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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
32/94

32、水の王さま救出作戦


「うわっ!」

「あぶねぇっ」

 巨大な水の塊が話し込んでいた岩場に迫って来た。

次の瞬間マリオはタマに襟首を咥えられ、リョクはカリーネを横抱きにして左右に分かれて跳び逃げる。

その直後に岩場は水の塊によって粉々に砕け散った。


「この調子で暴れ回られたらこの辺りは壊滅すんぞっ」

 リョクの言葉にカリーネは哀し気に俯き、マリオはキュッと唇を噛み締める。

「黒の魔王の呪いをどうにかしないと。解くか…でなければ…打ち消すか。

消す?…そうかっ!」

 いきなりの叫びにリョクとカリーネが何事かとその顔を見つめる。


「試してみたいことがあるんだけど、協力してもらえる?」

「おう、お前にはたっぷり借りがあるからな。そいつを少しでも返せるなら安いもんだぜっ」

「わ、私なんかで良かったら」

 2人の了承を得てマリオは自分の考えを披露する。


「えぇぇっ!?」 

「おまっ、無茶にも程があんぞっ。一つ間違えたら死ぬじゃねぇか!」

「そうよっ、王は年を取らないけど死んじゃうのよっ!」

 思いっきり詰め寄って来たリョクとカリーネに、ふにゃんとした笑みを浮かべてマリオが頷く。

「うん、そうだね。でも他に方法が思い付かないから」

「だからってよっ」

「…どうして」

「ん?」

 真摯な眼差しで此方を見つめるカリーネにマリオは小首を傾げた。


「どうして自分の命を危険に晒してまでおじいちゃんを助けてくれようとするの?」

 大恩ある水の王を助けたい。

それはカリーネの嘘偽りない想いだ。

しかしマリオは水の王に会ったことすらないのだ。

そんな相手を何故そこまでして助けようとするのか、カリーネには理解できなかった。

 

「ライダー…じゃなくて、人は助け合いでしょ。

困っている人がいたら助けたいってのは普通に思うことじゃないかな」

「それは…そうかもしれないけど」

「もしさ、カリーネさんが医療師だったとして道で急病人に出会ったら、見ず知らずの相手だから関係ないって通り過ぎる?」

「そんなこと出来ないわっ。助けてあげられるかもしれないのに見捨てるなんて」

 カリーネの答えにマリオが嬉しそうに頷く。


「僕も同じ。そんなことをしたら死ぬほど後悔するだろうし。

それが嫌だから助けたい。

でもこうして言葉にすると僕って凄く我が儘な奴だね。

自分が嫌な思いをしたくない為に行動を起こすんだから」

 へらりと笑ってみせるマリオに、そんなことないっとカリーネは大きく首を振ってみせた。

「そんなの少しも我が儘なんかじゃないわよっ」

 普通はどんなに心が痛もうが自分可愛さに見て見ぬふりをするものだ。

それを良しとせず、自分の命を危険に晒しても自らの意思を通そうとする。

どんなにそれが辛くて凄いことか分かる。


「だって私には出来なかったから」

 その瞳を伏せ、カリーネは小さく呟いた。

同じモグラ獣人の中でも身体が小さく、何をするのも遅かった。

だから『どんくさい』と幼い頃からよく苛めらた。

そうなると自然と下を向くようになり、誰かに話かけることもなくなった。

すると今度は『暗い』と蔑まれるようになった。


そんな自分に親や周囲の者達は言った。

まずあなたが変わらないと…と。

何故、自分を変えないといけないのか。

私は私なのに。

そう思っても…言い返すことは出来なかった。

言われるまま必死に自分を変えようとした。

その方が楽だったから。

自らの意思を通すことより、目を瞑って逃げる道を選んだのだ。


けれどそんな自分におじいちゃんは言ってくれた。

『無理に変わる必要はない』

『お前さんはお前さんじゃろ』と。

 初めてもらえた私自身を認めてくれる言葉。

それが凄く嬉しかった。

けれどそれでも自分は他人の目ばかりを気にしていた。

失望されないように、良く思われるようにと相手の機嫌を伺ってばかりで自分がしたいことや言いたいことはすべて飲み込んでしまっていた。

嫌われるのは嫌だし、怖いから。


「大丈夫だよ」

「え?」

 思わず上げた視線の先にあるふにゃんとした笑顔。

それがカリーネに心地よい安心を与える。

「水の王さまは必ず助けるから。でもその為にはカリーネさんの力が必要なんだ」

「私なんか…臆病で嫌なことから逃げてばかりで、おじいちゃんの危機に泣くことしか出来なかったのに」

「それでも逃げたりせずに水の王さまのことを心配してこんなに瘴気の濃い場所に留まっていたでしょ。カリーネさんは自分が思ってる以上に強くて優しい人だよ。だから大丈夫、一緒に水の王さまを助けよう」

