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緑の王さま異世界漫遊記  作者: 太地 文
31/94

31、水の王と土の王


「我が王っ」

 山の中を移動しているタマの背に居たマリオの隣に突然、イツキが姿を現す。

「ど、どうしたの?イツキ」

 驚くマリオの前で、珍しく焦った様子のイツキが言葉を綴る。

「水の郷の周囲の眷属たちと全く繋がりを持てなくなりました」

「へ?どうしてそんなことに!?」

「急速に瘴気が増えてきていたのは伝わっておりましたが…どうやら次々と

眷属たちが枯れていっているようです」

「そんな…」

「どうした?」

 愕然となるマリオの傍にリョクが並走してきた。


「どうやらこんなところでもたもたしてる場合じゃねぇようだ」

 イツキの話を聞いてリョクが聳え立つ山並みを振り仰ぐ。

「うん、急ごう」

「どうかお気を付けて。瘴気が濃い場所に我ら精霊は近付くことは出来ませぬゆえ」

「そうなんだ。大丈夫、すぐにイツキが来られるようにするよ」

 笑顔でサムズアップをするマリオに山頂を睨んでいたリョクが声をかける。


「ってことで全力で行くぜっ」

「その前にこれを食べて。タマも」

 差し出されたお握りとチョコ菓子に怪訝な顔をするが、口に入れた途端に驚きの声を上げる。

「何じゃこりゃぁっ!。すげえ力が湧いてくるぜっ」

「ガゥッ!」

「女神さまからもらったHPとMPを極限まで回復させるアイテムだよ」

「またとんでもないもんを…。まあ、助かるからいいか」

 やれやれと首を振ってから、行くぜっとリョクは一気に加速した。

その後をタマが追って行く。


  

