の在り方を明確化されたことで帝国側は一気に不利となった。

そこに付け込みハイエルフの処遇で安堵させ、次いで侵略行為で脅し、最後にレグルの実で釣ってすべての問題を片づけた。

この件に関して帝国はマリオの掌上で転がされただけで終わってしまったのだ。


「マリオと言ったな。交渉人として俺に仕えんか?」

 敵であっても実力を認めれば召し抱える。

こちらも『失敗無き者』の二つ名を持つだけあって抜け目がない。


「せっかくのお申し出ですが、今の僕には遣りたいことも遣らなければならないこともありますので」

「そうか、残念だ」

 あっさりと引き下がった…と思いきや。

「だが俺は世界一諦めの悪い男でな。欲しいと思ったものは必ず手に入れる主義だ」

「では精一杯、足掻くとします。僕は自由に旅をすることが好きなので」

 そう笑い合うが、2人を中心に部屋の室温が一気に下がった気がしてならないその他大勢だった。




「上手く話がまとまって良かったですね」

 会談場を後にしてやれやれとばかりにマリオは自らの肩を揉んだ。

「マリオ殿には感謝してもしきれませんわい」

 評議会長が笑みと共にそう礼を述べる。


「レグルの実を年に百というのが効いたのだろうな。守るのは難儀だが」

「だがあの従魔たちなら大丈夫じゃろう」

 その後では委員の代表者たちがボソボソと会話を交わす。



此処で少しばかり時は遡る。

「でもこれだけだと…あと一押しが必要だね」

 集められた資料から攻め込むポイントを見つけることは出来たが、その先で行き詰まってしまう。

帝国軍を帰すには手土産となるものがいる。


どうしたものかと考え込むマリオの隣で、リョクがガリガリと頭を掻きながら口を開く。

「美味いもんでも渡しゃぁ大人しく帰るんじゃねぇか?」

「…ミャゥ」

 それで喜ぶのはお前だけだとタマが密かに突っ込むが…。


「それだよ、リョクさんっ」

「は?」

「ナゥ?」

 傍らにいたキルスとタマが同時に首を傾げる中、マリオが楽し気に言葉を継ぐ。


「ニナの実の代わりにはならないけど…これも十分おいしい実だからね。いろんな意味で」

 言いながらマリオがリュックから取り出した物にキルスは驚きの目を向ける。

「レグルの実?しかしこれをどうするのです?」

「帝国に買ってもらいます。そうだな…年に百もあればいいかな」

「ひゃ、百!?そのような数を何処から」

「もちろん育てるんです」

 にっこり笑うマリオの意図が分からず、キルスは困惑顔を浮かべた。


「…北の洞窟で何を?」

 今は誰もいない洞窟内を見回すマリオにキルスが不思議そうに問いかける。

「カル―君達は此処にはもう戻らないんですよね?」

「ええ、国内が落ち着いたら旅団を組んで戻ってくる予定ですが住むのは街中ですから。中にはそのままオライリィ国に残ることを希望する者もいますが、その選択の自由は尊重したいと思っています」

「それはいいですね」

 嬉しそうに笑うとマリオは膝をついて洞窟内の土を調べ始めた。


「何をしてんだ?」

「レグルの木を植えるんだよ」

「し、しかし…レグルの木は特に魔素の濃いダンジョンの中でしか育たないと言われていますが」

 戸惑い顔を浮かべるキルスに、大丈夫とマリオは親指を立ててみせる。


「レグルの木が大量の魔素を必要とするのは若木の時までで、ある程度成長した後は普通の木と同じくらいの魔素があればいいから」

 そう微笑むとマリオは実から採った種を取り出し、洞窟の中央に植えてゆく。

「それじゃ始めるね。リョクさん達は少し離れてて」

「おうよっ」

 威勢よく返事をすると、まだ釈然としていないキルスを引っ張ってリョクが外へと出てゆく。


「元気に大きくなってね【成長】っ」

 マリオの願いを込めた緑魔法が放たれ、その光を浴びた地面から緑の芽が頭をもたげる。

すぐに芽は若木へと成長し、そのままどんどんと幹を太くしてゆき…。

「ト〇ロの気分、再びかな」

 天井近くまで伸びた木を見つめ、ふうとマリオは満足げに息をついた。


「こ、これは…」

 突然現れたレグルの大木。

しかもその枝には黄金の実が幾つも生っている。

信じられない光景に唖然となるキルスの横でマリオは次の作業に入った。


「みんな、居る?」

 マリオの呼びかけに帝国軍と戦ったエンシェント・トレント達が地中から姿を見せる。

エルドレッドに焼かれた枝も元に戻って元気一杯だ。

「レグルの実は貴重だから盗みにくる者がやって来ると思うんだ」

「ムォー」

 マリオの言に任せろとばかりにトレント達が大きく枝を振ると、そのままレグルの木の近くにそれぞれ根を下ろす。

最強の守護者の出来上がりである。


「邪な思いを持つ者が来たら追っ払ってくれるそうですよ」

「は、はい…」

 信じられない光景に虚ろな目をするキルスだったが、しばらくして大きく首を振って自らに気合を入れる。


「いただいたレグルの実は有効に使わせていただきます…王君」

 最後の小さな呟きに微苦笑を浮かべるマリオだった。

 


 

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