 マリオの言葉にカリーネは強く頷いた。


「私…嫌われたくなくて他人の言うことばかり聞いていたの。

でもそんなことじゃダメよね。

私は私と胸を張って言えるように、ちゃんと自分の意思を貫かなきゃ。

私の望みはおじいちゃんを助けること。それを成し遂げたい」

 決意の表情で顔を上げたカリーネだが、それでも一番危険な役目を受け持つマリオが心配でならない。


「マリオは怖くないの?本当に死んじゃうかもしれないのよ」

 此方を思いやるカリーネの問いに、そうだねとマリオは笑顔で頷く。

「正直言えば凄く怖いよ。でもそれをやらない言い訳にしたくないんだ。


『勇気とは恐怖心の欠落ではなく、それに打ち勝つところにあるのだ。

勇者とは怖れを知らない人間ではなく、怖れを克服する人間のことなのだ』


僕の故郷のマンデラさんて偉い人の言葉なんだけど、その通りだなって思えるから」

 凛然と言葉を綴るマリオの前で、分かったぜとリョクが大きく頷く。

「そこまで言う奴に力を貸さねぇ訳にはいかねえからな」

「私も頑張るっ」

 意気込む二人にマリオも笑顔を向けた。



「それじゃお願い」

「おう、任せろっ」

「上手くやるわね」

「ガウゥっ」

 マリオの声と共にリョクは池の西に、カリーネは東、タマは南へと移動する。

そのまま位置に付くと、手を上げたマリオに頷き返すとそれぞれの得意魔法をフルパワーで放つ。

それらは風の戒めとなって水の王を拘束し、強固な土壁はその周りを囲み、氷ついた湖面はその足を固めて動きを封じる。


「よしっ、それじゃぁ『ノーコンティニューでクリアしてやるぜ』ってことで」

 身動きが取れない水の王の頭上目掛けてマリオは地を蹴った。

「わっ…思った以上に滑るっ」

 ぬるぬるとした表皮に足を取られ、危うく転げ落ちそうになるが。

「頼むね、エナ。【成長】っ」

 マリオの声に応え、ポケットに有ったエナの葉から飛び出すように蔓が伸びて水の王の首に絡みついた。

それに掴まると手にした市松模様の手拭いで水の王の身体を拭き出す。

すると水の王の身体を覆っていた黒い汚れがマリオが拭いた通りに消えてゆく。

「やっぱりだ、さすがは女神様謹製の手拭い」

 呪いすらも綺麗に消してしてみせる効力にマリオは嬉し気な声を上げた。


「よし、このまま一気に大掃除だな。

確か婆ちゃんが言ってた雑巾がけの極意は…

たたんだ雑巾がバラけないように端を親指と人差指で挟み込んで持つ。

指を広げるようにして、均等に圧がかけられるようにする。

こうやると接する面が増えて効率的に汚れを取れるっと」

 エナの蔓にぶら下がりながらマリオは高層ビルの窓を掃除をするように大きく手を振って呪いを拭き取ってゆく。


「グアァァっ!」

 しかしその行為は水の王に苦痛を与えるようで、怒りの声を上げ大きく身悶えてマリオを振り落とそうとする。

しかもそれが出来ないと分かると、マリオを捕えようと長い舌を伸ばして来た。

「よっ…と、セーフ」

 寸前で舌の攻撃を躱したまでは良かったが、安心した隙をついて黒い身体が大きく前へと屈む。

「うわっ!」

「マリオっ」

 振り子のように勢い良く飛ばされたマリオの手を、風魔法で飛んできたリョクが必死に掴み取る。

そのまま水の王の上へ引き上げてくれた。

「ありがとう、リョクさん」

「いいってことよ。それより大丈夫か?」

「うん、このまま一気に拭き取ってゆくよ。リョクさん達は今まで通りに水の王様の動きを止めておいて」

「おう、任せろっ」

 大きく頷くとリョクは風魔法で起こした竜巻で水の王の身体を容赦なく締め上げた。


そんな2人の姿を岸辺にいるカリーネとタマが心配そうに見つめる。

リョクのおかげで事無きを得たが、あのまま水面に叩きつけられてしまったら、いくら他人より丈夫なマリオでもひとたまりもない。

何しろ巨大な瘴魔になってしまった水の王にしがみつくマリオは本当に小さくて、いつ叩き潰されてしまうかと気が気ではないのだ。

「頑張って、マリオっ!」

「ガオォォン」

 土壁と氷で水の王の動きを封じながらカリーネとタマはマリオに精一杯の声援を送った。



「これは…」

 皆の協力のおかげで黒い汚れの殆どが消えた。

だが頭の後ろに不可思議な模様の…魔法陣と思われるものが姿を現し、その禍々しさにマリオは眉を顰めた。

悪意の塊のようなそれは、恐らく呪いの本体なのだろう。

しかも魔法陣はマリオを嘲笑うように消そうとする手を弾き返してくるのだ。

そのことにマリオは不快そうに口を開いた。

「…僕を苛めて嗤ってた人達と同じものを感じる。

他人が困る姿を見て楽しむって悪趣味にも程があるだろっ」

 珍しく怒りの表情を浮かべ、マリオは持てる魔力のすべてを手拭いに込めた。


「消えろっ!」

 右手の紋章を光輝かせ、マリオは手拭いを魔法陣の中心に叩きつける。

「グガァァッ!」

 苦悶の叫びを上げて暴れまわる水の王。

その頭上にマリオは必死にしがみ付く。


「目を覚ましてっ、おじいちゃんっ!」

「ジジイっ、普段偉そうにふんぞり返ってるくせに黒の魔王なんかに負けてどうするっ!」

「ガォォーン!」

 カリーネ、リョク、タマの叫びに水の王の動きが止まる。


次の瞬間、何かが砕ける音がして水の王の巨体が光に包まれた。

光は周囲を包み込み…やがて静かに消えていった。





      

お読みいただきありがとうございます。

「33話 水の王と精霊王たち」は火曜日に投稿予定です。

楽しんでいただけましたら幸いです。

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[気になる点] >ライダー…じゃなくて、人は助け合いでしょ。 だめだこの作者、ライダー完璧に網羅してるwww(褒め言葉
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