「こいつは…ジジイの結界か?しかも山のてっぺんに向かって三つも張ってやがる」

「そこまでしなくちゃいけない程、瘴気が生まれてるってことだね」

「そういうこった。…マリオは此処に残るか?俺ら虫人は瘴気に強いが人族は簡単に死ぬからな」

「大丈夫だよ、僕には【神気を浴びた健康優良体】って称号があるから」

「…本当にお前って奴はビックリ箱だよな」

 呆れに似た眼差しを向けてからリョクは背中の羽を広げ、山頂目指して一気に跳び上がる。

その後をタマと共に追ったマリオだったが、眼下の様子に驚愕の表情を浮かべた。


険しい山並みを越え、広がった視界に映るのは黒く濁った池だった。

それは濃い瘴気と共に強い異臭を放っている。

その所為だろうか、周囲に生えていたはずの草木は広範囲に渡って腐り、または枯れ果てて無残な姿を晒している。


「いったい何があったってんだっ!?」

 辺りに漂う濃い瘴気に辟易としながら怒りの声を上げるリョクの隣でマリオが一点を指さす。

「あそこっ、誰かいるよっ」

 確かに池の近くで誰かが(うずくま)るようにして震えている。

「行って話を聞いてみよう」

「そうだな」

 大きく頷くとリョクは急斜面を一気に駆け下りてゆく。

その後をタマも猛スピードで追い、程なくして目的の人物の下へとやってきた。


「…おめぇは」

 驚くリョクの声にその人物が顔を上げた。

ずっと泣いていたのだろう。

その顔は涙でグチャグチャに濡れていた。

「か、風の王!?」

 相手もリョクを見て驚きに目を見開いている。

「「何で此処にっ!?」」

 次に出た声は仲良く同時だった。


「俺は水の郷に瘴気が出たって聞いてマリオと…」

 そこまで言ってリョクはマリオの異変に気付いた。

呆気に取られた顔をしたと思ったら、次にはフルフルと全身を震わせ出したのだ。

「おい、マリオ」

「も…」

「あ?」

 小さな呟きを聞き逃し、その顔を覗き込んだリョクはかつて見た光景に思わず天を仰いだ。


「モグラ獣人さんだぁぁっ!」

 目の前にいる身長1m程の獣人の姿は、二足歩行をし茶色とピンクのチェック柄のオーバーオールを着てはいるが地球に居るモグラそのもの。

その相手にマリオはキラキラとした憧れに満ちた目を向ける。


一方、そんなマリオにモグラの獣人は最大級の混乱顔を浮かべた。

他族の中には獣人を酷く嫌う者がいる。

特に自分のような地に潜るしか能がない弱い獣人は蔑みの対象となることが多い。

けれど目の前にいる人族は、眼に敬愛の色を刷いて此方を見ている。

そんな始めての体験に戸惑いを隠せない。


「あ、あのっ…」

「そうだ、握手してもらっていいですかっ?」

「か、構いませんけど」

 頷く相手の長い爪が付いた小さな手を取ると、マリオは満面の笑みで握手を交わす。


「嬉しいな。僕がいた世界のヒーローの仲間にモグラ獣人さんが居て、この世界なら会えるんじゃないかと期待してたけど、こんなに早く望みが叶うなんて感動です」

 にこにこと笑うマリオに、盛大に?マークを飛ばしていた相手が思わず聞き返す。

「僕がいた世界?」

「ええ、僕は渡来人なんで」

「渡来人!?」

 その言葉に恐怖と憎悪の眼差しを向ける相手に、待て待てとリョクが制止の声を上げる。


「確かにコイツは渡来人だが、同時に新しい緑の王だからな」

「緑の王!?本当なのっ?」

「でなきゃ此処の結界を通り抜けることなんぞ出来ねぇだろうが」

 リョクの言う通り、水の王が施した結界を抜けられるのは七王君とその従者と認められた者だけだ。


「こいつはマリオ。んでもってこっちが土の王のカリーネ」

「土の王さま!?あ、でも確かにモグラ獣人さんなら相応しいよね」

 すぐさま納得の頷きを返すマリオに、カリーネが唖然とした顔をする。

「そんな簡単に認めてくれたのは貴方が初めてよ」

「え?」

「だって…私なんて弱いし、あまり役に立たないし。そんな私が土の王なんて」

「役に立たない?そんなこと絶対にないよっ。

今まで貴女のやり方でちゃんと土の王の役目を全う出来ているのは確かなんだから、もっと胸を張っていいと思うよ」

 そう言ってにっこり笑うマリオに、カリーネの緩くなっていた涙腺が崩壊した。


「ええっ!?な、泣かないで。何か悪いこと言った?」

「ううん、違うの。そんなこと言ってもらえたの初めてで凄く嬉しくて、私なんかには勿体ないくらい」

「ケッ、相変わらずのうじうじ屋かよ。いい加減『私なんか』とか言うのは止めろっ」

「だって…」

 どうやら土の王は自分に自信がない憂虞家のようだ。


「ところでこの惨状はどうした訳なんです?」

 マリオの問いにカリーネの顔がクシャリと歪んだ。

「おじちゃんが…」

「水のジジイがどうかしたのかっ?」

 勢い込んで聞き返すリョクに、カリーネは涙を溜めた目で頷いた。


「10日くらい前に急におじいちゃんの様子がおかしくなったの。

凄く苦しそうで、辛そうで、薬草を食べてもらったりしたけど全然効かなくて…そうしたら昨日、急に」

 カリーネがそこまで言った時だった。

「うわっ!」

「何だ!?」

「ガォゥ!」

 突然、地面が揺れ…いや、揺れたのは水面だ。

それまで静かだったのに、いきなり大波が立ち荒れ狂い出したのだ。


「やめてっ、おじいちゃんっ!」

 悲痛な叫びの中、山のように盛り上がった水面から何かが飛び出す。

「…蝦蟇(がま)?」

 思わず呟いたマリオの前にいるのは、体長10mを超す金色の眼をした巨大なガマガエルだった。

その背はドス黒いシミに覆われ、それがさらに蝦蟇を醜悪に見せている。


「金眼だとっ!?」

 その姿にリョクも驚愕の声を上げた。

何故ならそれは瘴気によって変化した瘴魔の特徴そのものだからだ。

「あれって…水の王様なの?」

 マリオの問いにカリーネが泣きながら頷く。

「急にあんな姿になっちゃったの。

それでも昨日まではまだ何とか話が出来たんだけど…今日になったらもうそれも…キャッ!」

 突然、周囲に放たれた水の礫に慌てて全員が近くの岩場の陰に身を隠す。


「完全に狂っちまってる。見境なく攻撃してるのがいい証拠だぜ」

「どうにかならないの?」

 マリオの問いにリョクは緩く首を振った。

「王が狂いし時、その死をもって止めよ…ってのが昔からの言い習わしだ」

「ダメよっ、おじいちゃんを殺さないでっ。

15年前に土の王に選ばれたけど、自信が無くて泣いてばかりだった私にいろいろ教えてくれて励ましてくれた。今の私があるのは全部、おじいちゃんのおかげなんだものっ」

 泣きながらも必死に言葉を綴るカリーネに、そうだねとマリオが頷く。


「簡単に諦めることはないよ、とことん足掻いたっていいと思うよ。

まずは解決のヒントを探ろう。昨日までは話が出来たんだよね。

その時に水の王様が何を言っていたか覚えてる?」

「うん、おじいちゃんは…呪いだって」

「呪い?」

 物騒な言葉にマリオは眉を寄せた。

「あと、黒の魔王めっ!…そう言って凄く怒ってた」

 カリーネから伝えられたその名にマリオとリョクは驚きの表情を浮かべた。


「黒の魔王だぁ、何でそんなカビの生えた昔の奴の名が出てくんだ?とうとう耄碌したのか」

 とんでもないことを言うリョクの隣で、もしかしてとマリオが考え込む。

「水の王様は黒の魔王と会ったことがあるの?」

「あったなんてもんじゃねぇ。火の王と一緒に戦ったって聞いてるぜ」

「その時に魔王から呪いを受けたとか?」

「だとしても黒の魔王との戦いから二百年も経ってんだぜ。今更…」

「時限式だったのかも」

「あ?」

「どういうこと?」

 マリオの言葉にリョクとカリーネがその顔を見つめる。


「僕の故郷にはコンピューターって便利な機械があるんだけど、その働きを阻害するウィルスに時限式って言う設定された時が来ると発動してプログラムを破壊するものがあるんだ。

これの厄介なところは発動時間が来るまで、その存在に気が付かないことなんだけど」

「黒の魔王の呪いもそうだって言うのか?」

「状況からすると、その可能性は高いと思うよ。ところで呪いってどうやったら解けるの?」

 マリオの問いにカリーネが悲痛な顔で言葉を紡ぐ。


「呪いは闇魔法の一種で、かけた本人が解くのが一番の早道なの。

そうじゃない時は、当の術者以上の魔法力を持った者でないと打ち消すことは出来ないの」

「つまり黒の魔王より強い魔法使いでないと解けないってことか。

それに該当する人って」

「闇魔法なら闇の王が一番の使い手よ。でも…」

「あいつはオライリィ国の山奥に引っ込んでるからな。連れてくるのに急いでも4日はかかるぞ」

「でもあの様子だとそんな時間は無さそうだね」

 岩影から覗き込むと、怪物と化した水の王は咆哮を上げながら無差別に水の礫を撃ち放ち、辺りの地形を変えながら移動している。

このままではいずれ山を越え、人里に行くのは時間の問題だ。


「どうしたらいいかな」

 さすがのマリオも良い考えが浮かばず、困り顔で考え込んだ。






評価、ブックマークをありがとうございます。

「32話 水の王さま救出作戦」は土曜日に投稿予定です。

少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。

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